生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
67 / 627

67 受講申し込み

しおりを挟む
 無料宿泊所の区画が穴の中にしか思えないような場所だったからか、周りに人の気配があったからか、はたまた微妙に漂う臭いのせいか、ルキアスは今一つ落ち着かない夜を過ごし、半端な睡眠しか採れないまま朝を迎えた。
 このままだらだら惰眠を貪りたい誘惑に駆られるも、一方で昨夜から引き続く漠然とした危機感が渦巻いて落ち着かない。重い頭を抱えながら寝床から這い出し、手洗い所に向かう。顔を洗って身支度を調えたら炊事場へ。甘薯を焼いて朝食を摂った。
 地下一階に上がれば既にダンジョンに向かう人の流れが出来ている。ルキアスはそれに逆らって受付へと向かう。
 しかし受付は探索者よりも朝が遅いようで、「休止中」の立て札がぽつんと鎮座するのみだった。
 ルキアスは仕方なく受付が開くのを待つことにした。

(オークの時もまた動けなかった。これって本気でヤバくない? 慣れればどうにかなるかもだけど、慣れるまでをどうしたらいいって言うんだ……)

 ただ待つ時間は余計な事を考えるもので、ルキアスは自分がオークに襲われる姿を想像した。為す術無く立ち竦み、目の前に迫るオークに棍棒を振り下ろされたところでハッと目を見開いて肩をビクッと跳ねさせた。どうやら僅かな間に眠っていたらしい。
 額に流れる冷や汗を手で拭い、受付へと目を向ける。するともう受付が開いていた。僅かなようでかなり時間経っていたのだ。
 早速受付に行く。幸運にもまだ誰も並んでいない。

「講習を受講したいのですが……」
「はい。申し込みですね。どの講習をご希望ですか?」
「あの、初めてでどんな講習があるのかよく判らないのですが……」
「あ、はい。講習の種類は大きく分けて基礎、武術、魔術があります。基礎には体術、生存術、生活術が、武術には剣術、槍術、盾術、弓術、射術が、魔術には火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、光魔法があります。それぞれ受講可能な曜日が決まっていますが、講師の都合で休講もありますので申し込みの際は必ずご確認ください」

 『天職無し』のルキアスにとって魔術は無意味だろう。武術も付け焼き刃でどうにかてきるものではない。ルキアスの猶予は食料的に一ヶ月余りしかないのだ。
 だとするなら基礎になるが、生存術と生活術の内容が想像できない。

「生存術と生活術はどんな内容なのでしょう?」
「生存術は主に体力作りになります。一から石器や縄、衣類、寝床などの作成、遠泳、索敵や警戒の仕方なども行います。
 生活術は生活魔法を使っての野営の仕方、生活魔法を使わない野営の仕方などになります。料理なども行います。
 この二つに共通するのは食べられる植物や毒のある植物の知識、地図の描き方でしょうか」

(生活術の大半はここまでの旅のおさらいみたいなものだから考えなくてよさそう。
 生存術の方は体力作りと索敵の仕方、地図の描き方当たりを受講したい気はするけれど……)

「事前にその日の講習でする内容は判りますか?」
「それは残念ながら講習の最初に講師の方からお話があるだけです」
「ありがとうございます」

 事前に判らないなら外れを引いた時が時間の無駄になる。今はできる限り効率的に動きたいルキアスなのだ。

「そうしたら体術の講習はいつありますか?」
「ちょうど本日十時頃からです。申し込まれますか?」
「はい。お願いします」
「では探索者カードの提示をお願いします」

 ルキアスは申し込みを済ませ、体術講習を行う訓練場に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました

まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。 ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。 変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。 その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。 恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...