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14章 初めての家族旅行兼新婚旅行 ~お城はやっぱり危険なトコロ~

目には目を、歯には歯を。聖獣には聖獣を。

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※少しだけ残酷な表現があります。ご注意ください。

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「なに、これ・・・」


開口一番に出た言葉がソレだった。

あたし達は、確かに昨夜の野営地に転移した。
だけど目の前に広がるのは、焼け野原となった野営地だったと思われる場所だった。

何か強力な魔法でも放たれたのか、場所によっては地面がかなり抉れている。
まるで、ここで激しい戦闘でもあったかのような痕跡だ。


ドクン、ドクン、と心臓がうるさくなり不安がさらに募る。


エルは・・・?セイルは・・・?
皆は無事なの・・・??!!


「――――!・・・マデリーヌさんっ!!」


周囲を見渡すと、少し離れた草むらの辺りに見覚えのある金糸のような金髪が見えたので思わず駆け寄る。
だけど、一定の距離であるモノが見えた瞬間、あたしの足は止まってしまった。

「・・・アレク、兄様?」

マデリーヌさんの側には、ぐったりとして顔色の悪くなったアレク兄様が横たわっていた。
今も回復魔法をかけているようで、全身が光で包まれている。

だけど、服もボロボロ、至る所が傷だらけで重症であることは明らかだった。

「アレク兄様っ!」
「大丈夫よん、サーヤちゃん♡アレクちゃんは生きてるし、ちゃんと千切れてた手足は元に戻したわん♡」
「は?え?!千切れ・・・えぇぇぇ?!」

待って待って、何それ・・・アレク兄様そんな状態だったの?!
じゃあ、ここにいないカルステッドさんやリンダ、アルマさんは??

もう訳がわからなすぎて困惑し、昨日まで笑顔で普通に接していた人達の惨状に恐怖や怒り、悲しみなどの感情がごちゃ混ぜになって涙が溢れてきた。

「大丈夫よ、サーヤ。カルステッド達は、セイルがまとめてどこかへ転移させたらしいわ」
「・・・ッグズ、まとめて転移、ですか?」
「どこかまでは聞けなかったけれど、カルステッド達なら大丈夫でしょう、きっと」

ノルンさんが言うには、昨夜突然焦った様子のセイルから念話がきて、カルステッドさん達をどこかへ避難させたけどアレク兄様が危ないと言われたらしい。
マデリーヌさんも同じく昨夜、突然エルから“今すぐ来い”と念話で呼び出されたらしい。

「本当なら、すぐ駆け付けたかったのだけれど・・・」

ノルンさんは気まずそうに先代様を睨む。
なるほど。盛り上がってる最中で、先代様が放してくれなかったんですね。

「私も、一応急いで終わらせたんだけれど・・・」

・・・ナニを、なんて無粋な事は聞かなくてもわかる。
こちらもレヴィンさんと過ごしていたわけですね。

「だって、いつも“すぐに来い”って言うわりに緊急じゃないことが多かったから、今回もそうかなって・・・ごめんなさいね」

マデリーヌさんを責めることなんてあたしにはできなかった。
だって、実際に緊急時じゃなくても“すぐに来い”って呼びつけてるのはあたしも何度か見ていたし、今その話をしたって状況は変わらない。
駆け付けるのが遅れたとはいえ、マデリーヌさんはこうしてアレク兄様を治療し命を助けてくれている。

今大事なのは、ここにいないエルやセイルがどこに行ったのか、無事なのかどうかだ。


「・・・ふむ、やはりそうか」

周囲の様子を伺っていた先代様が、何かを納得したように呟いた。

「先代様、やはり・・・」
「あぁ。一角獣イディナロク・・・ディーの残り香がある。エリュシオンと風のは其奴そやつに連れて行かれたのであろう・・・奴の好きそうな顔だ」

先代様と同じ聖獣様に連れて行かれた・・・
人間だったらもちろん余裕なんだろうけど、さすがに聖獣様ともなると二人は・・・―――


ん?待って待って。
今、先代様、最後にすごく気になる事言わなかった?


「先代様、あの・・・好きそうな、顔ってどういう・・・」
「あぁ。ディーは見目の良い男が大好物・・・――――痛っ、いや、好きなのだ」

先代様はノルンさんにどつかれて言葉を訂正してたけど、先ほど先代様に教えてもらった情報と照らし合わせると一角獣の聖獣様は淫乱で見目の良い男が大好物って事だよね?



・・・――――どうしよう、これは完全に予想外だ。
早く、早くエルとセイルを助けに行かないと・・・二人が聖獣様に食べられてしまうっ!!!(性的な意味で)



今回は徹底的な重装備をしたあたしがピンチなのではなく、エルが・・・もとい、エルとセイルの貞操が大ピンチみたいです。





アレク兄様の回復をある程度終えたので、後は特殊空間内でクラリスさん達に治療と看護をお願いし、目を覚ましたらアレク兄様から昨夜の詳しい事情を聞こうという事になった。

重症のアレク兄様を見たクラリスさんとティリアさんは、一瞬驚いた顔を見せたけどすぐに自分達のすべき事を理解し、てきぱきとベッドを整え少しでも早く回復するよう環境を整え始めた。
レミリオくんやシャルちゃんも、互いに抱き合って心配そうな顔でじっと見つめているだけで、決して取り乱したりはしていない。
アレク兄様だけじゃなく、アレク兄様の家族は皆冷静ですごいと思う。


なのに、あたしは・・・――――――


「早くっ!早く国王に直談判しに行きましょう!!じゃないとエルがっ、それにセイルだって・・・」
「サーヤ、とりあえず落ち着きなさい。こういう時こそ、あなたが一番冷静にならないといけないのよ」
「・・・っ」

頭では“冷静にならなきゃ”ってわかってる。
だけど、あたしはどうしても冷静になることができなかった。


以前、あたしの知らない所でエルが今の聖獣レオヴィアスに酷い目に遭わされていたと聞いた時も、腸が煮えくり返るような怒りでいっぱいになった。
でも今は、あたし達がこうしている間にも、エルやセイルが酷い目に遭っているかもしれない。


あたし以外の女性がエルに触れる・・・―――――そんな事、考えたくもないっ!!!


(ペチン)


あたしの両頬に軽く痛みが走り、そのままぐいっと上を向かされる。

「サーヤ、落ち着いて。今サーヤが取り乱したって、状況は何も変わらないよ」
「・・・っ、ベルナート、さん・・・」
「思い出して、サーヤ。以前エリュシオンは、今のサーヤと同じ思いをした事があるんだよ?」
「同じ、思い・・・?」
「・・・ガルドニアの城で、俺がサーヤを攫った時・・・憶えてるでしょ?」
「―――――――!!!!」


もちろん覚えてる。

喧嘩してエルから少し距離を取り、そのまま初めて別々に夜を明かした。
でも、翌朝どうしてもエルに会いたくて謝りたくて、エルを見かけた瞬間に駆け出したのだ。

・・・だけど、それはエルに少し面影の似たベルナートさんで、あたしはそのままタッチの差で駆け付けたエルの目の前でアネモネさんの命を受けたベルナートさんに攫われたんだよね・・・


「・・・あの時のエリュシオンは、当初今のサーヤみたいにすごく取り乱してたみたい。それこそ、城も何もかも壊しそうな勢いで」
「・・・っ」
「だけど、エリュシオンは冷静になって考えた。もちろん俺がエリュシオン達に会いに行って、サーヤの無事を伝えたからってのもあるけど・・・でも、すぐにでも助けに行きたい衝動を抑えて、サーヤが一番望むだろう方法で解決しようと行動を開始したんだ」


その話は後になってから聞いた。
エルがあたしと一緒に、これからもガルドニアで生活しやすくなるようレヴィンさん達やミナトちゃん達と協力し合ったって・・・


「エリュシオンが一番護りたいモノ・・・それは、サーヤの笑顔だよ」
「!!」
「エリュシオンやセイルも、決して弱くはない。相手が聖獣だとしても、何か策を練ったり行動するはずだ。あの二人が、何もしないで良いようにされるわけないでしょ?」

確かにそうだ。
エルもセイルも、何かされたらすごい仕返ししそうだし、何より頭の回転が速い策士だもの。
むしろ何もしない方がおかしいよね。

「それに、命の盟約で結ばれているサーヤに今何も影響がないって事は、エリュシオン達はそこまで追い詰められていないはずだ。だったら、エリュシオン達を信じて、俺達もできる限りのことをしなくちゃ!!」
「・・・っ、・・・ぅん、うん・・・っ、ごめ、なさ・・・」
「ふふっ、今ならエリュシオンいないし、このままサーヤに口付けしちゃおっかな♪ん~、相変わらずサーヤはいい匂いがする・・・」
「~~~~~っ!!!」

(バシッ、ドカッ)

「バカバカっ!そんな事したら、エルが帰って来た後にきっついお仕置きしてもらうんだから!!」
「いてて・・・もう、冗談なのに・・・でも、それだけ元気があるなら大丈夫そうだね、サーヤ」
「え・・・?」
「おねーさん、涙止まったみたいだね」
「ふふっ、ベーたんのおかげなのよ」
「ベルナートさん・・・カイトくんにミナトちゃんも・・・」

もしかして、今のってわざと・・・?

「大丈夫よ、サーヤ。ベルナートの言うとおり、相手がたとえ聖獣であったとしてもエリュシオンやセイルは状況に合わせて行動を開始するはずよ。・・・そして、必ずあなたの元へ帰ってくるわ」
「ノルンさん・・・」
「あなたは一人じゃない。精霊の王である私達がいるし、フランもこの近くにいるみたいだから近いうち合流するよう伝えておいたわ。それに、私達には先代様だっているのよ」
「む?わ、我か・・・?」
「えぇ。この中で一番あの雌・・・いえ、聖獣イディナロクについてご存知だもの。・・・そうですよね?先代様」
「あ、あぁ・・・」

ノルンさんはそのまま先代様の胸に飛び込み、上目遣いで瞳をウルウルさせながら色っぽくお願いを始めた。

「先代様、加護者であるサーヤが悲しいと、自分の事のように私も悲しくなるのです。申し訳ありません、本当ならばここまで感情移入するのは良くないとわかっているのですけれど・・・」
「ノルン・・・いや、聖母のように美しく優しいお主ならそうなるのも仕方あるまい。・・・だが、少々妬けるな・・・」
「何を仰います、先代様!加護者は私にとって、可愛い子供のような存在なのですよ?・・・私、実は先代様は素敵な父親になる資質を持っている方だと思っておりますの」
「我が・・・素敵な、父親・・・?」

ノルンさんは、先代様に少しずつしなだれかかり顔を近づけながらさらに続ける。

待って待って。これ、ミナトちゃんに見せちゃセイルおかんが怒る・・・あ、ちゃんとベルナートさんとカイトくんでミナトちゃんの目と耳を塞いでくれているみたいだ。良かった。

「えぇ。本当の子供ができる前に、私の子同然であるサーヤも大切にして下さったらこんなに嬉しいことはありません。そのような御姿を見せられたら私・・・先代様から一生離れられなくなりそうです・・・」
「―――――!!!」


まるでそこは、スポットライトで照らされた二人だけの世界を描いた舞台そのもの。

そんな女優顔負けの演技をしたノルンさんは、感動している先代様を見て”これで大丈夫よ”と言わんばかりに、あたしにウィンクをした。
それに気づかず、ノルンさんの言葉に感動・歓喜した先代様は「サーヤ・・・いや、娘よ。我の事は”父”と思うが良い!」とあたしの肩をバシバシと叩いてきたので、あたしは「ありがとうございます・・・お、お父様」と呼ばざるを得なかった。



対聖獣用に、先代様という強力で絶対的な味方を得る事ができたけど、代わりに大切なナニカを失ったような気がしました。
・・・うん、深く考えるのはよそう。エル達の救出が最優先だ。




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※サーヤが攫われた時の話
→4章 お城は危険がいっぱい~ヒロイン側の奇襲~ の辺り

※エルが酷い目に遭ったのを知る話
→10章 ※番外編※ 会わせたくなかった二人2 の辺り
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