誓いのような、そんな囁き

あまえ

涙が幾分か落ち着いてきたところで、優空さんが、服は？とかお金あるの？と色々と質問を投げかけてきた

特に考えてなかったな、と反省しつつゆっくりと思考を回した

「服は、無いんで買うか、家から取ってこようか考えます

　お金は、まぁ…家に帰ればあります」

なんとも頼りない答え。

「そう。服なら貸すけどどーする？たぶん、ちょっと大きいかもだけど。」

「あ、じゃあ、お願いします」

「…お金も貸せるよ」

「お、お金はっ…駄目…！」

反射的にお金を借りることは出来ないと声を荒らげる

「ん。そう言うと思った。ちょっと意地悪してごめんね」

ほんのりと微笑んだ彼の言葉は、彼なりの優しさで。

「お金関連はちゃんとしてるもんね、借りたら面倒なことになるからって。」

いつも俺が言っていたことを優空さんは覚えてくれていた

お金関連で人間関係は簡単に崩れる。

いままで培ってきた信頼とか尊厳とかそんなもん関係ないくらい、いとも容易く。

それを分かってるからこそ、借りることなんてできない。

崩れないと確信していても、絶対しない。

うるさいくらいに言っていた俺のいつもの言葉で、普段通りの俺を取り戻してくれたような、そんな気がした

「お金は、取りに帰ります…そん時にある程度服も。」

「わかった。

　あ、着いて行こっか？」

首を傾げながら「コンビニ行く？」みたいなノリで聞いてくる

それも彼の優しさで、気遣いで。

「いや、そこまで、そんな、に……」

あちこちに視線が泳ぐ

ひとりじゃ行けない

でも、着いてきてもらうわけにはいかない

こんなに迷惑かけられない

悩み悩みつつ、大丈夫ですと断った

「ほんとに？ひとりで行けんの？」

試すような聞き方に折れそうになる

「…いまくらい、甘えてもいいんじゃない？

　いつまで気ぃ張ってるつもりなの」

少し怒ったような声音に、呆れたような溜息に、怖くなって顔を上げる

カチリ、と目が合った

優しい目に諭される

「頼りなよ」

もう、ひとりじゃ行けない

「…ごめん、なさい。お願いします」

それに甘えることにした

「それでいいの」

満足したようにうんうんと優空さんは頷く

なんでこんなに優しいんだ

優しさで溢れる空間にまた泣きそうになる

そんな時、俺のスマホがいきなり振動をはじめた

「ちょっとすみません」

優空さんに断りを入れ、電話を取る

電話主は華琉

あぁ、そういえば、連絡するの忘れてた

「ん、華琉どうした…」

『いまどこおるん？泊まるとこ決まった？！』

食い気味の質問に「ごめん忘れてた」と返す

「優空さんの家に泊めてもらえることになった」

『わかりました！もーはよ連絡してやぁ…』

大変なんやぞ…と溜息をつく華琉

「…なにが大変？」

『あぁ、いや…心配やんけ、』

少し歯切れの悪い言葉は不信感を抱いてくれと言っているようなもんだ

まあいいや。

「しばらくは優空さんの家にいるから

　じゃ、またな」

ぷつ、と通話を切ると優空さんはいつもの如くスマホを弄っていた

自由奔放…好きな時に好きな事してる

自分のペースを守れる人だ

普通の人なら「なんの電話？大丈夫？」とか、心配して声をかけてくれる

でも俺は、落ち込んでる時、変に気を使われるより、ちょっと放って置いてくれる方がいい。

この人はそれを知ってる

「通話終わったー？」

スマホに目をくれたまま、優空さんが問いかけてくる

「いまおわりました」

「そう。じゃ、今のうちに家行かない？着替えとかお金とか…他に必要なものとか取りに。

　嫌なことはさっさと済ませた方がいいでしょ」

たしかに。さっさと終わらせよう

今のうちに、ね。

「行きます」

「じゃ、準備するからちょっと待っててー」

間延びした言葉を落として優空さんは寝室へと向かっていった

そう時間も経たないうちに、優空さんは着替えて寝室からでてきた

「よし、いこっか」

流し目でこちらを見る

その目は俺の様子を確認するかのように細められていたけれど、嫌な視線じゃない

それに笑顔で応えられる俺の足取りは、思ったよりも軽かった。