魔王へのレクイエム

浜柔

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第二章 魔王は古に在り

第十四話

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 見つかった遺物を全て運び出し、ゴンドラに積み込み終わった時には夜も更けつつあった。回収したのは二百冊に及ぶ本、当時の筆記用具や日用品、道具類、玩具とおぼしきもの、ワインが入っていたように思われる多数のビン、幾つかの装飾品、そして幾つかの頑丈な箱に入っていた魔法結晶だ。
 この日はゴンドラで宿泊し、明くる日にはまた遺跡の調査をする。
 地上のゴンドラは水に浮かぶ船と大きな違いは無い。船底が平らで、着地用の脚が付いていて、マストには浮遊器フローターが取り付けられ、フローターから船体に数多くの釣り上げ用ロープが渡されているのが大きな違いだ。四角く大型で真ん中に穴が空いているフローターがマストに通され、マストの先端にはフローター脱落防止用のストッパーが取り付けられている。フローターは固定されてなく、上下に可動範囲を持っている。起動したらストッパーに到達する前に釣り上げ用ロープが張って船体を吊り上げる構造なのである。
 サーシャの使うゴンドラには十の個室が有り、五人の三十日分の食料を積んだ食料庫や、多数の物資を積載できる貨物室も有る。今回のような遺跡調査では、貨物室は遺物専用になり、空きの個室も遺物積載に使う。
 そのゴンドラのキッチンではマリアンが夕食の仕度をする。しかし時間が時間だけに手早く出来るものだけだ。ハムのソテー、干し肉と野菜のスープ、作り置きのパンと言ったものである。
 そしてリビングでの食事。
「姫様、申し訳ございません。このような有り合わせになってしまいまして……」
「何を言うのです。僅かな時間でこのように美味しいスープを作ってくれたではありませんか。感謝するばかりですよ」
 小さくなっているマリアンにサーシャは微笑みかける。質素な食事と思っていても、マリアンに感謝しているのも本当だ。
「姫様……」
 感激で目も潤むマリアンである。
 しかし無粋な者も居るもので。
「そうですよ。こんなご馳走、滅多に食べられませんよ!」
 夕食をがっつきながら口を挟んだノルトに他の四人の白けた視線が集中する。食べる手も止まっていて、ノルトがそれに気付く。
「あれ? 皆さん食べないんですか? 勿体ない……」
「いや、食べるけどよ……。お前は普段何を食べてるんだ?」
 クインクトが呆れたように尋ねた。
「パンとチーズ、あ、たまにジャムも食べるよ。でもジャムはこぼすと大変だから止めた方がいいかな」
 場が静まり返る。
「あれ? 皆さんどうかしましたか? 普通の食事でしょ?」
「いえ……、今日は沢山食べてくださいね」
 サーシャが言った。
「はあ……」
 ノルトは不思議そうにうなずく。
「まったく……。食をおろそかにするとは身体からだ作りを疎かにすると言うこと。自分には向かぬだの何だのとのたまっていたが、やはり怠惰なだけではないか」
 ドレッドが口にしたのはやはり小言だ。毎度これではノルトも面白くない。
「もう、それでいいって言ったじゃないですか」
「貴様! やはりその根性叩き直してくれるわ!」
 嫌そうに口答えするノルトにドレッドがまた怒りをぶちまけた。
「ドレッド!」
「姫様……。申し訳ございません」
 しかしサーシャの一喝で矛を収めるドレッドであった。
「それよりもノルト。地図以外にも何か珍しいものは有りましたか?」
 サーシャは話を変えた。尋ねられたノルトは思い出したとばかりに小さく顎をねさせる。そして後ろのチェストに置いていた遺物の一つである頑丈な箱を手に取った。
「これ何ですけどね」
 箱を開ける。中に入っているのは鮮やかな赤に輝く豆粒大の魔法結晶だ。
「この魔法結晶で気付くことはありませんか?」
「色が鮮やかです」
 普段から魔法結晶を扱うことの多いマリアンにはピンと来たらしい。
「そうです。そこです」
「普通ではないのですか?」
 不思議そうに小さく首を傾げつつサーシャは尋ねた。
「はい。ボクらが普段使っているダンジョン産のは赤黒くて、こんなに鮮やかじゃないんです」
「それだけ高級なのでは?」
「はい。高級なことは確かでしょう。大崩壊前はダンジョン産の魔法結晶が無かった筈ですから希少だったに違いありません」
「では何も不思議が無いではありませんか」
「はい。これ自体には有りません。ただこれだけ希少だったら、昔の文明は今と随分違っていたと思いませんか?」
「どのように?」
「例えば、このゴンドラをフローターで浮かばせるようなことは不可能だったでしょう」
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