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第四章 魔王を求めて北へ
第四十五話
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学者ノルトと剣士クインクトが調査していた遺跡はライナーダ王国の南部から神聖ログリア帝国の南部へと連なる山脈の北に在る。そこからナペーラ王国に行くには山脈を越えて魔の森を突っ切るのが最短距離だ。そんな訳でひとまず山脈を越えてライナーダ王国に属する魔物猟師の町を二人は訪れた。
「行ってみれば判る……、と言いたいところだが、遭難されても目覚めが悪いから忠告しておくぞ。魔の森の上は飛ぶな」
魔の森を越えて行けるかを確認するために魔法結晶買い取り屋で聞き込みをしたところ、店の主人がそう言った。
「理由をお聞きしても?」
「出るんだよ。怪鳥が」
主人は「クケーッてな」と言いつつ両腕を広げて肩の上まで持ち上げ、手首を曲げて手の平を下に向ける。鳥の翼の真似だ。応えるようにノルトが「クケーッですか」と主人と同じポーズを取る。クインクトはノルトを横目で見ながら口をむにゃむにゃとさせた。
「その怪鳥とはどんなものなのですか?」
「そうさな。大きさは翼抜きで人の、十二歳のガキくらいだな」
「それは確かに大きいとは思いますが、怪鳥と言うほどでもないのでは?」
「大きさだけならな。俺は狩って持ち帰った猟師の話を聞いただけだが、どうやらそいつは蹴るんだよ」
「はあ……」
今一つピンと来ないのだ。猛禽類なら狩りの時に蹴りそうだし、木に留まる時でも木に蹴りを入れているように見えそうなもの。当たり前のことを大袈裟に言っているかのような印象である。大体、聞いただけなら先の鳥の真似は何だったのかと。
主人の方も伝わっていないのを察して「むむっ」と唸る。そして右手の平を横に向け、右から左へ指先で突くように振る。
「そいつは飛ぶのが速いらしいんだ。ビュンてな」
「ビュンですか」
ノルトは主人の手振りの真似をした。想像で手振りを加えていると察したので、相槌以上の意味は無い。
それでも主人は少しご機嫌だ。
「それも翼の上の面を正面に向けて飛ぶらしい」
「上の面を正面に? つまり魔法ですか?」
風魔法で風を起こし、その風を翼に孕んで進んでいることになる。
「そうさ。そしてその勢いのままゴンドラに蹴りを入れて来るのさ。な? 怪鳥だろ?」
「はい。確かに」
蹴りを入れるのも失速覚悟で、命懸けのような感じだ。
「まあ、その蹴りも上からだけなら用心していればどうにかなるかも知れん」
「用心のしようが無いと?」
「ああ、真下からもだからな」
魔法で飛ぶので上下があまり関係無いのだ。
「それだと今のボク達にはどうにもなりませんね……」
飛んでいる間も警戒が必要なようでは、二人だけでは身が持たない。特に問題の怪鳥には全く対抗できる見込みが無い。
「ご主人、その怪鳥に対抗できるような魔物猟師をご存じ有りませんか?」
「ご存じではあるけどよ。そんな猟師なら引っ張りだこだから、みんな手が塞がってるぞ?」
「それもそうですね……」
「それにこう言っちゃ何だが、そいつらでも魔の森を越えて向こうに行けるほどの腕は誰も持ってない。そんな猟師が居るとしたらナペーラの町くらいだろうさ」
「やはりそうですか……」
ナペーラ王国産の魔法結晶は質が良いことで知られる。品質の差は、それを遺す魔物の強さの差だ。つまり、ナペーラ王国の魔物猟師が他の国の猟師に比べて格段に強いことを意味している。最古でありながら現在も活動を続ける魔物猟師の村が在るのもナペーラ王国なのだ。ライナーダ王国の魔物猟師の村など魔の森の拡大に順ってその外縁部へと移動し続けているのだから、差は歴然である。
そもそもノルトは、案内役として腕の良い魔物猟師を雇いたくてナペーラ王国を目指している。この町で雇えるのなら、ナペーラ王国に足を伸ばす必要が無い。ログリア帝国の帝都の在った場所はナペーラ王国からよりもライナーダ王国からの方が近いくらいなのだ。
「ありがとう。参考になりました」
「おう。命は大事にしろよ」
「肝に銘じます」
ノルトとクインクトは魔法結晶買い取り屋を離れた。
「で、怪鳥とやらには挑戦してみるのか?」
クインクトがにやけ気味に尋ねた。
「何て人が悪いんでしょうね。失敗しなくていい失敗なんてボクは望みませんよ」
「安心したぜ。俺もだ」
「でも、遠回りするのも骨が折れますね」
「だからって海越えも無しにしてくれ」
「そうですね。全く越えない訳には行きませんが」
ナペーラ王国は半島の先に在り、その半島の付け根の部分には魔の森が在るために陸の孤島となっている。そこに渡る方法は、魔の森上空を突っ切る、海上を突っ切る、大きく西に迂回して島伝いに渡るのの三つ。その中で二人が使えそうなのが、大きく西に迂回するルートのみなのだ。
そうして、ナペーラ王国に到着するのは三十日近く経った日のことである。
「行ってみれば判る……、と言いたいところだが、遭難されても目覚めが悪いから忠告しておくぞ。魔の森の上は飛ぶな」
魔の森を越えて行けるかを確認するために魔法結晶買い取り屋で聞き込みをしたところ、店の主人がそう言った。
「理由をお聞きしても?」
「出るんだよ。怪鳥が」
主人は「クケーッてな」と言いつつ両腕を広げて肩の上まで持ち上げ、手首を曲げて手の平を下に向ける。鳥の翼の真似だ。応えるようにノルトが「クケーッですか」と主人と同じポーズを取る。クインクトはノルトを横目で見ながら口をむにゃむにゃとさせた。
「その怪鳥とはどんなものなのですか?」
「そうさな。大きさは翼抜きで人の、十二歳のガキくらいだな」
「それは確かに大きいとは思いますが、怪鳥と言うほどでもないのでは?」
「大きさだけならな。俺は狩って持ち帰った猟師の話を聞いただけだが、どうやらそいつは蹴るんだよ」
「はあ……」
今一つピンと来ないのだ。猛禽類なら狩りの時に蹴りそうだし、木に留まる時でも木に蹴りを入れているように見えそうなもの。当たり前のことを大袈裟に言っているかのような印象である。大体、聞いただけなら先の鳥の真似は何だったのかと。
主人の方も伝わっていないのを察して「むむっ」と唸る。そして右手の平を横に向け、右から左へ指先で突くように振る。
「そいつは飛ぶのが速いらしいんだ。ビュンてな」
「ビュンですか」
ノルトは主人の手振りの真似をした。想像で手振りを加えていると察したので、相槌以上の意味は無い。
それでも主人は少しご機嫌だ。
「それも翼の上の面を正面に向けて飛ぶらしい」
「上の面を正面に? つまり魔法ですか?」
風魔法で風を起こし、その風を翼に孕んで進んでいることになる。
「そうさ。そしてその勢いのままゴンドラに蹴りを入れて来るのさ。な? 怪鳥だろ?」
「はい。確かに」
蹴りを入れるのも失速覚悟で、命懸けのような感じだ。
「まあ、その蹴りも上からだけなら用心していればどうにかなるかも知れん」
「用心のしようが無いと?」
「ああ、真下からもだからな」
魔法で飛ぶので上下があまり関係無いのだ。
「それだと今のボク達にはどうにもなりませんね……」
飛んでいる間も警戒が必要なようでは、二人だけでは身が持たない。特に問題の怪鳥には全く対抗できる見込みが無い。
「ご主人、その怪鳥に対抗できるような魔物猟師をご存じ有りませんか?」
「ご存じではあるけどよ。そんな猟師なら引っ張りだこだから、みんな手が塞がってるぞ?」
「それもそうですね……」
「それにこう言っちゃ何だが、そいつらでも魔の森を越えて向こうに行けるほどの腕は誰も持ってない。そんな猟師が居るとしたらナペーラの町くらいだろうさ」
「やはりそうですか……」
ナペーラ王国産の魔法結晶は質が良いことで知られる。品質の差は、それを遺す魔物の強さの差だ。つまり、ナペーラ王国の魔物猟師が他の国の猟師に比べて格段に強いことを意味している。最古でありながら現在も活動を続ける魔物猟師の村が在るのもナペーラ王国なのだ。ライナーダ王国の魔物猟師の村など魔の森の拡大に順ってその外縁部へと移動し続けているのだから、差は歴然である。
そもそもノルトは、案内役として腕の良い魔物猟師を雇いたくてナペーラ王国を目指している。この町で雇えるのなら、ナペーラ王国に足を伸ばす必要が無い。ログリア帝国の帝都の在った場所はナペーラ王国からよりもライナーダ王国からの方が近いくらいなのだ。
「ありがとう。参考になりました」
「おう。命は大事にしろよ」
「肝に銘じます」
ノルトとクインクトは魔法結晶買い取り屋を離れた。
「で、怪鳥とやらには挑戦してみるのか?」
クインクトがにやけ気味に尋ねた。
「何て人が悪いんでしょうね。失敗しなくていい失敗なんてボクは望みませんよ」
「安心したぜ。俺もだ」
「でも、遠回りするのも骨が折れますね」
「だからって海越えも無しにしてくれ」
「そうですね。全く越えない訳には行きませんが」
ナペーラ王国は半島の先に在り、その半島の付け根の部分には魔の森が在るために陸の孤島となっている。そこに渡る方法は、魔の森上空を突っ切る、海上を突っ切る、大きく西に迂回して島伝いに渡るのの三つ。その中で二人が使えそうなのが、大きく西に迂回するルートのみなのだ。
そうして、ナペーラ王国に到着するのは三十日近く経った日のことである。
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