3 / 627
3 街道。今は秋
しおりを挟む
ルキアスの歩む街道は舗装されていない。それどころか整備が行き届いておらず、あちこちに穴が空いている。
とは言え、タードは町中であっても大通り――タードの中で大きいだけで、大きめの荷車が余裕を保って擦れ違えるほど――が舗装されているだけで、路地に入れば土が剥き出しになっている。
その大通りの舗装も不規則なタイルで舗装されているように見えて、実際にはタイルではない。過去に『硬化』の天職持ちの人物によって路面を継ぎ目無しに硬化させられたものが年月を経てひび割れただけのものだ。
町中でそんな具合だから、町の外である街道が舗装されてなくても当然と言えよう。
(舗装されてないのは仕方ないけど、歩きにくいな……)
そんな街道の穴の原因は言わずと知れた雨。雨上がりにはアメンボやミズスマシが水面を滑ったりもする。しかしそんな光景も今年はもう終わりを迎えている。街道の両脇に広がる刈り取り後の小麦畑が物語るように、今はもう秋なのだから。
(秋か……)
恐らく旅立ちだけを考えれば春の方が良い。冬よりも夏の方が少ない食事で堪えられる。
それでもルキアスが秋にしたのは小麦の収穫を待ったからだ。小麦の出来映え次第で家族の一年間が決まる。恙無く暮らせるか、困窮してしまうか、この時に懸かっている。問題無く収穫を終えられれば一年間は安泰だ。少なくとも一年間は家族の生活を心配せずに済む。そして旅立ちの際に昨年の残りの小麦を持ち出すことにも心を痛めずに済む。
結果が判るのは、小麦を刈り取って乾燥させ、脱穀まで終わった後だ。ルキアスはその時を収穫などを手伝いながら待った。
そして今年は平年並みだった。いつもの年と大体同じ。つまり、安泰だ。
(きっとぼくはこれから頑張らなければいけない。
それでも一年も経てば大体の目途は付く筈。
生活できてもできなくてもだけど……。
一年間、自分の事だけに集中できるのはきっと大きいよね)
もしも凶作だったなら、それが判った時点でルキアスは旅立つことになっただろう。それも食べ物らしき物を殆ど持たずに。
しかし今となっては考える意味は無い。起きなかった事なのだから。
ルキアスが物思いに耽りつつ歩く内、街道脇の麦畑が途切れた。この先は草むらや林を抜けるように街道が続く。
両脇を林に囲まれた場所には乾涸らびたミミズの残骸が転がっていた。こんな道は雨上がりに足の踏み場も無いほどにミミズが湧き出ることがあるのだ。きっと鳥も啄みきれないほどに。
雨の降ってぬかるんだ道はきっとミミズに快適な場所なのだろう。しかし雨が上がって乾き始めたら彼らにとって地獄になる。踏み固められた街道の地面はミミズが潜るには固すぎる。土に潜ろうにも潜れず、次第に乾いて行く。
「こうはなりたくないな……」
ルキアスにはこのミミズ達が少しだけ自らの未来に重なって見えた。
とは言え、タードは町中であっても大通り――タードの中で大きいだけで、大きめの荷車が余裕を保って擦れ違えるほど――が舗装されているだけで、路地に入れば土が剥き出しになっている。
その大通りの舗装も不規則なタイルで舗装されているように見えて、実際にはタイルではない。過去に『硬化』の天職持ちの人物によって路面を継ぎ目無しに硬化させられたものが年月を経てひび割れただけのものだ。
町中でそんな具合だから、町の外である街道が舗装されてなくても当然と言えよう。
(舗装されてないのは仕方ないけど、歩きにくいな……)
そんな街道の穴の原因は言わずと知れた雨。雨上がりにはアメンボやミズスマシが水面を滑ったりもする。しかしそんな光景も今年はもう終わりを迎えている。街道の両脇に広がる刈り取り後の小麦畑が物語るように、今はもう秋なのだから。
(秋か……)
恐らく旅立ちだけを考えれば春の方が良い。冬よりも夏の方が少ない食事で堪えられる。
それでもルキアスが秋にしたのは小麦の収穫を待ったからだ。小麦の出来映え次第で家族の一年間が決まる。恙無く暮らせるか、困窮してしまうか、この時に懸かっている。問題無く収穫を終えられれば一年間は安泰だ。少なくとも一年間は家族の生活を心配せずに済む。そして旅立ちの際に昨年の残りの小麦を持ち出すことにも心を痛めずに済む。
結果が判るのは、小麦を刈り取って乾燥させ、脱穀まで終わった後だ。ルキアスはその時を収穫などを手伝いながら待った。
そして今年は平年並みだった。いつもの年と大体同じ。つまり、安泰だ。
(きっとぼくはこれから頑張らなければいけない。
それでも一年も経てば大体の目途は付く筈。
生活できてもできなくてもだけど……。
一年間、自分の事だけに集中できるのはきっと大きいよね)
もしも凶作だったなら、それが判った時点でルキアスは旅立つことになっただろう。それも食べ物らしき物を殆ど持たずに。
しかし今となっては考える意味は無い。起きなかった事なのだから。
ルキアスが物思いに耽りつつ歩く内、街道脇の麦畑が途切れた。この先は草むらや林を抜けるように街道が続く。
両脇を林に囲まれた場所には乾涸らびたミミズの残骸が転がっていた。こんな道は雨上がりに足の踏み場も無いほどにミミズが湧き出ることがあるのだ。きっと鳥も啄みきれないほどに。
雨の降ってぬかるんだ道はきっとミミズに快適な場所なのだろう。しかし雨が上がって乾き始めたら彼らにとって地獄になる。踏み固められた街道の地面はミミズが潜るには固すぎる。土に潜ろうにも潜れず、次第に乾いて行く。
「こうはなりたくないな……」
ルキアスにはこのミミズ達が少しだけ自らの未来に重なって見えた。
138
お気に入りに追加
980
あなたにおすすめの小説

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~
夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。
雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。
女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。
異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。
調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。
そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。
※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。
※サブタイトル追加しました。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~
志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。
けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。
そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。
‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。
「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる