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14章 初めての家族旅行兼新婚旅行 ~お城はやっぱり危険なトコロ~

いつからか大切になっていた存在 inフランside

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カルステッド達から話を聞いた後、ノルンに念話して森の家に行ったのは城を襲撃する前日だった。

死人は出ていないまでも、こちらの被害とサーヤの様子を聞いた時は、またしても人間の私利私欲に巻き込まれている状況に本気でブチ切れそうになり、そのまま殴り込みに行こうかと思った。
もちろんそれは、ノルンに止められたけれど。


サーヤの希望を加味したノルンの作戦で、サーヤが加護を得た頃にライムントとノルンがイディのいる離宮に転移して結界を破壊し、その後ミナト達はエリュシオンやセイルの救出、私がイディと対峙するという事になった。

ノルンが事も無げに「結界は私が破壊する」と言っていたけれど、内部からの結界破壊はそんなに簡単じゃない。
しかも、先代様がイディの魔力を大分消費させたとはいえ、曲がりなりにも精霊より上位の聖獣が張った結界だ。何重にも重ねられた複雑な結界であることに間違いはないはず。

案の定、私がサーヤから離れようとしなかった双子ごと転移して駆け付けた時、ノルンは先代様に抱きかかえられながらぐったりとしていた。回復には少し時間がかかるだろう。


そして、ミナト達を庇いイディの攻撃を受け止めた時、彼女はものすごく臭かった。


どうやらミナト達が作った腐食スライムが原因らしいけど、なんでこんな狭い一室でそんなモノ使うんだ?!とものすごく文句を言いたい。対峙する身にもなって欲しい。
・・・ま、そんなことは口にも態度にも出さないけれどね。

「サーヤ、私が聖獣の相手をするから、今のうちにエリュシオンやセイルを」
「うん!ありがとう、フランさん」
「!!・・・小娘っ、させるかっ」

近寄りたくないけど、攻撃を仕掛けてくるのだから仕方なく応戦する。
攻撃を受け止めるたびにむわっと香る、生モノが腐ったような臭いと鼻の奥をツ――――ンとかすめる刺激臭、なぜかほんのり甘い匂いは吐き気がしそうなほど気持ち悪い。

一体なにを混ぜたらこんな最悪な臭いになるというんだ?
まだ下水のような臭いのダンジョンのがマシだと思う・・・

とにかく離れて欲しくて、回し蹴りをしてイディを吹っ飛ばした。少しだけ臭いは遠ざかったけれど、まだまだ臭いことに変わりはない。
強い者と戦うのは好きなはずなのに・・・あまりの悪臭に戦いを放棄したくなったのは初めてだった。

「ししょー、こえ、あげゆ」
「こえなめてゆと、におい、へーきなのよ」

サーヤと一緒に檻の方へ向かったはずの双子は、「わすれてたの」と言って私に赤い飴をくれた。

「そんなモノがあったのかい?ありがたくいただこう。さぁ、君達は早くサーヤの元へ行くんだ」
「「あいっ」」

もらった飴は少し酸味があったものの不味くはなく、双子の言った通り気が付けば不思議と悪臭による気持ち悪さがだいぶ軽減されていた。

お礼を言おうと振り返ると、子供らしからぬスピードですでにサーヤの元へ戻った双子は、仲良く檻を投げ飛ばしていた。
魔法装置を無事に解除できたようだ、それは良い。でも、双子の行動に皆がビックリして固まっている。・・・うん、確かにそうなるよね。

なんとか正気を取り戻し、帰ろうとしていたセイルとちょうど目が合ったので、私から念話で語りかけた。

「(セイル、ここは私が何とかするから先に家に戻って良いよ)」
「(ありがと☆そうさせてもらうね♪)」

その言葉を交わした後、セイルはミナト達と一緒に森の家へと転移魔法で帰っていった。




・・・―――――さて、これでようやく私もと向き合える。




ゆっくりと歩き、少しだけ距離を取った状態でかつての友に話しかけた。

「・・・――――――久しぶりだね。イディ・・・そして、ハジメ」
「・・・っぐ、フラ、ン、あなた・・・どうして・・・」
「フラン、殿・・・なぜ・・・・・・ぅっぷ、くっ」

悪臭に苦しむ二人を見て、私は持っていた剣を無人の窓際に向かって一振りし、壁ごと切り崩した。
一瞬静寂が訪れた後、ゴゴゴゴゴ・・・という音と共に窓があった場所が床ごと崩れ落ち、陽の光が部屋を明るく包み込む。見晴らしの良い景色が見え始めると、澄んだ空気が悪臭を少しずつ払拭していった。

これで呼吸はだいぶ楽になるだろう。
かなり荒っぽいけれど、二人共文句はないはずだ。

思った通り、二人は部屋を破壊した怒りより悪臭が低減された事にほっとしている。
ようやく普通に話せる状態になったところで、私は押し殺していた感情を徐々に解放し始めた。

「“なぜ”、“どうして”、か。・・・君達には以前話したことがあったよね?私達精霊にとって、"加護者"というのがどんな存在か・・・」
「??・・・それは聞いたけれど・・・なんで今その話を?」
「フラン殿、“加護者はいない”と言っていなかったか?」
「そうだね。いなかったよ・・・・・・ね・・・」
「・・・え?」
「その時はって、まさか・・・」

二人は私の言いたい事に気付いたらしい。


私達精霊にとって、加護者とは“大切でかけがえのない護るべき存在”だ。


人間というのは、欲望に忠実な生き物だと思う。
”力”を持っている者はその力を使って他者を支配し、”力”を得た者は力ある者を排除して上にのし上がろうとする。
そんな醜い争いばかりする人間を今まで何度も見てきた精霊達私達は、基本的に人間が好きではない。

けれど、サーヤは違った。


『大切な加護を、あたしのわがままでいただく事になってしまってすみません。お返しができるかはわかりませんが、美味しいご飯やお菓子は常に用意しているので、いつでも食べに来て下さいね!あ、加護はいただきましたが、フランさんは今まで通り行きたい所へ行ったり、好きな事をして下さい!時々で良いので、ほむちゃんに会いに来てくれたら嬉しいです』


最初に言われたのはこの言葉。

加護を受ける際唯一サーヤが望んだのは、ハイエルフであるエリュシオンと少しでも永く生を共にすることだけ。金も名声も、権利も支配も全く欲しがらない人間なんて初めてだった。
その上、火の精霊うちの子に“ほむら”という名前を付けて契約したというのに、やっている事は毎日のご飯やお菓子作りだけだという。

久しぶりに会った火の精霊我が子は、とても嬉しそうにサーヤとの生活について話してくれた。
作った料理の話、ミナトとたまにお昼寝をする話、時々エリュシオンがサーヤをいじめているという話・・・

最初はノルンから事情を聞き、火の精霊うちの子が世話になってるし、本来ならあり得ないけれど”その子が生きている間だけなら”と思い、加護を与えることにした。
だけど、サーヤ達家族やミナトやノルン達といった仲間達と過ごす時間が増え、サーヤを中心とした優しい空間に居心地の良さを感じ、私自身がこの空間にいることを望み、足を運ぶ回数も次第に増えていた。

「おかえりなさい」と笑顔で迎えられるのは当初くすぐったかったけれど、お土産に貴重な食材を持ち帰った時の驚きと嬉しさが混ざったサーヤの顔が可愛くて、いつしかダンジョンや狩りに行くたびに珍しい物や市場とかでは購入できない美味しそうな食材を持ち帰るというのが習慣になっていた。



だが、今回はそれが原因で助けが遅れてしまった・・・―――――



「私はね、怒っているんだ・・・大切な加護者サーヤの大切な家族モノや仲間を傷つけられたのだから・・・」
「あの娘、風の精霊王殿だけでは飽き足らず、フラン殿からも加護を?!」
「フランがあの小娘なんかに加護を与えてるだなんて嘘でしょ?嘘よね??!!」
「私の大切な加護者を悪く言うの、やめてもらえないかな?」
「「・・・っ」」

二人は私の殺気に気圧されて少しずつ後ずさり、私はジリジリと近づき二人を追い詰める。
聖獣とはいえイディは戦闘タイプではないので、精霊王の中でも特に戦闘を得意とする私から見ると脅威でもなんでもなく、さらに弱っているイディに負ける気は一切ない。

怒りを露わにしながらどのような制裁を与えようかと考えていたけれど、それは予想外の人物達の乱入で中断させられる事となった。

「うそ、ちがうも!まま、みんなとなかよしなのよ!!」
「そーだよ!セイたんも、ミーたんも、カイたんも、ベルも、ししょーも、ししょーも・・・あれ?」
「レオたん、“ししょー”ってにかいも、ゆってゆのよ」
「む~・・・じゃあ、ししょー1と、ししょー2?」
「“師匠”ではなく名を呼べばよかろう?ノルンとフランで良いではないか」
「「そなの!ししょー、さすがなの!!」」
「「「・・・」」」

突然現れた珍客の発言により、私の殺気でピリピリした空気がぶち壊され、イディもハジメも唖然としている。

「レオン、サクラ・・・どうしてここに?サーヤ達と帰ったんじゃ・・・?」
「ボクたち、ばいばいってみおくったの」
「くーたちね、だいじなの、あるのよ」
「ん?大事なのって・・・?」

レオンとサクラは、同時にイディとハジメを指さしながら当たり前のようにこう言った。

「あいつら、ぱぱとセイたんいじめた、わるいやつ!」
「くーたちの、てきなの。だから、ぷっちんなのよ!」
「は?!チビッ子のくせに、私のことを“敵”呼ばわり?ふふっ、随分と教育がなってないクソガキみたいねぇ」
「ふんっ、こんなガキ共にいったい何ができると・・・―――――」



(ドゴォォォォッ、バシュッ、ザクッ)



「「だまれ。くさいビッチ、かえるのおーぞく」」
「「???!!!」」



レオンは一瞬にして距離を詰め、ハジメの顔を殴る直前で寸止めし風圧が後ろの壁を撃破。
サクラは無詠唱で、無数の氷の刃をイディに向けて放った。イディはとっさにガードするも何発か直撃したらしく髪や衣服、身体に少し傷がついたようだ。

何にしても、二人は双子の力を見くびり過ぎだ。ハジメに至っては、二人の殺気で完全に怯えている。
この子達は、すでに人間の大人よりも遥かに強いというのに。

「こんのガキ・・・“黒”だからって調子に乗るんじゃないわ、よっ!!」

いつの間にか長い爪を再生させて向かってきたイディは、サクラに向かって反撃を仕掛けてくる。さすがに手負いとはいえ、子供に聖獣相手は厳しいだろうと思い動こうとしたら、なぜかライムントに止められた。

「ライ、何故止める。双子と言えどさすがに聖獣相手は・・・」
「大丈夫だ。あいつらはえげつない」
「は?・・・えげつ、ない・・・?」


・・・というか、くさい”ビッチ”って誰が教えた?
ハジメが”王族”ってのはわかるけれど、何で”蛙”なんだ?


意味不明な言葉に一瞬混乱したけれど、直後にイディの声にならない悲鳴のような叫びが聞こえてきて、なんとか私は我に返った。
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