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11章 双子、失踪事件

ようやく入った目撃情報

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「エル・・・それ、ホントなの?」
「・・・あぁ。先ほどマデリーヌが念話で伝えてきた。レヴィンやユーリの元へ、王都の南西にあるキュリウスの領主から早馬で知らせがあったと言うから間違いないだろう」
「そんな・・・」


レオンやサクラの捜索が難航している最中、あたし達に入ってきた情報はあまり喜ばしい内容ではなかった。

・スルト村から行商人の荷馬車に潜り込んで、村を出た可能性が高い
・国内外から大小様々な行商人が行き交うため、どこに向かったのか見当がつかない

そして、ようやく入ってきた有力な二人の目撃情報は、ならず者に襲われた行商人親子が遭遇したという双子の話。

これは間違いなくレオンとサクラの事だろう。
行商人親子の話では、平和な街道で普段なら遭遇しないならず者に遭遇したようだ。
幸い怪我もなく、金銭も荷物も盗まれることはなかったが、「“黒”が荷馬車に紛れてたからならず者に遭遇したんだ!」と豪語していたらしい。

ガルドニア国内でも海沿いの田舎から行商に来ていた親子は、王都近郊と違って”黒”に対しての畏怖や差別を当然の事のように思っており、現在王族や王都を中心に差別撤廃運動をしている事など知らなかったようだ。

レオンやサクラが何をしたのか、そしてその人達がサクラに対してどんな事を言ったのか、容易に想像できてしまいやるせなさが募る。

「・・・サクラ、きっと酷い事言われたよね。行商人さん達を助けようとしただけなのに・・・」
「可能性は高いだろうな。”黒”についての差別があることは一応教えているが、さすがにまだ理解できる年齢ではない」
「でも、ミナトやカイトの言い付けをちゃんと守って、縄でぎゅーに留めたみたいで偉いよね♪ボクなら迷わず消しちゃったと思うよ☆・・・ま、行商人の父親の方をボコボコにして縄でぎゅーしたのはレオンだろうけど♪」
「サクたんをいじめる悪い奴なんて、ぷっちんでいいのよ・・・」
「ミナト、気持ちはわかるけど加護者であるおねーさんに直接関わってない人間に手をかけるのは、さすがに制約に反するよ」
「サクたんが傷つくと、サーヤままがいっぱい泣くの。理由はこれだけで充分なのよ・・・」
「あ、それもそうだね。じゃあ僕も協力す・・・―――――」
「ミナトちゃんっ、カイトくんっ、気持ちは嬉しいけどそれはやっちゃいけませ――――んっ!!!」

危ない危ない。
あたしの涙やサクラの辛い経験一つで、見ず知らずの行商人さんがまた危険な目に遭うところだった。

精霊さん達は、加護者以外の人間に必要以上に関わっちゃいけないという制約があるみたいだけど、何かしら理由があれば大丈夫ってホントにそれでいいの?制約としてどうなの??


いつかサクラも”黒”についての差別を目の当たりにするだろうとは思ってたけど、何もそばで抱きしめてあげられないこんな時じゃなくてもいいのに・・・

「エル。あたし、サクラの好きなお菓子作ってくるね」
「サーヤ?」
「ホントは、今すぐにでも探しに行って、見つけたら思いっきり抱きしめてあげたいけど、あたし一人が飛び出したトコロで余計なトラブルにしかならないから・・・」

エルが前に言ってくれた通り、あたしにできることは魔法袋のお菓子や食事をちゃんと食べてるレオンやサクラのために、好きなモノを作って入れておくことだ。

少しでも、傷ついたサクラやそばにいるレオンの励ましになれば良いな・・・


「俺は帰ってきた双子が今後迷子にならないよう、場所が大まかにわかるシールド付きの装飾品を作りながらサーヤとリリアとこの家にいるから、何か進展があれば念話で知らせてくれ」
「念話で良いの?直接知らせない方が良い?」
「まずは念話でサーヤに知らせろ。・・・リリアの授乳中に来られても待たせるだけだからな」
「ふ~ん・・・」

・・・やめて、セイル。
”どうせお前らボク達がいない間にナニかしてるんだろ?”的な、そんな目で見ないで。
念話で知らせろって言ったのはエルなんだから、言いたい事があるならエルに言ってよっ!!

素直に返事をしてくれるミナトちゃんとカイトくんは、ホントになんて良い子なんだろう。

「ぇいー、あぷー」
「わかったよ、リア☆ボクはちょっとお出かけしてくるから良い子で待っててね♪」
「ぁうー、んだっ」
「ありがと☆じゃあ行ってくるね、リア♪」

え?セイルってば、今リリアが言ったこと理解した上で会話してたの??
母親のあたしでさえまだリリアと意思疎通や会話が難しいのに、セイルはわかるとでも言うんだろうか?

「サーヤまま、あたし達も行ってくるの」
「僕の転移魔法だと、よくわからない場所への転移はどこに行くかわからないから、とりあえずお城にいるマデリーヌの所に行ってみるね」
「うん、ありがとう。ミナトちゃん、カイトくん。気を付けてね」


セイル達を見送ると、家のリビングにはエルとあたしとリリアの三人だけになった。
いつもなら庭やリビングで楽しそうに遊ぶレオンやサクラ、ミナトちゃん達の声が聞こえてくるので、それが聞こえない今はなんだか少しだけ寂しく感じる。

「・・・サクラ、大丈夫かな。泣いてないかな?」
「まぁ、ショックを受けて最初は泣いているだろうが、あいつはなんだかんだ強い子だ。レオンもいるし、泣いたままでいる奴ではないだろう」
「ふふっ、そうだね」
「まぁー、ぱぁー」
「!!・・・”まぁー”ってママのこと?”ぱー”はパパ??!!ちょっとエルっ、リリアが初めて”ママ”と”パパ”って言ってくれたよ!!」
「くそっ、どうして黒曜石の準備をしていない今なんだ?!」

寂しい気持ちやもやもやした気持ちがリリアのおかげで少し和んでから、あたしは台所でサクラが大好きな生クリームたっぷり添えたプリンアラモードと、レオンが大好きなトベーレの実を使ったタルトを作り始めた。
エルはリリアを抱っこしながらつまみ食いしたり、リリアにお菓子をあげたりしてくれている。
リリアはご機嫌なのか応援してくれているのか、手をパチパチさせながらキャッキャと笑い、常に場を和ませてくれた。

お菓子を作り終えると、エルはポケットからおもむろに銀色の四角い石を出してきた。

「これは“ギベル”という鉱石を俺と駄犬で改良し、音声のみを残すことができるようにしたモノだ。まだ試作品レベルだが、何度か使ってきちんと声は残せているから、レオンやサクラへ伝えたい事をこれに記憶させると良い」
「え?エルとベルナートさんが一緒に??いつの間に・・・」
「・・・あいつがうじうじと俺に悩み相談をしてくるから、話を聞く代わりに手伝わせた」

ベルナートさんの悩みって、間違いなくあたしへの恋愛感情云々の相談だよね。
さすがはエル様。タダで話を聞くんじゃなくて、しっかりと対価を貰ってらっしゃる・・・

それにしても、エルはホントに何でも作れちゃうすごい旦那様だ。
作れないモノなんてないんじゃない??

「エルってホントにすごいね!そのうち、携帯電話みたいな通信機器とか作っちゃいそう」
「ん?“けいたいでんわ”とはなんだ?」
「えっとね、離れた人と会話することができる通信機器みたいなものだよ。前いた世界ではほとんどの人が持ってたんだ」
「なん、だと・・・?!離れた相手と会話とは、念話みたいなモノか?」
「あ、確かに近いモノはあるかも!でも、念話って加護を貰っている精霊王様としかできないよね?携帯電話は、同じモノを持ってる人なら誰とでも会話できるんだよ」
「なっ??!!・・・誰とでも、だと?!サーヤっ、その“けいたいでんわ”とやらについて、もっと詳しく聞かせろ!!」
「え?でも、レオン達にお菓子作った後、晩ご飯の準備が・・・」
「普段からたくさんストックしてるのだから、今夜は魔法袋にあるもので済ませば良かろう。ほら、まずはレオンやサクラへの言伝と菓子を早く渡してやれ」
「あ、はい・・・」


すっかり“携帯電話”という未知の機器に興味津々となってしまったエルは、あたしから聞いた言葉で何かを閃いたらしく、「すまん、今夜は研究室でやりたい事があるからリリアを頼む。何人も入れぬよう結界を強固にしておいた」と言って研究室へと籠ってしまった。

いや、別にいいんだけどね。
でも、何人たりとも部屋に入れない結界って、あたしとリリアを閉じ込めてるだけじゃない?
別に寝室から出るつもりないから良いんだけどさ。


そんな感じで、珍しくその日は隣にエルがいない夜を過ごしたのでした。
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