普通を貴方へ

涼雅

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コンプレックス

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前を歩く友人、和泉 明いずみ あきら

名前に見合った性格の彼は末っ子気質でとことん振り回してくる

それでも憎めないのは人当たりのいい優しい性格と、おっちょこちょいな可愛いところがあるからだろう

しかし、他人に興味を示すことがなかなか無い。

結構な曲者と言っても過言ではない。

そんな彼と一緒にいる自分は彼と仲がいいと言えるだろう。

相性がいいのだと思う

なんでも自由奔放にあっちこっち振り回す彼とそれについて行く僕。

僕は人を先導するよりも、される方が性に合っている

興味を示さなくても、ちゃんと人情はあるし、寧ろ他の人よりも情に厚いのでは、と思う

ぱっちり二重で、涙袋が特徴的なたれ目はまん丸で

鼻筋の綺麗に通った高い鼻と、常に口角が上がった形のいい唇を持つ彼は言わずもがな、イケメンである

しかし、それを隠すかのようにマスクをしているのは喉を痛めないようにするためらしい。

…というのは建前で、本当の理由は昔、少し太っていて顔が丸かったことがコンプレックスだったらしく、体型についていじられた事がトラウマらしい。

その傷は10年以上経った今でも癒えることはないため、顔を見せることがコンプレックスだと言っていた

けれど、2人で居る時はマスクを外してくれることがほとんどだから、僕に素顔を見せることは許してくれているのだと思う

そして声もなかなかのイケメンボイス

雅空さんとはまた違った低めの声

可愛らしさがあるような、ふわふわとした声で聞いていて心地いい

僕とは対照的な声だけれど、デュエットすると凄くよくハマる

ジグゾーパズルに最後のピースを填めたような、そんな感覚

こんなに相性のいい友人ができるだなんて思ってもみなかったから、嬉しいこと極まりない


僕は、人に名前で呼ばれることが嫌いだ

名前と言っても、苗字ならなんの問題もない

下の名前、舞桜まお

この名前がコンプレックス。

見知らぬ人にそれを言ったら「親から貰った名前なのになんでそんなことを言うんだ」と叱られるだろう

それは分かっているが、コンプレックスというものはそう簡単に克服できるものでは無い

「女の子みたいな名前だね」

無垢な子供の頃に言われたことだけれど、そんなことを言われたら「女の子っぽい」ということを意識せずにはいられなかった

そして、今もそれは変わらず、気にしていることに限って人はそれを言ってくる。

中学に行っても、高校へ上がっても、大学に入っても自己紹介をすれば

「女の子みたいな名前」

そう言われ続ければコンプレックスにもなるだろう

そして高い声も相まって「女の子みたいだ」と言われる

だから、親しい人以外には「苗字で呼んで」と必ず伝える

でも…。

雅空さんに「舞桜」と呼ばれた時は苗字で呼んでくださいと訂正しなかった

…女の子、と言われなかったから。

綺麗だって褒めてくれたから。

まだ、理由はあるけれど、彼に「舞桜」と呼ばれるのはとても心地よかった

こんなこと初めてで、戸惑いもあったのかな…なんて。


明が自分自身のコンプレックスを明かしてくれた時に自分のことも話した

前々から信用はしていたから、いつそれを言おうか考えていたが、丁度いいタイミングだと思い、打ち明けたのだ

名前で呼んで欲しい、と。

ずっと苗字で呼んでいた人をいきなり名前で呼ぶのは慣れず、時々

浅葱あさぎー……あ、ちゃうわ!

 舞桜まお!!!」

と慌てたように呼んでいたのを思い出す

慣れないなら無理して名前で呼ばなくていいよ、と言ったこともあったが、

「名前で呼んで欲しいって言ってくれたんやから舞桜まおって呼びたいやん!」

満面の笑みでそんなことを言われてしまったから、少し、照れくさかった

彼は関西出身で、大学のために上京してきたが、未だに抜けない方言を少し気にする素振りを時々見せていた

僕は、明の方言が好き

彼とは真逆で、僕は完全に標準語。

方言が無いから少し羨ましく、憧れているのかもしれない

だから、彼が方言を気にする度に

「そのままがいいよ」

と言い続けてきた

その甲斐もあって今ではすっかり気にしなくなっていた

互いに、互いのコンプレックスを晒し、受け入れ、共感する

こんなに心地いい友人はこれからも現れないと断言出来るほどに、いい人だ

…2人は、とても似ているし。


「まおー!置いてくで~」

「ちょっと待ってよ!」

前で手を振る彼の眩しい笑顔が、僕の心に一瞬、現れた黒い霧を晴らしてくれた

…これも、2人で打ち明けて受け入れ合えたもんね。

2人のコンプレックス
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