368 / 512
10章 延引された結婚式
※番外編※ 3人で過ごす不思議な夜3 inセイルside
しおりを挟む
◇
かつて、人間の世界では婚姻の誓いとして使われていたある秘薬があった。
当時は一部の種族の風習だったが、噂が広まり夫婦を深く結びつけるシルシとしてその秘薬を使い、実際に命を共にする事が美学とされ、その誓いをする者が増えていった。
命を共にするというのは、簡単に言うと”死ぬときは一緒”という事だ。
だが、"死"とは寿命以外の“事故死”や”殺人”にも適用され、不慮の事故などで伴侶が亡くなった際、別の所にいる伴侶が急死する事故や私怨による殺人がたびたび起こるようになった事で使用禁止、情報も一切が抹消されていった。
“ユグドラシルの葉”を使った薬は、その秘薬の元になった完全版で命を結びつける上に、相手に自分の寿命を半分分け与えるという効果があった。
だが、利用する者は滅多におらず、そもそも”ユグドラシルの葉”自体が入手困難、存在するかもわからない幻の素材とも言われているため、エリュシオンが”ユグドラシルの葉”を求めているというだけで、どれだけサーヤを想い共生を強く望んでいるのかがわかる。
”ユグドラシルの葉”を手に入れただけではなく、それを完成させたというのはそれだけでとてもすごい事だ。
「・・・でもそれを使った後、万が一サーヤに何かあったらエリュシオンだって・・・」
「もちろん俺も、今まで以上に周囲の守りを固め万全を期すが、サーヤのそばには俺以外にも精霊王達がいるだろう?・・・それに、セイルは俺が頼まなくてもサーヤの安否を常に確認し、気にしているではないか」
「ふふっ☆気づいてたんだ♪」
「当たり前だ。・・・それに、そうした方がこのバカも行動に少しは気を使うようになるだろう。・・・まぁ、受け入れてくれたらの話だがな」
確かに、“寿命の半分をやる、死ぬ時は一緒だ”なんて言われたら、普通はちょっと重すぎて引いちゃうよね。
でも・・・――――――
「サーヤだったら、“エリュシオンや皆と一緒に過ごせる時間が増える!!”って、喜んで受け入れるんじゃない?」
「ふっ、だと良いがな」
自分が先に死んでしまうという事を、結婚を意識した辺りから皆に隠れて気にしている事が何度もあったサーヤ。
今ではそれを口にしなくなったけど、その分自分にできる事がないか常に探すようになったのは、気のせいなんかじゃないはずだ。
◇
「ん・・・ぁ、れ?」
「あ、起きたんだね、サーヤ☆」
「サーヤ、気分は悪くないか?」
「うん。ちょっとだけぼーっとするけど大丈夫・・・えっと、何であたしはエルの膝枕で寝て・・・あ!!」
記憶が曖昧らしいサーヤは、自分で話しながら何か思い出したようで急に起き上がって体勢を整えてから深々と頭を下げてきた。
「大変申し訳ございませんでした!!」
「えっと・・・サーヤ、それは何に対する謝罪?」
「だって、せっかく3人で楽しくお酒を飲もうって言ってたのに、あたしがエルのお酒を間違って飲んじゃったから・・・」
「はぁ、思い出したようだな。・・・ホントにお前は事あるごとに何かしでかしおって・・・」
「うぅ・・・ごめんなさい」
「ふふっ、別にサーヤのせいじゃなくて、そもそもサーヤが思い出して恥ずかしくなるようなコトをしたエリュシオンのせいなんじゃないの?」
「!!!!」
サーヤが顔を真っ赤にして口をパクパクして、エリュシオンをバシバシと叩きながら言い訳を考えてる。
ふふっ、口にしなくても思ってる事が本当にわかりやすい子だよね、サーヤって。
「ん?なんだサーヤ、ナニを思い出したのだ?」
「!!!・・・や、そのっ・・・あ、あたしの事はどうでも良いの!!
今日はセイルからリナリアさんの話を聞く日なんだから!!」
わかってて意地悪そうに聞いているエリュシオンをさらにバシバシと叩きながら、会話の流れをボクに向けてくるサーヤ。
仕方がないから今日は助けてあげるとしよう。
「そうだね☆リアの話をしてあげる約束だったね♪」
「うん!リナリアさんってどんな人だったの?セイルはリナリアさんのどんな所に惹かれたの?」
「そうだね、リアは・・・――――――――」
ボクの悲しい過去を知っていても、“悲しい出来事”で終わらせるのではなく“幸せな思い出”として聞いてくれるサーヤ。
すでにそばにいない存在なのに、まるでそばにいる恋人の話を聞くように楽し気にいろいろ聞いてくるから、ボクもリアがそばにいるような錯覚さえ感じてしまう。
・・・いや、目に見えなくてもリアはどこかでサーヤを、ボク達を見守っているような気がするんだけどね。
「ふふっ、セイルってリナリアさんの話をする時ってそんな顔するんだね」
「??・・・そんな顔って、どんな顔?」
「すっごく幸せそうな顔!見てるこっちも幸せになっちゃう♪」
「!!!」
サーヤからの予想外の言葉に正直驚いてしまった。
そんなに顔に出ていたなんて、自分では全くわからなかった。
でも、不思議と嫌な感じはしない。
「・・・――――うん、ボクはリアに出会えて幸せだった・・・いや、幸せだよ」
過去形なんかじゃない。
今もリアを想って、時々少しでもリアを感じる何かを見つけるたびにすごく嬉しくなる。
「『――――ありがとう。セイが幸せだと、あたしも幸せだよ』」
「・・・え?」
今、一瞬だけ目の前にいるサーヤがリアに見えた・・・
しかも、気のせいじゃなければボクの事を“セイ”って・・・――――――
「え、あれ?・・・なんで、急に涙が・・・」
目の前で急にポロポロと涙を流すサーヤに、無言でタオルを渡すエリュシオン。
本当にサーヤは・・・いや、リアはボクの予想外の行動ばかりするんだから・・・
「ねぇ、サーヤ。次サーヤが妊娠したら、ボクが祝福をあげるね☆」
「うん!ありがとう、その時はよろしくお願いします」
「ふふっ、エリュシオンに渡したお土産もあるし、多分そんなに先の話じゃないと思うよ☆」
「!!!」
先程エリュシオンに渡した妊娠しやすくなる薬を、この後実際に使うのだと気付いて顔を赤くするサーヤ。
本当にコロコロ表情が変わるし、感情がわかりやすい。
「じゃ、ボクはそろそろ帰るね☆・・・エリュシオン、あの話サーヤにちゃんとするんだよ?」
「・・・あぁ」
「あと、程々にね☆」
そう言って、ボクはサーヤのおでこに口づけてから転移魔法でそのまま去った。
「!!・・・ちょっ、セイル?!エルも、あの話って何??」
サーヤが何か叫んでたけど、ボクは聞かなかった事にしてそのまま転移魔法でその場を後にした。
そして、今のボクはなんとなく確信めいた予感がしている・・・
「・・・次に生まれるシルバーブロンドの女の子、楽しみだなぁ」
まだまだ先の話だけど、まだまだ先の楽しみができた・・・そんな嬉しいけれど少し不思議な夜だった・・・―――――――
かつて、人間の世界では婚姻の誓いとして使われていたある秘薬があった。
当時は一部の種族の風習だったが、噂が広まり夫婦を深く結びつけるシルシとしてその秘薬を使い、実際に命を共にする事が美学とされ、その誓いをする者が増えていった。
命を共にするというのは、簡単に言うと”死ぬときは一緒”という事だ。
だが、"死"とは寿命以外の“事故死”や”殺人”にも適用され、不慮の事故などで伴侶が亡くなった際、別の所にいる伴侶が急死する事故や私怨による殺人がたびたび起こるようになった事で使用禁止、情報も一切が抹消されていった。
“ユグドラシルの葉”を使った薬は、その秘薬の元になった完全版で命を結びつける上に、相手に自分の寿命を半分分け与えるという効果があった。
だが、利用する者は滅多におらず、そもそも”ユグドラシルの葉”自体が入手困難、存在するかもわからない幻の素材とも言われているため、エリュシオンが”ユグドラシルの葉”を求めているというだけで、どれだけサーヤを想い共生を強く望んでいるのかがわかる。
”ユグドラシルの葉”を手に入れただけではなく、それを完成させたというのはそれだけでとてもすごい事だ。
「・・・でもそれを使った後、万が一サーヤに何かあったらエリュシオンだって・・・」
「もちろん俺も、今まで以上に周囲の守りを固め万全を期すが、サーヤのそばには俺以外にも精霊王達がいるだろう?・・・それに、セイルは俺が頼まなくてもサーヤの安否を常に確認し、気にしているではないか」
「ふふっ☆気づいてたんだ♪」
「当たり前だ。・・・それに、そうした方がこのバカも行動に少しは気を使うようになるだろう。・・・まぁ、受け入れてくれたらの話だがな」
確かに、“寿命の半分をやる、死ぬ時は一緒だ”なんて言われたら、普通はちょっと重すぎて引いちゃうよね。
でも・・・――――――
「サーヤだったら、“エリュシオンや皆と一緒に過ごせる時間が増える!!”って、喜んで受け入れるんじゃない?」
「ふっ、だと良いがな」
自分が先に死んでしまうという事を、結婚を意識した辺りから皆に隠れて気にしている事が何度もあったサーヤ。
今ではそれを口にしなくなったけど、その分自分にできる事がないか常に探すようになったのは、気のせいなんかじゃないはずだ。
◇
「ん・・・ぁ、れ?」
「あ、起きたんだね、サーヤ☆」
「サーヤ、気分は悪くないか?」
「うん。ちょっとだけぼーっとするけど大丈夫・・・えっと、何であたしはエルの膝枕で寝て・・・あ!!」
記憶が曖昧らしいサーヤは、自分で話しながら何か思い出したようで急に起き上がって体勢を整えてから深々と頭を下げてきた。
「大変申し訳ございませんでした!!」
「えっと・・・サーヤ、それは何に対する謝罪?」
「だって、せっかく3人で楽しくお酒を飲もうって言ってたのに、あたしがエルのお酒を間違って飲んじゃったから・・・」
「はぁ、思い出したようだな。・・・ホントにお前は事あるごとに何かしでかしおって・・・」
「うぅ・・・ごめんなさい」
「ふふっ、別にサーヤのせいじゃなくて、そもそもサーヤが思い出して恥ずかしくなるようなコトをしたエリュシオンのせいなんじゃないの?」
「!!!!」
サーヤが顔を真っ赤にして口をパクパクして、エリュシオンをバシバシと叩きながら言い訳を考えてる。
ふふっ、口にしなくても思ってる事が本当にわかりやすい子だよね、サーヤって。
「ん?なんだサーヤ、ナニを思い出したのだ?」
「!!!・・・や、そのっ・・・あ、あたしの事はどうでも良いの!!
今日はセイルからリナリアさんの話を聞く日なんだから!!」
わかってて意地悪そうに聞いているエリュシオンをさらにバシバシと叩きながら、会話の流れをボクに向けてくるサーヤ。
仕方がないから今日は助けてあげるとしよう。
「そうだね☆リアの話をしてあげる約束だったね♪」
「うん!リナリアさんってどんな人だったの?セイルはリナリアさんのどんな所に惹かれたの?」
「そうだね、リアは・・・――――――――」
ボクの悲しい過去を知っていても、“悲しい出来事”で終わらせるのではなく“幸せな思い出”として聞いてくれるサーヤ。
すでにそばにいない存在なのに、まるでそばにいる恋人の話を聞くように楽し気にいろいろ聞いてくるから、ボクもリアがそばにいるような錯覚さえ感じてしまう。
・・・いや、目に見えなくてもリアはどこかでサーヤを、ボク達を見守っているような気がするんだけどね。
「ふふっ、セイルってリナリアさんの話をする時ってそんな顔するんだね」
「??・・・そんな顔って、どんな顔?」
「すっごく幸せそうな顔!見てるこっちも幸せになっちゃう♪」
「!!!」
サーヤからの予想外の言葉に正直驚いてしまった。
そんなに顔に出ていたなんて、自分では全くわからなかった。
でも、不思議と嫌な感じはしない。
「・・・――――うん、ボクはリアに出会えて幸せだった・・・いや、幸せだよ」
過去形なんかじゃない。
今もリアを想って、時々少しでもリアを感じる何かを見つけるたびにすごく嬉しくなる。
「『――――ありがとう。セイが幸せだと、あたしも幸せだよ』」
「・・・え?」
今、一瞬だけ目の前にいるサーヤがリアに見えた・・・
しかも、気のせいじゃなければボクの事を“セイ”って・・・――――――
「え、あれ?・・・なんで、急に涙が・・・」
目の前で急にポロポロと涙を流すサーヤに、無言でタオルを渡すエリュシオン。
本当にサーヤは・・・いや、リアはボクの予想外の行動ばかりするんだから・・・
「ねぇ、サーヤ。次サーヤが妊娠したら、ボクが祝福をあげるね☆」
「うん!ありがとう、その時はよろしくお願いします」
「ふふっ、エリュシオンに渡したお土産もあるし、多分そんなに先の話じゃないと思うよ☆」
「!!!」
先程エリュシオンに渡した妊娠しやすくなる薬を、この後実際に使うのだと気付いて顔を赤くするサーヤ。
本当にコロコロ表情が変わるし、感情がわかりやすい。
「じゃ、ボクはそろそろ帰るね☆・・・エリュシオン、あの話サーヤにちゃんとするんだよ?」
「・・・あぁ」
「あと、程々にね☆」
そう言って、ボクはサーヤのおでこに口づけてから転移魔法でそのまま去った。
「!!・・・ちょっ、セイル?!エルも、あの話って何??」
サーヤが何か叫んでたけど、ボクは聞かなかった事にしてそのまま転移魔法でその場を後にした。
そして、今のボクはなんとなく確信めいた予感がしている・・・
「・・・次に生まれるシルバーブロンドの女の子、楽しみだなぁ」
まだまだ先の話だけど、まだまだ先の楽しみができた・・・そんな嬉しいけれど少し不思議な夜だった・・・―――――――
10
お気に入りに追加
2,873
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。


転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる