上 下
415 / 512
12章 初めての家族旅行兼新婚旅行 ~お米の国へ出発編~

真夜中の来訪者

しおりを挟む


「はぁ・・・夜風が気持ち良い」

子供達と一緒に眠っていたあたしは、夜中にふと目が覚めてしまい、寝室にあったにバルコニーに出て少し夜風に当たっていた。

船の上なのにバルコニーが付いていて、強風が吹きぬけないよう魔道具で調整されているなんてさすがスイートルームなだけあるよね。
ここなら一応部屋の中というか一部だし、許容範囲でしょ。

今までは、寿命を考えると明らかに先にいなくなってしまう自分に、何ができるか、残せるかを考えて生活することが多かった。
だけどそんな考えを見透かされ、エルと命を共にするようになってからは、自分だけの命じゃないから今まで以上に用心して、必ずエルかセイル達と一緒にいようと心掛けるようになった。

だから、そばで子供達が眠っているにしても、こうして一人でぼーっとする時間ができるなんて、あたしにはとても珍しいことだった。

「ふふっ、こうして一人で夜風に当たってるなんて・・・なんだか不思議な気分♪」

一人の時間というモノがほとんどないけど、エルや皆と一緒にいるのが楽しいから苦だとは思ったことはない。
でも、こうして一人の時間が持てるというのもたまには良いかもしれないね。

「明日はいよいよフェイフォンの港町・・・ルーアだっけ?ふふっ、どんな町なんだろう」

ハーフェンにはフェイフォンから流通したゾーヤ・・・お味噌があって、少し味が違うけどサバの味噌煮やお味噌汁があった。

きっと、過去日本から来た落ち人である“タモツさん”という人が、フェイフォンの王様であるときにお味噌汁や他の日本食を広めてくれたに違いない。
そうなると、以前ユーリが教えてくれた“リーズ”・・・これは間違いなくお米だと、根拠のない自信があたしにはあった。

「お米・・・後はお米さえあれば、サバの味噌煮定食やお刺身定食、親子丼、あ、トンカツ定食もなんとかいけるかな?とりあえず、ご飯のバリエーションがめっちゃ増えるっ!くぅ~~~~っ、待っててね!お米ちゃんっ!!」

ぐっすり眠った子供達が起きないからと言って、一人でガッツポーズをしながら叫んでしまうくらい、今のあたしはテンションが高かった。

「ふむ。その“おこめ”とやらは“みそしる”と合うのか」
「もちろんっ!白いお米にお味噌汁は和食の鉄板だもの!!・・・って、え?」

見知らぬ声に思わず返答したものの、至近距離からエルやセイル達ではない声が聞こえて、思わず警戒し振り返る。

「あなたは・・・」
「我は漆黒の闇から覚醒した。今我が力を解き放ち・・・――――」
「えっと、起きたばかりって事ですよね。おはようございます・・・もう夜中ですけど」

振り返った先にいたのは、雷の精霊王様であるライムントさんだった。
いつの間にか隣にいて、不思議なポーズを取ったままあたしに話しかけてきた。
言葉の内容から今しがた起きたみたいだけど、すでに中二病全開である。

「ライムントさんは、どうしてここに・・・」

(ぐぐぅぅ~きゅるる・・・)

「・・・お腹が空いたんですね。ちょっと待っててください」

あたしは自分の魔法袋の中から、先日少しだけ手に入れたお味噌で作った試食用のサバの味噌煮の残りと、お肉たっぷりのサンドイッチをライムントさんに渡した。
確かお味噌汁にすごく思い入れがあるって言ってたから、これも好きだよね?

「これは・・・?」
「サバの味噌煮・・・じゃなくて、この世界ではマクレのゾーヤ煮か。お味噌汁と同じ材料を使ってるんです。でもそれだけじゃ足りないだろうから、このサンドイッチもどうぞ」
「・・・」

少し驚いた顔をしながら無言で受け取り、そのまま静かに食べ始めたライムントさんは、恐る恐るサバの味噌煮を口にすると、一瞬驚いた顔をしてからパクパクと一気に食べ進めた。

様子を見ていようと思ってたけど、ベッドで眠っているリリアのぐずる声が聞こえたので、慌ててベッドへと向かった。

「んみゅ、まま・・・リリたん、どちたの?」
「あ、ごめんねサクラ、起こしちゃったね。リリアがちょっとぐずっちゃって・・・でもママがみてるから、まだ寝てて良いよ」
「ん、だいじょぶなの。くーも、リリたん、よしよしするのよ。おねーたんだもの」
「ふふっ、ありがとう」

あたしはぐずっているリリアを抱っこして、一緒に起きてしまったサクラと一緒にベッド横のソファに座り、リリアをあやしていた。

本来ならば、ライムントさんが来た時点でエルやセイルに伝えるべきだったのに、あたし達家族の日常は精霊の王様と普通に過ごすことが多いから、ついそれをおろそかにしてしまった。


ライムントさんは、あたし達の仲間の精霊王様ではないのに・・・―――――――


「・・・この味、懐かしい。タモツが作る味に似ている・・・欲しい、欲しいぞ・・・」


渡したサンドイッチと少量のサバの味噌煮を食べ終えたライムントさんは、ゆっくりと立ち上がりあたしとサクラのいる方へと歩いてきた。

「あ、ライムントさん、食べ終わったんですね。お腹いっぱいになりましたか?」
「ままぁ、このおじちゃ、だえ?」
「えっと・・・ライムントさんっていって、セイルが話してた・・・」
「あ!へんじん!!」
「ん~、間違ってはいないけど、その覚え方はちょっと・・・――――」
「お前を見つけるために、幾千年の時を経てここに来た・・・光栄に思え、お前を我が眷属けんぞくとしてやろう」
「・・・へ?」

幾千年も何も、たまたま偶然少し前に会ったばかりなのにとか、眷属ってなんだ?とツッコみたかったけど、そういう前にライムントさんが何かの魔法をあたし達に向かって放たれていた。


”危ないっ!!”と思って、あたしがとっさにリリアとサクラをかばうように抱きしめると、目も開けていられないくらいの眩い光に包みこまれ、その光がだんだん弱くなっていくのを感じたとき、遠くで誰かの叫び声が聞こえたような気がした・・・――――――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)
恋愛
※連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』のお兄様IFルートになります。 侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは五歳の春。前世の記憶を思い出し、自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付いた。思い出したのは自分にべた甘な兄のお膝の上。ビアンカは躊躇なく兄に助けを求めた。そして月日は経ち。乙女ゲームは始まらず、兄に押し倒されているわけですが。実の兄じゃない?なんですかそれ!聞いてない!そんな義兄からの溺愛ストーリーです。 ※このお話単体で読めるようになっています。 ※ひたすら溺愛、基本的には甘口な内容です。

処理中です...