生活魔法は万能です

浜柔

文字の大きさ
上 下
50 / 627

50 甘薯畑

しおりを挟む
 ルキアスは蒸気圧で弾丸を発射することを思い付いたものの、やかんで水を蒸発させる事前の実験では望んだ結果から程遠かった。
 さすがに生活魔法『加熱』で一瞬には水を蒸発させられないのだ。生活の中では一瞬に等しくても弾丸を飛ばすには遅すぎ、注ぎ口から蒸気が抜けてしまって蓋はピクリともしない。湯を沸かす時に蓋が跳ねるのは注ぎ口が湯で塞がっているからに他ならない。だが弾丸を飛ばすには注ぎ口が空いていても蓋が跳ねてしまうくらいの勢いが必要だ。

(ゆっくりなら蒸発させられるんだから、蒸気を溜めて一気に噴き出せば……)

 それはそれでどうやって蒸気が漏れないようにするかなど、考える事は多い。

(とにかく蒸気を溜める場所を作って、後は追々かな……)

 ルキアスが歩きながら考えるのを一休みして風景に目を向けると、青々と蔓が茂った畑を前に腕を組んで唸っている農夫が居た。ルキアスはその農夫も気になりはしたが、それ以上に畑の方が気になった。

「これって何の畑なんですか?」
「見ての通りだが……。お? ボウズは旅の途中か?」

 難しい顔のまま振り返った農夫はルキアスを見るなり目を瞬かせた。
 ルキアスは一瞬だけ自分の身体を見下ろした。薄汚れていたかと気になったのだが、そうでもない。

「あ、はい」

 ルキアスは困惑しつつ返事をするが、農夫はどうやら身形で判断したのではないらしい。

「だと思った。これが何かを尋ねるくらいだからな。これは甘薯だ。ここいらで知らない奴は居ない」
「なるほど……」

 そうですか、としか感想の無いルキアスである。

「この蔓を食べるんですか?」
「あー、この蔓も美味いが、作ってるのは土の中だ」

 農夫が近場の蔓の根元を掘り起こして芋を掘り、手に取ってルキアスに見せる。かなりの大ぶりだ。

「ほれ、こんなの」
「あっ、芋ですか。なるほど」

 ルキアスとて馬鈴薯は知っているし、馬鈴薯も蔓を伸ばす。似たようなものだと判れば理解は早い。蔓が食べられるかどうかに違いはあるが、些細な問題だ。

「じゃあ、これからが収穫時期なんですね」
「いや、それがな。ちょっと忙しくてたもんだから、時期が過ぎてるんだ。急いで収穫しなきゃならないんだが、一人じゃ大変でどうしたものかとな」

 農夫はまた難しい顔をした。しかしルキアスを見ながら不意に笑みを漏らす。

「そうだ、ボウズ。収穫を手伝っちゃくれないか? お礼に芋をたんまりやるが、どうだ?」
「手伝いですか……」

 ルキアスは考えた。甘薯にはとても心が惹かれる。馬鈴薯や小麦粉ばかりであまりに単調な食事にも彩りが多少なりとも加わる。勿論手伝っている時間分だけベクロテに行くのは遅れるが、芋が貰えるなら食料に余裕ができる。そもそも急ぐ理由は食料が心許ないからだから、食料の都合さえ付けば慌てる必要は無い。

「是非やらせてください!」
「お! じゃあ、頼むぜ!」
「はい!」

 農夫の指示に従って、まずは蔓を刈り取る。

「この蔓も好きなだけ持って行っていいからな。後で葉っぱを毟って蔓だけにしたらいい」
「あ、はい! いただきます!」

 ルキアスは持てるだけ貰おうと考えた。
 それから農夫が『耕耘』で芋を掘り起こし、ルキアスがそり付きの籠を引き摺りながら芋を拾い集める。
 そして夕方にはその畑の収穫を終えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

学園の聖女様はわたしを悪役令嬢にしたいようです

はくら(仮名)
ファンタジー
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にて掲載しています。 とある国のお話。 ※ 不定期更新。 本文は三人称文体です。 同作者の他作品との関連性はありません。 推敲せずに投稿しているので、おかしな箇所が多々あるかもしれません。 比較的短めに完結させる予定です。 ※

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

大賢者の弟子ステファニー

楠ノ木雫
ファンタジー
 この世界に存在する〝錬金術〟を使いこなすことの出来る〝錬金術師〟の少女ステファニー。 その技を極めた者に与えられる[大賢者]の名を持つ者の弟子であり、それに最も近しい存在である[賢者]である。……彼女は気が付いていないが。  そんな彼女が、今まであまり接してこなかった[人]と関わり、成長していく、そんな話である。  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

処理中です...