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サーカス団
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震える手で鉛筆を走らせた。
『歌姫である彼は、孤独ではないですか?』
こんなこと、この人に見せていいのだろうか
この人は孤独を知る人を、孤独にさせないためのことをしているのに。
サーカス団という存在を作り上げたこの人への、侮辱の言葉ではないだろうか
ぐるぐると考えた末、スケッチブックを見せることは出来なかった
失礼な疑問を閉じて、曖昧に笑うことしか、できなかった
「孤独なんかじゃないから、歌姫で、いられるんだ」
凛とした声がすぐ近くで響いた
俺の顔に浮かんでいた曖昧な笑顔は消え、そちらを向く
すぐ隣に歌姫がいて、団長も驚いたように少し目を見開いていた
だけどそれはほんの一瞬で、満足そうに頷く
「俺は、歌姫であり続けたい
それを、許してくれますか?」
不安げに揺れる瞳が俺を映す
舞台上では見せたことの無い頼りない顔に、なぜだか悲しくなった
あぁ、君には笑っていて欲しい
そう強く思った。
ぎゅっと、彼の裾を掴んでこくりとひとつ、頷いた。
その後にスケッチブックに書き込む
『許すも何も、君には歌姫でいて欲しいと思っているよ』
舞台中に書き上げた想いは伝えなくても大丈夫な気がしてきた
そう思いながらスケッチブックを見せると、ありがとうと呟かれた
色んなことを考えたけれど、結果的に伝えたいことってシンプルな事だなって気が付いたから。
歌姫が他の団員に呼ばれる声がした
戸惑う表情を浮かべていたけれど、団長に行くことを促され、こちらに視線を1度やってから向かっていった
歌姫が見えなくなったのを見計らってか、団長が俺に向き合う
団長の口から、きっと、と息が漏れる
少し悩む仕草を見せてから、意を決したように俺の目を見る
「きっと、会える時間も回数も少ないだろう
何時どんなことがあって、君の知らないところで彼が傷付くかも分からない
また、歌を歌えなくなってしまう時が、来るかもしれない
それでも君は…」
あの子と一緒にいたいと思ってくれるかい?
ざあっと風が吹き抜けた
力強く頷けば、団長は泣きそうな笑顔で頷き返す
それに続けて口笛を吹くと、どこからか、白いフクロウが飛んできた
「私はこのサーカス団の団長だ
…指揮権は、私にある。
何時になるかは分からない
だが、一年に一回は必ず、この村に訪れると、誓おう」
そう言うと、フクロウの足首に赤いリボンを括り付ける
「このフクロウが君の元に訪れたら、3日以内にこの村に到着する合図だと思ってくれ」
足首の赤いリボンが目印だ
凛と佇むフクロウはなんだか少し得意気な顔をして、俺に頭を垂れた
俺もよろしく、という思いを込めて頭を撫でる
何時になるか分からない、いつか。
でもそれは必ず来るいつかだ。
大丈夫、待つのは慣れているから。
スケッチブックに『ありがとうございます』と感謝を綴って団長に見せれば、優しい、なんて言葉だけじゃ収まらない笑顔を返してくれた
『歌姫である彼は、孤独ではないですか?』
こんなこと、この人に見せていいのだろうか
この人は孤独を知る人を、孤独にさせないためのことをしているのに。
サーカス団という存在を作り上げたこの人への、侮辱の言葉ではないだろうか
ぐるぐると考えた末、スケッチブックを見せることは出来なかった
失礼な疑問を閉じて、曖昧に笑うことしか、できなかった
「孤独なんかじゃないから、歌姫で、いられるんだ」
凛とした声がすぐ近くで響いた
俺の顔に浮かんでいた曖昧な笑顔は消え、そちらを向く
すぐ隣に歌姫がいて、団長も驚いたように少し目を見開いていた
だけどそれはほんの一瞬で、満足そうに頷く
「俺は、歌姫であり続けたい
それを、許してくれますか?」
不安げに揺れる瞳が俺を映す
舞台上では見せたことの無い頼りない顔に、なぜだか悲しくなった
あぁ、君には笑っていて欲しい
そう強く思った。
ぎゅっと、彼の裾を掴んでこくりとひとつ、頷いた。
その後にスケッチブックに書き込む
『許すも何も、君には歌姫でいて欲しいと思っているよ』
舞台中に書き上げた想いは伝えなくても大丈夫な気がしてきた
そう思いながらスケッチブックを見せると、ありがとうと呟かれた
色んなことを考えたけれど、結果的に伝えたいことってシンプルな事だなって気が付いたから。
歌姫が他の団員に呼ばれる声がした
戸惑う表情を浮かべていたけれど、団長に行くことを促され、こちらに視線を1度やってから向かっていった
歌姫が見えなくなったのを見計らってか、団長が俺に向き合う
団長の口から、きっと、と息が漏れる
少し悩む仕草を見せてから、意を決したように俺の目を見る
「きっと、会える時間も回数も少ないだろう
何時どんなことがあって、君の知らないところで彼が傷付くかも分からない
また、歌を歌えなくなってしまう時が、来るかもしれない
それでも君は…」
あの子と一緒にいたいと思ってくれるかい?
ざあっと風が吹き抜けた
力強く頷けば、団長は泣きそうな笑顔で頷き返す
それに続けて口笛を吹くと、どこからか、白いフクロウが飛んできた
「私はこのサーカス団の団長だ
…指揮権は、私にある。
何時になるかは分からない
だが、一年に一回は必ず、この村に訪れると、誓おう」
そう言うと、フクロウの足首に赤いリボンを括り付ける
「このフクロウが君の元に訪れたら、3日以内にこの村に到着する合図だと思ってくれ」
足首の赤いリボンが目印だ
凛と佇むフクロウはなんだか少し得意気な顔をして、俺に頭を垂れた
俺もよろしく、という思いを込めて頭を撫でる
何時になるか分からない、いつか。
でもそれは必ず来るいつかだ。
大丈夫、待つのは慣れているから。
スケッチブックに『ありがとうございます』と感謝を綴って団長に見せれば、優しい、なんて言葉だけじゃ収まらない笑顔を返してくれた
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