7 / 33
お昼ご飯
しおりを挟む「はい、はよ入り~」
友人、もとい羊飼いの紫音の家にお邪魔する
彼は家事下手。
…勿体無いくらいに。
部屋は散らかっていて、足の踏み場はあるものの、お世辞にも綺麗とは言い難かった
俺は興味本位で彼に今日のご飯を所望していた
お邪魔してから程なくして出てきた、頑張ったという努力の伝わる彼の手料理
いただきますと手を合わせ口にする
彼もこれと同じものを前にして固唾を飲んで俺の反応を待っている
おお………食べられなくはないが…うん。
『なんか…残念だよね』
苦笑いを浮かべながら失礼を承知でさらりと書いて見せると
「知ってる!俺が1番自覚してる!家事さえ…家事さえ出来れば完璧なのに…!」
くぅぅ……と悔しそうに拳を握りしめる紫音。
自分でそう言うあたり清々しいというか、自信があるというか…。
苦々しい表情をしながら彼も同じ料理を口にした
彼は容姿端麗、性格良し、声良し、誰にでも平等、少し人見知りなところもあるけれど打ち解けると気さくで気遣いのできる優しい青年だと分かる。
なんていう完璧人間。
…家事さえ出来れば、もっと完璧。
あと、部屋の掃除。
村中の人は誰もが知っている。
だから彼女が出来ても他所の村の子だ
しかし、他所の村の子でも、彼自身が良すぎるがために部屋を見られるとドン引きされる、なんていうのがいつものオチだ。
「部屋の掃除が出来ないなんて思わなかった」
「こんな人だとは知らなかった」
なんて言われて別れる、なんてものしょっちゅうだ。
酷い話だけど、家の中はもっと酷い惨状だ
勿体ないんだよなぁ、紫音は。
でも欠点があるのはいいことだ
全てが完璧でなんでも出来てしまえば周りからの期待値は高まるばかり。
そんなの、疲れるじゃん
だから紫音に欠点があることに毎度安心する
「でもさ、ここまで壊滅的だともう諦めるよね」
清々しい顔でそう悟る彼に耐えきれずに吹き出した
さっきまで家事さえ出来れば…!って悔しがってたじゃん
それなのにもう潔いいんだから
ぐーっと口角が上がりっぱなしで頬が痛い
そう思いながらもスケッチブックに黒を落とした
『ほんと下手だな
せめて綺麗って言ってもらえるようにしろよ』
諦めるよねと悟る彼を叱責するような、それでも少しは頑張って欲しいと思いながら彼に見せる
それを読んだ紫音は
「え、そんなこと言う…??
そんなに下手?
…いや、下手だな。いまさっき諦めるよねとか自分で見切りつけてたわぁ…」
夏月は受け入れてくれると思ってたのに…!と嘆く彼に
『受け入れてるからこそだよ』
彼といるとなかなか下がらない口角のまま、そう返した
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
その部屋に残るのは、甘い香りだけ。
ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。
同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。
仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。
一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
離したくない、離して欲しくない
mahiro
BL
自宅と家の往復を繰り返していた所に飲み会の誘いが入った。
久しぶりに友達や学生の頃の先輩方とも会いたかったが、その日も仕事が夜中まで入っていたため断った。
そんなある日、社内で女性社員が芸能人が来ると話しているのを耳にした。
テレビなんて観ていないからどうせ名前を聞いたところで誰か分からないだろ、と思いあまり気にしなかった。
翌日の夜、外での仕事を終えて社内に戻って来るといつものように誰もいなかった。
そんな所に『すみません』と言う声が聞こえた。
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
その日君は笑った
mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。
それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。
最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。
※完結いたしました。
閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。
拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願い致します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる