24 / 627
24 山
しおりを挟む
ルキアスが気付いた時にはもう朝だった。椅子に座ってうつらうつらと仮眠を取る程度の時間に終始した結果、少々疲れが残り、身体も少し強ばっている。
雨音は聞こえない。ルキアスは確かめるために外の様子を窺った。
空の様子から、雨が上がったのは未明だと判る。千切れた雲が凄い勢いで流れ、晴れ間の空は抜けるような蒼に輝いている。
町の方に目を向ければ、既にかなりの人通り。ルキアスの目の前を通る街道にも馬車が行き、水溜まりで水を撥ねている。
(目の前に水溜まりが無くて良かった)
ルキアスは外に出て伸びをした。
「んんーっ! はあ……」
昨日の雨のせいか、空気がひんやりとして澄んでいる。それは心地好いものの、ルキアスの少し重く感じる身体を軽くするには至らない。昨夜のとは別に少し疲れが溜まっているのかも知れないとルキアスは考えた。タードを発ってからまだ四日でしかないのに感じる疲れ。旅を続けるにあたっては好ましくはないだろう。
(あー、でも、少し焦っていたのかも)
ルキアスは自らを振り返ってそう感じた。そこで手持ちの地図を見直すことにした。
地図は大雑把な手書きで、比較的大きな町までの距離感くらいしか判らないため、『収納』に仕舞いっぱなしにしていた。しかし日数を計る目安にはなる筈だ。
地図を開いてタードから辿る。
「あ、トリムまでで六分の一くらいだったんだ……」
ここまで地図を確かめなかったためにルキアスは気付いていなかったが、トリムまでで道程のおよそ六分の一。現在地はそれからもう少し進んでいるため、今のペースを持続するなら三〇日掛からずにベクロテに着く勘定となる。概ね二〇日だ。予定の三〇日より大幅に早いため、もっとゆっくりなペースに落とすことも可能だ。
「やっぱり焦りすぎてたな」
(少しのんびり行こう)
ルキアスは今日、この町から歩いて五時間掛かると言われる町までの予定とした。
そうと決まれば出発の準備。先にテントを片付ける。できれば出発前に乾かしたいルキアスではあったが、地面がびしょ濡れでは地面に広げて乾かすことは叶わない。地面が乾いてから改めて乾かすこととした。
朝食より先にしたのは、後で片付けるのは甚だ億劫そうだと感じたことによる。ルキアスとて地面が直ぐに乾くようであれば朝食を摂る間にもテントが乾く期待をしたところだが、今現在の状態では叶わない。
濡れた布地は酷く重くて『収納』に入れるのも一苦労である。
「とにかく朝食だ」
続けて朝食の仕度。ルキアスは具無しのパンケーキを選択した。
具無しのパンケーキの味気なさは馬鈴薯の比でないが、小麦粉は馬鈴薯より手間が掛かる。こうして腰を落ち着ける気になった時でなければ扱いにくい。だからこの機会に使うのである。
そして食べ終わって早々に出発。ベクロテに向けて南へ。
ところが眼前には昨日は雨に煙って見えなかった山が連なっていた。
今朝、テントから出た後はずっと見えてた筈にも拘わらず、ルキアスはまるで意識していなかったのだ。あたかも考えないようにしていたように。
「あれを越えるの? それとも道を間違えた?」
しかし現実は無情。まだまだ上り掛けの太陽は左に在る。山が鎮座しているのはやはり南だ。
(道を間違えたならとんでもない場所だけど……。
考えてもしょうがない。
誰かに尋ねよう。
っと、あのおばさんなら知ってるかな?)
ルキアスは通り掛かった婦人に尋ねた。
「すいません。ベクロテ……、と言うかグライオルはあの山の向こうで合ってますか?」
グライオルは目印にしている大きな町の一つだ。
「グライオルならそうだね。峠を越えなきゃならないよ」
(マジか……)
「ありがとうございます」
ルキアスは礼を言って直ぐに婦人から離れた。予想通りの峠越えに表情が歪む。
(いやでも五時間で越えられる峠だからきっと大したものじゃないさ)
何よりルキアスには進む以外の選択肢が無い。
出発だ。
雨音は聞こえない。ルキアスは確かめるために外の様子を窺った。
空の様子から、雨が上がったのは未明だと判る。千切れた雲が凄い勢いで流れ、晴れ間の空は抜けるような蒼に輝いている。
町の方に目を向ければ、既にかなりの人通り。ルキアスの目の前を通る街道にも馬車が行き、水溜まりで水を撥ねている。
(目の前に水溜まりが無くて良かった)
ルキアスは外に出て伸びをした。
「んんーっ! はあ……」
昨日の雨のせいか、空気がひんやりとして澄んでいる。それは心地好いものの、ルキアスの少し重く感じる身体を軽くするには至らない。昨夜のとは別に少し疲れが溜まっているのかも知れないとルキアスは考えた。タードを発ってからまだ四日でしかないのに感じる疲れ。旅を続けるにあたっては好ましくはないだろう。
(あー、でも、少し焦っていたのかも)
ルキアスは自らを振り返ってそう感じた。そこで手持ちの地図を見直すことにした。
地図は大雑把な手書きで、比較的大きな町までの距離感くらいしか判らないため、『収納』に仕舞いっぱなしにしていた。しかし日数を計る目安にはなる筈だ。
地図を開いてタードから辿る。
「あ、トリムまでで六分の一くらいだったんだ……」
ここまで地図を確かめなかったためにルキアスは気付いていなかったが、トリムまでで道程のおよそ六分の一。現在地はそれからもう少し進んでいるため、今のペースを持続するなら三〇日掛からずにベクロテに着く勘定となる。概ね二〇日だ。予定の三〇日より大幅に早いため、もっとゆっくりなペースに落とすことも可能だ。
「やっぱり焦りすぎてたな」
(少しのんびり行こう)
ルキアスは今日、この町から歩いて五時間掛かると言われる町までの予定とした。
そうと決まれば出発の準備。先にテントを片付ける。できれば出発前に乾かしたいルキアスではあったが、地面がびしょ濡れでは地面に広げて乾かすことは叶わない。地面が乾いてから改めて乾かすこととした。
朝食より先にしたのは、後で片付けるのは甚だ億劫そうだと感じたことによる。ルキアスとて地面が直ぐに乾くようであれば朝食を摂る間にもテントが乾く期待をしたところだが、今現在の状態では叶わない。
濡れた布地は酷く重くて『収納』に入れるのも一苦労である。
「とにかく朝食だ」
続けて朝食の仕度。ルキアスは具無しのパンケーキを選択した。
具無しのパンケーキの味気なさは馬鈴薯の比でないが、小麦粉は馬鈴薯より手間が掛かる。こうして腰を落ち着ける気になった時でなければ扱いにくい。だからこの機会に使うのである。
そして食べ終わって早々に出発。ベクロテに向けて南へ。
ところが眼前には昨日は雨に煙って見えなかった山が連なっていた。
今朝、テントから出た後はずっと見えてた筈にも拘わらず、ルキアスはまるで意識していなかったのだ。あたかも考えないようにしていたように。
「あれを越えるの? それとも道を間違えた?」
しかし現実は無情。まだまだ上り掛けの太陽は左に在る。山が鎮座しているのはやはり南だ。
(道を間違えたならとんでもない場所だけど……。
考えてもしょうがない。
誰かに尋ねよう。
っと、あのおばさんなら知ってるかな?)
ルキアスは通り掛かった婦人に尋ねた。
「すいません。ベクロテ……、と言うかグライオルはあの山の向こうで合ってますか?」
グライオルは目印にしている大きな町の一つだ。
「グライオルならそうだね。峠を越えなきゃならないよ」
(マジか……)
「ありがとうございます」
ルキアスは礼を言って直ぐに婦人から離れた。予想通りの峠越えに表情が歪む。
(いやでも五時間で越えられる峠だからきっと大したものじゃないさ)
何よりルキアスには進む以外の選択肢が無い。
出発だ。
70
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

忠犬ポチは、異世界でもお手伝いを頑張ります!
藤なごみ
ファンタジー
私はポチ。前世は豆柴の女の子。
前世でご主人様のりっちゃんを悪い大きな犬から守ったんだけど、その時に犬に噛まれて死んじゃったんだ。
でもとってもいい事をしたって言うから、神様が新しい世界で生まれ変わらせてくれるんだって。
新しい世界では、ポチは犬人間になっちゃって孤児院って所でみんなと一緒に暮らすんだけど、孤児院は将来の為にみんな色々なお手伝いをするんだって。
ポチ、色々な人のお手伝いをするのが大好きだから、頑張ってお手伝いをしてみんなの役に立つんだ。
りっちゃんに会えないのは寂しいけど、頑張って新しい世界でご主人様を見つけるよ。
……でも、いつかはりっちゃんに会いたいなあ。
※カクヨム様、アルファポリス様にも投稿しています

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる