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第十一話
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奉納戦はどんどん進んでいき、多くいた出場者がどんどん削られていく。
周囲では友人を応援をする神もいれば、賭けに興じて一喜一憂している神もいる中、エルゼリカが見ているのは一人だけ。
流石、戦神といったところか、グレイガルは特に危なげなく勝ち進んでいる。ただ、どこか心ここにあらずにみえるのは気のせいだろうか。
「……グレイガル」
心配を募らせていると、自然と口が動いた。
「何、姉さん。あの神のことが気になるの?」
エルゼリカの呟きを聞き逃さなかったシュレイディアが揶揄すると、エルゼリカは顔を真っ赤にして否定する。
「ち、ちが、そんなんじゃないわっ」
「私、姉さんが泣いていたのは、てっきり何かひどいことでもされたのかと思ったけど、ただの痴話げんかだったのね。もしかして私、お邪魔だったかしら?」
「だから違うって、誤解よっ……本当に、違うから」
本当に彼とはそんな、甘酸っぱい関係ではないのだ。
自分は自分の欲求の為に、彼を騙してしまった。言うなれば、彼は被害者で自分は加害者。
(もしかしたらもう、口もきいてくれないかもしれないし……)
その証拠に、一度こちらを向いて自分の存在に気づいているだろうに、彼は再度こちらを見ようとしない。
多分、視界に入れるのも嫌なのだろう。
そう思うと涙が出てきて、シュレイディアに気づかれる前にぬぐう。
(どうしたらいいんだろう……)
このままで終わりたくないのに、どうしたら彼が許してくれるのかわからない。
エルゼリカはこの期に及んでもまだ、彼のことが諦めきれないのだ。自分の強欲さには呆れるばかりである。
そうこうしているうちに、またグレイガルが出る試合になった。
もっとよく見ようと身を乗り出すと、あることに気づく。
対戦相手がエルゼリカの知り合いだったのだ。しかし、決して好ましい相手ではない。なんといっても自分に気もないくせに、恋文のようなものを出してきたのだから。
「……あの神も奉納戦に出ていたのね」
それが誰を指しているのかシュレイディアにもわかったのだろう、「ああ」と相槌をして説明する。
「あいつも戦神だからね。一応強いのよ」
「……戦神、だったの?」
「やだ、知らなかったの? 手紙に書いてなかった?」
「書いてあったかもしれないけど、覚えてない。そもそもちゃんと読んでなかったし」
「あははははっ」
姉の言葉がツボに入ったのか、シュレイディアはお腹を抱えて笑い出す。
「笑い過ぎよ」
「だ、だってぇ、あはは!」
「もう……」
笑い続ける妹を放っておいて、エルゼリカはグレイガル達に視線を戻した。
そして、心の中で告げる。
(グレイガル、頑張って……)
そして、いよいよグレイガルとガレムドラの試合が始まった。
「おらぁ!」
試合開始早々、ガレムドラはグレイガルに突っ込んでいく。しかし、グレイガルはそれをひらりとかわす。
ガレムドラはそれに追撃し、獲物であるメイスを縦横無尽に振り回す。
風を切る音と共に重量のあるそれが、グレイガルの顔のすぐ横を通り過ぎるのを見て、エルゼリカは血の気が引くような思いになる。
「おいおい、どうした!? 戦神ともあろうものが、戦いから逃げるのかよぉ!! てめぇに戦神としてのプライドはねぇのか!?」
「……」
ガレムドラは挑発するも、グレイガルはそれに何の反応も示さない。
無視しているのか、あるいは反応する余裕がないのか。
自分の力に絶対の自信を持つガレムドラは後者として受け取った。
「ははは! 情けねぇなあ! てめぇのことは前から気に入らなかったんだ。加護なんてめったにやらないくせに、なんで同じ戦神であるこの俺以上に信者が多いんだよ!」
神にとって、信者の数と信仰の厚さというものは大事だ。人の身では到底行えない超常的な力を持ちながら、人々の信仰を得られずに忘れ去られれば、神は力を失ってしまうのだから。
ゆえに、人からの信仰が薄い神は信者を集めることに必死だし、信仰が厚い神でも己の信者は蔑ろにできない。
そして傲慢な神々は、互いに信者や信仰を比べ合う。特に、同じ権能を持つ神同士にはそれが顕著で、これにより天界での地位を確立しているといっても過言ではない。
つまりガレムドラからすれば、自分よりグレイガルの方が信者が多いということは、自分はこの戦神より神としての格が下だと言われているのも同然なのだ。
「本当に気に入らねえ野郎だ……いい機会だ。てめぇはここでぶっ殺してやる!!」
ガレムドラの攻撃するスピードが一層上がった。
もはやグレイガルを本気で叩きのめそうとしていることは誰の目からも明らかである。
しかし、観客達は白熱するばかりで止める様子が全く見えない。
唯一、エルゼリカだけは生きた心地がしなかった。
「ね、ねえ、ちょっとやり過ぎじゃないかしら?」
「え? 大丈夫よ。医療の神だっているんだから、心配することはないわ」
「そ、そうだけど……」
けれど、心配なものは心配なのだ。
もし、あの攻撃が当たって、グレイガルが怪我をしたらどうしよう。あの様子では一発食らった程度では収まりそうにない。きっと、何発も攻撃を受けることになる。
(グレイガル……グレイガル……)
もう耐えきれないとばかりにエルゼリカは叫んだ。
「グレイガル、負けないで!!」
その瞬間、彼の赤い瞳がエルゼリカに向けられた、ような気がした。
本当にそうだったかどうかは、わからない。
というのも、次の瞬間にはグレイガルの姿が消えていたからだ。
「え?」
一体どこに行ったんだろう。
そう思った瞬間、ガレムドラの体が吹き飛ぶ。
「ええぇ!?」
壁に激突したガレムドラは気絶してしまったらしく、倒れたまま起き上がらない。
気づくとグレイガルが立っていた。何があったかは、わからないが今のは彼がやったようだ。
これにてこの試合はグレイガルの勝利となった。
怪我一つ見当たらず、エルゼリカはほっと息を吐く。
「よかったぁ……」
胸をなでおろしていると、グレイガルがまたこちらに顔を向けたがすぐに逸らしてしまう。
(やっぱり、私となんて目も合わせたくないんだわ……)
試合中にこっちを見たと思ったのも、多分気のせいだったに違いない。
「はあ……」
自業自得とはいえ、エルゼリカはため息をつくことを止められなかった。
「おめでとう! 君が勝ってくれて嬉しいぞ!」
試合場から立ち去るグレイガルに、待ち構えていたタルナドが声をかける。
「ああ、ありがとう。そちらはどうだったのだ?」
「うむ、惨敗であった! いやはや、俺もまだまだだ」
「そうか……それは残念だったな」
「しかし、そのおかげで君の試合が観戦でした! それにしても、観ていてハラハラした。君が負けるとは思っていなかったが、随分と考え事をしていただろう?」
「……心配をかけた」
タルナドの言う通り、奉納戦が始まったというのにグレイガルは試合に身が入っていなかった。それでも勝ち進められたのは彼の戦いの技量がずば抜けて高かったからだが、それでも決して褒められた態度ではないだろう。
幸いなことにグレイガルと会うのは初めての神も多く、どこかぼんやりとしていても、そういう性格なのだろうと気に留める者はいなかった。
しかし、相手に対して礼儀を欠いた態度だったのは間違いない。
(次からはもっと気を引き締めねばな)
奉納戦で優勝し、叶えたい願いがグレイガルにはあるのだから。
考え事をしていて負けました、なんて醜態を晒すわけにはいかない。
(……そういえば、ガレムドラが何か言っていたような気がするが……いかんな。流石に注意が散漫過ぎる)
機会があれば、何を言っていたのか聞いておいたほうがいいだろうか。
「いや、怪我もないようでよかった。しかし、いきなり吹っ切れたようだが、何かあったのか?」
タルナドの言葉で思い起こすのは、周囲の歓声に埋もれながらも確かに耳に届いた己を呼ぶ声。
たったそれだけのことで、力が湧きたつような気がしたのだ。
(我ながら、単純すぎて笑ってしまうな)
「グレイガル?」
「いや……ただ、一人で考え込んでも仕方がないと思っただけだ」
そう告げるグレイガルの顔に苦悩の影は観えない。
その後、奉納戦は順調に進んでいき、熱狂に包まれながらも無事に終わった。
周囲では友人を応援をする神もいれば、賭けに興じて一喜一憂している神もいる中、エルゼリカが見ているのは一人だけ。
流石、戦神といったところか、グレイガルは特に危なげなく勝ち進んでいる。ただ、どこか心ここにあらずにみえるのは気のせいだろうか。
「……グレイガル」
心配を募らせていると、自然と口が動いた。
「何、姉さん。あの神のことが気になるの?」
エルゼリカの呟きを聞き逃さなかったシュレイディアが揶揄すると、エルゼリカは顔を真っ赤にして否定する。
「ち、ちが、そんなんじゃないわっ」
「私、姉さんが泣いていたのは、てっきり何かひどいことでもされたのかと思ったけど、ただの痴話げんかだったのね。もしかして私、お邪魔だったかしら?」
「だから違うって、誤解よっ……本当に、違うから」
本当に彼とはそんな、甘酸っぱい関係ではないのだ。
自分は自分の欲求の為に、彼を騙してしまった。言うなれば、彼は被害者で自分は加害者。
(もしかしたらもう、口もきいてくれないかもしれないし……)
その証拠に、一度こちらを向いて自分の存在に気づいているだろうに、彼は再度こちらを見ようとしない。
多分、視界に入れるのも嫌なのだろう。
そう思うと涙が出てきて、シュレイディアに気づかれる前にぬぐう。
(どうしたらいいんだろう……)
このままで終わりたくないのに、どうしたら彼が許してくれるのかわからない。
エルゼリカはこの期に及んでもまだ、彼のことが諦めきれないのだ。自分の強欲さには呆れるばかりである。
そうこうしているうちに、またグレイガルが出る試合になった。
もっとよく見ようと身を乗り出すと、あることに気づく。
対戦相手がエルゼリカの知り合いだったのだ。しかし、決して好ましい相手ではない。なんといっても自分に気もないくせに、恋文のようなものを出してきたのだから。
「……あの神も奉納戦に出ていたのね」
それが誰を指しているのかシュレイディアにもわかったのだろう、「ああ」と相槌をして説明する。
「あいつも戦神だからね。一応強いのよ」
「……戦神、だったの?」
「やだ、知らなかったの? 手紙に書いてなかった?」
「書いてあったかもしれないけど、覚えてない。そもそもちゃんと読んでなかったし」
「あははははっ」
姉の言葉がツボに入ったのか、シュレイディアはお腹を抱えて笑い出す。
「笑い過ぎよ」
「だ、だってぇ、あはは!」
「もう……」
笑い続ける妹を放っておいて、エルゼリカはグレイガル達に視線を戻した。
そして、心の中で告げる。
(グレイガル、頑張って……)
そして、いよいよグレイガルとガレムドラの試合が始まった。
「おらぁ!」
試合開始早々、ガレムドラはグレイガルに突っ込んでいく。しかし、グレイガルはそれをひらりとかわす。
ガレムドラはそれに追撃し、獲物であるメイスを縦横無尽に振り回す。
風を切る音と共に重量のあるそれが、グレイガルの顔のすぐ横を通り過ぎるのを見て、エルゼリカは血の気が引くような思いになる。
「おいおい、どうした!? 戦神ともあろうものが、戦いから逃げるのかよぉ!! てめぇに戦神としてのプライドはねぇのか!?」
「……」
ガレムドラは挑発するも、グレイガルはそれに何の反応も示さない。
無視しているのか、あるいは反応する余裕がないのか。
自分の力に絶対の自信を持つガレムドラは後者として受け取った。
「ははは! 情けねぇなあ! てめぇのことは前から気に入らなかったんだ。加護なんてめったにやらないくせに、なんで同じ戦神であるこの俺以上に信者が多いんだよ!」
神にとって、信者の数と信仰の厚さというものは大事だ。人の身では到底行えない超常的な力を持ちながら、人々の信仰を得られずに忘れ去られれば、神は力を失ってしまうのだから。
ゆえに、人からの信仰が薄い神は信者を集めることに必死だし、信仰が厚い神でも己の信者は蔑ろにできない。
そして傲慢な神々は、互いに信者や信仰を比べ合う。特に、同じ権能を持つ神同士にはそれが顕著で、これにより天界での地位を確立しているといっても過言ではない。
つまりガレムドラからすれば、自分よりグレイガルの方が信者が多いということは、自分はこの戦神より神としての格が下だと言われているのも同然なのだ。
「本当に気に入らねえ野郎だ……いい機会だ。てめぇはここでぶっ殺してやる!!」
ガレムドラの攻撃するスピードが一層上がった。
もはやグレイガルを本気で叩きのめそうとしていることは誰の目からも明らかである。
しかし、観客達は白熱するばかりで止める様子が全く見えない。
唯一、エルゼリカだけは生きた心地がしなかった。
「ね、ねえ、ちょっとやり過ぎじゃないかしら?」
「え? 大丈夫よ。医療の神だっているんだから、心配することはないわ」
「そ、そうだけど……」
けれど、心配なものは心配なのだ。
もし、あの攻撃が当たって、グレイガルが怪我をしたらどうしよう。あの様子では一発食らった程度では収まりそうにない。きっと、何発も攻撃を受けることになる。
(グレイガル……グレイガル……)
もう耐えきれないとばかりにエルゼリカは叫んだ。
「グレイガル、負けないで!!」
その瞬間、彼の赤い瞳がエルゼリカに向けられた、ような気がした。
本当にそうだったかどうかは、わからない。
というのも、次の瞬間にはグレイガルの姿が消えていたからだ。
「え?」
一体どこに行ったんだろう。
そう思った瞬間、ガレムドラの体が吹き飛ぶ。
「ええぇ!?」
壁に激突したガレムドラは気絶してしまったらしく、倒れたまま起き上がらない。
気づくとグレイガルが立っていた。何があったかは、わからないが今のは彼がやったようだ。
これにてこの試合はグレイガルの勝利となった。
怪我一つ見当たらず、エルゼリカはほっと息を吐く。
「よかったぁ……」
胸をなでおろしていると、グレイガルがまたこちらに顔を向けたがすぐに逸らしてしまう。
(やっぱり、私となんて目も合わせたくないんだわ……)
試合中にこっちを見たと思ったのも、多分気のせいだったに違いない。
「はあ……」
自業自得とはいえ、エルゼリカはため息をつくことを止められなかった。
「おめでとう! 君が勝ってくれて嬉しいぞ!」
試合場から立ち去るグレイガルに、待ち構えていたタルナドが声をかける。
「ああ、ありがとう。そちらはどうだったのだ?」
「うむ、惨敗であった! いやはや、俺もまだまだだ」
「そうか……それは残念だったな」
「しかし、そのおかげで君の試合が観戦でした! それにしても、観ていてハラハラした。君が負けるとは思っていなかったが、随分と考え事をしていただろう?」
「……心配をかけた」
タルナドの言う通り、奉納戦が始まったというのにグレイガルは試合に身が入っていなかった。それでも勝ち進められたのは彼の戦いの技量がずば抜けて高かったからだが、それでも決して褒められた態度ではないだろう。
幸いなことにグレイガルと会うのは初めての神も多く、どこかぼんやりとしていても、そういう性格なのだろうと気に留める者はいなかった。
しかし、相手に対して礼儀を欠いた態度だったのは間違いない。
(次からはもっと気を引き締めねばな)
奉納戦で優勝し、叶えたい願いがグレイガルにはあるのだから。
考え事をしていて負けました、なんて醜態を晒すわけにはいかない。
(……そういえば、ガレムドラが何か言っていたような気がするが……いかんな。流石に注意が散漫過ぎる)
機会があれば、何を言っていたのか聞いておいたほうがいいだろうか。
「いや、怪我もないようでよかった。しかし、いきなり吹っ切れたようだが、何かあったのか?」
タルナドの言葉で思い起こすのは、周囲の歓声に埋もれながらも確かに耳に届いた己を呼ぶ声。
たったそれだけのことで、力が湧きたつような気がしたのだ。
(我ながら、単純すぎて笑ってしまうな)
「グレイガル?」
「いや……ただ、一人で考え込んでも仕方がないと思っただけだ」
そう告げるグレイガルの顔に苦悩の影は観えない。
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