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第一章 魔王は座すのみ
第六話
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魔物猟師の町は木造家屋が多い。魔の森の樹木も斬り倒してしまえば普通に材木になるので、それを用いている。
それもこれも魔の森の樹木は少々特異で、歩いたり、叫び声を上げたり、踊るように枝葉を揺らしたり、人や動物を補食したりするものもある。踊る程度ならともかく、人を捕食するようなものは危険だ。だから町では安全確保のためにも定期的に伐採する。伐採してしまえば安全なので、それを貯木場で乾燥させて利用する訳だ。
そんな訳で、リリナ、エミリー、オリエの三人が住む家には大工が入る。工事期間は二十日程度の見込みだ。その間、三人の中の誰かしらが工事に立ち合うことになる。当番制だ。
このついでで魔王の許に行くのも工事の間は交代制になる。
エミリーの場合。
「ひゃーっははは! 死ね死ね死ねぇ!」
\どっかん/\どっかん/
遭遇する魔物を魔法でぶっ飛ばしながら突き進む。三人で通う場合も大抵はエミリーが魔物を倒すので、いつもと代わり映えしない。
エミリー達三人は魔物に近しくなったとは言っても、魔物の仲間でもなければ魔王の部下でもない。これはダンジョンで瘴気から生まれた魔物も、動物から転じた魔物も同様で、魔物同士の食い合いも日常茶飯事になっている。そうして強い魔物がより強くもなる。
魔法結晶の採取対象になるは瘴気から生まれた魔物の方だ。瘴気から生まれたものは、死んだ時に必ず魔法結晶を遺して瘴気に還る。魔物が生まれると同時に魔法結晶が生成されるのか、魔法結晶が生成されるから魔物が生まれるのかは定かでないが、確実に魔法結晶を持っている。
一方の動物から転じた魔物の場合は魔法結晶を持つものと持たないものと居る上、解体しなければその有無も判らないので魔物猟師も積極的には狙わない。ただ、頻繁にダンジョンの外に出没して人を襲ったりするので、見つけたら駆除するのが魔物猟師の暗黙の約束にもなっている。
尤も、エミリーの場合はそのどちらと言うことには頓着せず、魔物に遭遇したら取り敢えずヒャッハーして魔法結晶が遺るようなら拾う感じである。
エミリーは一人でも危なげなく魔王の居室に達する。
「よう、魔王!」
\どっかん/
魔王に対してではなく、居室に入るなり飛び掛かって来たスライムに対しての魔法だ。この一発でスライムは粉々である。しかし早くも元に戻ろうともぞもぞするスライム。エミリーはこれを睨む。
「ったく、懲りねぇスライムだな」
「何をしに来た?」
魔王への攻撃を控えている都合、エミリー独りでここに来る理由は無いはずなのだ。
「ちょっと、気になったことを聞きたくてな」
考えを整理するように視線を一瞬だけ斜め上にやってから戻し、エミリーは尋ねる。
「魔王、あんたの方でダンジョンを切り離せないか?」
「おかしなことを言う。我のどこにそうする理由が有ると言う?」
「いや、まあ、そうなんだけどよ……」
エミリーは頭を掻いた。魔王が討伐されないようにと説得するのも無意味だ。魔王はむしろ討伐されるのを望んでいる。その魔王討伐のおふれが出た原因はと言えば魔の森の拡大。魔の森の拡大はダンジョンの拡大のせい。だったらダンジョンを小さくしてしまえるなら解決だ。しかし網の目のように張り巡らされたダンジョンの一部を切り離すには、それこそ魔王の力でもなければ難しい。
「じゃあ、ダンジョンの瘴気を減らす方法を知らないか?」
瘴気が減れば魔物も減り、ダンジョンの拡大も止まると言う理屈である。
「ダンジョンの外に出せば良かろう」
「いや、出さないようにして」
「魔物を倒せば良かろう」
魔物の持つ魔法結晶は瘴気が固まったものなのだから、魔物を倒し続ければいつか瘴気も薄まるのである。
「結局そうなんのかよ……」
魔物を倒すことは問題にならないが、即効性の無いことがしなくても判るだけに気が遠くなりそうなエミリーであった。
それもこれも魔の森の樹木は少々特異で、歩いたり、叫び声を上げたり、踊るように枝葉を揺らしたり、人や動物を補食したりするものもある。踊る程度ならともかく、人を捕食するようなものは危険だ。だから町では安全確保のためにも定期的に伐採する。伐採してしまえば安全なので、それを貯木場で乾燥させて利用する訳だ。
そんな訳で、リリナ、エミリー、オリエの三人が住む家には大工が入る。工事期間は二十日程度の見込みだ。その間、三人の中の誰かしらが工事に立ち合うことになる。当番制だ。
このついでで魔王の許に行くのも工事の間は交代制になる。
エミリーの場合。
「ひゃーっははは! 死ね死ね死ねぇ!」
\どっかん/\どっかん/
遭遇する魔物を魔法でぶっ飛ばしながら突き進む。三人で通う場合も大抵はエミリーが魔物を倒すので、いつもと代わり映えしない。
エミリー達三人は魔物に近しくなったとは言っても、魔物の仲間でもなければ魔王の部下でもない。これはダンジョンで瘴気から生まれた魔物も、動物から転じた魔物も同様で、魔物同士の食い合いも日常茶飯事になっている。そうして強い魔物がより強くもなる。
魔法結晶の採取対象になるは瘴気から生まれた魔物の方だ。瘴気から生まれたものは、死んだ時に必ず魔法結晶を遺して瘴気に還る。魔物が生まれると同時に魔法結晶が生成されるのか、魔法結晶が生成されるから魔物が生まれるのかは定かでないが、確実に魔法結晶を持っている。
一方の動物から転じた魔物の場合は魔法結晶を持つものと持たないものと居る上、解体しなければその有無も判らないので魔物猟師も積極的には狙わない。ただ、頻繁にダンジョンの外に出没して人を襲ったりするので、見つけたら駆除するのが魔物猟師の暗黙の約束にもなっている。
尤も、エミリーの場合はそのどちらと言うことには頓着せず、魔物に遭遇したら取り敢えずヒャッハーして魔法結晶が遺るようなら拾う感じである。
エミリーは一人でも危なげなく魔王の居室に達する。
「よう、魔王!」
\どっかん/
魔王に対してではなく、居室に入るなり飛び掛かって来たスライムに対しての魔法だ。この一発でスライムは粉々である。しかし早くも元に戻ろうともぞもぞするスライム。エミリーはこれを睨む。
「ったく、懲りねぇスライムだな」
「何をしに来た?」
魔王への攻撃を控えている都合、エミリー独りでここに来る理由は無いはずなのだ。
「ちょっと、気になったことを聞きたくてな」
考えを整理するように視線を一瞬だけ斜め上にやってから戻し、エミリーは尋ねる。
「魔王、あんたの方でダンジョンを切り離せないか?」
「おかしなことを言う。我のどこにそうする理由が有ると言う?」
「いや、まあ、そうなんだけどよ……」
エミリーは頭を掻いた。魔王が討伐されないようにと説得するのも無意味だ。魔王はむしろ討伐されるのを望んでいる。その魔王討伐のおふれが出た原因はと言えば魔の森の拡大。魔の森の拡大はダンジョンの拡大のせい。だったらダンジョンを小さくしてしまえるなら解決だ。しかし網の目のように張り巡らされたダンジョンの一部を切り離すには、それこそ魔王の力でもなければ難しい。
「じゃあ、ダンジョンの瘴気を減らす方法を知らないか?」
瘴気が減れば魔物も減り、ダンジョンの拡大も止まると言う理屈である。
「ダンジョンの外に出せば良かろう」
「いや、出さないようにして」
「魔物を倒せば良かろう」
魔物の持つ魔法結晶は瘴気が固まったものなのだから、魔物を倒し続ければいつか瘴気も薄まるのである。
「結局そうなんのかよ……」
魔物を倒すことは問題にならないが、即効性の無いことがしなくても判るだけに気が遠くなりそうなエミリーであった。
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