上 下
496 / 512
【番外編&after story】

”落ち人”が残した忘れ形見

しおりを挟む
14章のエピローグから半年くらい経った頃のお話です。
※※※※※※※※※※※※※※※※




「まま、こっちなの!」
「こっちに、きれいなおはな、あったのよ!」
「ふふっ、そんなに綺麗な花だったの?でも、ここは家の近くとはいえ結界の外だから、あまり遠くに行っちゃダメだよ、レオン、サクラ」
「「あいなの!!」」

つわりがだいぶ落ちつたある日、お散歩しようと庭に出たあたしは庭で遊んでいたレオンとサクラを見つけた。
運動がてら少しだけ散歩すると伝えたら、”見せたい花がある”と言うので3人で散歩することにしたのだ。

ただ、その花が咲いている場所は家の近くとはいえ結界の外だった。

エルに一声かけようかと思ったけど、今日も研究室に籠ってるみたいだしちょっと行ってすぐ帰ってくるくらいなら別に良いかなと、一応セイルに念話で伝えてから双子と共に花が咲いている場所へと向かった。

天気が良く、ぽかぽかで心地良い陽気。
なんとなく森を歩いていると、前の世界のある歌が頭をよぎりあたしは思わず口ずさんでいた。

「ある~日♪森の中~」
「みゅ?まま、そのおうた、なぁに?」
「ふふっ、この歌はね『森のくまさん』っていう、森の中で女の子とくまさんが出会う歌なの」
「くまさんと、あうの?」
「そう。でもこれは実際にあるお話じゃなくて、絵本みたいな子供向けの空想のお話で・・・」
「そなの?でもまま、くまさん、いるのよ?」
「・・・え?」
「ほら、そこなの」

レオンとサクラが指さす方を見ると、獣が呻くような声と少しずつ近づいてくる足音が聞こえてきた。


(ガサガサッ、ズズッ、ズシンッ、ペキペキッ)


『グァァォォォォォォォ!!!!!!』
「―――――――っ??!!」

“くまさん”なんて可愛いモノじゃない。
真っ赤に血走った目に、空腹なのか涎を垂らしながら今にも襲いかかって来そうな雰囲気で近づいてくる巨大な生物。弱肉強食の世界でいうならば、間違いなく強者に部類するだろう。

どうしよう・・・いくら家の近くだからって、この森は世間で“死の森”と呼ばれるくらい危険な森なのに、なんであたしはそんな大事なこと忘れちゃってたのよっ!!バカバカバカっ!!!

・・・って、嘆いてる場合じゃない。早く子供達を連れて逃げないとっ!!!

「レオンっ、サクラっ、早く逃げ・・・―――――」
「レオたん!」
「うんっ!・・・いしげき、ひっさぁぁぁぁつっ!!!!」


(ドゴォッ、メキメキッ)


『グガァァッ??!!』
「ままをいじめるやつは、くまさんでも、せいばいなのよっ!たぁぁぁっ」


(ザシュッ、ザシュッ、ザクリ)


「・・・え?」

えっと、あたしの目がおかしいんだろうか?
レオンやサクラの数十倍は大きくてとても強そうだったくまさんは、レオンの最初の一撃で足をやられた直後、サクラの魔法による水の刃とで土で作られた杭により一本刺しにされていた。
この間ほんの数秒、瞬きしている間の出来事である。

(シュンッ)

「サーヤ、結界の外に出たみたいだけど大丈夫・・・―――って、え?何これ、どういう状況??」
「セイル・・・」

セイルの顔を見て安心し、少し冷静さを取り戻したあたしはとりあえず状況を説明した。

「なるほどね☆気持ちはわかるけど、結界の外に出るならせめて精霊王達ボクらのうち誰かを連れて行かないとダメだよ♪」
「ごめんなさい。以後気を付けます・・・」
「ま、ボクよりもエリュシオンにちゃんと謝りなね☆今手が離せないみたいでボクが来たけど、結構怒ってたよ♪」
「!!!」

マジですか?!結界の外に出ちゃったの知ってるだけじゃなくて怒ってらっしゃるの??
あぁ・・・でもそうだよね。今回は完全に平和ボケしたあたしの判断ミスだ。
家から近い場所とはいえ、あたしは妊娠中だ。万が一何かあったら本当に取り返しがつかないことになってしまう・・・

「セイたん、このくまさん、たべれゆ?」
「どれどれ・・・額に、王冠の痣?・・・あ!コレってフォリーキングベアじゃない?!脂身が多くてジューシーだってフランから聞いたことあるよ☆」
「じゅーしー!!」
「この森に生息してるのは知ってたけど、なかなか遭遇出来ないレアな魔物なんだよ♪さすがはサーヤだね☆」
「まま、このくまさん、みんなでたべゆの!!」
「きょうの、ごはんなの~♪」
「はは・・・そうだね、そうしようか・・・」


こうしてちょっとしたお散歩は、超レアな食材をGETしたことで強制終了し、あたし達は家へと帰ることにした。
そして、家に帰るとそこには般若のような顔をした魔王様・・・じゃなくて、エルと久しぶりに顔を見せたライムントさんがあたし達を出迎えてくれた。

「た、ただいま戻りました・・・」
「うむ。特に怪我などはしていないようだな」
「ハイ」
「「ぱぱ、ししょー、たーいまなのー」」

仁王立ちしながら出迎えてくれたエルは、駆け寄ってきたレオンとサクラの頭をコツンと軽く叩いた。
抱きしめられると思っていた双子は、初めて叩かれたことに酷く驚いている。

「レオン、サクラ。どうしてサーヤを連れて結界の外に出たのだ?」
「えっと・・・ままに、きれいなおはな、みせたかったの」
「結界の外は危険だと何度も教えていたはずだが?」
「でも、レオたんと、くーは、しゅぎょーで、おそとでたことあゆのよ」
「あぁ、そうだな。修行の一環でフランやセイル達と時々結界の外に出ているな。・・・ならば、サーヤは?」
「まま、ボクたちがまもゆの」
「だから、だいじょぶなの」
おごるのもたいがいにしろっ!!!」
「「!!!!!!」」

エルの怒号で一瞬地面が揺れた気がする・・・どうしよう、思ってた以上に本気で怒ってる。
レオンとサクラも驚きと恐怖で固まっているようだ。

「“護る”だと?今回はたまたま魔物が1匹だったから大事なかったが、この森は群れで襲ってくる魔物やもっと強い魔物がたくさんいるのだ!しかも、ただでさえ最弱のサーヤは今妊娠中。万が一お前達の手に負えない魔物の大群に襲われたら?それでもサーヤを護る自信があったのか?それだけの力をお前達は身に付けているとでもいうのか??」

うぐっ、“ただでさえ最弱”って・・・でも何も言い返せない・・・

「下手すればお腹の赤子ごと、サーヤが命を落とす可能性だってあったのだぞ!!」
「「――――――!!!!」」

極端な言い方だけど、決して嘘ではない。
森で出会った魔物がくまさん・・・じゃなくて、あの魔物1匹だけじゃなかったら・・・?って考えただけでも恐ろしいし、そうするとエルだって無事では済まない。

直接言われてるわけじゃないけど、エルの言葉にあたしは心の中で猛省した。

「(ボソッ)まぁ、先代様のバリアや精霊王達から貰ったアイテムがあるから、問題ないと言えばないのだが・・・」

え?そうなの??
じゃあエルはどうしてこんなに二人を怒って・・・―――――――?

「とにかく、今後出かける時は必ず俺かセイル、もしくは他の精霊王達と必ず行動するように。・・・良いな?」
「「・・・っ、あい!!」」
「・・・怖がらせて悪かった。無事に帰ってきて何よりだ、レオン、サクラ」
「~~~~~~~~っ、ぱぱっ、ぱぱぁぁっ!!」
「ふぇっ、ごめっ・・・しゃいっ、ぱぱぁ・・・ッグズ」

そっか・・・
エルは結界の外が危険だってことを理解させるために、あえて二人が怖がるくらいきつく叱ったんだね。
それでいてちゃんとフォローを忘れない・・・ふふっ、エルってばすっかり良いパパだなぁ・・・

泣きじゃくるレオンとサクラを抱き上げたエルは、そのまま二人を連れて家へと向かう・・・その前に、あたしに近づき耳元でこう呟いた。

「サーヤ、お前は今夜説教だ」
「・・・ハイ」

恐怖の中にどこか艶っぽさのあるエルの低音ボイスに、ゾクリとしながらいろんな意味でドキドキするあたし。
待て待て待て、これは”お仕置き”じゃなくて”お説教”なんだから、いつもみたいなえっちなお仕置きされるわけじゃ・・・って、違う、お仕置きを期待してどうする?しかも妊娠中だからそんな激しいコトできな・・・ってだからそうじゃないっ!!

場違いなコトを想像して熱くなった顔を抑えながら、あたしは無理矢理現実に顔を向けようとした。


そういえばライムントさんって、何しに来たんだろう?





「おぉ!これはフォリーキングベアじゃないか!!一度食べてみたいと思ってたんだよね」
「あらあら、ずいぶんと大きな食材ね。解体を依頼しなくても大丈夫かしら?」
「うむ。我が八つ裂きにしてやろうか?」
「あらん♡先代様がそんなことしたら、食べられる場所が減ってしまうのではなくて?」
「サーヤ、我は腹が空いたぞ。飯はまだか?」
「・・・」

泣きじゃくっていたレオンやサクラは、鍛錬から帰って汗だくになっていたミナトちゃん達と一緒にお風呂に入っている。その間に、気が付けば我が家のリビングにはお馴染みの精霊王様達が勢揃いしていた。
森で出会った凶暴なくまさんは、魔物ではなく完全に食材扱いで、ちょっとだけ可哀そうになってきた。
そして、ライムントさんは毎回ボケたおじいちゃんみたいなこと言うけど、久々に来たのにソレってどうなの?

「解体ならばアレクができるはずだ。だが、この人数分の料理はこの家だと手狭だから、フェイフォンの家へ移動するぞ」
「そうだね。皆で一緒に食べた方がご飯は美味しいからね。では、私も何か手伝おう」
「私も手伝うわ。後、フィリーも呼びましょう。この人数だもの、分散して調理した方が良いし、彼女の作る料理がまた食べたいわ」
「ふむ、ならば我がフィリーを呼びに行ってやるから、ノルンも料理を作るのだ。我はノルンの手料理が食べたい」
「ふふっ、かしこまりました、先代様」
「あらん♡じゃあ私はレヴィンを連れてこようかしらん♡」
「お前はそのまま帰って良いぞ。というか、帰れ変態」
「あぁぁっ!!エリュシオンってば相変わらず辛辣っ!!でもそれがイイ♡♡」
「じゃあ、カルステッド達も参加だね☆たしか今フェイフォンの王都にいるはずだから、声かけてみよっか♪」

エルの一言をきっかけに、いろんな事がポンポン決まっていく。
こんな感じで何かあると皆で集まったりお裾分けしたりするのが当たり前になり、チームワークもどんどん良くなってる気がする。うんうん、良いことだ。

「カルステッド達ならば、すでに我の家に居るぞ」

チームワークにも会話にもほとんど参加していなかったライムントさんの発言で、一瞬皆がシーンとなった。

「カルステッド達がお前の家に?何かあったのか??」
「家に居るのはカルステッド達だけではない。カケルも一緒だ」
「「??!!」」

カケルって、フェイフォンの国王になったあの第二王子だよね?
どうしてフェイフォンの家に?しかもカルステッドさん達も一緒って・・・??

「カケルから”例の文献の複写が終わった”と連絡を受けたのでな。直接渡したいと言うから家に連れて来たのだ」
「文献・・・だと・・・?」
「・・・」



こうして、いつものように皆で集まろうと思ったお食事会は、予期せぬお客様も参加することになったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン大好きドルオタは異世界でも推し活する

kozzy
BL
筋金入りのドルオタである僕は推しのライブを観た帰り幸せな気分でふいに覗き込んだ公園内の池の水面に人の顔を発見!びっくりして覗き込んだら池の中に引き込まれてしまったよ。もがいてもがいて何とか岸に戻るとそこは見たこともない景色。水面に映る自分の顔はさっき見た白い顔?一緒にいた侍女っぽい人の話によるとどうやらこの白い顔の人は今から輿入れするらしい…つまり…僕⁉ 不安の中、魔獣の瘴気で誰も近寄れないともいわれ恐れられている結婚相手の辺境伯邸につくとそこには現世で推してたあの人にそっくりな美丈夫が‼ え~こんなのもう推すしかないよね?推しの無い人生なんて考えられないし~? でもどうやら僕辺境伯様に嫌われているみたい…なんでぇ~? 『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』書籍化となりました。 7.10発売予定です。 お手に取って頂けたらとっても嬉しいです(。>ㅅ<)✩⡱

転生主人公な僕の推しの堅物騎士は悪役令息に恋してる

ゴルゴンゾーラ安井
BL
 前世で割と苦労した僕は、異世界トラックでBLゲーム『君の望むアルカディア』の主人公マリクとして生まれ変わった!  今世こそは悠々自適な生活を……と思いきや、生まれた男爵家は超貧乏の子だくさん。  長男気質を捨てられない僕は、推しであるウィルフレッドを諦め、王太子アーネストとの玉の輿ルートを選ぶことに。    だけど、着々とアーネストとの距離を縮める僕の前に唐突に現れたウィルフレッドは、僕にアーネストに近付くなと牽制してきた。  うまく丸め込んだ僕だったけど、ウィルフレッドが恋しているのは悪役令息レニオールだと知ってしまって……!?  僕、主人公だよね!?主人公なのに――――――!!!! ※前作『俺を散々冷遇してた婚約者の王太子が断罪寸前で溺愛してきた話、聞く?』のサブキャラ、マリクのスピンオフ作品となります。 男性妊娠世界で、R18は保険です。  

【R18】眠り姫と変態王子

ユキチ
恋愛
【本編終了(ep3まで)現在続編執筆中】 学院での授業中、魔力暴走を起こして意識を失い医務室に運ばれた侯爵令嬢セシリアは、目覚めると婚約者である王太子に看病されていた。 そして家に帰ると何故かノーパンな事に気付いた。 長年理想の王子様だと思い込んでいた婚約者の美形王子が実は変態だと気付いてしまったセシリアの受難の日々。 下ネタとギャグとちょっとファンタジー ※ヒーローは変態です。本当にごめんなさい。 主人公は侯爵令嬢ですが、ツッコミの部分では言葉使いが乱暴になる事があります。 ★=R18 ムーンライトノベルさんにも掲載しております。

シンデレラ。~あなたは、どの道を選びますか?~

月白ヤトヒコ
児童書・童話
シンデレラをゲームブック風にしてみました。 選択肢に拠って、ノーマルエンド、ハッピーエンド、バッドエンドに別れます。 また、選択肢と場面、エンディングに拠ってシンデレラの性格も変わります。 短い話なので、さほど複雑な選択肢ではないと思います。 読んでやってもいいと思った方はどうぞ~。

見捨てられたのは私

梅雨の人
恋愛
急に振り出した雨の中、目の前のお二人は急ぎ足でこちらを振り返ることもなくどんどん私から離れていきます。 ただ三人で、いいえ、二人と一人で歩いていただけでございました。 ぽつぽつと振り出した雨は勢いを増してきましたのに、あなたの妻である私は一人取り残されてもそこからしばらく動くことができないのはどうしてなのでしょうか。いつものこと、いつものことなのに、いつまでたっても惨めで悲しくなるのです。 何度悲しい思いをしても、それでもあなたをお慕いしてまいりましたが、さすがにもうあきらめようかと思っております。

虐げられた黒髪令嬢は国を滅ぼすことに決めましたとさ

くわっと
恋愛
黒く長い髪が特徴のフォルテシア=マーテルロ。 彼女は今日も兄妹・父母に虐げられています。 それは時に暴力で、 時に言葉で、 時にーー その世界には一般的ではない『黒い髪』を理由に彼女は迫害され続ける。 黒髪を除けば、可愛らしい外見、勤勉な性格、良家の血筋と、本来は逆の立場にいたはずの令嬢。 だけれど、彼女の髪は黒かった。 常闇のように、 悪魔のように、 魔女のように。 これは、ひとりの少女の物語。 革命と反逆と恋心のお話。 ーー R2 0517完結 今までありがとうございました。

あなたが幸せになれるなら婚約破棄を受け入れます

神村結美
恋愛
貴族の子息令嬢が通うエスポワール学園の入学式。 アイリス・コルベール公爵令嬢は、前世の記憶を思い出した。 そして、前世で大好きだった乙女ゲーム『マ・シェリ〜運命の出逢い〜』に登場する悪役令嬢に転生している事に気付く。 エスポワール学園の生徒会長であり、ヴィクトール国第一王子であるジェラルド・アルベール・ヴィクトールはアイリスの婚約者であり、『マ・シェリ』でのメイン攻略対象。 ゲームのシナリオでは、一年後、ジェラルドが卒業する日の夜会にて、婚約破棄を言い渡され、ジェラルドが心惹かれたヒロインであるアンナ・バジュー男爵令嬢を虐めた罪で国外追放されるーーそんな未来は嫌だっ! でも、愛するジェラルド様の幸せのためなら……

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

処理中です...