誓いのような、そんな囁き

涼雅

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許せる範囲

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「……あんな、ごめんな、凪津さん」

深優くんの唐突な謝罪にどれに対してのことなのか思考を回した

でも、わからなくて素直に疑問を落とす

「…………なにが?」

「……凪津さんが俺の家来た時、手当り次第皆に連絡あったか聞いたって華琉が話しとったやん?」

「………うん」

このあと深優くんの口から出る言葉はなんとなくわかってしまった

「…1番最初に連絡あったか聞いたん、明輝なんよ」

「………うん、ちょっと、わかってた」

少し震える言葉は、深優くんを驚かせるには十分だったようだ

俺を見つめる大きな目は動揺で揺らめいていた

そんな彼の姿にくすり、と笑う

「えっ、わかってた、って……」

「……なんとなく、だけね。

 なんとなく、そうかなぁって。

 俺の話を2人が聞いてくれた時、あんまりびっくりしてなかったでしょ?

 それに、明輝が深優くんのことも、華琉のことも、殴らなかったし。」

本気でキレてる時すぐに手、出ちゃうでしょ?明輝って。

困っちゃうよね、なんて笑いかければ、そうやなって笑い返してくれる

「なんだ、バレバレやったかぁ

 ごめんな、騙すようなことしてもうて…」

「でも、嬉しかったよ、明輝のことも気にかけてくれて」

俺のことばっか味方するんじゃなくて、明輝の話も聞いてくれてありがと。

…きっと、誤解なんだろうなって薄々気づいてる

俺の早とちりだったのかもしれないって。

そんで、明輝は言葉足らずで、それを聞かなかったのは俺だって。

俺のちっぽけなプライドと狭い心のせいなんだってわかってる。

でもさ、ここまで来ちゃったら後戻り、できないじゃん?

俺の『許せる範囲』をあいつは越えたんだよ

だから、気が付かないふりしてるの。

「………まだ、別れたい?」

ぽつり

独り言のような声量も、静寂に包まれたこの空間では俺の耳にしっかりと届いた

痛いところを突かれて、なんて答えるかちょっと考える

わざとらしく口角をぐっと上げて、はにかんだ

「………うん、別れたい」

口に出した言葉は、前みたいに、心にストンと落ちてはくれなくて。

…駄目だなぁ

華琉に、ちゃんと守るって言ってくれたことに戸惑ってしまって。

深優くんが優しい手で撫でてくれたことも虚しくて。

あの日、珈琲カップと一緒にゴミ箱に捨てたはずの想いは、無意識のうちに拾ってきてしまったようだ

あぁ、俺のことを守るって言ってくれるのも、俺の頭を撫でてくれるのも、

「……明輝が、いいなぁ」

思わず出てしまった言葉は俺の涙腺を刺激した

はにかんだはずなのに、眉は下がってしまって、上手く笑えない

俺の『許せる範囲』を越えても、あいつがいいと思ってしまう

好きなんだ、と嫌でもわかってしまう

「…やっぱ、明輝がええやろ?」

深優くんの言葉に喉が震える

涙で景色がぼやけていってしまう

俺のしょうもない強がりは深優くんには通じないようだ

必死に喉に力を込めて声を絞り出した

「…うん、うん、明輝が、いぃ…っ!」

1度認めてしまうと、もう変えられない

明輝がいい。

深優くんと華琉を巻き込んでしまった申し訳なさと、明輝への怒りと、悲しみと、俺の、無駄なプライドが全てを邪魔した

なんだ、結局俺のせいじゃん

きっと、俺が全部悪かったんだ

そう思っても、やっぱり、やっぱり明輝がいい

明輝の優しい顔も

褒めたらちょっと照れる顔も

愚痴を言う時の苦い顔も

無防備に眠る顔も

愛おしそうに、微笑んでくれる顔も

暖かい腕の中も

柔らかい唇も

男らしい指も

包み込んでくれる匂いも

まんまるで可愛らしい目も

俺の名前を、呼ぶ声も

ぜんぶ、ぜんぶ

「…俺の、明輝だもん…っ」

言ってしまった、この言葉。

俺の明輝だと全細胞がそう叫ぶ

幼なじみ?同性?そんなもん、どうでもいい

どうでもいいくらいに、好きなんだ、大好きなんだ

深優くんが隣にいることも忘れ、思いっ切り泣き叫んだ

明輝のことが大好きだと繰り返しながら。

きっと深優くんはそんな俺を、いつもと同じように、優しい目で見守ってくれていたのだと思う

周りを気にすることが出来ないくらい、明輝への想いが溢れてしまった。
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