【本編完結済】【R18】異世界でセカンドライフ~俺様エルフに拾われました~

暁月

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【番外編&after story】

”落ち人”が残した忘れ形見

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14章のエピローグから半年くらい経った頃のお話です。
※※※※※※※※※※※※※※※※




「まま、こっちなの!」
「こっちに、きれいなおはな、あったのよ!」
「ふふっ、そんなに綺麗な花だったの?でも、ここは家の近くとはいえ結界の外だから、あまり遠くに行っちゃダメだよ、レオン、サクラ」
「「あいなの!!」」

つわりがだいぶ落ちつたある日、お散歩しようと庭に出たあたしは庭で遊んでいたレオンとサクラを見つけた。
運動がてら少しだけ散歩すると伝えたら、”見せたい花がある”と言うので3人で散歩することにしたのだ。

ただ、その花が咲いている場所は家の近くとはいえ結界の外だった。

エルに一声かけようかと思ったけど、今日も研究室に籠ってるみたいだしちょっと行ってすぐ帰ってくるくらいなら別に良いかなと、一応セイルに念話で伝えてから双子と共に花が咲いている場所へと向かった。

天気が良く、ぽかぽかで心地良い陽気。
なんとなく森を歩いていると、前の世界のある歌が頭をよぎりあたしは思わず口ずさんでいた。

「ある~日♪森の中~」
「みゅ?まま、そのおうた、なぁに?」
「ふふっ、この歌はね『森のくまさん』っていう、森の中で女の子とくまさんが出会う歌なの」
「くまさんと、あうの?」
「そう。でもこれは実際にあるお話じゃなくて、絵本みたいな子供向けの空想のお話で・・・」
「そなの?でもまま、くまさん、いるのよ?」
「・・・え?」
「ほら、そこなの」

レオンとサクラが指さす方を見ると、獣が呻くような声と少しずつ近づいてくる足音が聞こえてきた。


(ガサガサッ、ズズッ、ズシンッ、ペキペキッ)


『グァァォォォォォォォ!!!!!!』
「―――――――っ??!!」

“くまさん”なんて可愛いモノじゃない。
真っ赤に血走った目に、空腹なのか涎を垂らしながら今にも襲いかかって来そうな雰囲気で近づいてくる巨大な生物。弱肉強食の世界でいうならば、間違いなく強者に部類するだろう。

どうしよう・・・いくら家の近くだからって、この森は世間で“死の森”と呼ばれるくらい危険な森なのに、なんであたしはそんな大事なこと忘れちゃってたのよっ!!バカバカバカっ!!!

・・・って、嘆いてる場合じゃない。早く子供達を連れて逃げないとっ!!!

「レオンっ、サクラっ、早く逃げ・・・―――――」
「レオたん!」
「うんっ!・・・いしげき、ひっさぁぁぁぁつっ!!!!」


(ドゴォッ、メキメキッ)


『グガァァッ??!!』
「ままをいじめるやつは、くまさんでも、せいばいなのよっ!たぁぁぁっ」


(ザシュッ、ザシュッ、ザクリ)


「・・・え?」

えっと、あたしの目がおかしいんだろうか?
レオンやサクラの数十倍は大きくてとても強そうだったくまさんは、レオンの最初の一撃で足をやられた直後、サクラの魔法による水の刃とで土で作られた杭により一本刺しにされていた。
この間ほんの数秒、瞬きしている間の出来事である。

(シュンッ)

「サーヤ、結界の外に出たみたいだけど大丈夫・・・―――って、え?何これ、どういう状況??」
「セイル・・・」

セイルの顔を見て安心し、少し冷静さを取り戻したあたしはとりあえず状況を説明した。

「なるほどね☆気持ちはわかるけど、結界の外に出るならせめて精霊王達ボクらのうち誰かを連れて行かないとダメだよ♪」
「ごめんなさい。以後気を付けます・・・」
「ま、ボクよりもエリュシオンにちゃんと謝りなね☆今手が離せないみたいでボクが来たけど、結構怒ってたよ♪」
「!!!」

マジですか?!結界の外に出ちゃったの知ってるだけじゃなくて怒ってらっしゃるの??
あぁ・・・でもそうだよね。今回は完全に平和ボケしたあたしの判断ミスだ。
家から近い場所とはいえ、あたしは妊娠中だ。万が一何かあったら本当に取り返しがつかないことになってしまう・・・

「セイたん、このくまさん、たべれゆ?」
「どれどれ・・・額に、王冠の痣?・・・あ!コレってフォリーキングベアじゃない?!脂身が多くてジューシーだってフランから聞いたことあるよ☆」
「じゅーしー!!」
「この森に生息してるのは知ってたけど、なかなか遭遇出来ないレアな魔物なんだよ♪さすがはサーヤだね☆」
「まま、このくまさん、みんなでたべゆの!!」
「きょうの、ごはんなの~♪」
「はは・・・そうだね、そうしようか・・・」


こうしてちょっとしたお散歩は、超レアな食材をGETしたことで強制終了し、あたし達は家へと帰ることにした。
そして、家に帰るとそこには般若のような顔をした魔王様・・・じゃなくて、エルと久しぶりに顔を見せたライムントさんがあたし達を出迎えてくれた。

「た、ただいま戻りました・・・」
「うむ。特に怪我などはしていないようだな」
「ハイ」
「「ぱぱ、ししょー、たーいまなのー」」

仁王立ちしながら出迎えてくれたエルは、駆け寄ってきたレオンとサクラの頭をコツンと軽く叩いた。
抱きしめられると思っていた双子は、初めて叩かれたことに酷く驚いている。

「レオン、サクラ。どうしてサーヤを連れて結界の外に出たのだ?」
「えっと・・・ままに、きれいなおはな、みせたかったの」
「結界の外は危険だと何度も教えていたはずだが?」
「でも、レオたんと、くーは、しゅぎょーで、おそとでたことあゆのよ」
「あぁ、そうだな。修行の一環でフランやセイル達と時々結界の外に出ているな。・・・ならば、サーヤは?」
「まま、ボクたちがまもゆの」
「だから、だいじょぶなの」
おごるのもたいがいにしろっ!!!」
「「!!!!!!」」

エルの怒号で一瞬地面が揺れた気がする・・・どうしよう、思ってた以上に本気で怒ってる。
レオンとサクラも驚きと恐怖で固まっているようだ。

「“護る”だと?今回はたまたま魔物が1匹だったから大事なかったが、この森は群れで襲ってくる魔物やもっと強い魔物がたくさんいるのだ!しかも、ただでさえ最弱のサーヤは今妊娠中。万が一お前達の手に負えない魔物の大群に襲われたら?それでもサーヤを護る自信があったのか?それだけの力をお前達は身に付けているとでもいうのか??」

うぐっ、“ただでさえ最弱”って・・・でも何も言い返せない・・・

「下手すればお腹の赤子ごと、サーヤが命を落とす可能性だってあったのだぞ!!」
「「――――――!!!!」」

極端な言い方だけど、決して嘘ではない。
森で出会った魔物がくまさん・・・じゃなくて、あの魔物1匹だけじゃなかったら・・・?って考えただけでも恐ろしいし、そうするとエルだって無事では済まない。

直接言われてるわけじゃないけど、エルの言葉にあたしは心の中で猛省した。

「(ボソッ)まぁ、先代様のバリアや精霊王達から貰ったアイテムがあるから、問題ないと言えばないのだが・・・」

え?そうなの??
じゃあエルはどうしてこんなに二人を怒って・・・―――――――?

「とにかく、今後出かける時は必ず俺かセイル、もしくは他の精霊王達と必ず行動するように。・・・良いな?」
「「・・・っ、あい!!」」
「・・・怖がらせて悪かった。無事に帰ってきて何よりだ、レオン、サクラ」
「~~~~~~~~っ、ぱぱっ、ぱぱぁぁっ!!」
「ふぇっ、ごめっ・・・しゃいっ、ぱぱぁ・・・ッグズ」

そっか・・・
エルは結界の外が危険だってことを理解させるために、あえて二人が怖がるくらいきつく叱ったんだね。
それでいてちゃんとフォローを忘れない・・・ふふっ、エルってばすっかり良いパパだなぁ・・・

泣きじゃくるレオンとサクラを抱き上げたエルは、そのまま二人を連れて家へと向かう・・・その前に、あたしに近づき耳元でこう呟いた。

「サーヤ、お前は今夜説教だ」
「・・・ハイ」

恐怖の中にどこか艶っぽさのあるエルの低音ボイスに、ゾクリとしながらいろんな意味でドキドキするあたし。
待て待て待て、これは”お仕置き”じゃなくて”お説教”なんだから、いつもみたいなえっちなお仕置きされるわけじゃ・・・って、違う、お仕置きを期待してどうする?しかも妊娠中だからそんな激しいコトできな・・・ってだからそうじゃないっ!!

場違いなコトを想像して熱くなった顔を抑えながら、あたしは無理矢理現実に顔を向けようとした。


そういえばライムントさんって、何しに来たんだろう?





「おぉ!これはフォリーキングベアじゃないか!!一度食べてみたいと思ってたんだよね」
「あらあら、ずいぶんと大きな食材ね。解体を依頼しなくても大丈夫かしら?」
「うむ。我が八つ裂きにしてやろうか?」
「あらん♡先代様がそんなことしたら、食べられる場所が減ってしまうのではなくて?」
「サーヤ、我は腹が空いたぞ。飯はまだか?」
「・・・」

泣きじゃくっていたレオンやサクラは、鍛錬から帰って汗だくになっていたミナトちゃん達と一緒にお風呂に入っている。その間に、気が付けば我が家のリビングにはお馴染みの精霊王様達が勢揃いしていた。
森で出会った凶暴なくまさんは、魔物ではなく完全に食材扱いで、ちょっとだけ可哀そうになってきた。
そして、ライムントさんは毎回ボケたおじいちゃんみたいなこと言うけど、久々に来たのにソレってどうなの?

「解体ならばアレクができるはずだ。だが、この人数分の料理はこの家だと手狭だから、フェイフォンの家へ移動するぞ」
「そうだね。皆で一緒に食べた方がご飯は美味しいからね。では、私も何か手伝おう」
「私も手伝うわ。後、フィリーも呼びましょう。この人数だもの、分散して調理した方が良いし、彼女の作る料理がまた食べたいわ」
「ふむ、ならば我がフィリーを呼びに行ってやるから、ノルンも料理を作るのだ。我はノルンの手料理が食べたい」
「ふふっ、かしこまりました、先代様」
「あらん♡じゃあ私はレヴィンを連れてこようかしらん♡」
「お前はそのまま帰って良いぞ。というか、帰れ変態」
「あぁぁっ!!エリュシオンってば相変わらず辛辣っ!!でもそれがイイ♡♡」
「じゃあ、カルステッド達も参加だね☆たしか今フェイフォンの王都にいるはずだから、声かけてみよっか♪」

エルの一言をきっかけに、いろんな事がポンポン決まっていく。
こんな感じで何かあると皆で集まったりお裾分けしたりするのが当たり前になり、チームワークもどんどん良くなってる気がする。うんうん、良いことだ。

「カルステッド達ならば、すでに我の家に居るぞ」

チームワークにも会話にもほとんど参加していなかったライムントさんの発言で、一瞬皆がシーンとなった。

「カルステッド達がお前の家に?何かあったのか??」
「家に居るのはカルステッド達だけではない。カケルも一緒だ」
「「??!!」」

カケルって、フェイフォンの国王になったあの第二王子だよね?
どうしてフェイフォンの家に?しかもカルステッドさん達も一緒って・・・??

「カケルから”例の文献の複写が終わった”と連絡を受けたのでな。直接渡したいと言うから家に連れて来たのだ」
「文献・・・だと・・・?」
「・・・」



こうして、いつものように皆で集まろうと思ったお食事会は、予期せぬお客様も参加することになったのでした。
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