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【番外編&after story】

諦めかけた願い事3 inマデリーヌside

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私が秘薬のふたを開けてレヴィンに飲ませようと近づいた時、現れたのは、昔、人間と愛し合い悲しい別れを経験したことがあるセイルだった。

「マデリーヌ、レヴィンの様子は・・・――――――って、待って待って、どうして回復魔法が十八番のマデリーヌが魔法を使ってないの?ってか、手に持ってるソレは何?」
「・・・薬よ」
「そんなの見たらわかるよ!何の薬かって聞いてるの!!ボク、それに似た薬・・・というか秘薬、見覚えがあるんだよ☆」

さすがセイルは鋭い。
きっと、エリュシオンがサーヤちゃんに飲ませる前に出来上がった秘薬をセイルに見せたんでしょうね。

けれど、私だって今更引く気はない。

「そうよ、これはセイルが想像したとおりの秘薬よ。解毒を終えてもダメージを受けたレヴィンは、顔色も悪くて相変わらず意識が戻らない。回復魔法も状態異常回復も何度もかけたけれど、何一つ効かないの。もうコレを使うしかないじゃない」
「は?!回復魔法や状態異常回復を何度もかけた??マデリーヌクラスの回復魔法を人間に何度もかけたら、絶対魔力酔いに・・・って、あ!ちょっ、待って待って!マデリーヌ、一回落ち着いて!!」

私を制止させようと、慌てたセイルが後ろから羽交い絞めにしてくる。
最近カルステッドやミナト達と双子の鍛錬にも関わってるからなのか、以前はすぐ抜け出せたのに今は抜け出せそうもない。
最近ちょっとなまけ過ぎたかもしれないわね。

「放して、セイル!私はレヴィンと共に生きたいの!!ここで死なせたくないの!!」
「や、だからちょっと落ち着いて、マデリーヌ!いつもの口調が崩れるほど冷静じゃないことに気付いて!!サーヤ達ももうすぐ・・・」
「おだまり!私はいたって冷静よ!!あなたならわかるでしょ?!かつて人間と愛し合って、悲しい別れをしたあなたになら、今の私の気持ちがわかるはずよ!!」
「え・・・マデリーヌって、レヴィンのこと、本気だったの・・・?」

認めたくない。本来なら縋りたくもない。
だって、例え私が今以上の関係を求めてもこの人は・・・レヴィンは私と共に生きると言ってくれないのはわかってるから。
だから、今の関係に満足しなきゃって・・・何度も何度も言い聞かせるしかなかった。


だけど・・・―――――


「好きよ・・・愛してる・・・レヴィンと、これからも一緒に・・・私より先に死ぬなんて、いや・・・いやなの・・・」
「マデリーヌ・・・」
「マデリーヌ様・・・」

私の本音が予想外だったのか、そばでおろおろしながら聞いていた執事は持っていたハンカチで涙を拭い、羽交い絞めしていたセイルの腕が緩んだ。
その隙を逃さなかった私は、すかさず秘薬を飲ませようと再びレヴィンに近づく。

「ちょっ、マデリーヌっ!だから、さすがにそれはダメだってば!!」
「いやっ!セイル、放してちょうだい!!コレを使えばレヴィンはすぐにだって・・・」
「いやいや、確かにそうかもしれないけど本人の了承なしにそれは・・・あ!良いところに来た、ちょっとサーヤ、エリュシオン、ちょっとマデリーヌ止めるの手伝って!!」
「え・・・サーヤちゃんに、エリュシオン??」

セイルの言葉に反応してしまい、思わず気配のする方を見ると、サーヤちゃんとエリュシオンだけじゃなく、ミナトにノルン、カイトまで一緒にいる。
さすがにこの人数では、レヴィンに秘薬を飲ませる隙など与えてくれないだろう。

残念な気持ちもあるけれど、どこか安心した気持ちもあった私は、秘薬の入った小瓶を大人しくサイドテーブルに置き、エリュシオン達に現状を話す事にした。

執事のエドモンドは人数分のお茶の用意とユーリちゃん達への報告のため席を外し、応接用のソファには私とノルン、セイルが対面で座った。エリュシオンはカイトと共にレヴィンの容体を診ながら話を聞くと言ってレヴィンの側にいる。
ミナトとサーヤちゃんは、「レヴィたんが起きたら、超癒しの水をあげるの!すぐに元気になるのよ♪」と言って張り切って準備している。
そんな二人の姿に癒されながら、根拠はないけれど“レヴィンはもう大丈夫だろう”と安堵し、少し落ち着きを取り戻すことができた。


改めて、先ほどモニカちゃんから聞いた内容をエリュシオン達に説明する。
案の定怒りを露わにしたエリュシオンの殺気は、私に向いているわけじゃないのにゾクゾクするくらい気持ちが良い・・・って、今はそんな場合じゃないわね。

「じゃあ、ユーリとモニカでもうあらかた残党は捕まえてるってこと?」
「そうみたいねん。けれど、そう聞いただけで私も確認したわけじゃないわん」
「おい変態マデリーヌ、その前に一つ聞くが・・・」
「いやん♡エリュシオン、一つでも二つでもいくらでも聞いてちょうだい♡あと、一緒に罵ってくれてもいいのよん♡」
「あ、良かった☆いつもの変態マデリーヌに戻ったね♪」
「??・・・マデリーヌはいつもこんな感じだと思うけれど?」

レヴィンの容体を診ているエリュシオンの側に行くと、急に頭をガシッと掴まれた。

「お前はレヴィンを殺す気か?!確かに摂取したのは強い毒かもしれないが、今の症状は完全に魔力酔いの症状だ!どれだけ回復魔法かけたのだ、このバカがっ!!!」
「え・・・魔力、酔い?」
「毒が残ってないか確認したけど、体内に毒はなくてマデリーヌの魔力が飽和状態だったよ。半分くらい無くしたから、そのうちレヴィおじさん自身の魔力が回復して目を覚ますと思う」
「そうなの?良かった・・・」
「良いわけがあるかっ!このバカがっ!!!」

(バシィッ)

「きゃんっ!!痛いのは好きじゃないって言ってるじゃないのん!!」
「知るかっ!だいたいいつもお前は・・・――――――」


いつの間にか防音の結界を張っていたエリュシオンは、周囲に・・・特にミナトに聞こえないよう、思うさま私を罵倒しながら何度も頭を叩いたり足蹴にしたりした。
けれど、私を痛めつけるほどの力はなくちゃんと加減している辺り、やっぱりエリュシオンは優しいんだなと嬉しくもなった。
そして、レヴィンの体内から毒が完全に消えていることや、直に目を覚ますであろうことが嬉しくて、らしくないけれど自然と涙が溢れてきた。

「・・・?!なっ、おまっ、泣いて??」
「え、マデリーヌ、泣いてるの?」
「・・・ ッグズ、ふふ、エリュシオンに、泣かされちゃったわん」
「なっ??!!」
「あ~、エリュシオンってばマデリーヌ泣かせたの?さすがにそれは酷いんじゃない??」
「あら、エリュシオンってば罪な男ね」
「セイル!ノルンまで??!!」
「エ~~~ル~~~~~」
「いや、待てサーヤ。俺は別にそこまで酷いことは・・・」
「問答無用!女性を泣かせるなんて許せません!!」
「いや、啼かせてるのはお前だけ・・・」
「だぁぁぁっ!いい加減TPOを弁えなさいって言ってるでしょっ!!エルのバカぁぁぁ!」

やっぱりここにいる皆・・・全員がここにいるわけではないけれど、仲間というのは良いモノね。
さっきまで一人で焦っていたのが何だったのかと思えるくらいだわ。


仲間がいるなら、これから先何があっても・・・例え、愛する人が寿命を迎えたとしても、笑っていられるかしら・・・―――――――?


「ふふっ、皆さん、相変わらず仲が良いですね」


声を聞いた瞬間、ドクン、ドクンと、心臓が早鐘を打つ。
一瞬空耳かと思う気持ちもあったけれど、この声は、この気配は、間違いなくさっきまでぐったりとして顔色も悪かった愛しい人レヴィン
ミナトの癒しの水に即効性でもあったのか、顔色も随分と良いようだ。

「・・・――――――っ、レヴィンっ、レヴィンっ!!」
「ぅわっぷっ!ちょっ、マデリーヌ?!オレ、これでも病み上がり・・・」
「良かった、本当に良かった・・・あなたが毒を盛られたって聞いて、私、私・・・」
「マデリーヌ・・・んんっ?!」

サーヤちゃんやエリュシオン達がいるなんて気にする余裕もなく、気が付けば愛しいレヴィンに口付けていた。

そう、この柔らかい大好きな口唇、ちょっと舌を絡めるとなんだかんだと私に応えてくれる仕草、そして口付けを通して感じる心地良いレヴィンの魔力。


このままレヴィンと何もかも繋がってしまえたら良いのに・・・


そう思った時、口付けを交わしながらレヴィンの魔力と私の魔力が一つに融合するような不思議な感じがした。

え?ちょっと待って。私の魔力とレヴィンの魔力が融合??
今までそんなコト一度もなかったのにどうして・・・――――――?

「あれ?ミナト、この小瓶に透明な液体が入ってなかった?」
「みゅ?エルぱぱの回復薬は、癒しの水に入れて、レヴィたんにあげたのよ♪」
「え・・・?」
「回復薬だと?俺は出した記憶はないが・・・」

ドクン、ドクン、と先程とは違う意味で心臓がうるさい。
でも、これだけは確認しなくては・・・と、恐る恐る私がさっき置いた秘薬入りの小瓶に目を向けると、ミナトの言う通り、小瓶は空の状態だった。

「あの、レヴィン・・・ミナトの癒しの水って・・・」
「あ、うん。目が覚めた時に渡されて、そのまま一気に飲んだよ。すぐにこんな元気になれるなんて、さすが精霊王様が作る癒しの水だね」
「ふふ~♪レヴィたん、それほどでもあるのよ~」
「ミナト、それを言うなら“それほどでもない”だよ」
「あ、そうなの!」

何ということ・・・ということは、レヴィンは知らないうちに私と命を繋ぐ秘薬を飲んでしまったわけで、さっき魔力が一つになる感じがしたのは完全に繋がってしまったんじゃ・・・

「おい、マデリーヌ。お前もしや・・・」
「~~~~~~っ、ごめんなさいっ!私、以前エリュシオンから貰った“命を繋ぐ秘薬”をレヴィンに飲ませようとしちゃったのん!!」
「え・・・“命を繋ぐ秘薬”って・・・?」
「は?!だが中身は・・・」
「あ~、どうやらミナトがエリュシオンの回復薬と勘違いして、癒しの水に混ぜちゃったみたいだね☆」
「えぇぇぇぇぇぇ??!!ちょっと待って、セイル!ってことは、もしかしてレヴィンさんとマデリーヌさんの命って・・・」
「おねーさんとおにーさんみたいに繋がっちゃったんじゃない?」
「あら、じゃあこれからも二人は永い時を一緒にいられるのね。良かったじゃない」
「良いわけあるかっ!レヴィン、お前、その秘薬が入ってると知ってたのか?」
「いや、まさかっ!ミナト殿から受け取っただけでそんなの知らな・・・」
「ふぇ・・・あたし、エルぱぱのお薬だと思って・・・」
「いやいやいや、決してミナト殿のせいでは・・・」

エリュシオンに問い詰められて大人しく白状したら、案の定レヴィンもエリュシオンも驚いてしまい、回復薬だと思ってしまったミナトは責任を感じて泣きそうになってしまった。
確かにレヴィンとずっと一緒にいたくて秘薬を使おうとしたけれど、こんな形で使うことになるなんて本当の本当に思わなかった。
結果的に嬉しいけれど、状況的にはミナト以上に泣きたい気分だ。

目の前のレヴィンの顔を見る勇気がなくて、下を向いたまま顔をあげる事ができない。
すると、目の前のレヴィンは深いため息を吐いた。

・・・やっぱり、怒っているかしら・・・

「エリュシオン、サーヤ、申し訳ないんだけれど、ちょっとマデリーヌと二人にさせてもらっていいかな?」
「あぁ、わかった」
「さっきの話も、途中からだけど聞いてたよ。これからどうするかも含めて、明日話し合いの場を設けようと思う。申し訳ないが、その時はまた王城に来てもらっても良いかい?」
「あぁ。マデリーヌ、時間が決まり次第俺に念話で知らせろ。良いな?」
「・・・わ、わかったわん・・・」



こうして、嵐のようにやってっ来たエリュシオン達は、帰りも嵐のように去っていき、いつの間にか執事までもこの部屋におらず、賑やかだった寝室には私とレヴィンの二人だけが残った。
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