4 / 38
第一話 追憶-4
しおりを挟む
全てはシルフィエットと入れ替わりでゲームヒロインに当たる男爵令嬢が入学したことから始まっていた。平民の出でありながら男爵の養女となったことで入学できたのだ。
エカテリーナがその「名を口にするのも穢らわしい」相手と初めて会ったのは、新年度の慌ただしさも一段落した四月下旬のことである。それは王立学園の庭を散策中のことであった。
どこか苦しげな女性の声が聞こえ、大事が有ってはいけないと駆け付けた。ところが、着いた先の四阿の陰に潜んでいたのは服をはだけて男性教師と情事に耽る女の姿であった。それが問題の男爵令嬢、ゲームヒロインである。
我が目を疑ったエカテリーナは二度見をしたが、女は明らかに情事の真っ最中。
他人の情事を見るなど当然の如く初めてだ。どう反応して良いか判らなくなったエカテリーナは絶句して立ち尽くすばかり。頭の中も真っ白になる。
そんなエカテリーナを早々に見咎めたゲームヒロインが快楽に溶けた笑みを差し向けた。明らかな挑発だ。
これによってエカテリーナはますます困惑を深めた。情事を見られながらむしろ誇らしげにすらする女の心中など計り知れない。気持ち悪さだけが募る。しかしこれによって感情が少し冷え、若干の思考も戻った。
気を取り直したエカテリーナはそのままにしてはおけないと、情事に耽る二人を咎め立てする。
男の反応が顕著だった。ここで初めてエカテリーナに気付いた男が慌てて身形を整え、駆け出すように立ち去った。
ところがゲームヒロインの方は悠々と、動揺を隠せずにいたエカテリーナを嘲るかのように、そして勝ち誇るかのように嗤いつつ立ち去るのだ。
人目を憚って然るべき行為を目撃されて尚、悪びれもしない彼女のことがエカテリーナには信じられなかった。
それ以降、エカテリーナは二日と置かずにゲームヒロインの情事を目撃するようになる。教師であったり学生であったりと、相手を都度変えながら行く先々で情事に耽っている。待ち伏せされているかと錯覚するほどだ。
それと言うのも、多数の目撃者が居るなら噂になりそうなものでありながら、そうした様子が無い。目撃しているのが自分だけなのではないかと考えたのだ。最初の頃こそ人目を避けるような場所で行われていた情事が徐々に人目に付きやすい場所へと移ったにも拘わらずだったため、余計にそう思われた。
錯覚だったと悟るのは、五月下旬。廊下を歩いている際、階段から血相を変え、それでいて顔を赤らめながら走り去る女学生と擦れ違った。その階段の陰ではゲームヒロインが情事に耽っており、女学生はそれを見たのだ。それでもその情事が誰かの口の端に上ることなく日々は過ぎる。こうして彼女の情事を目撃しても誰もが口を噤んでいるのだと知った。自らを振り返ってもそうだったため、皆も同じだったのだと妙に納得もした。
振り返って考えれば、この頃にはもうゲームヒロインの毒が学園全体を病ませ、常軌を逸した様子を日常に変えつつあったのだ。
また、以前にも見た相手との情事に出会すことも増えた。そんな男の場合、エカテリーナが咎めれば情事を切り上げはしても、立ち去る時に興が冷めたと舌打ちを残す始末だ。
六月半ばともなると、あられもない姿のゲームヒロインはいつ服を着ているのか疑わしいほどとなり、相手の男ももうエカテリーナが咎めても情事を止めなくなっていた。
エカテリーナがその「名を口にするのも穢らわしい」相手と初めて会ったのは、新年度の慌ただしさも一段落した四月下旬のことである。それは王立学園の庭を散策中のことであった。
どこか苦しげな女性の声が聞こえ、大事が有ってはいけないと駆け付けた。ところが、着いた先の四阿の陰に潜んでいたのは服をはだけて男性教師と情事に耽る女の姿であった。それが問題の男爵令嬢、ゲームヒロインである。
我が目を疑ったエカテリーナは二度見をしたが、女は明らかに情事の真っ最中。
他人の情事を見るなど当然の如く初めてだ。どう反応して良いか判らなくなったエカテリーナは絶句して立ち尽くすばかり。頭の中も真っ白になる。
そんなエカテリーナを早々に見咎めたゲームヒロインが快楽に溶けた笑みを差し向けた。明らかな挑発だ。
これによってエカテリーナはますます困惑を深めた。情事を見られながらむしろ誇らしげにすらする女の心中など計り知れない。気持ち悪さだけが募る。しかしこれによって感情が少し冷え、若干の思考も戻った。
気を取り直したエカテリーナはそのままにしてはおけないと、情事に耽る二人を咎め立てする。
男の反応が顕著だった。ここで初めてエカテリーナに気付いた男が慌てて身形を整え、駆け出すように立ち去った。
ところがゲームヒロインの方は悠々と、動揺を隠せずにいたエカテリーナを嘲るかのように、そして勝ち誇るかのように嗤いつつ立ち去るのだ。
人目を憚って然るべき行為を目撃されて尚、悪びれもしない彼女のことがエカテリーナには信じられなかった。
それ以降、エカテリーナは二日と置かずにゲームヒロインの情事を目撃するようになる。教師であったり学生であったりと、相手を都度変えながら行く先々で情事に耽っている。待ち伏せされているかと錯覚するほどだ。
それと言うのも、多数の目撃者が居るなら噂になりそうなものでありながら、そうした様子が無い。目撃しているのが自分だけなのではないかと考えたのだ。最初の頃こそ人目を避けるような場所で行われていた情事が徐々に人目に付きやすい場所へと移ったにも拘わらずだったため、余計にそう思われた。
錯覚だったと悟るのは、五月下旬。廊下を歩いている際、階段から血相を変え、それでいて顔を赤らめながら走り去る女学生と擦れ違った。その階段の陰ではゲームヒロインが情事に耽っており、女学生はそれを見たのだ。それでもその情事が誰かの口の端に上ることなく日々は過ぎる。こうして彼女の情事を目撃しても誰もが口を噤んでいるのだと知った。自らを振り返ってもそうだったため、皆も同じだったのだと妙に納得もした。
振り返って考えれば、この頃にはもうゲームヒロインの毒が学園全体を病ませ、常軌を逸した様子を日常に変えつつあったのだ。
また、以前にも見た相手との情事に出会すことも増えた。そんな男の場合、エカテリーナが咎めれば情事を切り上げはしても、立ち去る時に興が冷めたと舌打ちを残す始末だ。
六月半ばともなると、あられもない姿のゲームヒロインはいつ服を着ているのか疑わしいほどとなり、相手の男ももうエカテリーナが咎めても情事を止めなくなっていた。
10
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
【完結】極妻の悪役令嬢転生~あんたに払う安い命はひとつもないよ~
荷居人(にいと)
恋愛
「へぇ、それで悪役令嬢ってなんだい?」
「もうお母さん!話がさっきからループしてるんだけど!?」
「仕方ないだろう。げーむ?とやらがよくわからないんだから」
組同士の抗争に巻き込まれ、娘ともども亡くなったかと思えば違う人物として生まれ変わった私。しかも前世の娘が私の母になるんだから世の中何があるかわからないってもんだ。
娘が……ああ、今は母なわけだが、ここはおとめげぇむ?の世界で私は悪いやつらしい。ストーリー通り進めば処刑ということだけは理解したけど、私は私の道を進むだけさ。
けど、最高の夫がいた私に、この世界の婚約者はあまりにも気が合わないようだ。
「貴様とは婚約破棄だ!」
とはいえ娘の言う通り、本当に破棄されちまうとは。死ぬ覚悟はいつだってできているけど、こんな若造のために死ぬ安い命ではないよ。

悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
乗っ取られた悪役令嬢
F.conoe
ファンタジー
悪役令嬢に転生した元日本人、に体を乗っ取られた悪役令嬢の側の話。
オチが地味
追い出された悪役令嬢の意識はどうなるのか? を追いかけただけの話。
作者の予定ではかわいそうなことになるはずが、救いの手が差し伸べられました。

王太子が悪役令嬢ののろけ話ばかりするのでヒロインは困惑した
葉柚
恋愛
とある乙女ゲームの世界に転生してしまった乙女ゲームのヒロイン、アリーチェ。
メインヒーローの王太子を攻略しようとするんだけど………。
なんかこの王太子おかしい。
婚約者である悪役令嬢ののろけ話しかしないんだけど。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる