失声の歌

涼雅

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お昼ご飯

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「はい、はよ入り~」

友人、もとい羊飼いの紫音しおんの家にお邪魔する

彼は家事下手。

…勿体無いくらいに。

部屋は散らかっていて、足の踏み場はあるものの、お世辞にも綺麗とは言い難かった

俺は興味本位で彼に今日のご飯を所望していた

お邪魔してから程なくして出てきた、頑張ったという努力の伝わる彼の手料理

いただきますと手を合わせ口にする

彼もこれと同じものを前にして固唾を飲んで俺の反応を待っている

おお………食べられなくはないが…うん。

『なんか…残念だよね』

苦笑いを浮かべながら失礼を承知でさらりと書いて見せると

「知ってる!俺が1番自覚してる!家事さえ…家事さえ出来れば完璧なのに…!」

くぅぅ……と悔しそうに拳を握りしめる紫音。

自分でそう言うあたり清々しいというか、自信があるというか…。

苦々しい表情をしながら彼も同じ料理を口にした

彼は容姿端麗、性格良し、声良し、誰にでも平等、少し人見知りなところもあるけれど打ち解けると気さくで気遣いのできる優しい青年だと分かる。

なんていう完璧人間。

…家事さえ出来れば、もっと完璧。

あと、部屋の掃除。

村中の人は誰もが知っている。

だから彼女が出来ても他所の村の子だ

しかし、他所の村の子でも、彼自身が良すぎるがために部屋を見られるとドン引きされる、なんていうのがいつものオチだ。

「部屋の掃除が出来ないなんて思わなかった」

「こんな人だとは知らなかった」

なんて言われて別れる、なんてものしょっちゅうだ。

酷い話だけど、家の中はもっと酷い惨状だ

勿体ないんだよなぁ、紫音は。

でも欠点があるのはいいことだ

全てが完璧でなんでも出来てしまえば周りからの期待値は高まるばかり。

そんなの、疲れるじゃん

だから紫音に欠点があることに毎度安心する

「でもさ、ここまで壊滅的だともう諦めるよね」

清々しい顔でそう悟る彼に耐えきれずに吹き出した

さっきまで家事さえ出来れば…!って悔しがってたじゃん

それなのにもう潔いいんだから

ぐーっと口角が上がりっぱなしで頬が痛い

そう思いながらもスケッチブックに黒を落とした

『ほんと下手だな

 せめて綺麗って言ってもらえるようにしろよ』  

諦めるよねと悟る彼を叱責するような、それでも少しは頑張って欲しいと思いながら彼に見せる

それを読んだ紫音は

「え、そんなこと言う…??

 そんなに下手?

 …いや、下手だな。いまさっき諦めるよねとか自分で見切りつけてたわぁ…」

夏月かづきは受け入れてくれると思ってたのに…!と嘆く彼に

『受け入れてるからこそだよ』

彼といるとなかなか下がらない口角のまま、そう返した
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