上 下
23 / 38

第七話 対価-2

しおりを挟む
 不可思議な現象が部屋の外までは追い掛けて来なかったことから、二人は隣室のベックの部屋に腰を落ち着けた。そしてハロルドはベックにヘンドリックから伝えられた内容を相談する。
「どう考える?」
「自分らはもう盗賊みたいなもんだし、既に盗賊そのものになってる連中を抱えていますがね、これ以上の略奪は統制が全く執れなくなりやしませんか?」
 ベックの言葉には自嘲も含まれている。第二大隊は他の大隊のような略奪こそしていないが、商店などの用心棒をする代金が主な収入だ。他に収入の宛てが駐留軍全体としては自作自演にしか見えない。
「やっぱりそう思うか」
「ええ、引き時だと思いますね」
「まあな」
 ハロルドは眉根を寄せて考え込んだ。ついさっき自身でも考えたことではある。
「あのヘンドリックにしては言い方が変ですしね」
 ヘンドリックは先代からの忠臣で、以前には主人に対する批判的な言動をした試しが無い。当代に関してさえだ。
 ところが今回、当代の責任を明言した。
「それに、多分あの呪いはしつこいですよ。このままここに居たんじゃほんとに死ぬまでまとわり憑かれるんじゃないですかね」
「全くその通りなんだが、他の大隊の連中のことも有るからどうしたものかね……」
 事実上、ハイデンの治安は第二大隊が担っている。第一大隊や第三大隊と言った巨悪の存在が小悪党の活動を抑止している面もきにしもあらずだが、恐らくは誤差の範囲であろう。
 ともあれ、ベックとしてもその点に言及されれば答えを持たず、沈黙するばかり。二人して考え込む。

 うんうん唸りながら思案し始めていかほどか。
伝令ーっでんれーいっ! 伝令ーっでんれーいっ! ハロルド隊長殿に伝令ーっでんれーいっ!」
 けたたましい声が近付いて来る。
 二人はかんはつれずに動いて部屋を出て、ベックが声を張る。
「隊長はここだ!」
 するとハロルドの部屋目掛けて走っていたらしい兵士が目の前で止まり、敬礼をする。ハロルドが連隊長の動向を監視させていた兵士の一人だった。
「報告いたします。連隊長殿が襲撃を受け戦死。同行の小隊総員も同じく戦死。襲撃者はスーツ姿の老人一名。以上であります」
 思いも寄らない報告に、ハロルドでも理解するまで少しの間を要した。しかし理解してしまえば想像は巡る。
「襲撃者の名は判らないのか!?」
「連隊長殿がヘンドリックと呼び掛けたように思われました」
 ハロルドは目をみはる。意見を求めるかの如くベックを見たが、「俺もこんな顔になっているのか」と奇妙な感想を抱くような驚きに満ちた顔で見返されるだけであった。
伝令ーっでんれーいっ! 伝令ーっでんれーいっ! ハロルド隊長殿に伝令ーっでんれーいっ!」
 そこに別の伝令の声。ハロルドのもとに立ち止まって敬礼をする。
「報告いたします。第三大隊隊長殿が銃撃を受け死亡。同行の小隊が犯人とおぼしき女一名を捜索中。以上であります」
 ハロルドは今度こそ我が耳を疑ったが、部下の前では顔に出さない。
「現時点をもって各隊長の監視任務を解除する。ご苦労だった」
 その言葉だけを口から絞り出して二人の伝令をねぎらい、伝令が立ち去るのを見送ってってからベックと二人でのろのろとベックの部屋に入る。ドアを閉め、各々壁とドアにもたれ掛かると、二人して脚から力が抜けたようにへなへなと座り込んだ。
 ぼんやりと中空を見ながら思考する内に変な笑いが込み上げる。
「ひひひっ。ヘンドリックも思い切ったことをしましたね」
「くっくっく……。さっきまで悩んだのは何だったんだろうな」
 軍としてはあなどられたことにいからねばならないところである。だが、ハロルドやベックにとって殺害された彼らは軍の汚点でしかなかった。居なくなったことがむしろ清々しい。それに連隊長亡き後はハロルドが駐留軍の最高位になるため、自由に軍を動かせもする。
「ヘンドリックがボナレス見限ったなら自分らも見習いませんか?」
「ああ。この好機を逃す手はないな。しかし引き上げるとして、他の隊の連中にはどう言う?」
「伯爵に全部責任を取って貰いましょう」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】千年ぶりの魔法をあなたに〜生贄にされた王女と処刑された護衛〜

美原風香
恋愛
 千年前、災いを鎮めるために生贄となった王女がいた。最愛の人である護衛の魔法使いと死に別れようとも、国を、民を守るために彼女は生贄になる道を選んだのだ。 「せめて来世、もう一度巡り会うことができますように……」  そんな王女が転生した。千年後の時代に。同じ王国の王女として。  だが、前世は膨大な魔力を用い幾度も災いから国を救って聖女と呼ばれていた彼女は、今世では侍女との間に生まれた子として疎まれていた。  そして、また儀式が行われることになる。しかし、儀式は災いを鎮めるためではなかったのだ。  絶望した彼女の元に一人の青年が現れる。  彼が差し伸べた手を取った時、彼女の運命は決まっていた。いや、千年前にすでに決まっていたのかもしれない。 「千年の時を超えて、私の祈りがあなたに届いてよかった」  これは、千年の時を超えて、祈りが、想いが届く奇跡の物語。

イジメられっ子は悪役令嬢( ; ; )イジメっ子はヒロイン∑(゚Д゚)じゃあ仕方がないっ!性格が悪くても(⌒▽⌒)

音無砂月
ファンタジー
公爵令嬢として生まれたレイラ・カーティスには前世の記憶がある。 それは自分がとある人物を中心にイジメられていた暗黒時代。 加えて生まれ変わった世界は従妹が好きだった乙女ゲームと同じ世界。 しかも自分は悪役令嬢で前世で私をイジメていた女はヒロインとして生まれ変わっていた。 そりゃないよ、神様。・°°・(>_<)・°°・。 *内容の中に顔文字や絵文字が入っているので苦手な方はご遠慮ください。 尚、その件に関する苦情は一切受け付けませんので予めご了承ください。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない

結城芙由奈 
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒― 私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。 「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」 その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。 ※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています

婚約破棄に処刑ですって?よろしい!ならばその程度では済まない悪役ぶりを見せてあげましょう!

荷居人(にいと)
恋愛
「気に入らないものに対して身分を盾に数々の嫌がらせ行為………我慢ならん!貴様との婚約は破棄とする!それだけでなく、私の未来の妻、つまりは未来の王妃を傷つけた罪は重い。身分剥奪どころか貴様など処刑だ!」 どれもこれも知らぬ存ぜぬばかりのことでこのバカ王子は確たる証拠もなく私に婚約破棄、意味のわからない罪状で処刑と人の多く集まる場で叫んだ。 私と二人で話す場であればまだ許したものを………。見え透いた下心丸出しビッチ令嬢に良いように操られるバカな夢見る王子には教育が必要なようです。 「婚約破棄の前にまずは私の罪状をもう一度お聞かせ願えますか?」 私を悪役扱いするならば望み通りあえて悪役となって差し上げましょう。その程度で処刑?バカが聞いて呆れるというもの。 処刑になる気もしませんが、万が一の可能性が少し、ほんの少しもないとは言えません。もしそうなった時何もせず言われたままで終わるなんてそれこそ屈辱。 ならばいっそ、処刑されても当たり前ねと思えるくらいの悪役を見せてあげようではありませんか。 そして証明しましょう。私ならそんな貴方たちの考えたバレるような悪役など演じないとね。 恋を諦めて政略結婚のために我慢してきた鬱憤も今この場で晴らしましょう。私だって嫌々なのに大概にしてくださいませね?お・う・じ・さ・ま・?

悪役令嬢に転生したので、剣を執って戦い抜く

秋鷺 照
ファンタジー
 断罪イベント(?)のあった夜、シャルロッテは前世の記憶を取り戻し、自分が乙女ゲームの悪役令嬢だと知った。  ゲームシナリオは絶賛進行中。自分の死まで残り約1か月。  シャルロッテは1つの結論を出す。それすなわち、「私が強くなれば良い」。  目指すのは、誰も死なないハッピーエンド。そのために、剣を執って戦い抜く。 ※なろうにも投稿しています

処理中です...