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13 運び屋
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「ところでおじさんはダンジョン探索者なんですか?」
(それはそれでどうしてここに居るのか疑問になるけれど、やけにダンジョンに詳しそうだから)
「昔な。上手く行かないから辞めてしまって、今は運び屋みたいなもんだ」
(やっぱり探索者はしてたんだ……。だけど運び屋か……)
「それじゃ『転移』か『転送』を持ってるんですか?」
「まさか。そんな天職を持ってたらこんな場所を歩いてたりしないさ」
「それもそうですね……」
『転移』や『転送』なら拠点になる町から離れて移動したりはしない。『転移』なら町から町に転移するし、『転送』なら拠点の町に居るまま荷物だけを転送する。
「荷物を頼んだ運び人に直接手渡して相手に届けて欲しい荷主が居てな、『転移』持ちは数が少ないし料金も馬鹿高いから俺みたいなのが入り込む余地がある訳だ」
「へー」
「例えば、歩いて一ヶ月の距離を乗り合いバスで行けば概ね十万ダール。そこを十万ダールで配達を請け負って、一ヶ月五万ダールで生活しながら歩いて行けば五万ダールの利益になる」
「はー、なるほど」
「そんな感じでやってる間にそこそこの信用も得られて、そこそこ食って行けてる。まあ、兄ちゃんの前では言いにくいが、こんなことができてるのも天職のお陰だがな」
「え……? え……?」
(ぼくの前では言いにくいって何? それにおじさんは運び屋に使える天職を持っているのにダンジョン探索者だった?)
「兄ちゃんは『天職無し』だろ?」
「何で!?」
(どうして判る!?
別に隠すつもりも無いけれど、面と向かって指摘されるのももやっとする)
「理由は行き先が行き先だからな。兄ちゃんくらいの歳でダンジョンに行こうって奴は大抵『天職無し』だ。それに兄ちゃんほど『捏ね』を使いこなすのも天職を持たないからだろう?」
「そんなので判るんですね……」
(そんな些細なことで見抜かれてるとは……。ぼくが判りやすいのか、おじさんが鋭いのかは判らないけど……)
「あっと、『捏ね』って言えば、その手に持った鉄は多少薄くてもいいから胸や腹を守る防具にした方がいい」
「防具、ですか?」
「そうだ。命あっての物種だからな」
「そうだとは思いますけど……」
「不意打ちにもある程度対応できるしな」
ドシン!
「え!?」
何かがぶつかる音でルキアスの肩が跳ねた。
キャイン!
「ええ!?」
(犬の悲鳴!?)
ルキアスが振り返れば、犬らしき動物が鼻の頭を前足で抱え込むように悶えている。その周りに他にも何頭か彷徨いている。
思わず立ち上がって身構えた。
「狼だ。怪しいのが彷徨いていたと思ったら案の定来たな」
「え?」
(おじさんはどうして座ったまま暢気にしているの!?)
狼の吠える声。ルキアスがそっちに目を向ければ、狼が牙を剥いて駆けて来るところであった。
「うわあああっ!」
ルキアスは咄嗟に腕で顔を覆って目を瞑った。
(それはそれでどうしてここに居るのか疑問になるけれど、やけにダンジョンに詳しそうだから)
「昔な。上手く行かないから辞めてしまって、今は運び屋みたいなもんだ」
(やっぱり探索者はしてたんだ……。だけど運び屋か……)
「それじゃ『転移』か『転送』を持ってるんですか?」
「まさか。そんな天職を持ってたらこんな場所を歩いてたりしないさ」
「それもそうですね……」
『転移』や『転送』なら拠点になる町から離れて移動したりはしない。『転移』なら町から町に転移するし、『転送』なら拠点の町に居るまま荷物だけを転送する。
「荷物を頼んだ運び人に直接手渡して相手に届けて欲しい荷主が居てな、『転移』持ちは数が少ないし料金も馬鹿高いから俺みたいなのが入り込む余地がある訳だ」
「へー」
「例えば、歩いて一ヶ月の距離を乗り合いバスで行けば概ね十万ダール。そこを十万ダールで配達を請け負って、一ヶ月五万ダールで生活しながら歩いて行けば五万ダールの利益になる」
「はー、なるほど」
「そんな感じでやってる間にそこそこの信用も得られて、そこそこ食って行けてる。まあ、兄ちゃんの前では言いにくいが、こんなことができてるのも天職のお陰だがな」
「え……? え……?」
(ぼくの前では言いにくいって何? それにおじさんは運び屋に使える天職を持っているのにダンジョン探索者だった?)
「兄ちゃんは『天職無し』だろ?」
「何で!?」
(どうして判る!?
別に隠すつもりも無いけれど、面と向かって指摘されるのももやっとする)
「理由は行き先が行き先だからな。兄ちゃんくらいの歳でダンジョンに行こうって奴は大抵『天職無し』だ。それに兄ちゃんほど『捏ね』を使いこなすのも天職を持たないからだろう?」
「そんなので判るんですね……」
(そんな些細なことで見抜かれてるとは……。ぼくが判りやすいのか、おじさんが鋭いのかは判らないけど……)
「あっと、『捏ね』って言えば、その手に持った鉄は多少薄くてもいいから胸や腹を守る防具にした方がいい」
「防具、ですか?」
「そうだ。命あっての物種だからな」
「そうだとは思いますけど……」
「不意打ちにもある程度対応できるしな」
ドシン!
「え!?」
何かがぶつかる音でルキアスの肩が跳ねた。
キャイン!
「ええ!?」
(犬の悲鳴!?)
ルキアスが振り返れば、犬らしき動物が鼻の頭を前足で抱え込むように悶えている。その周りに他にも何頭か彷徨いている。
思わず立ち上がって身構えた。
「狼だ。怪しいのが彷徨いていたと思ったら案の定来たな」
「え?」
(おじさんはどうして座ったまま暢気にしているの!?)
狼の吠える声。ルキアスがそっちに目を向ければ、狼が牙を剥いて駆けて来るところであった。
「うわあああっ!」
ルキアスは咄嗟に腕で顔を覆って目を瞑った。
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