失恋

涼雅

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勘違い

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どさ、と思わず荷物が足元に落ちる

状況が呑み込めず、困惑が頭を駆け巡る中、目の前の男はまだ頭を下げ続けている

…少し、状況を整理しようか

「…えっと、まずなんで謝ってんだ?

 原くん」

原くん。

クラス1…いや、学年1のイケメンだと言われている男だ

容姿端麗、文武両道、平和主義。

人から頼まれたことは断らず全て引き受けてしまうお人好しな学級委員長だ。

見た目は完璧で中身だって申し分無いはずなのに、どうしてか、自分に自信が無い、らしい。

そのせいか彼女という存在はおらず、いてもすぐ別れてしまうだとか。

原くんとは、高校で知り合ったからそれ以前がどうだったのかは知らないが。

まあ、男女問わず人気があるんだ周りが騒いでいれば嫌でも耳に入る

思わず悩ましい溜め息が出る。

おずおずと顔を上げた原くんは若干上目遣いで俺を見た

「え、あ、いや…君が僕のことをその…」

そこまで言って気まずそうに視線を逸らす

あぁ、これは面倒臭いやつだ。

言いにくそうに視線をさまよわせる様を見ながらそう直感する

「俺が、なに?」

少々威圧的な声を出せば、原くんはびくりと肩を揺らした

原くんには申し訳ないが、話が見えない。

クラスの奴に「早く行けよ!」と言われたから来たものの、出だしから話が分からないのだ。

原くん曰く、俺に呼び出されたらしい

そう言われても俺は呼び出してないし、呼び出す用事も何も無い。

寧ろ俺も呼び出された側…というか早くこの教室に向かえと急かされた人間だ

それを伝えると

「えっ、嘘…確かに君の名前が書いてあったんだけど…」

ほら、これ。

そう言いながら1つの便箋を差し出してきた

思わず受け取り中を開くと、

『今日の放課後、クラスの隣の空き教室で待っています

 甲坂。』

俺と同じ苗字が書かれていた。

だが、明らかに女の子の字だ。

「原くん…これ、俺書いてない。」

「え?!でも、甲坂って…!」

「この甲坂って、1年生の子じゃないか?

 確か、1年5組の学級委員長…じゃなかったっけ」

微かな記憶を辿りながらぼんやりともう1人の甲坂を思い浮かべる

「…確かに1年5組の学級委員長、女の子で甲坂さんって、いる…」

ぽつりぽつりと言葉を零しながら、徐々に顔が赤くなっていく原くん。

「ほんとにごめん…!!!」

会って早々に言われた言葉をまた発して、原くんは走り去って行った

運動神経も抜群な原くんに何も言えることはなく、呆然とその背中を見送った

まあでも、甲坂さんもなんだかややこしい書き方するよな

原くんに返しそびれた1枚の手紙。

クラスの隣の空き教室で、って中々面倒臭い書き方をしたものだ

素直に1年5組の教室、とか明確な指定をすればいいのに。

はあ、とわざとらしく溜め息をついたあと、落としたままの荷物を拾い上げた

あぁ、でもどうして原くんは『甲坂』を俺だと思ったのだろう

1年の甲坂さんとは委員会で同じだろう

そもそも、俺は正真正銘の男だし、原くんだって言わずもがな、男だ。

そうなれば普通、いや必然的に1年の甲坂さんからの呼び出し、と解釈するはずなのに。

空き教室から出てすぐ左に視線をやると、2年5組の札が見えた

2年5組、俺と原くんのクラスだ。
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