生活魔法は万能です

浜柔

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23 雨

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 雨はどんどん強くなる。

「『傘』が無いと駄目だな……」

 生活魔法『傘』を展開する。だがルキアスにとっては無いよりはマシ程度のものだった。
 『傘』は言うなれば雨粒程度を防ぐ盾だ。雨粒や何かが当たる度に魔力を消耗する欠点を持っていて、雨が強ければ強いほど長持ちしない。おまけに雹には勿論、土砂降りでも貫かれることがある。
 雨に打たれて体力を消耗するのと、『傘』を展開して魔力を消耗するのとのトレードオフなのだ。

「うわ……。このまま次の次の町まで歩くのは無理そう……」

 雨は益々強くなる。地面でバシャバシャと音を立てる。
 ルキアスは『傘』で魔力がどんどん削られる。魔力が削られれば疲れを感じ、積み重なれば歩くのさえ億劫になる。おまけに『傘』である以上、これを展開していても足下で跳ね返った水がズボンを濡らし、足を冷たく重くする。これで一層歩くのが億劫になる。
 更には気温も下がり、寒さが徐々に身に染みる。
 しかしルキアスには一つの暁光が見えた。

「あっ、次の町だー」

 雨が降り出してから幾らも歩かない内に次の町が見えて来た。不幸中の幸いだ。
 まだ昼を回ったばかりだが、ルキアスは今日この町に泊まると決めた。この雨の中を無理をして風邪でも引いた日には本末転倒でしかないためだ。だがそれでも少しでも先に進みたいことに変わりは無く、テントを置くのは町の反対側まで行ってからと決めた。

「冷たっ!」

 町を目前にしてルキアスの首筋に水が滴った。雨の滴が『傘』を貫き始めたのだ。
 じわじわと『傘』を貫いた雨が服を濡らす。

(やっぱり今日はこれ以上進めないな)

 雨に煙る町に人通りはほぼ無い。雨を突っ切るような駆け足の人や、諦めてかゆっくり歩く人がちらほらと行き交うだけだ。商店の店主などは途方に暮れたように雨の様子を窺っている。
 ルキアスがそんな店主の様子を何の気無しに眺めていると、目が合った。
 縋るような目で見られて一瞬怯むルキアスだが、ルキアスに買い物する余裕など無かった。

 民家がほぼ途絶えた街道沿いの空き地。私有地かも知れないと思いつつもルキアスはテントを置こうと決めた。
 地面に敷物を敷き、手早くテントの骨組みを組み立ててテント布を被せる。布は渋で防水しているので中に入ればもう雨に濡れる心配は無い。
 しかし組み立てる段階でもうテントの中はびしょ濡れだ。中に入ってテント布を骨組みに固定した後、敷物に溜まってしまってる水を外に掻き出し、いつもは出さない小さな椅子を取り出して座る。
 そして『加熱』でテントの中を温める。テントの中のように狭い場所なら『加熱』でそこそこ暖が取れるのだ。
 濡れた服を着替え、テントの骨組みにハンガーを引っ掛けて吊す。汚れが染みになりかねないが、今は乾かすのを優先させる。

「はー、ちょっと落ち着いたー」

 ルキアスは天を仰ぐように息を吐いた。
 しかし問題はこの後だ。当然の如く眠ってしまえば『加熱』が途切れてしまうため、濡れた敷物を早々に乾かさなければ寝るに寝られない。
 これを考え合わせると、まだ昼を回ったばかりのこの時間は悪くないのであった。
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