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10章 延引された結婚式

※番外編※ さらに深まる二人の絆 inエリュシオンside

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セイルが帰ってから、俺とサーヤの間には微妙な空気が流れた・・・というか、正確にはサーヤの内心が聞きたい事や気になる事、先程セイルにされた事で頭がいっぱいになっているだけなのだが・・・


先程一瞬だけサーヤに別の誰かが重なって見えた。
聞き間違いでなければセイルの事を“セイ”と呼び、懐かしむように、愛おしむように見つめていたあの顔は、サーヤではなく恐らくリナリアなのだろう。

死にかけていたサーヤを夢の中で助け、サーヤと同じように異世界での前世の記憶を持っていたサーシャの祖先で“魔力の器”の持ち主。
そして、かつてセイルの恋人だったリナリア。

セイルから初めて聞いたリナリアとの馴れ初めや悲しい離別の話はかなり衝撃的で、自分の事ではないのに胸が痛んだ。
その後サーヤを交えてリナリアとの思い出話を聞かされた時、今も存在する人物のように嬉しそうに話すセイルを見て、俺も不思議と嬉しい気持ちになった。
セイルとリナリアの話に共感し、無意識に自分とサーヤに重ねていたのかもしれない。

セイルが帰り際“あの話をしろ”と言った事で俺は我に返り、どのように話を切り出そうかと考えながらサーヤの顔を見ると、さっきセイルにされた事で俺が機嫌を悪くしてないかとか、この後セイルからもらった薬を使うのかなどと考えているのか、サーヤは顔を赤くしたり青くしたりしていた。

・・・このまったく見当違いな事を考えているこいつを見ると、緊張している自分がバカらしく思えてくるな・・・

(ぐうぅぅ~~~~~)

「「!!!!」」

自分を落ち着かせるためなのか、深呼吸しようとサーヤが大きく息を吸い込もうとした瞬間、腹から空腹をアピールする間抜けな音が鳴り響いたことで少し緊張感のあった場の空気は完全に壊れ、俺は完全に毒気を抜かれてしまった。

「ぷっ、くくくっ・・・そういえば、軽食ばかりでしっかりとした飯を食べていなかったな。今作ってやるから少しそこで待っていろ」
「・・・あたしも一緒に作る。その方が早いもん・・・」
「まだ酒が残っているのではないか?無理はするな」
「大丈夫だよ。むしろいろんなお詫びも兼ねて、エルの好きなモノ作りたい・・・」
「ふっ、好きにしろ」

相変わらず予想外の事をしでかす奴だ・・・というか、サーヤ自身も予想外だったようだがな。

それから2人で台所へ行き、俺はサーヤの好きな野菜たっぷりのキッシュを、サーヤは俺の好物でもある肉の香草焼きを作り始めた。
と言っても、元々キッシュの生地も香草焼き用の肉も魔法袋や冷蔵庫に作り置きしてあるから、具材を簡単に用意して焼くだけなのでそんなに手間も時間もかからない。
キッシュに使った具材で、ついでに野菜スープも作っておく。
これで飯としては充分だし、余ればまた魔法袋に入れ、後で食べたい時に出して食べれば良い。

キッシュが焼きあがるまで少し時間ができた時、スープを仕上げている俺にサーヤがおずおずと話しかけてきた。

「ねぇ、エル。さっきセイルと話してた“あの話”って何?」
「・・・」

スープをかきまぜていた手が止まる。
俺が無言になった事で今聞くべきではない事だと思ったのか、サーヤは俺の背中にこつんと頭を付け邪魔にならないよう謝罪の意を告げてきた。

「・・・ごめん、やっぱり後でいいです・・・」

そのままキッシュの焼き加減を確認しに行こうと離れていくサーヤを、今度は俺が抱きとめた。

「あの、エル・・・まだスープが・・・」
「もう出来上がって火を止めたから大丈夫だ」
「えっと、でも、ここでするような簡単な話じゃないんでしょ?だったら後でも・・・」
「今更“食事後に”と言ったところで、お前は話の内容が気になって食事どころではなくなるのではないか?」
「う・・・」

どのみち話さねばならないのに・・・俺の迷いがサーヤに不要な不安を抱かせてしまった。
今話しても後で話しても変わらないと思った俺は、もう話してしまおうと高を括り、一度深呼吸してから話し始めた。

「・・・サーヤ、もし・・・もしも、俺と命を共にできるとしたら、お前はどう思う?」
「・・・え?」
「ハイエルフである俺の寿命をお前に分け与え、どちらかが死する時はもう片方も死ぬ・・・本当に命そのものを結びつけるという事だ」
「命を・・・結びつける・・・」
「そんな事ができるとしたら、お前はそれを望むか?・・・俺との共生を望んでくれるか?」
「・・・」

後ろから抱きしめているため、サーヤがどのような表情をしているかわからない。

困惑しているだろう。さぞ驚いていることだろう。
いや、“寿命”という生命のことわりを逸脱してまで俺と共に・・・という事に引いているだろうか・・・

思わずサーヤを抱きしめる腕が強くなる。

「・・・でも、そんな事したらエルの大切な寿命が・・・」
「俺の寿命はどんなに短くても後500~600年はある。大したことはない」
「ごろっ・・・えぇ?!エルって確か300歳超えてたよね?!エルフってそんなに長命だったの?凄すぎじゃない??!!」

先程の雰囲気をぶち壊し、「じゃあエルの見た目って何歳から変わっていくの?」とか「おじいちゃんエルフっているの?何歳から?」とか全然関係ない事ばかりを聞いてくるサーヤにいい加減腹が立ってきたので、俺は一度黙らせることにした。

(ぶにっ)
「ひひゃぃっ!ひゃひふんほひょ~~~~~っ(痛いっ!何すんのよ~~~~~っ)」
「うるさい。話が脱線しすぎだ、バカめ」
「むぅ~・・・ホントに凄いと思っただけなのに・・・」

サーヤの頬をつねった事で正面から向き合う体制となり、先程の返事を改めて聞こうにもサーヤの表情が見える事になってしまう。
返事を聞く時に表情が見えないよう後ろから抱きしめていたというのに、ここでも予定を崩されてしまった。

話は続けたいが、どうしても目を合わせたまま返事を聞くのが少し怖くなり思わず目をそらしてしまったが、それを許さんと言わんばかりにサーヤが両手で自分と向き合うよう動かそうとしてくる。

「もう、やっと向き合えたのにまた逸らす・・・こういう話はちゃんと顔を合わせて話したいの。お願い」
「・・・」

サーヤの懇願に折れた俺は、改めて目を合わせる。
そこにはさっきまでのふざけた態度は一切なく、まっすぐ真剣な眼差しで俺を見ていた。

「エルは、自分が生きるための大切な時間を分け与えてまであたしと一緒にいたいって思ってくれた・・・何度も死にかけた事がある危なっかしいあたしと、死ぬ時も一緒が良いって思ってくれたんだよね?」
「・・・あぁ、そうだ」
「・・・あたしのために、そこまで想ってくれるなんて・・・バカだなぁ・・・」
「なっ・・・バカとはなんだ!俺は・・・っ」
「確かにあたしはエルと一緒にいたい。ずっと、ず――――っと一緒にいたい。・・・でもね、エルに何かを犠牲にさせたり、リスクを負わせてまで長生きしたくないよ・・・」
「・・・っ」

悲しそうな笑顔でそう告げるサーヤの答えは、どこまでも俺の予想外の反応ばかりだ。

“重い”とか“そこまで共にしたくない”といった自分の感情ではなく、俺に犠牲やリスクを背負わせたくないだと・・・?

「俺は自分が“犠牲”になるなんて思っていない。確かにお前はいつ何をしでかすかわからない危うさはあるが、この件が無くともどんな事からも護るつもりだ。リスクだとも考えていない!」


 頼む・・・頼むから・・・


「いくら複数の精霊王達から加護を与えられて他の人間より寿命が延びていたとしても、今のままでは俺より先にお前は、いなくなってしまう・・・」


 いやだ、いやなのだ・・・


「以前俺にかけられた呪いを解くために、お前は迷いなく身体の一部を差し出した・・・俺にとって寿命を分け与えるのはそれと同じくらい些細なことにすぎない」


 失いたくない。
 いつか失うとわかっていても、少しでも永く一緒にいる方法があるなら探し出す。
 俺が与えられるモノなら何だって差し出してやる。


 だから・・・――――――――


「すべては俺の我がままだ!先にいなくなるなど許さぬ!・・・俺を、俺とのこれからをもっと求めろ!我慢したり一人で悩んだりするな!!」
「!!」
「ましてや、いつ自分がいなくなっても良いように自分の事を後回しにしながら生きるのはやめろ!そんな生き方、俺は望んでいない!!以前に誓ったお前の世界に伝わる誓いの言葉を違える気か!!!」
「・・・―――――――――!!!!」


以前サーヤが俺に伝えた、誓いの言葉・・・―――――――


『前の世界の結婚を誓い合う言葉の中にね、“健康でも病気でも楽しいときも悲しいときもお金があるときもないときも、共に愛し、敬い、助け合い、命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?”って言葉があるの』


 サーヤが俺の過去を受け止め、苦しみや悲しみを一緒に分け合おうと言ってくれた時に聞いた誓いの言葉。


『あたしは、エルにこの言葉のとおり誓います・・・だから、あなたの苦しみも、悲しみもあたしに分けてください』


 俺の苦しみや悲しみは受け止めたくせに、なぜ自分の悩みや苦しみを打ち明けようとしないのか・・・―――――



サーヤの大きな瞳がいつも以上に見開かれている。

・・・やはり図星だったか。
こいつはバカだ、本当にバカだ・・・

「・・・ぅ、して・・・」
「気づいていないと思っていたのか?バカめ」
「だって・・・今すぐの話じゃないし。それに・・・」
「いい加減自分より他人を優先するのをどうにかしろ。俺を、セイルのようにしたいのか?」
「!!!!・・・そんなっ、違・・・んんっ」

愛しい者を失っても思い出を胸に生き続けるセイル。
幸せだったのだろうと思ったのは本音だが、同時に近い未来いつか自分が同じ状況になるだろう事に恐怖を覚えた。

・・・自分が、こんなにも臆病者だったとは正直思わなかった・・・

だが、臆病者でも独占欲の強い身勝手な卑怯者でも何でも良い。

どこかで一線を引いて、何かを諦めているお前の本音が、本心が俺と同じ想いなら無理やりにでも暴いてやる・・・――――



俺は、自分が求めるようにサーヤも求めて欲しい、この温もりをなくしたくないという一心で、サーヤに深く刻み付けるように何度も何度も口づけを繰り返した。
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