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13章 初めての家族旅行兼新婚旅行 ~お米をGetするために~

楽しく始まる新居の準備2

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エルとカイトくんがお出かけして程なく、食事の後片付けを終えてリビングに戻ろうとすると、先代様がノルンさんをお出かけに誘うも断られてしょんぼりしているのが目に入った。

ノルンさんは農園のお手入れがあるからと断ってたけど、元々家具はだいたい揃ってる家だし、ライムントさんが農園の手入れもしてたから、今すぐやらなきゃいけないことはさほどない。
先代様は大きな家具の搬入や移動をお手伝い(ノルンさんが主にお願いしたからだけど)でお世話になっているので、あたしはノルンさんに”庭に置けそうなティータイム用のテーブルセットを探して欲しい”とお願いした。

あたしの意図をくみ取ったノルンさんは、「変に気を遣わせてしまったわね」と少々苦笑いをしながらも、嬉しそうに先代様と買い物という名のデートへ出発。
先代様も、すっかり上機嫌になって尻尾をぶんぶん振っていた。


残ったあたし達は・・・というと、セイルはお昼寝しているリリアを抱っこしながら木の上でのんびりと過ごし、残ったレオンやサクラ、ミナトちゃんとベルナートさんは、ご飯支度を始めたあたしの後ろで、今日のおやつとなるクッキーを作っていた。

作ると言っても、生地は元々魔法袋に入れてあるので、型抜きしてほむちゃんに焼いてもらうだけなんだけど、子供達は“作った”という達成感や“お手伝いをした”という満足感を得られるし、あたしもお菓子作りの手間が減るので一石二鳥にも三鳥にもなり、ありがたい限りだ。

「まま、みて!きれいにできたよ!」
「あら、レオン!星形綺麗に作れたね、えらいえらい」
「えへへ♪」
「サーヤまま、あたしもできたの」
「お、ミナトちゃんはハート型にしたんだね」
「ミーたん、ボクのクッキーあげゆ。だから、ミーたんの、ボクにちょーだい?」
「うん、いいのよ。交換なの」

あらあら、二人で互いに作ったクッキーを交換し合うだなんて、やだもう超可愛いっ!!
この二人、ホントにこのままくっついちゃえば良いのにっ!!

あたしは他の人達用にアイスボックスクッキーを作りながら、可愛い天使達カップルをにまにまと見守っていた。

「くーね、ベルのために、おっきーのつくゆの!」
「ありがとう、サクラ。俺もサクラのために、大きいの作るね!」

会話の内容からすでに嫌な予感はしてたけど、サクラとベルナートさんはレオンやミナトちゃんと同じことをしてるとは思えない状況になっていた。

平な生地に型抜きをお願いしただけなのに、サクラはどうやって作ったのか薄い生地で丸みを帯びた立体的なハートを作り、ベルナートさんに至っては、粘土遊びでもしているように二つの丸を雪だるまのように重ね、手足までもがついていた。

「・・・あの、二人とも・・・今日のお菓子はクッキーだから薄くしないと焼けないのよ?」
「!!・・・そーなの?がんばって、まほーでつくったのに・・・」

魔法でこんな立体的なハートを作るなんて器用だなと褒めたくなったけど、これはあくまでクッキーなのでさすがに褒めるわけには・・・と我慢する。

「きゅ、きゅぅ(サーヤまま、ボク、これもちゃんとやける・・・とおもう)」
「ホント?ほむちゃん、この形でも焼けるの?!」
「きゅっ、きゅぅぅん(このかたち、はじめてだけど、クッキーはたくさんやいてるから)」
「ほむちゃんが、”この形は初めてだけど、クッキーはたくさん焼いてるから大丈夫だと思う”って」
「ほむちゃっ、しゅごい!おねがいなの!」
「きゅっきゅぅぅ!・・・きゅぅん(まかせて!・・・でも、ベルさまのはちょっと・・・)」
「どうしてサクラのは大丈夫で、俺のはダメなの??」
「当たり前じゃないですか!ベルナートさんはまず生地を平にして下さい!それはクッキーじゃありません!!」
「!!!!!」

自分のモノだけ却下されたベルナートさんは、わかりやすく落ち込み大人しくめん棒で生地を伸ばし始める。
ミナトちゃんからハート型をもらったサクラが、ベルナートさんに「ベル、こえでつくゆの!いっしょに、やろ♡」と言って元気付けていた。
いったいどっちが年上なんだか・・・と思ったけど、これはこれで微笑ましく見えるから良しとしよう。


ふと、そんな微笑ましい空気を、違う気持ちで見ている視線にあたしは気付いた。
・・・いや、気付かされた、と言った方が正しいかもしれない。

台所の入り口に潜む黒い影・・・じゃなくて、顔を半分だけ覗かせたライムントさんが無言でじぃ~っとこちらの様子を見つめている。

なんとなく予想だけど、ライムントさんは寂しがり屋で意外と構って欲しがりな人なのかもしれない・・・というか、ぶっちゃけると知れば知るほどめんどくさい。
・・・根はとても良い人なんだろうけどね、きっと。


・・・どうしよう。やっぱりあたしから声かけた方が良いかな?
あれはたぶん仲間に入りたい、気付いて欲しいっていうアピールだよね?


結局あたしがアレコレ考えて声をかけるよりも先に、レオンがライムントさんを発見し、強制的にクッキー作りに参加させていた。
最初は戸惑っていたライムントさんも、だんだんクッキー作りのめり込み型抜きした生地に細かく模様をつけたりと、子供みたいに楽しそうだった。

そしてクッキーが焼き上り、皆でリビングへ移動しお茶や果実水で楽しくティータイムが始まった。
レオンはミナトちゃんと、サクラはベルナートさんと互いのクッキーを交換して、楽しそうに食べている。

「はい、ミーたん!」
「はい、レオたん♡」
「ベル、うけとって?」
「ありがと!サクラ、じゃあこっちは一緒に食べようね」
「うん!!」

お昼寝から起きたリリアに甘さ控えめで用意したクッキーをあげつつ、あたしは微笑ましい光景を引き続き堪能する。
すると、セイルが小脇をつんつんと突いてきた。

「ん?どうしたの、セイル」
「ねぇ、アレ・・・見て」
「アレって・・・ライムントさん?」

セイルの指さす方を見ると、自分とクッキーを交換してくれる相手がいないライムントさんが明らかにしょんぼりしながら自分のクッキーをポリポリと食べていた。

「我と、クッキーを交換したい者なんて、いないのだ・・・この世のどこにも・・・」
「「・・・」」

いやいやいや、声をかける前から諦めないでよ!
クッキー交換したいなら、まずは自分から行こうよ!

もうもうっ、なんでこんなネガティブなのこの人っ!!ってか、精霊王様だけど!

仕方なしに自分で作ったアイスボックスクッキーと交換しようかと思ったら、名乗りを上げたのは意外な人物だった。

「ぁきゃっ、あぅぁー!」
「む?・・・お前、我にそのクッキーを・・・?」
「あぷっ、だぁ!」
「そうか・・・そうなのか・・・」

ライムントさんは、リリアの言葉を自分なりに解釈したらしく、うんうんと頷きながらリリアの手にあるクッキーと自分のクッキーを交換した。

ライムントさんのクッキーは、とても繊細な模様をつけた十字架の形をしている。
こんなに細かな模様を付けるのもすごいけど、それを綺麗に焼き上げるほむちゃんの火加減も素晴らしい。

「え、何?ライムントってリリアの言った言葉理解してるの?・・・そんなわけないよね☆」
「うん、多分“こうだろう”って勝手に思ってるだけだと思うけど・・・これ以上ライムントさんがいじけると面倒だからそのままにしておこう?」
「む~、リアはボクのモノなのに・・・」
「こらこら、それは気が早すぎ!」


それから程なく、ティリアさん達を連れてエルが帰ってきたけど、案の定あたしはベルナートさんとライムントさんに攻撃しようとしたエルを必死で止める羽目になった。
もうこれ、お約束になってない?

ちなみに、リンダやアルマさんを連れたカイトくんが帰ってきたのは、日も暮れかけた夕方頃だった。
ティータイムのアレコレでぐったりしてたけど、さらにぐったりしてる二人を見て“晩ご飯は美味しいご飯たくさん食べさせてあげるからね”と、あたしはその日いつもよりご飯支度を張り切った。


カイトくん、転移魔法早く上達すると良いね・・・
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