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【番外編&after story】

たまにはこんな休日を ~女子会編~

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※10章のエピローグからしばらく経って、11章のフェイフォンへ旅行する前くらいのお話です。

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「サーヤ、男性を誘惑する良い方法を教えてくださいませんこと?」
「・・・はい?」


森の家で念願の結婚式を終え、怒涛のような新婚初夜で授かったリリアを出産して生活がようやく落ち着いた頃、公務や育児が落ち着いたので遊びに来ないかというモニカの誘いを受け、現在あたしはガルドニアの王城内にある庭園のテラスでティータイムを楽しんでいた。
相変わらずこの庭園は、色とりどりの薔薇や種類別に色分けされた他の花達が絶妙なバランスで絵画のように配置され、今日も素晴らしい景色を見せてくれている。

ちなみに今回珍しいことに、男性は男性同士、子供は子供同士で楽しもうということで、家族でお城に遊びに来たけど皆別行動だったりする。
そのため、冒頭のように会話の内容がいつもよりディープな感じになるのは必然なのかもしれない。

でも、このティータイムが始まって人払いした直後じゃなくて、せめてこの素晴らしい景色を見てある程度世間話をしてからにして欲しかったな・・・いや、別に良いんだけどね。

「あらん♡それは私も気になるわん♡♡」
「ん~・・・マデリーヌさんは、誘惑しなくても充分相手を魅了できると思いますけど?」
「そうですわ。隣にいらっしゃるだけで女の私でもドキドキしてしまいますもの」
「ふふっ、ありがとう♡でも、レヴィンってば最近誘っても「今は執務中だから」ってそっけないのよねん♡」

それは、仕事中だからお相手できないだけで、決してそっけないわけじゃないと思います、マデリーヌさん・・・

「確かに、私がメラニウム王国との交易と育児で大変だろうからと、フェイフォンとの交易はレヴィン様が代行して下さってますの。マデリーヌ様、申し訳ございません」
「ふふっ、モニカちゃんは気にしなくていいのよん♡「最初の内は古狸達を躾ないとね♪」ってレヴィンが自分で決めた事だもの♡お仕事してる時のレヴィンってイイ顔するから、ついつい私もつまみ食・・・いえ、ちょっかいかけたくなっちゃうのよねん♡♡」
「ふふ、さすがはレヴィン様ですの」
「ふふっ、普段温厚なレヴィンのあの意地悪そうな顔・・・私、ゾクゾクするくらい堪らなく好きなのよねん♡」
「わかりますわ、マデリーヌ様!私も、時々そのような表情をなさるユーリ様にときめいてしまいますもの」
「あらん♡やっぱりレヴィンとユーリちゃんって親子なのねん♡♡」
「・・・」

モニカとマデリーヌさんの会話が、嚙み合ってるようで全然噛み合ってないように聞こえるんだけど、気のせいじゃないよね?!

普段のあたしならこの時点でツッコむなり反論したりするんだけど、今日だけはどうしてもいつものようにツッコめずにいた。

理由は簡単。
このティータイムを行ってるのは、ガルドニアのお城にある王族御用達の素晴らしい庭園。
そう!
そんなわけで、あたしは久しぶりに会うこの方々を前に、どう反応して良いのか正直わからないのである。

「ふふっ、マデリーヌ様、本当にレヴィン様と仲がよろしいのですね♪」
「えぇ、ほんとうに♪」
「・・・・・・」

あたしの横でニコニコと穏やかな笑みを浮かべている美女2人は、レヴィンさんの正妃であるマリアさんと側妃であるカトリーヌさん。
ユーリと婚約者だった時には王妃教育で何度かお世話になった過去があるけど、“サーヤ”としてお会いするのは実は初めてだったりする。
(ちなみに、最初はお二人を様付で呼んでたのに“距離を感じる”と怒られてしまい、最終的にさん付けで落ち着いた)

レヴィンさんとマデリーヌさんの関係が王族全体で公認だとしても、さすがに本人達の前で惚気たり夜の営みの話をするのはどうかと思うんだけど・・・

「ふふっ、私達、本当にマデリーヌ様とレヴィン様の事は気にしてませんから、サーヤさんも気にせず会話にご参加下さいな」
「そうそう。むしろたくさんお話を聞かせていただきたいくらいですのよ」
「え?」
「私達は元より国のための政略結婚で結ばれた夫婦です。学生時代からの友人ですから、義務以上の気持ちは元々ございません」
「そうですわ。まぁ、レヴィン様が国王になるまでもなってからもいろいろありましたから、夫婦というより一緒に国の問題を解決してきた“盟友”みたいなものですわね♪」
「そう、なんですね・・・」

良かった。あたしが心配する事じゃなかったらしい。
・・・でも待って。“むしろたくさん話を聞かせて下さい“ってどういうこと??

「ちなみに、そういう話をたくさん聞かせてってのはどういう・・・」

あたしは、好奇心に負けてこの質問をしたことをすぐに後悔した。

(ガシッ)

「私達、ねやでのお話を聞くと、とても創作意欲が湧きますの!!」
「そうですわ!私達の大好物ですの!!」
「・・・へ?」
「サーヤさんも教えてくださいませ!エリュシオン様とは、普段どのように睦み合っておられますの??」
「やはりエリュシオン様が攻めですの?それとも意外と攻められるのがお好きだったりしますの??」
「え、えぇぇぇぇ??!!」

創作意欲?!”大好物”って何??!!
“普段どのように睦み合ってるの?”とか”攻め”って、何でまたそんなことを??!!

見た目はとても優雅な貴婦人の二人に、手をガシっと握られながらとんでもない質問をされたあたしは、今めちゃくちゃ困惑している。

「あらん♡二人とも、もうスイッチが入っちゃったのねん♡」
「ふふっ、マリア様やカトリーヌ様がとてもサーヤに会いたがっていた理由はでしたのね」
「待って待って!なんで二人は納得してるの?お願いだからわかるように説明して!!」


モニカ曰く、エルフの里との交易品を選出する際、ユキさんが書いたという1冊の本があったそうだ。
読書はするけど、恋愛小説はあまり読まないモニカは、読書の中でも恋愛小説を好んで読むマリアさんとカトリーヌさんにその本を読んでもらい、交易品として問題ないか判断を仰いだそう。

「え・・・ユキさんが書いた本って、もしかして・・・」
「えぇ。男性同士が睦み合っている“びーえる”の本ですの」
「は?!BL本・・・だと??!!」

ユキさんが書いた本って聞いた時点でそんな予感はしてたけど、やっぱりかっ!!
ってか、そんなモノを交易品候補として献上したのはどこの誰?!
そもそもモニカが担当してるのはメラニウム王国とエルフの里での交易なのに、どうしてそこにユキさんの書いた“BL”本が交易品候補としてあがってきちゃうの??!!

「実は、今エルフの里で男性同士の“びーえる”や女性同士の“百合”の婚姻を認めたことをきっかけに、今まで人知れず想いを秘めていたたくさんの方々が全国的な婚姻制度変更を支持し始めましたの」
「へ?」
「もちろん、全員が“びーえる”や“百合”ではなかったけれど、“性別なんて関係ない。人を思う気持ちは自由だ”というストレートな気持ちに感動した人間達が多かったみたいなのよねん♡」
「はぁ・・・」

いや、確かにそれはそうかもしれないけど・・・

「ユキ様の本は、今まで想いを秘めている方々の中で密かに聖書バイブルとして、一部から根強い人気があったみたいですの。表現方法は独特ですが決して下品ではなく、斬新な恋愛小説として好む方もいらっしゃるので、これからは嗜好品や同じような想いを秘めてる方の後押しになればと・・・マリア様とカトリーヌ様も大変お気に召していただけたようですし、今回思い切って交易品候補としてあげて正解でしたわ」
「とても素晴らしい本ですもの!人気になること間違いなしですわ!!私、今まで様々な本を読んでまいりましたが、とても感動しましたもの!!」
「それに、作者であるユキ様が最後に書かれた“創作は無限大”という言葉にとても感銘を受けまして、私達も物語を書いている最中ですのよ」
「そうなのです!私達は元々、文化や流行のために諸外国の方々と社交やお茶会などで日々情報を集めておりましたが、娯楽が少ないことを以前から懸念してましたの」
「ふふっ、文化や流行の中心は女性ですもの。私が外交を担当するからには、今まで取引されなかった女性が求めるモノをたくさん流通させたいと思っておりますの!“びーえる”本はまだユキ様しか出版されておりませんから、詩が得意で以前は文官を目指していたマリア様とカトリーヌ様ならば素敵な物語を書きあげ、人気作家になると信じておりますわ!」
「・・・」

マジですか!!
確かに以前エルフの里にはBLも百合もいて、婚姻もできるようになった話は聞いてたけど、まさかその陰にユキさんの本の存在があったなんて・・・
しかも、互いの好みや利害が一致したからって、前国王の正妃様と側妃様を人気作家にしようとするなんて・・・
モニカってば、使えるモノは親でも何でも使うところ、ホントに昔から変わらないんだね。

「ちなみに、エリュシオン様とサーヤの舞台や絵本の原本を手がけたのは、マリア様とカトリーヌ様ですのよ」
「え?!」
「ですからサーヤさん!ぜひとも私達に、いろいろお話を聞かせて(ネタを提供して)下さいまし!!」
「もちろんそのまま使ったりしないで、あくまで参考にさせていただくだけなので、ご安心くださいな♪」
「え、や、その・・・」

待って待って!
すごく上品でにこやかなのに、どうしてこんなに圧が凄くて、力も強いんですか?!
ってゆーか、“話を聞く”ってのとは違う言葉が聞こえたんですけどっ??!!


逃げられないよう両側からがっしりと腕を掴まれたあたしは、貴婦人二人による質問攻めに最初はアワアワしたけど、気が付けばメイド服やナース服、エルの白衣に眼鏡は犯罪レベル!!などと、コスプレえっちの素晴らしさについて二人がドン引きする勢いで熱弁していた。


・・・あれ?あたし、今日は何しに王城ここへ来たんだっけ?






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いつか登場させたいと思っていた、レヴィンの正妃と側妃が初登場の巻。
今でもガルドニアの社交界の中心にいるだろう設定ですが、とんでもないモノに影響を受けてしまいました(笑)
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