上 下
382 / 512
11章 双子、失踪事件

かくれんぼ、スタート

しおりを挟む


今日は家族でスルト村に来ている。
ココットさんの代わりにカルステッドさんがお店を取り仕切っている事以外は、以前とさほど変わらない。

「じゃあ、必要なモノは仕入れでき次第エリュシオン様に連絡するから待っていてくれ」
「はい、いつもありがとうございます」

ココットさんのお店では、現在ガルドニア国内にある塩、コショウ等の調味料や市場には売っていない食材、メラニウム王国にある特産品や調味料などをカルステッドさんやアレク兄様が商会の人達と協力して購入できるようにしてくれている。
中にはモニカがエルフの村交渉したキーファ茶や工芸品もあるので、商会はどんどん支店や働く人数が増えて大きくなっているのだとか。

ちなみに、以前エルがリンダとアルマさんにお願いした任務・・・というかお使いのおかげで、あたしが求めていたお米は“リーズ”という名前でフェイフォンで生産されているモノだという事もわかったのだが、まだ取引相手などが決まっておらず物流するまでには至っていない。
基本的に自分の目で見たモノしか信用しないアレク兄様が直接会って交渉する予定なので、お米も「そのうち現地へ行って取引相手を探して、ついでに家も探してくるね」と言っていた。

ついでの内容がおかしいと言いたかったけど、エルまでもが「あぁ、メラルダのような家だったら即押さえておけ」と平然と返している辺り、“非常識=常識”はあたしだけに限った話じゃなくなってきている。


そんなこんなで、スルト村でもいろんなものが購入できるようになり、村なのにその辺の町よりも賑わっているというおかしな村になってしまった。

もちろん、物流が増えたことで人の出入りも増えたため、治安にもかなり力を入れているようだ。
この村の役人さんや、男性女性問わず希望者に関しては、カルステッドさんやキャロさんなどがビシバシ鍛えているため、だいたいの老若男女は護身術から人によって小隊長並の実力をつけているとリンダに聞いたことがある。
・・・おかしい。この村はいったい何を目指してるんだろう?
あたしの周りの非常識が村にまで影響しているのは絶対気のせいじゃないよね?

カルステッドさんと話ながらふと店の中を見ると、懐かしいモノを見つけて思わず立ち止まってしまった。

「ん?どうしたんだ、サーヤ」
「・・・この柱の凹み、初めてキャロさんと会った時にココットさんが誤って柱に頭をぶつけてできたキズなんです・・・」

この世界でエルに出逢って、初めて連れて来てもらったこの村で初めで出会ったココットさん・・・
オカマという強烈なキャラだったけど、とても良い人柄ですぐに打ち解けることができ、時には相談にも乗ってくれた大切な人だった。

「あ、あぁ・・・そんな事もあったな・・・」
「え?カルステッドさんもご存知なんですか?」
「あ、いや・・・ココットがそんなことを言ってたなぁと・・・」

急に会えなくなったと思ったら、帰らぬ人になってしまって本当に悲しかったけど、あたしは今でもココットさんのこと忘れません。
これからもずっと・・・――――――

「サーヤちゃぁん♡リリアちゃんにこ~んな洋服作ってみたんだけど、どうかしらぁん?」
「あ、キャロさん。どんな洋服ですか?」
「カルステッド、以前作った魔道具の販売状況を確認したい。奥で話せるか?」
「かしこまりました。リンダ、店番は頼んだぞ」
「はーい、了解です!」
「レオン、サクラ、少しの間お店の中の物見てて。欲しいモノがあったら後でパパに聞いて、OKもらえたら買ってあげるからね」
「「はいなの」」

エルはカルステッドさんとお仕事の話で店の奥の部屋へ行き、あたしはキャロさんにリリアの洋服を見せてもらうため、声をかけてから少しだけ双子から目を離した。
リンダがさりげなく双子の様子を見てくれてたけど、お客さんが来たことで接客がメインとなり見ていることが困難となってしまう。

「・・・キャロ、リリたんのふくつくったんだ・・・」
「まえは、ボクたちのふく、いっぱいつくってくれたのに・・・」
「ノンたんも、フラたんも、みんなリリたんばかりなの・・・」
「ミーたんや、カイたんもだよ・・・」

店内をとぼとぼ歩きながら会話をしていたレオンとサクラは、だんだん歩みが遅くなり終いにはしゃがみ込んでいじけてしまった。

「ままも、リリたんのおかしばっかとくべつ・・・くーのプリン、しろいのでいっぱいにしてくれないの・・・」
「みんな、ボクたちのこと、いらなくなっちゃったの・・・ふぇ、そんなの、やだぁ・・・」
「うぅ・・・そんなこと、ないっ、も・・・ふぇぇ・・・」

双子達が店内でしゃがみ込んで泣いている姿は、ちょうど死角になっている場所だったこともあり、あたしやキャロさん、リンダも誰も気づかない。
そして、急にリリアが泣き出した事であたしはさらにリリアにかかりっきりになってしまった。

「・・・ないてるボクたちより、ままはリリたんのほうが、だいじなのかな・・・?」
「ヒック、もうリリたんなんてしらない!くーたちをみてくえない、ままたちもしらないっ!!うぅ~~~~っ」
「くー、なかないで。ボクも、ボクもいるっ、からぁ・・・ふぇ」
「ッグズ、うん、あたしには、レオたんいるの。レオたんにも、くーが、いるのよ」
「ん、ボクたち、ままのおなかにいたころから、ずっといっしょ。これからも、いっしょなの」

互いに共感し励まし合う二人は、ひとしきり泣いた後で二人なりにこれからどうしたら良いかを考えた。

「ね、レオたん。どうしたら、リリたんみたいに、またいいこいいこしてもらえるかな?」
「んー・・・ままは、リリたんがなくとビックリして「どうしたの?」ってなるよね・・・」
「むぅ、くーはもう、なきむしじゃないの、“れでー”なのよ」
「ボクも、つおいおとこだもん!」
「「・・・」」

先程まで泣いていたことがなかったかのように会話を続ける二人に、“双子は店内で大人しくしている”と信じている大人達は一向に気付く様子はない。

「・・・ボクたちがいなくなったら、ままたちビックリするかな?」
「!!」
「おにわで、かくれんぼするみたいに、ここでかくれんぼしたら、ボクたちのこと、さがしてくれるかな?」
「かくれんぼは、おにさんがみつけるまでおわらないも!まま、いつもおにさんだからきっとさがしてくれゆよ!」
「でも、ここはかくれるばしょないよ?おそといく?」
「ん~、でもあのドア、あけれないよ?それに、でるときにおにさんにみつかっちゃう・・・」
「ボクね、アルにーにから、“おんみつのじゅつ”おしえてもらったの。それだとみつからないよ!」
「あ、レオたん。いまドアがあいたの!でるならいまなの!!」


こうして二人は、レオンの隠密術であたし達に気付かれることなく、買い物を終えたお客さんの後に続いて店を出ることに成功した。

あたしは、奥の部屋で商談をしていたエルが血相を変えて出てくるまで、二人が店内からいなくなったこと自体に気付かなかった・・・――――――――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)
恋愛
※連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』のお兄様IFルートになります。 侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは五歳の春。前世の記憶を思い出し、自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付いた。思い出したのは自分にべた甘な兄のお膝の上。ビアンカは躊躇なく兄に助けを求めた。そして月日は経ち。乙女ゲームは始まらず、兄に押し倒されているわけですが。実の兄じゃない?なんですかそれ!聞いてない!そんな義兄からの溺愛ストーリーです。 ※このお話単体で読めるようになっています。 ※ひたすら溺愛、基本的には甘口な内容です。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】悪役令嬢を犯して罪を償わせ性奴隷にしたが、それは冤罪でヒロインが黒幕なので犯して改心させることにした。

白濁壺
恋愛
悪役令嬢であるベラロルカの数々の悪行の罪を償わせようとロミリオは単身公爵家にむかう。警備の目を潜り抜け、寝室に入ったロミリオはベラロルカを犯すが……。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

処理中です...