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第9話 三白眼の視界

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 朝起きて、洗面台に向かって顔を洗う。
 顔をタオルで拭いて、正面の鏡に目をやった瞬間……私は悲鳴を上げそうになった。

 この鏡に映っている『今にも人を殺しそうな目つきの少女』は誰だ?
 答えは簡単。
 他でもない私自身――結城アキラという一人の人間である。

 自分の顔を見て悲鳴を上げそうになるだなんて、恥ずかしいにもほどがある。洗面所に他の少女の姿はなく、変なところを見られなくて一安心だ。というか、今回のような事態がたびたび発生するため、意図的に早起きしているのである。

 私が住んでいる女子寮――通称・少女九龍城は奇妙な場所で、そもそも住人の数がハッキリとしていない。とはいえ、やたらと多いことには変わりなく、洗面所は学生組で毎朝のように混み合うのだ。

 隣人とのトラブルを避けること……これが私の人生訓である。
 なにしろ、目つきが悪いせいで数々の誤解を招いてきた。

 落とし物を拾ってあげただけなのに、親や先生から「お前が盗んだのか!」と怒られたことは数知れない。反省しているつもりなのに「なんだその目は!」と叩かれたり、遊びに混ぜてもらっても「文句があるなら言いなさいよ!」と爪弾きだ。

 あげく、近寄っただけで「カツアゲされる!」だの「ガン飛ばしてんじゃねーよ!」だの……私はすっかり不良少女扱いである。身長までスクスクと伸びてしまい、今では一七〇センチを超えてしまった。私に見下ろされると、大抵ヤンキー女は逃げる。

 私が少女九龍城を選んだのは、地元から遠く離れる必要があったからだ。地元はひどいド田舎で、すでに『結城アキラ=不良娘』というイメージが出来上がっている。どこか、遠くの土地で再スタートを切らなければいけないのだ。

 そして、少女九龍城での再スタートだが……地元よりはマシという程度だろう。
 変わった性格の住人が多く、私のことを見ても逃げ出さない人間が少なからずいる。とはいえ、その中で友達と呼べる人間はほとんどいない。やはり、私と関わらないようにしている子が大部分だ。

 私は贅沢なのだろうか。
 妙な誤解が起こらないだけでも、ありがたいと思うべきなのだろうか。
 私が鏡を見ながら思い悩んでいると、

「うわっ! 目つき、わるっ!」

 洗面所に入ってくるなり、住人の竹原さんが私のことを指さして叫んだ。
 それから、彼女はハッとした表情で口元を押さえると、

「い、いまのはナシ! ナシだからね、結城さん!」

 何もしないで洗面所からそそくさと出て行ってしまった。たぶん、西園寺さんあたりに泣きつくのだろう。ここ最近、あの二人は急に仲良しになった。なんというか、相思相愛という感じである。

「……うらやましい」

 私は呟く。
 だが、先ほど目の当たりにした光景が脳内に焼き付く。

 竹原さんの背中に、半透明の女性が張り付いていた。
 果たして、目つきの悪さと何か関係があるのか――私には幽霊が見えるのである。

 ×

 少女九龍城では幽霊が頻繁に目撃されている。しかし、それはあくまで『一般人に見える幽霊』の範疇である。私の三白眼には『霊感のある人にしか見えない幽霊』が確実に映り込んでいるのだ。

 この場所に来るまで、私は自分に霊感があることを知らなかった。神様というのは意地悪なやつで、周囲の人間から誤解されなくなった代わりに、今度は私の目に幽霊が映るように仕組んだのだ。

 たとえば、朝の食堂――ここにも複数の幽霊が確認できる。
 まず、卵焼きを食べている管理人さんだが、彼女の背後には優しい顔をしたおばあさんが立っている。いわゆる守護霊というやつだろう。管理人さんが煙草を吸うと、とても嫌そうな顔をする。

 その次に、一人で朝食を食べている木下さん。彼女の背後には『首輪と枷を付けた女性』が立っている。全裸なので目のやり場に困る。ニコニコとしているので悪霊ではなさそうだけれど、あまり関わりたくはない。

 そして、先ほどの竹原さん――彼女の背中には半透明の女性が取り憑いている。竹原さんがおやつを摘み食いしたり、遅刻するたびにバレバレの嘘をつくのは……もしかしたら、背中の低級霊が原因かもしれない。あと、ああいうのは酷い肩こりを引き起こす。

「ひいぃっ! ご、ご、ご、ごめんなさひっ!」
「見てる! こっち、見てる! 見られてる!」

 私の視線に気づいたのか、木下さんはテーブルの下に、竹原さんは西園寺さんの影に逃げ込んだ。まるでマシンガンの重厚を向けられたような反応である。

 私は幽霊を見ることが出来る……が、あまりにも眼光が鋭いせいで、凝視すると視線に気づかれてしまうのだ。そして、当然のように怖がられる。こんなことをしていては、少女九龍城での安息を幽霊に破られてしまう。

 ――いや、すでに破られているのだ。

 食堂のドアを押し開けて、一人の少女がフラフラとした足取りでやってくる。

「お、はようございま……ックション! ハックション!」

 豪快にくしゃみをした彼女こそ、私が友達と呼べる唯一の相手――虎谷スバルさんだ。
 彼女の背後には黒いモヤが蠢いている。
 私の大切な友達に、悪霊の魔の手が迫っているのだ。

 ×

 真っ赤な顔をして、虎谷さんがテーブルに突っ伏してしまう。すると、彼女の小さな体は黒いモヤに隠れてしまった。
 まるで、無数の羽虫が寄り集まったような、見ていて気分の悪くなるような物体だ。おそらく、あれが俗に悪霊と呼ばれているやつだろう。竹原さんの背中に張り付いているものとは、比べものにならない威圧感を覚える。

 管理人さんがおかゆを持ってきてくれる。
 けれど、虎谷さんは食が進まないようで、一緒に差し出されたポカリスエットを一口だけ飲んだ。周りの少女たちが心配そうな顔をすると、彼女は精一杯に笑顔を作って、自分は大丈夫だからと強がった。それが見ていて逆に苦しかった。

「……おはよ、アキラちゃん」

 虎谷さんが私に向かって、小さく手を振ってくれる。
 私はオロオロとしながら、どうにか小声で「……おはよう」と返した。

 虎谷さんが悪霊に取り憑かれたのは、今から一週間ほど前のことである。今まで病気知らずだった彼女が、唐突に風邪を引いてしまったのだ。住人たちの間で一大ニュースになったのだから、それがどれだけ珍しいことなのか分かる。

 最初、黒いモヤは綿飴くらいの大きさだった。虎谷さんのように元気な人ならば、簡単に跳ね飛ばしてくれるだろうと私は思っていた。でも、黒いモヤは日に日に大きさを増していき、今では虎谷さんの体を覆わんばかりである。

 他の幽霊たちと違って、人間の形をしていないのも不気味である。得体が知れないのだ。せめて、姿形だけでも見極められたなら、その怖さも半減してくれるだろう。

 いや、と首を横に振る。
 悪霊の姿形が分かったところで意味なんてない。

 私は幽霊を見ることが出来ても、幽霊を追い払ったことなんて一度もないのだ。
 幽霊と会話をしたことも、触ってみたこともない。
 そうやって手をこまねいている間に、虎谷さんの体調は急速に悪化してしまった。

「……スバル、自分の部屋で寝てな。おぶってあげるから」
「うん……」

 虎谷さんを背負って、管理人さんが食堂を出て行く。
 胸がチクリと痛む。

 極めてバカみたいな話だが、私は管理人さんに対して嫉妬しているのだ。虎谷さんのことは私が背負ってあげたかった。そんなことで嫉妬するくらいなら、最初から悪霊を退治するべきなのだ。

 だが、今の私には何も出来ない。
 今まで何をすることなく、ただ少女九龍城まで逃げてきた私に……一体何が出来るというのだろうか?

 ×

 せめて出来ることはないだろうか……そう考えて、私は虎谷さんの看病を買って出ることにした。あまりにも遅すぎる決断だが、管理人さんは私に仕事を任せてくれた。彼女もまた、私を避けようとしない人間の一人である。

 学校から少女九龍城に戻ると、私はお湯で濡らしたタオルを作り、それを抱えて虎谷さんの部屋に向かった。管理人さんが「あいつ、お風呂に入りたがってたな……」と言っていた。一週間も風邪が長引いているのだ。

 ノックをしても返事がない。
 ドアを押し開けて、私は虎谷さんの部屋に入る。

 彼女の部屋はぬいぐるみの城だ。ベッドから床まで、動物のぬいぐるみが溢れている。さながら、動物園から大脱走してきたような有様だ。犬猫からテディベア、本物サイズのワニ、壁に立てかけてあるカエルの着ぐるみ、天井から吊り下がっているプテラノドン……。
 そして、ベッドで眠っている虎谷さん。

 真っ黒なモヤが天井を漂っている。悪霊はそこから根を下ろして、まるで天蓋付きベッドのように虎谷さんの体を包み込んでいた。いつも彼女と一緒にいるぬいぐるみたちも、悪霊に怯えてしまっているように見えた。

「……虎谷さん、起きてる?」

 私が声を掛けると、彼女はまぶたを開いて視線を送った。

「汗が気持ち悪い……」
「拭いてあげる。体、起こすよ?」

 背中に手を差し込んで、彼女の体をどうにか起きあがらせる。
 パジャマを脱がせると、私は暖かい濡れタオルで虎谷さんの背中を拭いた。弱気になってしまった彼女の背中は、いつも見ているより小さく見える。強くこすったら砕けてしまいそうに感じられて、私は彼女の輪郭をなぞるように拭いてあげた。

「んっ……気持ちいい。ありがと、アキラちゃん」

 真っ赤な顔をして、虎谷さんがニコッと微笑んでくれる。
 だけど、天井からは悪霊が見下ろしていて、黒いモヤが周囲を漂っている。彼女の笑顔は強がりで、今もなお体力を失い続けているのだ。寝汗を拭いてあげた程度では、根本的な解決にはならない。

 感謝してもらう必要だってない。だって、これは私自身の気休めにしていることなのだ。管理人さんに嫉妬して、彼女の仕事を奪い取っただけなのである。初めて出来た友達が危機に瀕している――それなのに私はとんだ役立たずだ。

「……ごめんね、虎谷さん。私、何も出来なくて」
「体、拭いてくれてるじゃん……」
「そういうことじゃないの」

 タオルを握る手に思わず力がこもってしまう。

「私、虎谷さんが友達になってくれて嬉しかった。だって、虎谷さんが初めて出来た友達だもの。目つきが悪いせいで、背が高いせいで、誰も私の友達になってくれなかった。私自身だって、友達を作る努力をしてこなかった。虎谷さんは大切な友達なの。それなのに、私……」
「……いいんだよ、それで」

 虎谷さんが私の手をキュッと握りしめた。
 まるで赤ちゃんと握手をするような、とても弱々しい力だった。

「アキラちゃんは私のことを……初めてのお友達にしてくれたでしょ? それで十分だよ。特別なことをしてもらわなくても、私はそれだけで嬉しいんだ」
「ごめん、虎谷さん。ごめんね……」

 これでは看病されているのがどっちなのか分からない。

 虎谷さんにパジャマを着せて、柔らかな羽毛布団をかけ直してあげる。
 すると、彼女はもう寝息を立て始めていた。今の虎谷さんにとっては、言葉を交わすことすら大きな負担なのだ。

 黒いモヤがブヨブヨと蠢いて、壁を伝いながら私と虎谷さんに迫ってくる。
 恐怖に耐えきれなくて、私はベッドから転がり落ちてしまう。

 悪霊は虎谷さんの体を舐めるように、羽毛布団の上をひたひたと這い回っていた。虎谷さんは荒い呼吸を繰り返している。黒いモヤに包まれた彼女は、直接的に死を予感させた。いや、予感など悠長なものではない……確信だ。

 一瞬、悪霊と目が合った気がした。
 私は視線を逸らすと、虎谷さんの部屋から一目散に逃げ出した。

 ×

 廊下の突き当たりまで走ったところで息が切れた。
 日が落ちて、廊下は真っ暗になっている。ただ一つ、手の届かないような高い位置にある小窓から、青白い月明かりが斜めに差し込んでいた。
 手に握りしめていたタオルを壁に投げつける。膝を突き、床に拳をたたきつけた。

「私のせいだ!」

 思わず声が漏れる。

「虎谷さんが苦しんでいるのは私のせいだ! 私が何も出来ないから! 私が何も出来ないから、虎谷さんは苦しんでるんだ! どうしよう、虎谷さんが死んじゃうかもしれない! 虎谷さんが死んだら私のせいだ! 私は大切な友達を見殺しにするんだ!」

 でも、怖い。私には何もすることが出来ない。
 ただ単に目を背けるだけだ……。

「――お困りかや?」

 不意に背後から声が掛かる。
 振り返ってみると、そこには赤襦袢を着た少女が立っていた。確か倉橋椿さんという名前だったか……月明かりをスポットライトのように浴びながら、いつものように細身の煙草を吸っている。
 彼女は煙草を一口吸って、ふーっと大きく息を吐いた。

「わっちはお主のことを詳しく知らぬ。だが、一つだけアドバイスさせてもらおう」

 煙草の白い煙が、月明かりの中で透明に拡散する。

「ツラいことからは、ついつい目を背けてしまいがちじゃ。けれど、目を背けていては何も見ることが出来ない。何が出来るかどうかじゃなく、まずは真っ直ぐ見据えてみることから初めて見たらどうじゃ?」
「…………」
「存外、見えてしまえばどうにかなるかもしれぬ。見えてもいない問題にサジを投げるのは早計過ぎはせぬか?」

 わっち、格好いいことを言った。
 自分の言葉に浸っている倉橋さん。

 でも、彼女の言うとおりなのかもしれない。
 私はあらゆることから目を背けてきた。問題を直視することなく、最初から諦めてしまっていた。今まで逃げてしまったことだって、しっかりと正面を見据えていたならば、何か変わっていたのかもしれないのに……。

 嘆いている場合ではない。自分を責めている場合ではない。逃げている場合ではない。
 私のいるべき場所は虎谷さんの隣だったはずだ。

 幽霊が見えるだけの私には、彼女を救うことが出来ないかもしれない。
 けれど、それでも。
 初めて出来た友達なのだから、私は彼女の隣にいてあげたいのだ。

 起きあがり、私はすぐさま駆け出した。

「倉橋さん、ありがとう!」
「どうってことない」

 小さく手を振る倉橋さん。
 彼女に見送られて、私は逃げ帰ってきた廊下を戻っていく。

 廊下には光が差し込まず、まるで悪霊の魔の手が部屋の外まで伸びているかのようだ。やつの体内に飛び込むような気分だ。虎谷さんはその中に、たった一人で取り残されている。役立たずの私かもしれないけれど、そばにいることくらいなら出来るはずだ。

 走り続けで心臓が高鳴る。
 息を整える暇もなく、私は虎谷さんの部屋のドアを開け放った。
 部屋の中は……真っ黒だった。

 黒いモヤはベッドの周りだけでなく、もはや部屋中に広がっていたのだ。ぬいぐるみたちもモヤに覆われてしまい、どんな動物だったのかも判別できない。足を踏み入れていると、足下によどんでいるモヤがぐにゃりと歪んだ。

 虎谷さんの体もモヤに包まれて、どうにか顔だけが見えている状態である。頬が赤く、額には汗をかき、肩を上下させながら呼吸している。

「……虎谷さん!」

 私は彼女の名前を呼ぶ。
 だけど、反応したのは悪霊の方だった。

 黒いモヤの中に真っ赤な瞳が現れる。それらは二つ、三つと数を増やしていき、天井、壁、床……四方八方から私のことを睨み付けた。檻の中に放り込まれて、無数のケモノに囲まれているかのようだ。私たちはもはや悪霊の餌に過ぎないのだろう。

 膝が震える。
 でも、私は逃げなかった。
 そして、真っ直ぐに悪霊の姿を見据えた。

「虎谷さんから離れて」

 足下の黒いモヤが、私の体をよじ登ってくるのが分かる。体にペンキを塗られているかのように気味が悪い。触れられた先から体温が奪われていく。それが刺すような痛みに変わっていく。顔を背けたくなる。

 けれど、徐々に悪霊の輪郭が見えてきた。
 黒いモヤの中に隠れて、虎谷さんの体に覆い被さっている。

 人間の形だ。目つきはギョロリとしているけれど……なんだ、私よりも背が低い。体つきはとても貧相で、まるでミイラのように痩せている。虎谷さんにしがみつく姿は、なんだかとても弱々しかった。突き飛ばしたら、そのままパキリと折れてしまいそうである。黒いモヤがかかっていたから、あいつの本体を見据えることが出来なかった。

 悪霊と目が合う。

「虎谷さんから離れてよ」

 ベッドから転げ落ちるのは悪霊の番だった。

 潮の満ち引きのごとく、黒いモヤがスーッと引っ込んでいく。足下だけでなく、壁や天井に張り付いていたモヤも逃げ出していった。

 悪霊は私のことを恨めしげに睨み付けてきたが、諦めたように視線を逸らして、そのまま姿を消してしまった。砂糖が水に溶けてしまうように儚い消え方だった。正体が見極められてしまえば、実にあっけない幕切れである。

 ぬいぐるみたちも姿を取り戻す。
 彼らの姿を見たことで、ようやく悪霊が去ったことを実感することが出来た。

「……アキラ、ちゃん?」
「虎谷さん!」

 名前を呼ばれて、私は虎谷さんの元に駆け寄る。
 彼女は汗まみれになりながらも、強がりではない本物の笑顔を私に見せてくれた。

「なんか、すごい楽な気持ちになった。アキラちゃんが体を拭いてくれたからかな?」

 途端、涙があふれた。
 私は特別なことなんてしていない。ただ、やっと、初めて自分と向き合うことが出来た。友達のために頑張ることが出来た。ただのそれだけだ。
 頬を寄せて、虎谷さんの体を力一杯に抱きしめる。

「……アキラちゃん。私、風邪引いてるし、汗かいてるし、」
「お願いだから、今はこうさせて……」

 すると、虎谷さんも私の体に手を回してくれた。

「なんか恥ずかしいけど、アキラちゃんがしたいなら、いつまでもしてくれていいよ? だって、私、アキラちゃんの初めての友達だもんね」

 そうして、私は力一杯に抱き合っていた。
 管理人さんが夕食を運んできて、ギョッとした顔をして「お邪魔しました……」と言って出て行くまで、ずっと抱き合っていたのである。

 ×

 その後の話。
 翌朝になると、虎谷さんはすっかり元気を取り戻してくれた。まるで、一週間も風邪を引いていたのが嘘のようである。貧弱そうに見えたが、あの悪霊は相当厄介なやつだったのだ。追い払えて良かった。

 私と虎谷さんの友達関係も続いている。ここ最近は彼女と一緒にいることで、虎谷さんの友達とも話せるようになってきた。とはいえ、やっぱり一番の友達は虎谷さんだ。

 それから、幽霊と向き合えるようにもなってきた。悪そうな幽霊を見つけると、なるべく睨み付けて追い払うようにしている。

 ちなみに、竹原さんに取り憑いていた低級霊も追い払ってみたけれど、彼女の小ずるい性格は改善されなかった。でも、肩こりは治ったらしい。


(おしまい)
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