生活魔法は万能です

浜柔

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72 地下の町

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 ダンジョンを出たルキアスは地下一階の散策だ。もっと早い時間から回るつもりだったが遅れたものは致し方ない。
 一見して地下商店街としか言い様のない通路には既に日が暮れた時間にも拘わらず人が溢れている。各店も今が書き入れ時とばかりに賑いを見せている。
 この光景はルキアスの常識からすれば破格だ。ルキアスの故郷タードは田舎故に日が沈む頃には殆どの店が閉まる。開いたままなのは酒場も含めたほんの僅か。そしてその酒場すらも日没からそう時間を置かずに閉まってしまう。
 だからこそルキアスは瞠目した。右へ左へ首を忙しなく動かして何を売っているのか見ながら進む。どう見たってお上りさんだが、自分がそんな風になっているとは思いもしない。
 しかし実のところ、ルキアスのこの反応は一日遅れであった。前日の初心者講習でこの商店街を抜けた時も今と同じくらいの時間だったのだ。ガノスの話を聞いたり後に付いて行ったりするのに忙しくて時間を気にしていられなかっただけである。
 大衆食堂、ちょっと高級そうなレストラン、肉料理専門店、麺料理専門店、喫茶店などなど、飲食店にも色々な種類がある。食べ物を売るだけならパン屋、肉屋、八百屋に乾物屋その他諸々と、料理の食材も大抵のものが揃うようだ。武器となったら剣専門店、槍専門店なんてのもある。勿論武器や防具が一通り揃えられる店もある。
 地図を売っている店も当然のように在った。第一階層の地図は一〇〇〇ダールだ。だが、地図屋であることを示すためかその第一階層の地図は誰もが見られる店の前に貼られていた。
 手持ちに乏しいルキアスは当然のように見て憶えた内容を後でメモ書きしようと考える。しかしあまり店の前に長居もできないので、かなり記憶も曖昧だ。大雑把な地図にしかなり得なかった。
 ルキアスが見るところ、その他諸々の店も合わせ、タードのような小さな町にある店なら全て揃っていて、更にその上に専門的な店がある印象だった。

「お! そこに行くのは昨日ガノスが連れてたボウズじゃないか! ちょっと寄ってかないか!?」

 ルキアスが振り向けば、防具屋らしき店の前でエプロン姿の男が手招きをしている。

「ぼくですか?」
「そうだとも。ちょっと内の商品を見て行ってくれないか?」
「でもぼく、お金が無くて……」

 ルキアスはとにもかくにもお金を殆ど持っていない。買い物したくてもできやしないのだ。だから冷やかしに寄るのを躊躇う。タードでは買うつもりのない店には立ち寄らないのが当たり前で、ルキアスの習慣もそうなっていた。
 しかしこの商店街では冷やかしも当たり前であった。

「まあ、金が出来た時に買ってくれればいいさ。予め欲しい品物を決めていれば金も貯めやすいだろう?」
「そう言うものでしょうか……」
「おお。そう言うもんだ。だから見ていけ」
「それじゃ、お言葉に甘えて……」
「へい、らっしゃい」

 ルキアスは色々な防具を見せて貰い、試着もさせて貰ってその出来映えに感心しきりだったが、値段を聞いて目眩を感じた。
 それでも防具を買うことも小さな目標になった。
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