生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
60 / 627

60 初心者講習

しおりを挟む
「ほんとに勘弁してくれ……」

 ザネクは項垂れる。ルキアスの手前、あまり格好の悪いところは見せたくない。だが昔の、幼い頃の事を持ち出されては年上には敵いやしない。
 それが判らないでもないルキアスはザネクをそっとしておくことにした。

「それでその、初心者講習とはどんな事をするのでしょう?」
「おう、そうだったな。簡単に言えばダンジョン周りの案内と簡単な決め事の説明、それに初心者向けお得情報だ」
「それは助かります」
「そうだろう。そうだろう。それじゃ早速案内から始めるぞ。準備はいいか?」
「はい」
「ああ」

 ルキアスとザネクは立ち上がった。

「それじゃ早速このダンジョンタワーの説明からだ。
 このタワーはダンジョンの上に建てられている。魔物がダンジョンから溢れても外に出さないための防壁でもある訳だ。
 どう防ぐのかは後で説明するぞ。先にタワーの大まかな概要だ。
 まず、一階の入口を入った所に在るのは市役所の窓口だ。二階から上は行政機関が入っている。市の軍隊もな。
 探索者に割り当てられているのは地下一階と地下二階だ。地上とは入口から別になっている。
 間違って一階に入るんじゃないぞ。怖いおばさんに睨まれるからな」

(そんな人には会わなかったけど……)

 ルキアスは首を傾げた。しかしこれはルキアスとザネクがあまりに初めて丸出しの子供だったことで見逃されただけである。

「じゃあ、後は歩きながら話すぞ。まずはあそこがもう知っての通りの受付だ。探索者関係の手続きはあそこでする。二人も登録の手続きをしただろう?」

 ルキアスとザネクは頷いた。
 ガノスはそれに頷きを返すと、手を煽ってその方向へと踵を返す。リュミアはその横を歩き、ルキアスとザネクは二人の跡を追う。
 目隠しをするかのような間仕切りを左に右にまた左に通り過ぎて奥へと進む。巨大な柱が立っているだけのだだっ広い場所の向こうから喧騒が聞こえて来る。その喧騒の許まで歩いて行けば、町並みがそこに存在した。

「見ての通り、地下一階には探索者向けの店が在る。大抵の物は揃うが、無い物も当然ある。
 ここに無い物が欲しければ外に出るしかないが、ここで一つ注意。外には探索者然とした格好のまま出るんじゃないぞ。警官に職務質問されて強制的にここに連れて来られるからな」
「探索者然とした格好と言うのは?」

 ルキアスは質問した。

「まあ、今の俺みたいな格好だ。具体的にはこの剣のような武器、この胸当てや脛当てのような防具を着けたままってことになる。
 リュミアみたいな格好はギリで大丈夫だが、これはリュミアが美人だからであって、誰でもって訳じゃないぞ」

 リュミアは口角を上げる。

「ケッ……」

 ザネクが「惚気やがって」と小さく毒突いた。ルキアスは苦笑いするしかない。
 するとガノスが微かに頬を染めて咳払いした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!

藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。 前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。 でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。 新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。 ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。 りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。 ……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。 ※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

処理中です...