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【番外編&after story】

諦めかけていた願い事

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※「”落ち人”が残した忘れ形見3」の直後、と言うか続きのお話です。

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事件とは、何の前触れもなく起こるモノである。
今回も、あまりにも始まりは突然だった・・・――――


(ドンドンドンッ)


「サーヤっ、エリュシオンっ、起きてる?大変なの!!」


深夜というにはまだ少し早い時間帯。
妊婦であるあたしはすでに眠っていたけど、エルが第二王子から貰ったタモツさんの日記を読みながらうとうとしていた時、珍しく慌てた様子のノルンさんが寝室にやってきた。

眠気と魔力付与による気怠さで覚醒まで時間がかかっているあたしをよそに、エルはノルンさんをサイドテーブルへ誘導し何があったのかを早速聞き始めた。

「珍しく慌てているが、一体何があった?ノルン」
「夜遅くにごめんなさいね。実はレヴィンが・・・――――」


(ドンドンッ、ガチャッ)


「ノンたん、事件が起こったってホントなの?!」
「僕達、おねーさんのために誰を消したらいい?」
「サーヤを悲しませる奴らなんて、生きてる価値ないよね」

ノルンさんが話し始めた直後、勢いよく寝室に入ってきたのはミナトちゃん、カイトくん、ベルナートさんの3人。
眠っていてもおかしくない時間帯なのに、ミナトちゃん達はなぜかやる気・・・もとい、る気に満ちた臨戦態勢状態だった。

なんで?どうして?そもそも事件って何??
レヴィンさんの名前が出てきたけど、一体何が起こったっていうの??!!

ふんすっ、と両手を握りしめるミナトちゃんをエルがなだめ、皆が落ち着いたところで改めてノルンさんが話し始めた。

「とりあえず簡単に状況を説明するわね。・・・・・・実は、レヴィンが毒を盛られたらしいの」
「「「「「????!!!!」」」」」

あまりに予想外過ぎる内容に全員が言葉を失い、もちろんあたしも眠気が吹っ飛び耳を疑った。

「嘘・・・レヴィンさんが?」
「レヴィンが毒を盛られただと?!無事なのか??」
「王城にいる地の精霊から報告があったけれど、詳細はまだわからないの。とりあえず、マデリーヌが治療と解毒のために先に王城へ向かったわ。後、セイルにも先に念話で伝えたから王城にいるはずよ。加護者なしに行動し過ぎると制約に反する可能性があるから、サーヤとエリュシオンも一緒に来て欲しいの」
「もちろんです!すぐに準備します!」
「サーヤ、準備や他の奴らへの伝達は俺がするから、お前は脱衣所で着替えだけ済ませろ。駄犬、お前はフランに連絡してこの家の護りだ。アレクにも伝えておくが、アイツはまだ動けないから指示だけ仰げ」
「わかった!」
「カイト、お前の魔法が必要になるかもしれないから一緒に城へ行ってくれるか?」
「もちろんだよ、おにーさん」

エルはてきぱきと皆に指示を出すが、珍しくミナトちゃんには触れていない。
当のミナトちゃんも、どうしていいのかわからず若干困惑しているみたいだ。

「あの・・・エルぱぱ、あたしは・・・?」
「ミナト、お前は自分の力で何ができる?何をするのが最適だと思う?」
「決まってるの!悪い奴、皆まとめてぷっちんなのよ!!」
「あぁ、そうだな。だが人間の王族や貴族というのはずる賢い奴らばかりだから、それだけで解決する問題ではないだろう。それに、今回の被害者は加護に関係がないレヴィンだ。ミナトが手を出してしまうと制約に反する可能性だってある」
「あ、ぅ・・・」

エルは最近、ミナトちゃんに”行動を起こす理由”について、あえて考えさせる言い方をしている。

エル曰く、アレク兄様やカルステッドさん達を見て”自分のすべきことを判断できるようになりたい”と言ってたらしい。でも、そう思う気持ちだけでも充分ミナトちゃんは充分成長してるだろう。
もちろん実年齢はあたしよりもずっと年上だけど、出会った頃の純真無垢だった天使は心なしか身長も伸び、見た目も中身も少しずつ大人へと近づいているようだ。

「あ、わかったの!毒にも効く癒しの水、レヴィたんにあげるの。サーヤままの大切な仲間、助けるのよ」
「わかった。ならば、ミナトも俺達と一緒に王城へ行くぞ」
「あいなのっ!」

準備を終えてそろそろ出発しようかという時に、今度はカルステッドさんが寝室にやって来た。

「アレクから聞きました。家のことはお任せください。フラン殿やベルナート殿に少しでも助力できるよう努めます。・・・レヴィンのこと、何卒お願いいたしします」
「あぁ」
「大丈夫なのよ、カルおじ。レヴィたんを助けた後、サーヤままの大切な仲間傷つけた悪い奴ら、皆ぷっちんなの!」

何ということだ。
ミナトちゃんは自分の役割だけでなく、加護者あたしのためという理由があればぷっちんできることまできちんと理解している。
天使が成長するのは嬉しいけど、なんか複雑っ!!

「はは、ミナト殿がそう仰るなら安心して任せられますね。・・・ちなみに、以前から気になっていたのですが、”ぷっちん”とは・・・?」
「あ、カルステッドさん、それは・・・」
「みゅ?首をこう・・・ぷっちんってするのよ。でも、ただぷっちんすると血がぶしゃーってなるから、そうならないように凍らせる方法を教えてもらったの。だからカルおじ、安心してお留守番してるのよ♪」
「え・・・?」

意外にも初めて”ぷっちん”の意味を知ったカルステッドさんは、「え?まさかそんなことさせないよね?」ってあたしに目で訴え、その視線に耐えかねたあたしは”ミナトちゃんにそんな物騒なことを教えたのはいったい誰??”と思いながら何気にエルの方を見た。すると、エルはどこか気まずそうに顔を逸らし、ノルンさんに至ってはニコニコしながら頷きミナトちゃんの成長を喜んでいる。

ちょっとちょっと?!犯人はエルなの??!!
ってかノルンさん、そこ喜ぶトコロじゃありませんからね???!!!

純真無垢な天使の大虐殺宣言で、この場は一気にカオスな状態になってしまうも、直後、それを打破する内容の念話が頭に響いてきた。


『(ちょっとサーヤ!まだ寝てるの??早く王城こっちに来てよ!!ボク一人じゃ・・・あっ、ちょっ!マデリーヌ、ダメだって!!)』


珍しく慌てているセイルの念話は、あたしだけじゃなくミナトちゃんやノルンさんも聞こえたらしく、皆、本来やるべきことを思い出した。

そして、あたしとエル、ノルンさんとミナトちゃんとカイトくんの5人は、若干青い顔のカルステッドさんに見送られながらガルドニアの王城へ転移魔法ですぐに移動した。
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