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50 甘薯畑
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ルキアスは蒸気圧で弾丸を発射することを思い付いたものの、やかんで水を蒸発させる事前の実験では望んだ結果から程遠かった。
さすがに生活魔法『加熱』で一瞬には水を蒸発させられないのだ。生活の中では一瞬に等しくても弾丸を飛ばすには遅すぎ、注ぎ口から蒸気が抜けてしまって蓋はピクリともしない。湯を沸かす時に蓋が跳ねるのは注ぎ口が湯で塞がっているからに他ならない。だが弾丸を飛ばすには注ぎ口が空いていても蓋が跳ねてしまうくらいの勢いが必要だ。
(ゆっくりなら蒸発させられるんだから、蒸気を溜めて一気に噴き出せば……)
それはそれでどうやって蒸気が漏れないようにするかなど、考える事は多い。
(とにかく蒸気を溜める場所を作って、後は追々かな……)
ルキアスが歩きながら考えるのを一休みして風景に目を向けると、青々と蔓が茂った畑を前に腕を組んで唸っている農夫が居た。ルキアスはその農夫も気になりはしたが、それ以上に畑の方が気になった。
「これって何の畑なんですか?」
「見ての通りだが……。お? ボウズは旅の途中か?」
難しい顔のまま振り返った農夫はルキアスを見るなり目を瞬かせた。
ルキアスは一瞬だけ自分の身体を見下ろした。薄汚れていたかと気になったのだが、そうでもない。
「あ、はい」
ルキアスは困惑しつつ返事をするが、農夫はどうやら身形で判断したのではないらしい。
「だと思った。これが何かを尋ねるくらいだからな。これは甘薯だ。ここいらで知らない奴は居ない」
「なるほど……」
そうですか、としか感想の無いルキアスである。
「この蔓を食べるんですか?」
「あー、この蔓も美味いが、作ってるのは土の中だ」
農夫が近場の蔓の根元を掘り起こして芋を掘り、手に取ってルキアスに見せる。かなりの大ぶりだ。
「ほれ、こんなの」
「あっ、芋ですか。なるほど」
ルキアスとて馬鈴薯は知っているし、馬鈴薯も蔓を伸ばす。似たようなものだと判れば理解は早い。蔓が食べられるかどうかに違いはあるが、些細な問題だ。
「じゃあ、これからが収穫時期なんですね」
「いや、それがな。ちょっと忙しくてたもんだから、時期が過ぎてるんだ。急いで収穫しなきゃならないんだが、一人じゃ大変でどうしたものかとな」
農夫はまた難しい顔をした。しかしルキアスを見ながら不意に笑みを漏らす。
「そうだ、ボウズ。収穫を手伝っちゃくれないか? お礼に芋をたんまりやるが、どうだ?」
「手伝いですか……」
ルキアスは考えた。甘薯にはとても心が惹かれる。馬鈴薯や小麦粉ばかりであまりに単調な食事にも彩りが多少なりとも加わる。勿論手伝っている時間分だけベクロテに行くのは遅れるが、芋が貰えるなら食料に余裕ができる。そもそも急ぐ理由は食料が心許ないからだから、食料の都合さえ付けば慌てる必要は無い。
「是非やらせてください!」
「お! じゃあ、頼むぜ!」
「はい!」
農夫の指示に従って、まずは蔓を刈り取る。
「この蔓も好きなだけ持って行っていいからな。後で葉っぱを毟って蔓だけにしたらいい」
「あ、はい! いただきます!」
ルキアスは持てるだけ貰おうと考えた。
それから農夫が『耕耘』で芋を掘り起こし、ルキアスが橇付きの籠を引き摺りながら芋を拾い集める。
そして夕方にはその畑の収穫を終えた。
さすがに生活魔法『加熱』で一瞬には水を蒸発させられないのだ。生活の中では一瞬に等しくても弾丸を飛ばすには遅すぎ、注ぎ口から蒸気が抜けてしまって蓋はピクリともしない。湯を沸かす時に蓋が跳ねるのは注ぎ口が湯で塞がっているからに他ならない。だが弾丸を飛ばすには注ぎ口が空いていても蓋が跳ねてしまうくらいの勢いが必要だ。
(ゆっくりなら蒸発させられるんだから、蒸気を溜めて一気に噴き出せば……)
それはそれでどうやって蒸気が漏れないようにするかなど、考える事は多い。
(とにかく蒸気を溜める場所を作って、後は追々かな……)
ルキアスが歩きながら考えるのを一休みして風景に目を向けると、青々と蔓が茂った畑を前に腕を組んで唸っている農夫が居た。ルキアスはその農夫も気になりはしたが、それ以上に畑の方が気になった。
「これって何の畑なんですか?」
「見ての通りだが……。お? ボウズは旅の途中か?」
難しい顔のまま振り返った農夫はルキアスを見るなり目を瞬かせた。
ルキアスは一瞬だけ自分の身体を見下ろした。薄汚れていたかと気になったのだが、そうでもない。
「あ、はい」
ルキアスは困惑しつつ返事をするが、農夫はどうやら身形で判断したのではないらしい。
「だと思った。これが何かを尋ねるくらいだからな。これは甘薯だ。ここいらで知らない奴は居ない」
「なるほど……」
そうですか、としか感想の無いルキアスである。
「この蔓を食べるんですか?」
「あー、この蔓も美味いが、作ってるのは土の中だ」
農夫が近場の蔓の根元を掘り起こして芋を掘り、手に取ってルキアスに見せる。かなりの大ぶりだ。
「ほれ、こんなの」
「あっ、芋ですか。なるほど」
ルキアスとて馬鈴薯は知っているし、馬鈴薯も蔓を伸ばす。似たようなものだと判れば理解は早い。蔓が食べられるかどうかに違いはあるが、些細な問題だ。
「じゃあ、これからが収穫時期なんですね」
「いや、それがな。ちょっと忙しくてたもんだから、時期が過ぎてるんだ。急いで収穫しなきゃならないんだが、一人じゃ大変でどうしたものかとな」
農夫はまた難しい顔をした。しかしルキアスを見ながら不意に笑みを漏らす。
「そうだ、ボウズ。収穫を手伝っちゃくれないか? お礼に芋をたんまりやるが、どうだ?」
「手伝いですか……」
ルキアスは考えた。甘薯にはとても心が惹かれる。馬鈴薯や小麦粉ばかりであまりに単調な食事にも彩りが多少なりとも加わる。勿論手伝っている時間分だけベクロテに行くのは遅れるが、芋が貰えるなら食料に余裕ができる。そもそも急ぐ理由は食料が心許ないからだから、食料の都合さえ付けば慌てる必要は無い。
「是非やらせてください!」
「お! じゃあ、頼むぜ!」
「はい!」
農夫の指示に従って、まずは蔓を刈り取る。
「この蔓も好きなだけ持って行っていいからな。後で葉っぱを毟って蔓だけにしたらいい」
「あ、はい! いただきます!」
ルキアスは持てるだけ貰おうと考えた。
それから農夫が『耕耘』で芋を掘り起こし、ルキアスが橇付きの籠を引き摺りながら芋を拾い集める。
そして夕方にはその畑の収穫を終えた。
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