生活魔法は万能です

浜柔

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73 生存術

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 ベクロテでの生活三日目。ルキアスはいの一番で……でもないが、講習の受講申し込みに向かった。
 昨日と違って時刻を確かめながら動いている。探索者達が動き出すのは朝の六時頃からで、受付が開くのは八時頃だ。
 基礎講習の体術、生存術、生活術はそれぞれ週に三日、二日、二日で曜日は重なっていない。ローテーションは体術、生存術、体術、生活術、体術、生存術、生活術。今日は生存術の日だ。開始時間は体術が十時から、他の二つが九時からとなっている。

(それなら全部受講を申し込もう)

 体術と他の二つが被るなら体術を優先させるところだが、被らないなら全部受けるのも吝かでないルキアスである。受講する必要の無さそうな内容が含まれているのはこの際気にしない。

「体術と生存術と生活術を無料で受けられる間だけ全部の申し込みをお願いします」
「すみません。申し込みは一週間先までとなっています」

 いきなり出鼻を挫かれた感のあるルキアスは気を取り直して申し込めるだけ申し込む。

「それでは一週間先までお願いします」
「承りました」

 開始までそれほど時間も無い。ルキアスは真っ直ぐ訓練場に向かった。
 訓練場には何に使うのか大きな箱だかオブジェだか判らないものが多数置かれている。首を傾げてみたところでルキアスにその正体が判るものでもない。取り敢えず無視して講習が始まるまでの時間を受け身の復習に費やすことにした。

(もうちょっと上手くできてたつもりだったのに……)

 一日が経ってみれば自分のぎこちなさが嫌でも判ってしまい、軽い絶望感に襲われるルキアスである。

「はい、みんな集合!」

 ショートカットで茶髪の女がパンパンと手を叩きながら声を上げた。ルキアスの知らない間に訓練場に来ていたらしい。ブロンドの前髪で目が殆ど隠れている男が女に付き従うように立っている。
 集まったのはルキアスを含めて五人だけだ。ルキアスは「人気が無いんだ」と率直な感想を抱いた。

「初めての子が居るから改めて説明するわね。あたしはチャーラ。生存術の教官よ。
 生存術は素っ裸でどこかにほっぽり出されても生きて帰るのを目的としてるわ。だからって講習で素っ裸になったりはしないから安心してね。
 それで、生き残るのが目的だから魔物や人と戦ったりしないの。もしも戦いたいのなら他の講習を受けてちょうだい。
 講習は内容によってダンジョンに行くこともあるからそのつもりで。今日は索敵の基礎だからここでやるわ。
 何か質問はある?」

 ルキアスを含め、皆首を横に振る。
 チャーラは一つ頷いた。

「それじゃ、始めるわよ。ノクルやってちょうだい」
「人使い荒いなぁ……」

 ノクルはぼやきながら魔法を行使する。その瞬間、訓練場が草原に早変わりし、箱やオブジェだったものが木や岩に変わる。
 ルキアスは目を瞠った。

「そこ、びっくりしてるところ悪いんだけど、これってただの幻影だからね。実体は無いわよ」

 チャーラは苦笑い気味にルキアスに言った。そしてまたパンパンと手を叩く。

「さあ、早速始めるわよ」

 講習の内容は抜き足差し足で岩や木に隠れながら進み、索敵対象となるチャーラの位置を特定してまた戻るまでだ。
 少し足先を開き気味にして指を一本ずつ床に着けるようにすれば音を抑えられる。だが、上手く音を殺して歩かなければチャーラが容赦なく受講者を風魔法で吹き飛ばすのだ。
 ルキアスは吹き飛ばされながら思った。

(人気が無いはずだよ!)

 この時のルキアスは気付いていないが、チャーラは容赦なく吹き飛ばすと同時に、怪我人が一切出ないように着地の面倒も見ていたのだった。
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