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第五章 聖女の心ここに在らず
第七十一話
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傀儡に投げ飛ばされた賊が呻き声を上げながらも、もぞもぞと動き出す。これでいち早く我に返ったのは守備隊隊長だ。賊を取り逃がしては保身に拘わるので反応が早い。
「早くそいつらを捕らえろ!」
隊長の一喝で兵士達も動き出す。日頃に少し舐めて掛かっている隊長より劣っているかのような状況は気分の悪いものなのだ。
因みにドレッドは端から自失していないのでノーカウントである。
そのドレッドはと言うと、ゴンドラの上を気にしつつも兵士らの監視も怠らない。目敏く見つけたのが不審な動きをする三人の兵士。捕縛対象の賊よりも同僚の兵士の動きをやたらと気にしている。隙を窺うような動きだ。恐らくは賊の仲間。為そうとするのは逃亡か、暗殺か。逃亡ならば少し気が早い。屯所への帰還中に逃亡を謀る方が確実な筈だ。ドレッドの目前で逃亡しようものなら、先に逃亡を試みた二人のような運命が待っている。ならば暗殺か。死人に口なし、口を封じてしまえば何とでも言い逃れができるとの判断か。それを望んだ場合、賊が反抗しているなら比較的容易だ。勢い余って殺してしまったと言い張ることができる。しかし、ゴーレムに投げられた時の擦り傷しかない賊の抵抗は強いものの、左手が砕けた賊の抵抗は弱々しく、腕が折れた賊は再び気を失っている。抵抗無く、あるいは容易に捕縛できる賊を相手に勢い余ってとはならないだろう。殺すのであれば一目を盗んでこっそりだ。誰が殺したか判らないようにして。
ドレッドは「甘く見られたものだ」と内心で独りごちる。気付かれないとでも思われた訳だ。
「おい! そこの三人!」
突然隊長が叫び、三人の名前を呼ぶ。返事をしたのは不審な動きをしていた三人である。
「こっちに来い!」
呼ばれた三人は一瞬だけ顔を見合わせた後、指示に従った。隊長の指示を無視するのは不審に過ぎるから。
「お前達はここで待機だ」
隊長は理由を言わない。三人は反射的に意見しようとしかけたが、ドレッドが睨み付けていたので止め、温和しく従った。
程なくして賊三人の捕縛も完了した。
そしてドレッドは隊長を甘く見ていたのを少し反省した。意外と現場で輝く人物であった。しかし評価を上げるかは微妙だ。守備隊の中から賊に手を染める者を幾人も出した責任や、それに気付かなかった責任が消える訳ではない。
それはともかくとして、賊の後始末が残っている。
「マリアン、ご苦労だった。殿下にも事情を伺わなければならない。ご足労願ってくれ。殿下と一緒に居る女性もだ」
「はい?」
マリアンはきょとんとドレッドを見た。すっかりドレッドの人質にされているくらいの気分で居たのだ。独りで行かせてそのまま逃げるとは考えないのだろうかと。
「何をしている? 早くしろ」
「は、はい」
マリアンはゴンドラへと走る。走りながらはたと気付いて、してやられたと考える。ここでサーシャはともかくマリアンには捜査に協力しない選択ができない。サーシャの身分は知られていると考える他無く、治安維持に努めない王族など汚点にしかならないのだ。そしてマリアンが協力するとなると、サーシャが付き添うと言い出すのが見えている。そうなったらもう完全にドレッドの監視下である。
浮遊器を使ってゴンドラに飛び上がり、申し訳なさそうにサーシャへとドレッドの言葉を伝える。すると案の定。
「解りました。行きましょう」
サーシャは一瞬だけ嫌そうに顔を歪めたが、直ぐに毅然と言った。
そしてシーリスはマリアンを「ふふん」と見やり、サーシャをチラッと見て肩を竦める。
「わっしも了承也」
王女様だからって嫌いになれそうにないわ、と。
「早くそいつらを捕らえろ!」
隊長の一喝で兵士達も動き出す。日頃に少し舐めて掛かっている隊長より劣っているかのような状況は気分の悪いものなのだ。
因みにドレッドは端から自失していないのでノーカウントである。
そのドレッドはと言うと、ゴンドラの上を気にしつつも兵士らの監視も怠らない。目敏く見つけたのが不審な動きをする三人の兵士。捕縛対象の賊よりも同僚の兵士の動きをやたらと気にしている。隙を窺うような動きだ。恐らくは賊の仲間。為そうとするのは逃亡か、暗殺か。逃亡ならば少し気が早い。屯所への帰還中に逃亡を謀る方が確実な筈だ。ドレッドの目前で逃亡しようものなら、先に逃亡を試みた二人のような運命が待っている。ならば暗殺か。死人に口なし、口を封じてしまえば何とでも言い逃れができるとの判断か。それを望んだ場合、賊が反抗しているなら比較的容易だ。勢い余って殺してしまったと言い張ることができる。しかし、ゴーレムに投げられた時の擦り傷しかない賊の抵抗は強いものの、左手が砕けた賊の抵抗は弱々しく、腕が折れた賊は再び気を失っている。抵抗無く、あるいは容易に捕縛できる賊を相手に勢い余ってとはならないだろう。殺すのであれば一目を盗んでこっそりだ。誰が殺したか判らないようにして。
ドレッドは「甘く見られたものだ」と内心で独りごちる。気付かれないとでも思われた訳だ。
「おい! そこの三人!」
突然隊長が叫び、三人の名前を呼ぶ。返事をしたのは不審な動きをしていた三人である。
「こっちに来い!」
呼ばれた三人は一瞬だけ顔を見合わせた後、指示に従った。隊長の指示を無視するのは不審に過ぎるから。
「お前達はここで待機だ」
隊長は理由を言わない。三人は反射的に意見しようとしかけたが、ドレッドが睨み付けていたので止め、温和しく従った。
程なくして賊三人の捕縛も完了した。
そしてドレッドは隊長を甘く見ていたのを少し反省した。意外と現場で輝く人物であった。しかし評価を上げるかは微妙だ。守備隊の中から賊に手を染める者を幾人も出した責任や、それに気付かなかった責任が消える訳ではない。
それはともかくとして、賊の後始末が残っている。
「マリアン、ご苦労だった。殿下にも事情を伺わなければならない。ご足労願ってくれ。殿下と一緒に居る女性もだ」
「はい?」
マリアンはきょとんとドレッドを見た。すっかりドレッドの人質にされているくらいの気分で居たのだ。独りで行かせてそのまま逃げるとは考えないのだろうかと。
「何をしている? 早くしろ」
「は、はい」
マリアンはゴンドラへと走る。走りながらはたと気付いて、してやられたと考える。ここでサーシャはともかくマリアンには捜査に協力しない選択ができない。サーシャの身分は知られていると考える他無く、治安維持に努めない王族など汚点にしかならないのだ。そしてマリアンが協力するとなると、サーシャが付き添うと言い出すのが見えている。そうなったらもう完全にドレッドの監視下である。
浮遊器を使ってゴンドラに飛び上がり、申し訳なさそうにサーシャへとドレッドの言葉を伝える。すると案の定。
「解りました。行きましょう」
サーシャは一瞬だけ嫌そうに顔を歪めたが、直ぐに毅然と言った。
そしてシーリスはマリアンを「ふふん」と見やり、サーシャをチラッと見て肩を竦める。
「わっしも了承也」
王女様だからって嫌いになれそうにないわ、と。
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