21 / 627
21 歩きながら
しおりを挟む
悪夢を見て警官に起こされたとなれば落ち着ける筈もなく、ルキアスは慌ただしく町を発った。その影響で朝食は歩きながらの昨日の林檎の残りだ。それでも今はこれで空腹を誤魔化せる。
「昼食はどうしよう?」
端から十一時間の予定で歩き始めたのだ。昼食などでのんびり休憩していては予定の町に予定の時間では着かない。
「うん。ここは歩きながら用意だな」
ずっとフライパンを持って歩くのは無様とも言える見た目と考えつつも、ルキアスは今は外見より実利を取った。
『収納』から馬鈴薯を一個取り出し、『湧水』で手から水を出しながら洗う。すると跳ねた水が足に掛かる。
(冷たい……)
「洗うのだけはやっぱり立ち止まってしようか」
ルキアスは立ち止まり、馬鈴薯を大急ぎでじゃぶじゃぶと洗う。予定通りなら夕食の仕度の時間も惜しくなると予想して夕食の分も合わせて洗う。洗い終わった馬鈴薯をフライパンに載せ、洗うのに使った鍋を片付けたら再度出発。その直後から馬鈴薯に『加熱』し始める。ルキアスなら多少余所見していても『加熱』を途切れさせない。だから歩きながら『加熱』することも可能なのだ。
これが慣れない者なら『加熱』を使用する際に加熱部分を注視しなければ上手く魔法が使えないことも多い。一方で『加熱』は魔法としては長時間の連続使用が通常だ。しかし誰もが長い時間を集中し続けられる訳ではない。そのため、使いこなすには余所見していても『加熱』し続けられることが求められるのだ。そうでなければおちおち料理もできない。
それはそれとして、ルキアスは世間の微妙な視線を感じた。トリムの町近郊、それも早い時間ってこともあって、混み合う程でなくても馬車がルキアスを追い抜いて行き、周辺の農民が擦れ違う。その際に二度見されるのだ。
(恥ずかしい。
いや、でも、恥ずかしくてもこうして節約した時間は後々生きる筈!
多分……。
だってそう思わなければちょっときついし。
客観的に考えたらぼくでも「これは無いなぁ」って思うもの)
ルキアスは考える。
(それにしても歩いている時って、どうしてこうも考えるのが取り留めのない事ばかりになるのだろう?
もっと考えるべき事が有る筈なのに。
弓とか、町以外でどうやって安全に野宿するかとか。
これはアレだろうか?
歩いている間は頭の血の巡りが悪くなるとか何とか)
ちょいと足下を気にしただけでそれまで考えていた何かが頭から吹っ飛んでしまったりもするため、血の巡りが関係するのではないかと想像する。
特に意味は無い。これ自体が取り留めのない思考だ。
しかしそうしている間にも『加熱』は進む。
「あ、馬鈴薯が焼けてる」
焼きすぎると固くなるので早々に『収納』に入れる。これで昼食も安泰だ。
(さてこの後は少し難しい事でも考えようか)
ルキアスはそう考えた。
(……と思った時もありました。
結構な時間が経っても考えるのは取り留めもない事ばかりと言う。
気合を入れ直さねば)
難しい事を考えようと考える取り留めの無さであった。
「あっれ? あれは町?」
気合を入れ直そうとした矢先、ルキアスの目に映ったのは次の町。
しかし聞いていた六時間より遥かに短い。太陽はまだ天頂に程遠い位置のため、気付かない内に六時間歩いた可能性も無い。
「三時間くらいだよね……」
だがここで考えても何も判りはしない。ルキアスは判らないことは放棄し、町に着いたら誰かに聞いてみることにした。
ルキアスは町に入って直ぐに通り掛かった中年男に問い掛けた。変に躊躇う方が相手に失礼になると教わったこともあり、努めて何気ない風を装うのを忘れない。
「すいません。この町からベクロテ方面の次の町まで歩いて何時間かかるか判りますか?」
「次の町? 三時間くらいかな」
(三時間?
あれ?
ホームレスのおじさんに聞いたのはトリムから次の町まで六時間。
更にその次の町までが十一時間だから、次の町からその次の町までは五時間の筈。
それが三時間?)
「すいません。更にその次の町までも判れば教えていただけますか?」
「この町からなら丸一日歩く感じだから、八時間ってところじゃないかな」
(八時間!?
つまりこの町の次の町からその次の町まで五時間?
どう言うこと?)
「ありがとうございました。でもおかしいな……」
「おかしいって何が?」
(あ、口に出てた!
まあ、ここで誤魔化してもしょうがないし……)
ルキアスは素直に問いに返す。
「トリムの町でも同じ事を聞いたんですが、次の町まで六時間で、その次の町まで十一時間てことでした。ところが三時間くらいしか歩いてないのにこの町に行き着いたもので、どうしてかな、と」
「そりゃ随分年寄りに聞いたんだな。この町は三〇年くらい前に出来たんだ。それより前の時代にトリムから見れば確かに六時間、十一時間だな。小さい頃に親に連れられてにしろ、トリムから移住した俺が言うんだから間違い無い」
「トリムから? それってやっぱり光る石のせいですか?」
「光る石……?」
中年男は視線を斜め上に上げて暫し考える。
「あ、アレか。光る石の鉱山が閉鎖されたのは五〇年も前だから関係無いよ」
「そう……、なん……ですね……。ありがとうございました」
ルキアスは中年男に会釈して別れた。脳裏には渦巻くのは疑問だ。
(……ホームレスのおじさんってどうしてこの町を知らなかったんだろう?
まあ、考えても判らないから、いっか)
だが、幾ら考えても真相には至らないことを察し、早々に思考を放棄した。
「昼食はどうしよう?」
端から十一時間の予定で歩き始めたのだ。昼食などでのんびり休憩していては予定の町に予定の時間では着かない。
「うん。ここは歩きながら用意だな」
ずっとフライパンを持って歩くのは無様とも言える見た目と考えつつも、ルキアスは今は外見より実利を取った。
『収納』から馬鈴薯を一個取り出し、『湧水』で手から水を出しながら洗う。すると跳ねた水が足に掛かる。
(冷たい……)
「洗うのだけはやっぱり立ち止まってしようか」
ルキアスは立ち止まり、馬鈴薯を大急ぎでじゃぶじゃぶと洗う。予定通りなら夕食の仕度の時間も惜しくなると予想して夕食の分も合わせて洗う。洗い終わった馬鈴薯をフライパンに載せ、洗うのに使った鍋を片付けたら再度出発。その直後から馬鈴薯に『加熱』し始める。ルキアスなら多少余所見していても『加熱』を途切れさせない。だから歩きながら『加熱』することも可能なのだ。
これが慣れない者なら『加熱』を使用する際に加熱部分を注視しなければ上手く魔法が使えないことも多い。一方で『加熱』は魔法としては長時間の連続使用が通常だ。しかし誰もが長い時間を集中し続けられる訳ではない。そのため、使いこなすには余所見していても『加熱』し続けられることが求められるのだ。そうでなければおちおち料理もできない。
それはそれとして、ルキアスは世間の微妙な視線を感じた。トリムの町近郊、それも早い時間ってこともあって、混み合う程でなくても馬車がルキアスを追い抜いて行き、周辺の農民が擦れ違う。その際に二度見されるのだ。
(恥ずかしい。
いや、でも、恥ずかしくてもこうして節約した時間は後々生きる筈!
多分……。
だってそう思わなければちょっときついし。
客観的に考えたらぼくでも「これは無いなぁ」って思うもの)
ルキアスは考える。
(それにしても歩いている時って、どうしてこうも考えるのが取り留めのない事ばかりになるのだろう?
もっと考えるべき事が有る筈なのに。
弓とか、町以外でどうやって安全に野宿するかとか。
これはアレだろうか?
歩いている間は頭の血の巡りが悪くなるとか何とか)
ちょいと足下を気にしただけでそれまで考えていた何かが頭から吹っ飛んでしまったりもするため、血の巡りが関係するのではないかと想像する。
特に意味は無い。これ自体が取り留めのない思考だ。
しかしそうしている間にも『加熱』は進む。
「あ、馬鈴薯が焼けてる」
焼きすぎると固くなるので早々に『収納』に入れる。これで昼食も安泰だ。
(さてこの後は少し難しい事でも考えようか)
ルキアスはそう考えた。
(……と思った時もありました。
結構な時間が経っても考えるのは取り留めもない事ばかりと言う。
気合を入れ直さねば)
難しい事を考えようと考える取り留めの無さであった。
「あっれ? あれは町?」
気合を入れ直そうとした矢先、ルキアスの目に映ったのは次の町。
しかし聞いていた六時間より遥かに短い。太陽はまだ天頂に程遠い位置のため、気付かない内に六時間歩いた可能性も無い。
「三時間くらいだよね……」
だがここで考えても何も判りはしない。ルキアスは判らないことは放棄し、町に着いたら誰かに聞いてみることにした。
ルキアスは町に入って直ぐに通り掛かった中年男に問い掛けた。変に躊躇う方が相手に失礼になると教わったこともあり、努めて何気ない風を装うのを忘れない。
「すいません。この町からベクロテ方面の次の町まで歩いて何時間かかるか判りますか?」
「次の町? 三時間くらいかな」
(三時間?
あれ?
ホームレスのおじさんに聞いたのはトリムから次の町まで六時間。
更にその次の町までが十一時間だから、次の町からその次の町までは五時間の筈。
それが三時間?)
「すいません。更にその次の町までも判れば教えていただけますか?」
「この町からなら丸一日歩く感じだから、八時間ってところじゃないかな」
(八時間!?
つまりこの町の次の町からその次の町まで五時間?
どう言うこと?)
「ありがとうございました。でもおかしいな……」
「おかしいって何が?」
(あ、口に出てた!
まあ、ここで誤魔化してもしょうがないし……)
ルキアスは素直に問いに返す。
「トリムの町でも同じ事を聞いたんですが、次の町まで六時間で、その次の町まで十一時間てことでした。ところが三時間くらいしか歩いてないのにこの町に行き着いたもので、どうしてかな、と」
「そりゃ随分年寄りに聞いたんだな。この町は三〇年くらい前に出来たんだ。それより前の時代にトリムから見れば確かに六時間、十一時間だな。小さい頃に親に連れられてにしろ、トリムから移住した俺が言うんだから間違い無い」
「トリムから? それってやっぱり光る石のせいですか?」
「光る石……?」
中年男は視線を斜め上に上げて暫し考える。
「あ、アレか。光る石の鉱山が閉鎖されたのは五〇年も前だから関係無いよ」
「そう……、なん……ですね……。ありがとうございました」
ルキアスは中年男に会釈して別れた。脳裏には渦巻くのは疑問だ。
(……ホームレスのおじさんってどうしてこの町を知らなかったんだろう?
まあ、考えても判らないから、いっか)
だが、幾ら考えても真相には至らないことを察し、早々に思考を放棄した。
70
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します。
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界召喚に巻き込まれたのでダンジョンマスターにしてもらいました
まったりー
ファンタジー
何処にでもいるような平凡な社会人の主人公がある日、宝くじを当てた。
ウキウキしながら銀行に手続きをして家に帰る為、いつもは乗らないバスに乗ってしばらくしたら変な空間にいました。
変な空間にいたのは主人公だけ、そこに現れた青年に説明され異世界召喚に巻き込まれ、もう戻れないことを告げられます。
その青年の計らいで恩恵を貰うことになりましたが、主人公のやりたいことと言うのがゲームで良くやっていたダンジョン物と牧場経営くらいでした。
恩恵はダンジョンマスターにしてもらうことにし、ダンジョンを作りますが普通の物でなくゲームの中にあった、中に入ると構造を変えるダンジョンを作れないかと模索し作る事に成功します。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる