生活魔法は万能です

８ 鉄屑

　鉄屑を何のために集めたか。それは行き先がダンジョンだからである。

「これで武器を作る」

　未だ鉄屑のままなのは、ギリギリまで量の確保を粘っていたからだ。
　屑だろうと鉄は鉄。売れば多少なりともお金になる。そうそう捨てる人も居ない。捨てられるのは「これだけを売ってもなぁ」と思える古釘などの小さな物だけなのだ。
　ルキアスはそんな鉄をコツコツ集めた。父親からも古くなった農具を譲って貰い、五年掛かりで漸く短剣一振りを作れそうな量が溜まった。元農具だった鉄屑が大半ではあったが。

「とにかく捏ねよう」

　鉄屑をまず生活魔法『捏ね』で捏ねる。最後に拾った鉄屑がまだ馴染んでいないのでしっかり馴染ませるのだ。錆や汚れは拾った端から落としていたので捏ねるだけで良い。
　ただ、『捏ね』は元々粘土や小麦粉の生地なんかを捏ねる魔法だから、鉄に使ったら極端に変化に乏しくなる。変形がどうにか目視できる程度にしか動かない。この四年間、毎夜のように捏ねていてもそう。最初の頃は変化を目視できないせいで失敗していると思ったくらいだ。
　だからルキアスは指の力だけじゃどうにもならない鉄を捏ねられるだけ儲けものだと考えた。
　因みに捏ねるのが四年間なのは、鉄屑を集めて持ち込んだとしても鍛冶屋に剣を作って貰う料金には到底及ばないと悟るまでに一年を費やしたからだ。それまでの間はただ集めるだけだった。

「捏ねるのに一週間。その後は『伸し』で伸ばして形を作って『均し』て表面を磨いて……」

　ルキアスは今後の手順を反芻するように呟いた。
　生活魔法『伸し』は『捏ね』同様に主に粘土や小麦粉の生地などに使う。平たく伸ばすことも細長く伸ばすこともできるので、パスタ作りなどによく使われる。これを鉄に使ってもじわじわとした変化しか起こらないため、剣の形になるまでには長い時間が掛かる。

（ベクロテに着くまでに完成させられたら良いのだけど……）