生活魔法は万能です

浜柔

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58 探索者登録

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 ルキアスに話し掛けて来たのは制服を着た中年女性だった。案内係だ。

「あ、あのっ、た、探索者登録したくて!」

 声が上擦った。ルキアスは赤面だ。

「お、おう! 魔物をバンバン倒すぜ!」

 ザネクの声も上擦った。それ以前にこの場では全く不要な話をしていることに気付いていない。
 しかし案内係はそんな二人を微笑ましげな笑みを向けるだけだ。こうした場所が初めての少年達のこうした様子には慣れている。

「承ります。それではこちらへいらしてください。登録窓口までご案内いたします」

 案内係は一旦外に出て右に進み、ダンジョンタワーの周りをたっぷり三分間、八分の一ほど回った場所に在る下り階段を降りて行く。解放されたままの扉を二つ潜った先に在るカウンターまでルキアス達を案内する。

「探索者向け窓口はこちらになっております」
「は、はい」
「この方々は探索者登録をご希望です」
「承りました」

 案内係はルキアスの返事に一つ頷くと、受付係に用件を伝えた。そしてまたルキアスとザネクに目を向ける。

「買取窓口などはまた別途ございますので窓口でお聞きください。それでは良い探索を。失礼いたします」

 案内係は一つお辞儀して、そのまま流れるように出口へ向かった。ルキアスは見捨てられたような錯覚をしたが、呼び止めたからと何か話す事がある訳でもない。
 ルキアスがそんな寂寥感との小さな戦いをしている間に受付係は動く。

「探険者登録でございますね。どちら様から行いますか?」
「じゃあ俺から」

 ザネクは後ろを振り返ったままのルキアスを一瞥してから言った。
 その声で無為な戦いに終止符を打ったルキアスは、続く受付係の言葉に衝撃を受ける。

「登録手数料は五〇〇〇ダールです」

 五〇〇〇ダールは一般的にはけして大金ではない。庶民一人の一日分の生活費程度だ。しかし今現在のルキアスにとっては十五日分の食費に匹敵する。
 だからと言って払わない選択肢は無い。登録しなければ始まらないのだ。見方を変えればここまでの旅の途中で無駄遣いをしなかったから支払うことができる。このことをルキアス自身で自身を褒めてやるべきだろう。
 ルキアスの目の前ではザネクが五〇〇〇ダールを支払った。すると受付係が小さなカードを引き出しから取り出し、カウンターの上の魔道具に挿す。魔道具には手の平の画が描かれた平たい部分がある。

「ではこの手の平の画が描かれた部分に手を置いて暫くお待ちください」

 ザネクは言われた通りに手の平を置いた。

「はい、もう結構ですよ」

 暫くして受付係はそう言って魔道具からカードを取り出した。
 このカード自体も魔道具で、詳細不明な力によって個人識別を可能としている。カードを製造する魔道具は登録に使った魔道具と同時にダンジョンで発見された。作れなくても使えるので使っているのである。

「今後はこの探索者カードを本人確認に使いますので失くさないようにしてください」

 ザネクは頷いた。初めての経験で緊張しているのか、手続きの間妙に無口であった。
 そしてルキアスも終始無口で登録手続きを終えた。
 しかしそれで全てが終わった訳でもない。

「この後初心者講習を行いますので椅子に座ってしばらくお待ちください」

 受付係の台詞に顔を見合わせるルキアスとザネクであった。
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