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第三章 魔王に敗北した勇者
第二十七話
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服を着て人心地付いた女は、目の前に居る女文官に自己紹介することにした。気が付いたらここに居て、しかもここがどこかも判らないのだから、とにかく話をしなければ始まらない。
『わたしはシーリス。あなたは?』
『シーリスさで言わっずだ? わずルセア言わず(シーリスさんとおっしゃるのですか? わたしはルセアと言います)』
シーリスは目を瞑り、少し寄ってしまった眉間に指先を当てた。
『今ので解ったわ。あなたズンダの人なのね』
『ズンダでか?(ズンダですか?)』
『そうよ。あなたには悪いのだけど、ズンダ語は訛りが酷くて半分も解らないのよ』
『訛り?』
ルセアは盛大に首を傾げた。ズンダがどこのことか解らないのだ。
『ズンダでどんどこでか?(ズンダとはどこですか?)』
今度はシーリスが首を傾げる。今の質問の意味は解ったのだが、意図が解らない。
『ズンダはログリア帝国の東部でしょ?』
『ログリアだ東なズンダでなで?(ログリアの東はズンダではないのですが?)』
『じゃあ、あなたはどこの出なの?』
『わず、ビンツ王国な出んで(わたしはビンツ王国の出ですよ)』
『ビンツ王国? どこ、それ?』
『え?』
お互いに言葉も曖昧で、話も噛み合っていないことに困惑する二人である。
シーリスは腕組み考える。
『せめてライナーダ語を話す人が居ればいいんだけど』
シーリスはログリア語を母国語とするが、ライナーダ語も話せなくはない。
『ライナーダ語だ解っだでか?(ライナーダ語が解るのですか?)』
『ええ、まあ』
『ずで……(でも……)』
ルセアは首を傾げる。
『わず、シーリスざなナペーラ語で話ざっだらで思ずんだ(わたし、シーリスさんはナペーラ語を話されているように思うのですが)』
『ナペーラ語? 判らないわ』
『わずんよだ知らでげで(わたしもよく知りませんが)』
シーリスはどこのどんな言葉かが判らないことを言い、ルセアはナペーラ語が上手く話せないことを言った。
さっぱり話が噛み合わず、話が半分しか通じていないのを実感してシーリスは天を仰いだ。はーっと溜め息を吐くと、ある事を思い出してしまった。
「聞いた話だから本当かどうかは判らないぞ」
「いいから教えて」
「せっかちは嫌われるぞ。いや? 姉ちゃんほどの美人ならせっかちに股を開いたらモテモテかもな」
「黒焦げにするわよ?」
「わーった。まったくおっかない女だな。あれはだな、召喚したまでは良かったものの、言葉が全く通じなかったって話だ」
「話が通じないなんて過去の文献には書いてないわよ?」
「そうなのか? 俺は過去の文献なんか知らないから判らないな。とにかくログリア語でもズンダ語でもライナーダ語やプローゼン語でもなかったそうだ」
「そんな状態で、そいつをどうしたのよ?」
「元々焦った連中がしでかしたことだ。使えるのか使えないのか試したらしい」
「言葉も通じないのにどうやって?」
「そりゃ、おめぇ、どれくらい体力が有るか見極めるのに剣で脅して無理矢理走らせる、みたいな」
「何よそれ? 馬鹿じゃないの? 敵対されたらどうするつもりだったのよ?」
「俺が知るかよ。でも、そこら辺のよぼよぼの爺でも連れて来た方がマシなくらいだったらしいから、大丈夫だったんだろう」
「大丈夫ねぇ……。それでその後は?」
「曲がりなりにも召喚されて出て来たんだから、鍛えれば使えるんじゃないかってことで扱いたとか」
「どうやって?」
「やっぱり剣で脅して?」
「馬鹿なことを……。で、そんなことをして使いものになったの?」
「いや。頭を抱えて怯えるだけになったらしい」
「……そりゃそうよね。それからは?」
「どこかに行ったか、殺されたのか、居なくなったらしい。俺が聞いたのはここまでだ」
シーリスは「言葉が半分通じないだけでも大変なのに、全く通じないなんてどれほどの不安だったろうか」と考える。何をさせられているのかも解らない。その上、力も無くて反抗もできず、脅されるままになるしかないのだ。
その時に召喚された者とは違い、シーリスは反抗するだけの力を持っている。少なくとも、今、周りを囲っている壁のようなものを破壊できない程度の相手からなら逃げるのは容易い。だから余裕だ。
それと言うのも、壁のようなものの外側では破壊しようとしているらしい音がドカドカと騒がしい。
『とにだ、ナペーラ語は無理だでんが、ライナーダ語だ話ざだ人がおでんで頼んでだしょ(とにかく、ナペーラ語は無理なのですが、ライナーダ語なら話せる人が居りますから頼んでみましょう)』
『あー、うん。何を言ってるのかよく判らないけど、ライナーダ語でお願い』
『承知ずんだ(承知しました)』
『わたしはシーリス。あなたは?』
『シーリスさで言わっずだ? わずルセア言わず(シーリスさんとおっしゃるのですか? わたしはルセアと言います)』
シーリスは目を瞑り、少し寄ってしまった眉間に指先を当てた。
『今ので解ったわ。あなたズンダの人なのね』
『ズンダでか?(ズンダですか?)』
『そうよ。あなたには悪いのだけど、ズンダ語は訛りが酷くて半分も解らないのよ』
『訛り?』
ルセアは盛大に首を傾げた。ズンダがどこのことか解らないのだ。
『ズンダでどんどこでか?(ズンダとはどこですか?)』
今度はシーリスが首を傾げる。今の質問の意味は解ったのだが、意図が解らない。
『ズンダはログリア帝国の東部でしょ?』
『ログリアだ東なズンダでなで?(ログリアの東はズンダではないのですが?)』
『じゃあ、あなたはどこの出なの?』
『わず、ビンツ王国な出んで(わたしはビンツ王国の出ですよ)』
『ビンツ王国? どこ、それ?』
『え?』
お互いに言葉も曖昧で、話も噛み合っていないことに困惑する二人である。
シーリスは腕組み考える。
『せめてライナーダ語を話す人が居ればいいんだけど』
シーリスはログリア語を母国語とするが、ライナーダ語も話せなくはない。
『ライナーダ語だ解っだでか?(ライナーダ語が解るのですか?)』
『ええ、まあ』
『ずで……(でも……)』
ルセアは首を傾げる。
『わず、シーリスざなナペーラ語で話ざっだらで思ずんだ(わたし、シーリスさんはナペーラ語を話されているように思うのですが)』
『ナペーラ語? 判らないわ』
『わずんよだ知らでげで(わたしもよく知りませんが)』
シーリスはどこのどんな言葉かが判らないことを言い、ルセアはナペーラ語が上手く話せないことを言った。
さっぱり話が噛み合わず、話が半分しか通じていないのを実感してシーリスは天を仰いだ。はーっと溜め息を吐くと、ある事を思い出してしまった。
「聞いた話だから本当かどうかは判らないぞ」
「いいから教えて」
「せっかちは嫌われるぞ。いや? 姉ちゃんほどの美人ならせっかちに股を開いたらモテモテかもな」
「黒焦げにするわよ?」
「わーった。まったくおっかない女だな。あれはだな、召喚したまでは良かったものの、言葉が全く通じなかったって話だ」
「話が通じないなんて過去の文献には書いてないわよ?」
「そうなのか? 俺は過去の文献なんか知らないから判らないな。とにかくログリア語でもズンダ語でもライナーダ語やプローゼン語でもなかったそうだ」
「そんな状態で、そいつをどうしたのよ?」
「元々焦った連中がしでかしたことだ。使えるのか使えないのか試したらしい」
「言葉も通じないのにどうやって?」
「そりゃ、おめぇ、どれくらい体力が有るか見極めるのに剣で脅して無理矢理走らせる、みたいな」
「何よそれ? 馬鹿じゃないの? 敵対されたらどうするつもりだったのよ?」
「俺が知るかよ。でも、そこら辺のよぼよぼの爺でも連れて来た方がマシなくらいだったらしいから、大丈夫だったんだろう」
「大丈夫ねぇ……。それでその後は?」
「曲がりなりにも召喚されて出て来たんだから、鍛えれば使えるんじゃないかってことで扱いたとか」
「どうやって?」
「やっぱり剣で脅して?」
「馬鹿なことを……。で、そんなことをして使いものになったの?」
「いや。頭を抱えて怯えるだけになったらしい」
「……そりゃそうよね。それからは?」
「どこかに行ったか、殺されたのか、居なくなったらしい。俺が聞いたのはここまでだ」
シーリスは「言葉が半分通じないだけでも大変なのに、全く通じないなんてどれほどの不安だったろうか」と考える。何をさせられているのかも解らない。その上、力も無くて反抗もできず、脅されるままになるしかないのだ。
その時に召喚された者とは違い、シーリスは反抗するだけの力を持っている。少なくとも、今、周りを囲っている壁のようなものを破壊できない程度の相手からなら逃げるのは容易い。だから余裕だ。
それと言うのも、壁のようなものの外側では破壊しようとしているらしい音がドカドカと騒がしい。
『とにだ、ナペーラ語は無理だでんが、ライナーダ語だ話ざだ人がおでんで頼んでだしょ(とにかく、ナペーラ語は無理なのですが、ライナーダ語なら話せる人が居りますから頼んでみましょう)』
『あー、うん。何を言ってるのかよく判らないけど、ライナーダ語でお願い』
『承知ずんだ(承知しました)』
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