誓いのような、そんな囁き

涼雅

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ココア

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「落ち着いた?」

「…うん、ありがと…」

咽び泣いて、深優くんの家だというのにも関わらず泣くことを止められなかった俺は、やっとの思いで乾いてきた

はあ、声ガッサガサ

「とりあえず、ココアでも飲んどき?」

どーぞ、と目の前の差し出されるココア。

それは真っ白な陶器のカップ。

珈琲カップじゃないちゃんとしたやつ。

珈琲カップなのに、ココアを入れて、色違いだって嬉しそうに、毎回同じタイミングで同じものを飲んでいた、あの緑色は、もう…。

このココアでさえもあいつを連想させて、こくり、一口飲んで「あぁ、違う」と思ってしまう

明輝のココアはもっと甘くて、それで…

「ねぇ、凪津さん。

 まだ、明輝と別れたい?」

2回目の質問は最終確認のようなもので。

「………別れたくない」

ココアに沈めるように、静かに呟いた

「ん、よかった」

何がよかったのか。

別れたくないって言ったこと?

分からないからココアを飲んだ

「…ココア、甘い?」

ひそひそと声を潜めて聞いてくるのには意味があるのだろうか

分からない。

でも、俺もそれをならって

「…甘くない」

ひそり、と不服を漏らした

「…華琉からの、守るって言葉も、俺が頭撫でたのも…あんま嬉しくなかったやろ?」

深優くんがちょっと困った顔で笑うから、あの時、俺は顔に出てたんだろうなぁと気が付く

「ん、なんか…虚しかった…」

「やっぱりな。

 ココアな、明輝以上に美味しいもの俺には作れへんわ。」

ココア。

俺の知ってるココアは美味しくて、ミルキーで、口にスっと溶けていって、甘い

「なんで、明輝と比べるの…」

「ん?だって、明輝が凪津さんに作るココアは、明輝にしか作れへんやろ?

 特別なものが入ってんねんで」

な?といつもの笑顔で諭してくる

「明輝の愛情の代わりなんて他の誰も持ってへんよ」

「………くっさい言葉」

照れくさくて素直じゃない言葉を漏らす

それは、もうわかってたよ

明輝の作るココアには明輝の愛情が詰まってるから、美味しいなんて、わざわざ言わなくたって。

あー、なんでこんなに諦めが悪いんだ

グズ、と鼻をすすって深優くんを真っ直ぐ見つめた

「…俺、明輝に会いたい」

「うん、そうしな」

クレッセントを残したカップを置いて、深優くんに言葉を投げた

彼は受け止めて、背中を押してくれる

「いってきます」

深優くんの家を静かに出ていった
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