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10章 延引された結婚式
※番外編※ 会わせたくなかった二人2
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◇
聖獣様の声がする方に振り返ったら、目の前にいたのは見た事がない褐色肌に白銀の髪をなびかせ金色の瞳をした超絶美形の男性でした・・・―――――――
「・・・えっと、どなたですか?」
「ん?おぉ、この姿を見せるのは初めてであったか。本来の姿は白銀の獅子だが、それだと人里に行けぬし、あのままでは茶を入れる事もできぬ故こうして人の姿に変化しているのよ」
「・・・まぁ。駄犬が犬に変身できるのだからそこまで驚く事でもないな」
「あ、確かに身近にもいたね、変身する人」
人・・・というか闇の精霊王様だけど。
しかも、最近子供達と遊んでる時は大体わんこ状態だから、そっちが定着しつつあるという・・・
「ふむ、ユキとは違って主らは反応が薄いのう。何だかつまらぬ」
「えっと、なんかすみません・・・って、そうじゃなくて!聖獣様はあたしの旦那様にナニをしてくれちゃったんですかっ!事と次第によっては・・・」
「くくっ、エリュシオンには何もしておらぬよ。奴自身にはな」
「??」
「ふっ、久しぶりの客だから菓子も作ったのだ。まずはコレでも食べて落ち着け、サーヤ」
「・・・はい。じゃあお言葉に甘えて・・・」
聖獣様が用意してくれたのは、エルフの里でも飲まれているキーファ茶と、森で採れた木の実で作ったジャムを添えたパンケーキだった。
蜂蜜の甘さとジャムの甘酸っぱさが絶妙ですごく美味しい。
「すっごく美味しいです!これ聖獣様が作ったんですか?!」
「あぁ」
「ん~、ジャムを付けたらまたコレはコレで美味しい!!うちでも作りたいね!エル!」
「あぁ。やわらかくふんわりとした見た目もさることながら、口に入れた瞬間溶けるように程よい蜂蜜の甘さが口の中に広がる・・・そして、このジャムを付けるとちょうど良い酸味が甘みとケンカすることなく融合しているな・・・」
エルの食レポは相変わらず素晴らしく的確だ。
これだけ絶賛しているという事は、相当気に入ってるんだろうね。
「ふっ、そこまで喜ばれるのは嬉しいモノだな。このパンケーキもユキが好きでいろいろ改良に改良を重ねて作り上げたものだ。今日は主らが来るし久しぶりに食べようと作っておいたのよ」
そう言って微笑む聖獣様は、どことなく嬉しそうだけど少し寂し気で、言われなくても“ユキさん”という方をとても大事にしてたんだなというのがわかる。
「その“ユキさん”という方はどういう方だったんですか?」
「・・・そうだな、ユキはとにかく明るく元気な奴だった。初めて会った時はあまりにもユキが興奮して叫んでばかりいたから、なかなか会話にもならなくてな・・・」
お茶を飲みながら懐かしそうにユキさんについて語る聖獣様は、セイルがリナリアさんについて語るのと同じように嬉しそうで幸せそうな顔をしていて、こっちまで幸せな気持ちになってくる。
話を聞きながらエルの手をきゅっと握り、2人で微笑ましく聖獣様を見ていたら、急に聖獣様が真剣な顔で見つめてきたので、思わずあたしもエルも姿勢を正してしまった。
「・・・時にサーヤよ。おぬし、“びーえる”は好きか?」
「・・・へ?」
えっと、今聞き間違いじゃなければ“びーえる”って・・・
もしかして、もしかしなくても“BL”の事??!!
一体なんでこんな質問を・・・って、慌ててエルの方を見るとエルがそっぽ向いたままお茶を飲んでいる。
・・・なるほど、ユキさんはBLが好きで、聖獣様はそのユキさんからの影響を受けてるって事なのね。
「えっと、“びーえる”というのは“BL”と書いて“ボーイズラブ”というモノで合ってますかね?」
「おぉ、そこまでわかるとはさすがだな!まさにその通りだ!!ユキが教えてくれた我の知らない異世界の知識であり、素晴らしき文化なのだ」
ちょっと待て。
ユキさんって方は異世界の、しかもこの世界では伝説といわれている聖獣様に何てモノを教えてるの??!!
思わずエルの方を顔を向けると、エルは“まさかお前も”びーえる“が好きとか言わないよな?”的な瞳であたしを見ている。
いやいやいや、待って!誤解だから!!あたしはいたってノーマルだからぁぁぁぁぁ!!!!
「BLは嗜む程度に知ってますが、あたし自身は同性ではなく異性が好きな正常な感性の人間です!」
「む・・・ユキも同じような事を言っておったな。それに、実際の同性同士の恋人は見たことがないと・・・主らの世界でも”びーえる”は貴重な存在なのだな・・・」
「えっと、はい・・・そうですね・・・」
どうしよう。
だんだんどんな反応して良いかわからなくなってきた・・・
「だが安心するが良い!この“びーえる”という尊い文化は、ユキの代わりに我が広めてやる!」
「え?」
「以前ルーシェントが「エルフの里に本物の“びーえるがいる”と言って、実際に連れて来てくれてな」
「えぇぇ??!!」
「ふふっ、ユキならば「幼馴染萌え!薄幸の美少年最高!!」と鼻血を出していたに違いない美丈夫の組み合わせでな、結婚式には我も立ち会うつもりでいるのだ」
「えぇぇぇぇぇ~~~~~~???!!!」
ナニこれ、ナニコレ!!思った以上にがっつりBLにドハマりしていらっしゃった!
・・・というか、エルフの里を巻き込んで何て事をしてるの聖獣様!!!!
エルに助けを求めようと思ったら、静かに首をフルフルと振っている。
なんだろう・・・“もう手遅れ”って言いたいの?
エルフの里はそれで良いの??
「ちなみに、エルフの里には他にも“びーえる”がいるようだし、女同士の組み合わせである”百合”もいるようだ」
「聖獣様、”百合”までご存じなんですか・・・?」
「あぁ。”びーえる”と共にユキに教わったからな。だが、言葉を知っていても意味までは覚えていないのだ。いくら広めたくても言葉の意味がわからないとどうにも説得力が弱い。サーヤ、それぞれの意味は知っているか?」
「意味・・・正しいかどうかはわかりませんが、”BL”は”ボーイズラブ”と言って、あたしの国の言葉で”ボーイ”という少年を表す言葉と複数形の”ズ”を付け、愛するという意味の”ラブ”を組み合わせた事で”愛し合う少年達=ボーイズラブ”と・・・」
「なんと!!そんな深い意味があったのか!!!異世界には不思議な言葉がたくさんあるのだな!ならば”百合”はどういう意味なのだ??!!」
「えっと“百合”は、女性同士の恋愛を百合という花のイメージに見立てたからと・・・」
(バシッ)
「ぁいたっ、エル?ビックリした、急になに??」
「(ビックリしたのはこっちだバカがっ!なぜそこまで精通している!!)」
「(いや、知識として普通に知ってるだけで・・・)」
「(なに?!誰しも普通に知り得る知識だというのか?!はぁ、・・・とにかくこれ以上余計な情報を与えるな。興味を持たれ過ぎたら面倒なことになるぞ!)」
「!!!!」
条件反射でつい普通に答えてしまったけど、エルの指さす方向を見てうっかり答えてしまった事に後悔した。
聖獣様がすごく嬉しそうな満身の笑顔であたしを見ている。
これは、もしかしなくても教えなくても良い情報まで教えてしまったのではないだろうか。
エルも嫌々ながら少しくらいはって我慢してくれてたから、あたしも早く切り上げて帰る気満々だったのに、今の聖獣様は「もっと話を聞かせろ」と瞳で訴えているのがあたしにもわかる。
「なるほどなるほど、女同士は“百合”と言う花を連想しているのか・・・なんとも美しい表現!やはりユキの教えてくれた文化は素晴らしい!!」
「いやいや、“百合”はモノの例えです!正確には“GL”と書いて“ガールズラブ”と・・・んぐっ」
「バカが!これ以上余計な事を言うな!!」
「ご、ごめんなさひ・・・」
「ふむ・・・“びーえる”が男同士で、“じーえる”が女同士・・・ユキ、お前が好きだった文化を今日はこんなにも知る事が出来た・・・こんなに嬉しい事はない・・・!!」
・・・どうしよう。
聖獣様が本気で嬉しそうに・・・え、ちょっと待って!涙まで浮かべてる??
困惑しながらエルと聖獣様を交互に見てたら、聖獣様は急にガシッとあたしの手を握ってきた。
「サーヤ!!」
「ふぁいっ!!」
「お主はユキと同じ立派な“腐女子”なのだな。ユキの仲間に出逢う事ができて嬉しいぞ!」
「いやいやいやっ、確かに“BL”も“GL”も知ってますけど、あたしはエルという素敵で大好きな異性の旦那様がいますからっ!!」
「ふむ、確かにサーヤにはエリュシオンがおるな。・・・だが異性が好きならば、雄である我もサーヤの番になれるということか・・・」
「「・・・は?」」
聖獣様のあまりの発言に、思わずエルと声が重なってしまった。
「ユキはとても恥ずかしがり屋でな。“リア充無理です!ドントタッチミー!”などと意味不明な事を言って、我と番う事を最初は拒否していた。・・・最終的には落としたが、それでも共に生き続ける事を望んではくれなかった・・・」
「聖、獣様・・・?」
あれ?ユキさんって聖獣様と想い合ってたんじゃないの?
落としたってどういうこと??
「サーヤよ、もっと我に異世界の知識を教えてくれ。さすれば我がこの世界についてなんでも教えてやるぞ。この世界で"びーえる"という新しい文化を共に広げていこうではないか」
「いやいやいや、無理ですっ!あたしにはエルという大事な旦那様もいるし、家族だって・・・」
「そんなものは我とだっていくらでも作れるぞ。・・・すでにエリュシオンと命を共にしているサーヤならば我と命を共にする事にも理解はあるだろう。まずはエリュシオンとの縁を断ち切って・・・――――」
「ふざけるのも大概にしろっ!!サーヤは俺の嫁だっ、誰にも渡さぬし、これ以上誰にも触れさせぬっ!!!」
「エル・・・」
聖獣様の腕から逃れ、エルに抱き寄せられる。
先程まで温厚だった聖獣様は、言動がだんだんおかしくなり今ではすっかり雰囲気が変っている。
ゾクリと寒気までしてきたので、あたしは思わずエルにぎゅっとしがみ付いた。
聖獣様は鋭い目つきであたし達を睨みつけ、完全にこちらを見下していた。
「ふっ、たかだかハイエルフの小童が・・・威勢だけは良いようだな。やろうと思えば我の力で貴様の命だけを奪う事もたやすくできるのだぞ?それとも、以前のようにドリアードを使って貴様の身体をまた隅から隅まで凌辱し尽くしてやろうか?今度は本体でな・・・くくくっ」
「え・・・?」
「!!!・・・っ、貴様ぁっ!!!・・・っぐぅ」
聖獣様は金色の瞳を光らせ、触れてもいないエルの動きを封じたまま言いたい放題だ。
しかも、今なんて言った?
以前ノヨウニ貴様ノ身体ヲ隅カラ隅マデ凌辱シテヤロウカ・・・?今度ハ本体デ・・・??
その言葉で、なぜエルが聖獣様の元へ来たくなかったのか、何を隠したがっていたのか、あたしと命を共にするためにナニをしたのか、あたしはすべて理解してしまった・・・
嘘、そんな事があったなんて・・・――――――――
「・・・最低・・・」
「・・・っ、サーヤ?」
人間本気で怒る時は、怒鳴り散らすのではなく逆に静かになると聞くが、どうやら本当らしい。
自分で自分の事をそう分析できるくらい冷静だけど、今のあたしは本気で怒っている。
「くくっ、そうであろう?此奴は分身体だがドリアードの触手に穴という穴を犯しつくされ穢されて・・・」
(バシィィィィンッ)
「最低なのはあなたですよっ!聖獣様っ!!」
エルをさらに侮辱する言葉に完全にキレたあたしは、目の前にいた聖獣様の頬を思いっきり引っぱたいていた。
-------------
※次話からドタバタギャグ展開の予定です←
聖獣様の声がする方に振り返ったら、目の前にいたのは見た事がない褐色肌に白銀の髪をなびかせ金色の瞳をした超絶美形の男性でした・・・―――――――
「・・・えっと、どなたですか?」
「ん?おぉ、この姿を見せるのは初めてであったか。本来の姿は白銀の獅子だが、それだと人里に行けぬし、あのままでは茶を入れる事もできぬ故こうして人の姿に変化しているのよ」
「・・・まぁ。駄犬が犬に変身できるのだからそこまで驚く事でもないな」
「あ、確かに身近にもいたね、変身する人」
人・・・というか闇の精霊王様だけど。
しかも、最近子供達と遊んでる時は大体わんこ状態だから、そっちが定着しつつあるという・・・
「ふむ、ユキとは違って主らは反応が薄いのう。何だかつまらぬ」
「えっと、なんかすみません・・・って、そうじゃなくて!聖獣様はあたしの旦那様にナニをしてくれちゃったんですかっ!事と次第によっては・・・」
「くくっ、エリュシオンには何もしておらぬよ。奴自身にはな」
「??」
「ふっ、久しぶりの客だから菓子も作ったのだ。まずはコレでも食べて落ち着け、サーヤ」
「・・・はい。じゃあお言葉に甘えて・・・」
聖獣様が用意してくれたのは、エルフの里でも飲まれているキーファ茶と、森で採れた木の実で作ったジャムを添えたパンケーキだった。
蜂蜜の甘さとジャムの甘酸っぱさが絶妙ですごく美味しい。
「すっごく美味しいです!これ聖獣様が作ったんですか?!」
「あぁ」
「ん~、ジャムを付けたらまたコレはコレで美味しい!!うちでも作りたいね!エル!」
「あぁ。やわらかくふんわりとした見た目もさることながら、口に入れた瞬間溶けるように程よい蜂蜜の甘さが口の中に広がる・・・そして、このジャムを付けるとちょうど良い酸味が甘みとケンカすることなく融合しているな・・・」
エルの食レポは相変わらず素晴らしく的確だ。
これだけ絶賛しているという事は、相当気に入ってるんだろうね。
「ふっ、そこまで喜ばれるのは嬉しいモノだな。このパンケーキもユキが好きでいろいろ改良に改良を重ねて作り上げたものだ。今日は主らが来るし久しぶりに食べようと作っておいたのよ」
そう言って微笑む聖獣様は、どことなく嬉しそうだけど少し寂し気で、言われなくても“ユキさん”という方をとても大事にしてたんだなというのがわかる。
「その“ユキさん”という方はどういう方だったんですか?」
「・・・そうだな、ユキはとにかく明るく元気な奴だった。初めて会った時はあまりにもユキが興奮して叫んでばかりいたから、なかなか会話にもならなくてな・・・」
お茶を飲みながら懐かしそうにユキさんについて語る聖獣様は、セイルがリナリアさんについて語るのと同じように嬉しそうで幸せそうな顔をしていて、こっちまで幸せな気持ちになってくる。
話を聞きながらエルの手をきゅっと握り、2人で微笑ましく聖獣様を見ていたら、急に聖獣様が真剣な顔で見つめてきたので、思わずあたしもエルも姿勢を正してしまった。
「・・・時にサーヤよ。おぬし、“びーえる”は好きか?」
「・・・へ?」
えっと、今聞き間違いじゃなければ“びーえる”って・・・
もしかして、もしかしなくても“BL”の事??!!
一体なんでこんな質問を・・・って、慌ててエルの方を見るとエルがそっぽ向いたままお茶を飲んでいる。
・・・なるほど、ユキさんはBLが好きで、聖獣様はそのユキさんからの影響を受けてるって事なのね。
「えっと、“びーえる”というのは“BL”と書いて“ボーイズラブ”というモノで合ってますかね?」
「おぉ、そこまでわかるとはさすがだな!まさにその通りだ!!ユキが教えてくれた我の知らない異世界の知識であり、素晴らしき文化なのだ」
ちょっと待て。
ユキさんって方は異世界の、しかもこの世界では伝説といわれている聖獣様に何てモノを教えてるの??!!
思わずエルの方を顔を向けると、エルは“まさかお前も”びーえる“が好きとか言わないよな?”的な瞳であたしを見ている。
いやいやいや、待って!誤解だから!!あたしはいたってノーマルだからぁぁぁぁぁ!!!!
「BLは嗜む程度に知ってますが、あたし自身は同性ではなく異性が好きな正常な感性の人間です!」
「む・・・ユキも同じような事を言っておったな。それに、実際の同性同士の恋人は見たことがないと・・・主らの世界でも”びーえる”は貴重な存在なのだな・・・」
「えっと、はい・・・そうですね・・・」
どうしよう。
だんだんどんな反応して良いかわからなくなってきた・・・
「だが安心するが良い!この“びーえる”という尊い文化は、ユキの代わりに我が広めてやる!」
「え?」
「以前ルーシェントが「エルフの里に本物の“びーえるがいる”と言って、実際に連れて来てくれてな」
「えぇぇ??!!」
「ふふっ、ユキならば「幼馴染萌え!薄幸の美少年最高!!」と鼻血を出していたに違いない美丈夫の組み合わせでな、結婚式には我も立ち会うつもりでいるのだ」
「えぇぇぇぇぇ~~~~~~???!!!」
ナニこれ、ナニコレ!!思った以上にがっつりBLにドハマりしていらっしゃった!
・・・というか、エルフの里を巻き込んで何て事をしてるの聖獣様!!!!
エルに助けを求めようと思ったら、静かに首をフルフルと振っている。
なんだろう・・・“もう手遅れ”って言いたいの?
エルフの里はそれで良いの??
「ちなみに、エルフの里には他にも“びーえる”がいるようだし、女同士の組み合わせである”百合”もいるようだ」
「聖獣様、”百合”までご存じなんですか・・・?」
「あぁ。”びーえる”と共にユキに教わったからな。だが、言葉を知っていても意味までは覚えていないのだ。いくら広めたくても言葉の意味がわからないとどうにも説得力が弱い。サーヤ、それぞれの意味は知っているか?」
「意味・・・正しいかどうかはわかりませんが、”BL”は”ボーイズラブ”と言って、あたしの国の言葉で”ボーイ”という少年を表す言葉と複数形の”ズ”を付け、愛するという意味の”ラブ”を組み合わせた事で”愛し合う少年達=ボーイズラブ”と・・・」
「なんと!!そんな深い意味があったのか!!!異世界には不思議な言葉がたくさんあるのだな!ならば”百合”はどういう意味なのだ??!!」
「えっと“百合”は、女性同士の恋愛を百合という花のイメージに見立てたからと・・・」
(バシッ)
「ぁいたっ、エル?ビックリした、急になに??」
「(ビックリしたのはこっちだバカがっ!なぜそこまで精通している!!)」
「(いや、知識として普通に知ってるだけで・・・)」
「(なに?!誰しも普通に知り得る知識だというのか?!はぁ、・・・とにかくこれ以上余計な情報を与えるな。興味を持たれ過ぎたら面倒なことになるぞ!)」
「!!!!」
条件反射でつい普通に答えてしまったけど、エルの指さす方向を見てうっかり答えてしまった事に後悔した。
聖獣様がすごく嬉しそうな満身の笑顔であたしを見ている。
これは、もしかしなくても教えなくても良い情報まで教えてしまったのではないだろうか。
エルも嫌々ながら少しくらいはって我慢してくれてたから、あたしも早く切り上げて帰る気満々だったのに、今の聖獣様は「もっと話を聞かせろ」と瞳で訴えているのがあたしにもわかる。
「なるほどなるほど、女同士は“百合”と言う花を連想しているのか・・・なんとも美しい表現!やはりユキの教えてくれた文化は素晴らしい!!」
「いやいや、“百合”はモノの例えです!正確には“GL”と書いて“ガールズラブ”と・・・んぐっ」
「バカが!これ以上余計な事を言うな!!」
「ご、ごめんなさひ・・・」
「ふむ・・・“びーえる”が男同士で、“じーえる”が女同士・・・ユキ、お前が好きだった文化を今日はこんなにも知る事が出来た・・・こんなに嬉しい事はない・・・!!」
・・・どうしよう。
聖獣様が本気で嬉しそうに・・・え、ちょっと待って!涙まで浮かべてる??
困惑しながらエルと聖獣様を交互に見てたら、聖獣様は急にガシッとあたしの手を握ってきた。
「サーヤ!!」
「ふぁいっ!!」
「お主はユキと同じ立派な“腐女子”なのだな。ユキの仲間に出逢う事ができて嬉しいぞ!」
「いやいやいやっ、確かに“BL”も“GL”も知ってますけど、あたしはエルという素敵で大好きな異性の旦那様がいますからっ!!」
「ふむ、確かにサーヤにはエリュシオンがおるな。・・・だが異性が好きならば、雄である我もサーヤの番になれるということか・・・」
「「・・・は?」」
聖獣様のあまりの発言に、思わずエルと声が重なってしまった。
「ユキはとても恥ずかしがり屋でな。“リア充無理です!ドントタッチミー!”などと意味不明な事を言って、我と番う事を最初は拒否していた。・・・最終的には落としたが、それでも共に生き続ける事を望んではくれなかった・・・」
「聖、獣様・・・?」
あれ?ユキさんって聖獣様と想い合ってたんじゃないの?
落としたってどういうこと??
「サーヤよ、もっと我に異世界の知識を教えてくれ。さすれば我がこの世界についてなんでも教えてやるぞ。この世界で"びーえる"という新しい文化を共に広げていこうではないか」
「いやいやいや、無理ですっ!あたしにはエルという大事な旦那様もいるし、家族だって・・・」
「そんなものは我とだっていくらでも作れるぞ。・・・すでにエリュシオンと命を共にしているサーヤならば我と命を共にする事にも理解はあるだろう。まずはエリュシオンとの縁を断ち切って・・・――――」
「ふざけるのも大概にしろっ!!サーヤは俺の嫁だっ、誰にも渡さぬし、これ以上誰にも触れさせぬっ!!!」
「エル・・・」
聖獣様の腕から逃れ、エルに抱き寄せられる。
先程まで温厚だった聖獣様は、言動がだんだんおかしくなり今ではすっかり雰囲気が変っている。
ゾクリと寒気までしてきたので、あたしは思わずエルにぎゅっとしがみ付いた。
聖獣様は鋭い目つきであたし達を睨みつけ、完全にこちらを見下していた。
「ふっ、たかだかハイエルフの小童が・・・威勢だけは良いようだな。やろうと思えば我の力で貴様の命だけを奪う事もたやすくできるのだぞ?それとも、以前のようにドリアードを使って貴様の身体をまた隅から隅まで凌辱し尽くしてやろうか?今度は本体でな・・・くくくっ」
「え・・・?」
「!!!・・・っ、貴様ぁっ!!!・・・っぐぅ」
聖獣様は金色の瞳を光らせ、触れてもいないエルの動きを封じたまま言いたい放題だ。
しかも、今なんて言った?
以前ノヨウニ貴様ノ身体ヲ隅カラ隅マデ凌辱シテヤロウカ・・・?今度ハ本体デ・・・??
その言葉で、なぜエルが聖獣様の元へ来たくなかったのか、何を隠したがっていたのか、あたしと命を共にするためにナニをしたのか、あたしはすべて理解してしまった・・・
嘘、そんな事があったなんて・・・――――――――
「・・・最低・・・」
「・・・っ、サーヤ?」
人間本気で怒る時は、怒鳴り散らすのではなく逆に静かになると聞くが、どうやら本当らしい。
自分で自分の事をそう分析できるくらい冷静だけど、今のあたしは本気で怒っている。
「くくっ、そうであろう?此奴は分身体だがドリアードの触手に穴という穴を犯しつくされ穢されて・・・」
(バシィィィィンッ)
「最低なのはあなたですよっ!聖獣様っ!!」
エルをさらに侮辱する言葉に完全にキレたあたしは、目の前にいた聖獣様の頬を思いっきり引っぱたいていた。
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