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12 弓矢
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(弓、弓矢ね、弓矢かぁ……)
ルキアスとて弓に触ってみたいくらいの興味はある。だが……。
(奨めてくれるおじさんには悪いし、興味が無い訳じゃないんだけど……)
使用を奨められても気乗りはしなかった。
「弓って、あの十字の形した複雑なやつですよね? とてもじゃないけど作れませんよ……」
「十字? おいおい、そりゃクロスボウだ。弓ってのは……」
おじさんは「知識が偏ってるぞ」と言いつつ『収納』から弓を取り出し、弦を引っ張って見せる。ビィーン、ビィーンと音がする。
(思ってたのと違った!)
複雑に反った木か何かに糸を張った品を前に、ルキアスは軽く目を見開いた。
「……こうなってる物だ。これにこう矢を番えて弦を引き……」
おじさんは弓に矢を番えて引く。
「……引いた弦を放せば飛んで行く」
おじさんは手を放さず「やたらめったら飛ばすもんでもないからな」と言いながら、ゆっくり弦を引く前の位置に戻した。
そして弓をルキアスに差し出す。
「ほれ、ちょっと引いてみろ」
「はい……」
ルキアスとておじさんの厚意だとは察しているし、触ってみるのも吝かでない。断る要素は特に無い。
だから恐る恐る受け取った。
(なんか初めての物を触る時は緊張する。おじさんのだから壊しちゃいけないし……)
壊してはいけないと考えるほどにおっかなびっくりになってしまうルキアスだ。
それでもどうにかおじさんの言う通りに構える。
弦を引く。
(固っ……)
左親指の付け根や右手の指が痛かった。それに多めに見積もってもおじさんの半分しか引けていない。
だと言うのにおじさんと来たらルキアスの都合お構いなしに応援するのだ。
「ほら、もっと引け。もっとだ」
「いや、無理です! これ以上は引けません!」
「引けるって」
「駄目です!」
弦をゆっくり戻した。いきなり放したら指が千切れそうだったためだ。
「ぼくにはちょっと難しそうです。指が痛くて……」
「今はそうだろうな。だがそれを痛くなくなるまで練習するんだよ。こんな風に」
おじさんが右の手の平をルキアスに指し出すと、その人差し指、中指、薬指の第一関節が見るからにゴツゴツと硬くなっていた。
「触っても?」
「おう。触ってみろ」
おじさんの手は見た目以上にゴツゴツして硬い。ルキアスが爪を立てても食い込むようには思えない。
(マジか……)
こうなるまでに一体どれくらいの時間が掛かるのか。一年か二年かもっとか。
(そんな時間はぼくには無い。やってみてやっぱりできなかったら取り返しが付かないもの。ぼくにできるのはやっぱり剣だ)
ルキアスはおじさんの手を放した。
「ありがとうございました」
「兄ちゃんは気乗りしてなさそうだな……」
おじさんは嘆くように天を仰いだ後、横目でルキアスを見る。
「どうしても弓が無理だって思うなら、剣に並々ならぬ拘りを持っていても、せめて槍にしろ。槍なら一週間の命が二週間くらいには延びるさ」
「あんまり変わらなくないですか?」
「まあな。でも一週間延びてる間に何か工夫ができればもう一週間延びる。それを繰り返せば何年にもなるかも知れない」
「はあ、まあ、そうですね……」
「で、もし弓を作る気になったらベクロテに竹が有るから使うといい。弓作りの素人でも形にし易いはずだ」
「竹、ですか」
「そうだ。まあ、あれこれ言っても所詮は兄ちゃんのしたいようにするしかないんだけどな。だから今は話半分、頭の片隅にでも入れておけばいいさ」
そう言って、おじさんはカカカと笑った。
ルキアスとて弓に触ってみたいくらいの興味はある。だが……。
(奨めてくれるおじさんには悪いし、興味が無い訳じゃないんだけど……)
使用を奨められても気乗りはしなかった。
「弓って、あの十字の形した複雑なやつですよね? とてもじゃないけど作れませんよ……」
「十字? おいおい、そりゃクロスボウだ。弓ってのは……」
おじさんは「知識が偏ってるぞ」と言いつつ『収納』から弓を取り出し、弦を引っ張って見せる。ビィーン、ビィーンと音がする。
(思ってたのと違った!)
複雑に反った木か何かに糸を張った品を前に、ルキアスは軽く目を見開いた。
「……こうなってる物だ。これにこう矢を番えて弦を引き……」
おじさんは弓に矢を番えて引く。
「……引いた弦を放せば飛んで行く」
おじさんは手を放さず「やたらめったら飛ばすもんでもないからな」と言いながら、ゆっくり弦を引く前の位置に戻した。
そして弓をルキアスに差し出す。
「ほれ、ちょっと引いてみろ」
「はい……」
ルキアスとておじさんの厚意だとは察しているし、触ってみるのも吝かでない。断る要素は特に無い。
だから恐る恐る受け取った。
(なんか初めての物を触る時は緊張する。おじさんのだから壊しちゃいけないし……)
壊してはいけないと考えるほどにおっかなびっくりになってしまうルキアスだ。
それでもどうにかおじさんの言う通りに構える。
弦を引く。
(固っ……)
左親指の付け根や右手の指が痛かった。それに多めに見積もってもおじさんの半分しか引けていない。
だと言うのにおじさんと来たらルキアスの都合お構いなしに応援するのだ。
「ほら、もっと引け。もっとだ」
「いや、無理です! これ以上は引けません!」
「引けるって」
「駄目です!」
弦をゆっくり戻した。いきなり放したら指が千切れそうだったためだ。
「ぼくにはちょっと難しそうです。指が痛くて……」
「今はそうだろうな。だがそれを痛くなくなるまで練習するんだよ。こんな風に」
おじさんが右の手の平をルキアスに指し出すと、その人差し指、中指、薬指の第一関節が見るからにゴツゴツと硬くなっていた。
「触っても?」
「おう。触ってみろ」
おじさんの手は見た目以上にゴツゴツして硬い。ルキアスが爪を立てても食い込むようには思えない。
(マジか……)
こうなるまでに一体どれくらいの時間が掛かるのか。一年か二年かもっとか。
(そんな時間はぼくには無い。やってみてやっぱりできなかったら取り返しが付かないもの。ぼくにできるのはやっぱり剣だ)
ルキアスはおじさんの手を放した。
「ありがとうございました」
「兄ちゃんは気乗りしてなさそうだな……」
おじさんは嘆くように天を仰いだ後、横目でルキアスを見る。
「どうしても弓が無理だって思うなら、剣に並々ならぬ拘りを持っていても、せめて槍にしろ。槍なら一週間の命が二週間くらいには延びるさ」
「あんまり変わらなくないですか?」
「まあな。でも一週間延びてる間に何か工夫ができればもう一週間延びる。それを繰り返せば何年にもなるかも知れない」
「はあ、まあ、そうですね……」
「で、もし弓を作る気になったらベクロテに竹が有るから使うといい。弓作りの素人でも形にし易いはずだ」
「竹、ですか」
「そうだ。まあ、あれこれ言っても所詮は兄ちゃんのしたいようにするしかないんだけどな。だから今は話半分、頭の片隅にでも入れておけばいいさ」
そう言って、おじさんはカカカと笑った。
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