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10章 延引された結婚式
幕間 初めての女子会~リンダの過去と現在4~
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※途中から、リンダ→サーヤ→クラリス視点へと変わります。
わかりずらかったらすみません。
---------------------
◇
「リンダ!それはもう恋愛関係の男女も同然じゃありませんの!」
「そうだよ!しかもアルマさん絶対リンダの事好きで大切にしてる感じだよ!!」
初めてアルマとの馴れ初めを人に話して、すっきりした気持ちと恥ずかしい気持ちを感じる中、やっぱりあたしはアルマが大切で、大好きな存在で、これからもずっと隣にいたいんだなと実感した。
周りがこうして認めてくれるのは素直に嬉しい。
でも、あたしが前に進めないのにはちゃんと理由があるのだ。
「・・・アルマって元奴隷じゃない?」
「うん、そうだね」
「どうして、奴隷になったんだと思う?」
「え・・・理由?」
サーヤとエリュシオン様の絆を間近で見ていたあたしは、アルマに自分達の関係について聞いてみた事がある。
「アルマに一度聞いた事があるんだ。“あたし達の関係って何だろう。これからどうなりたい?”って・・・」
信頼できる仲間、かけがえのない恋人、これから一緒に生きていきたい家族・・・その時点でアルマはすべて当てはまっていたから、あたしなりに少しだけ前に進みたくて勇気を出して聞いてみた。
だけど、あたしが思っていた以上にアルマの過去は重く、今もアルマを蝕んでいた・・・
「アルマは、大好きだったお母さんに奴隷商に売られたんだって・・・借金を返すためにって」
「「「「!!!」」」」
「しかも、その借金ってお母さんが別の男に貢いでできた借金で・・・「お前もようやく売れる年齢と見た目になった」って・・・アルマのお母さんは、アルマを愛していたんじゃなく、売るために育てていただけだったみたい」
「「「「!!!!!!」」」」
小さい頃からお母さんにオッドアイを気持ち悪がられ、前髪を伸ばして隠していたアルマ。
一人で留守番する事が多かったみたいだけど、アルマなりにお母さんの役に立とうと子供ながらに家の事を手伝っていたようだ。
本当の父親は小さい頃に亡くなっていて、お母さんが女手一つで育てたり、時々知らない男の人が家に来てご飯をくれたりしたらしい。
本当のお父さんが亡くなった経緯はアルマも知らないみたいだけど、「あんたのせいで、あの人は・・・っ」と言われ続けてきたから、幼かったアルマが関係しているようだ。
物心ついた頃から外に出る事も許されず、近所の人にすら会う事がなかったアルマは、周囲の人からも知られていない存在で、実の母親が奴隷商に連れて行く時が初めての外出だったらしい。
たった一人の、自分を産んで育ててくれていた母親から裏切られたアルマは、“家族”の温もりを知らずに育ち、“奴隷”という地獄の烙印を押されるという絶望的な幼少期を過ごしていた。
だから、あたしが質問をした時もすごく苦しそうな顔をしながら「俺とリンダのこの関係には、必ず名前を付けないといけないの?」と言われ、あたしは「ううん、今のままで良い」と答えるしかなかった。
アルマと一緒にいられるなら、“夫婦”とか“恋人”とかそんな名前なんていらない。
名前を付ける事で変わってしまうなら、このままの変わらない関係で良いと思った。
「・・・だから、あたしとアルマはこのままで良いの。今のままだって、充分あたしは幸せ、だから・・・」
「リンダ・・・」
場の空気が重くなったことと、アルマがいない場所で勝手に話したことは申し訳なかったけど、心のどこかで誰かに話したかったのかもしれない。
言葉にした事も本音ではあるけど、結局あたしはアルマの全部を受け止められない、信頼されていないんじゃないかと思えて不安だった。
心の内を全部話して、互いに受け止め支え合っているサーヤとエリュシオン様の関係が羨ましかった。
自分の意見を真っすぐアレク様に伝えて、辛くていっぱい悩みながらも突き進むクラリスをすごいと思った。
一途な気持ちをずっと持ち続けて、気持ちが伝わらなくても支えようとしているティリアさんをカッコいいと思った。
親友ができなかった事を代わりに成し遂げるために王太子と婚約し、今では当然のように国政に参加する王妃となったモニカ様の手腕と精神は、すごいけど怖すぎると思った。
皆あたしよりもか弱い女性なのに、皆が皆、あたしよりも強い女性だ。
どうしたらあたしも強い女性になれる?
どうしたらあたしはアルマの全部を受け止めてあげられる・・・―――――?
「・・・私、用事を思い出しましたので、ちょっと失礼しますわ」
「え、クラリスさん?」
「ふふっ、女子会は今日だけじゃありませんもの。ありがとうございます、リンダさんのお話が聞けて嬉しかったですわ。・・・一人でずっと抱えてたなんて、本当にお強い方ですわね」
違う、強くなんかない。
自分の正直な気持ちをアルマにぶつける勇気がなかっただけだ。
あたしは弱い。
「そうですよ。リンダさんが変わらずに受け入れてくれるから、アルマさんも安心して甘えてるんでしょうね」
違うっ!
アルマは甘えてるんじゃなくて、あたしを信頼しきれていないから・・・―――――
「リンダ、これだけ教えて。・・・リンダはアルマさんとどうなりたい?」
「!!!」
アルマと、どうなりたい・・・?
そんなの・・・
そんなの決まってる・・・
「・・・ぁ、アルマと、一緒・・・っ、結婚して、子供・・・欲しっ・・・」
アルマに抱かれている時、このまま子供ができたらいいのにって何度思ったことか・・・
「アルマの、過去・・・全部受け止める・・・辛い事があっても、そばにいる、から・・・」
周りが何を言おうとも、あたしはアルマの味方だから
だから・・・―――――
「・・・っ、アルマと、家族っ・・・なりたいっ・・・」
あたしにとってアルマが”安心できる居場所”であるように、アルマにとっての”安心できる居場所”があたしであって欲しい・・・
「・・・うん、そうだよね。リンダだって、どんなに強くても女の子だもん。好きな人と結婚して子供が欲しいと思うのは当たり前だよね」
「~~~~~~~~~~~~っ」
何かが決壊したように涙が止まらず、子供のように大声を上げて皆の前で泣いてしまったけど、そんなあたしをサーヤは優しく抱きしめながら背中を優しく擦ってくれた。
それが心地良くて、あたしはサーヤに抱きついたまま意識が遠のいていった・・・――――
◇
「サーヤ、リンダさんに何かしましたの?」
「ん?エルに”眠れなかったときに使え”って言われてた、安眠用の植物の香りを少しだけリンダにね・・・」
「・・・リンダさん、私達が思っていた以上に思い詰めていらっしゃったんですね・・・全然気づきませんでした」
今回の女子会は、純粋に女子会をしたいって気持ちもあったけど、リンダとアルマさんの関係が気になって・・・という方が強かった。
リンダももう21歳。
この世界なら結婚してても良い年齢なんだから、考えないわけがないと思ったし、結婚するならアルマさんとだろうと思っていた。
「そういえば、クラリス様はどちらに行かれたんでしょう?こんな遅い時間に用事って・・・」
「ん~、たぶんだけど、話をしに行ったんだと思う」
「話って・・・もしかして、アルマさんにですか??!!」
「うん。クラリスさん、メラルダまでの道中はリンダ達と過ごしてたから、ある程度は話せる仲だと思うし・・・」
「でも、アルマ様の居場所ってクラリス様はご存知ですの??」
「「あ・・・」」
リンダの体勢を整えながら、クラリスさんの帰りを待ちつつモニカやティリアさんと話をしてたけど、時間が経つにつれただでさえ妊娠中のあたしとモニカは眠気に勝てず、いつの間にか眠ってしまっていた。
◇
「アルマ様!アルマ様っ!!近くにいらっしゃいますよね?出て来て下さいまし!!」
私はメラルダの家の庭に出て、外に向かって声をあげる。
今日はリンダがこの家にいるから、きっとアルマ様も近くにいるはずだと思ったのだ。
「・・・うるさい、クラリス。そんなに大きな声出したらリンダ達に聞こえるんじゃないの?」
「あら、やっぱりいらっしゃいましたのね。大丈夫ですわ。部屋の中にはしっかり遮音の魔法が効いておりますもの」
思った通りこの家の近くにいたアルマ様、おせっかいだとは思うけどさっきのリンダの話を聞いてからいてもたってもいられなかった。
過去の辛い出来事、それは本人にしかわからない苦しみや忘れ難い嫌な記憶、トラウマはあるだろう。
だからと言って、これから先もそれを引きずって生きていくのは違う気がするし、それによってリンダが苦しむなんてお門違いだと思ったのだ。
「アルマ様、私、リンダからいろいろと聞きましたわ。あ、誤解しないで下さいね。私達が無理やり聞きだしたのでリンダは仕方なく話しただけですわ」
「・・・そんなの言われなくても知ってる。リンダは自分からむやみに話したりしない」
「えぇ、リンダの事はアルマ様の方がよくご存知ですものね。・・・では、リンダが今日涙を流していた理由もご存知かしら?」
「・・・っ」
アルマ様の反応に焦りが見える。
何も知らない・・・という訳ではないようですわね。
「アルマ様、おせっかいを承知で伺いますわ。リンダと結婚して家族になる気はありますの?」
「!!!!・・・クラリスには、関係な・・・」
「関係大ありですわ!リンダが泣いていた理由はソレですのよ!!」
「!!!!!」
「・・・アルマ様の今までの辛さや苦しみは、きっと私なんかが想像できるものではないでしょう。でも、あなたはこれからもずっとその苦しみを抱えたまま生きていくんですか?」
「・・・っ、うるさい・・・うるさい、うるさいっ!!お前に何がわかるっ!!エルフの里の族長の娘で、奴隷商に連れて行かれた時もエリュシオン様に助けてもらったお前に、俺の何が・・・」
「わかるわけありませんわ!!何を当たり前のことを仰るのですか!!!」
「!!!」
人の苦しみなんて、しょせん他人が理解しようとしたって理解できるわけがない。
本当の苦しみは本人にしかわからないのだ。
”わかります”なんて軽々しく言えるものじゃない。
「過去に辛い事があったから、”家族”というモノを信じられないから、だからリンダとは”家族”になれないと、そう仰いますの??」
「・・・」
「沈黙は肯定と取りますわよ。だったら、ひとこと言わせていただきますわ。
・・・アルマ様って本当に子供ですわね」
「・・・っ、なっ・・・」
「リンダより年上みたいですけど、中身はリンダの方がよっぽど大人で先の事を見てますわ!あ~あ、リンダもどうしてこんなこんな先の事を考えない将来性のない方が良いのかしら・・・」
「!!!」
私の言葉に逆上したアルマ様は、一気に距離を詰め私の胸倉を掴んできた。
「・・・いくらアレク様の妻だとしても、お前にそこまで言われる筋合いはない!!」
「私はアレク様の妻として言ってるのではありませんわ。リンダの友達として言ってるのです!!・・・リンダと”家族”になる事がそんなに怖いですか?”家族”になったらリンダとの関係が変わってしまう、もしくは終わってしまうとでもお思いですか?!そんなにリンダが信じられないのですか??!!」
「・・・っ!!」
「リンダを誰よりも大切にされていて、誰よりも理解してるあなたが、どうしてリンダを信じきれないのですか??!!誰よりも”家族”を・・・愛を求めてるのはアルマ様では・・・っぐぅ」
「黙れ!!それ以上話すならいくらお前でも・・・」
「・・・っ、黙りませんわ!!リンダはアルマ様のすべてを、っぐ、受け入れてるのに・・・自分の、気持ちよりも・・・アルマ様の、気持ちを優先して・・・」
アルマ様が私の首を絞める手に少しずつ力が入り、意識が少し遠のいてきた。
ダメ、まだ言い足りない。
言わなきゃ・・・
リンダが言えないなら、私が・・・
「リンダを、幸せにできるのは・・・アルマ様だけ、なのに・・・」
「・・・――――!!!!」
あ、ダメだ。これ以上は意識が・・・――――
「そこまでだよ、アルマ」
誰かの声と温かい温もりを感じた気がしたけれど、限界だった私の意識はそのままぷつりと途絶えてしまった。
わかりずらかったらすみません。
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◇
「リンダ!それはもう恋愛関係の男女も同然じゃありませんの!」
「そうだよ!しかもアルマさん絶対リンダの事好きで大切にしてる感じだよ!!」
初めてアルマとの馴れ初めを人に話して、すっきりした気持ちと恥ずかしい気持ちを感じる中、やっぱりあたしはアルマが大切で、大好きな存在で、これからもずっと隣にいたいんだなと実感した。
周りがこうして認めてくれるのは素直に嬉しい。
でも、あたしが前に進めないのにはちゃんと理由があるのだ。
「・・・アルマって元奴隷じゃない?」
「うん、そうだね」
「どうして、奴隷になったんだと思う?」
「え・・・理由?」
サーヤとエリュシオン様の絆を間近で見ていたあたしは、アルマに自分達の関係について聞いてみた事がある。
「アルマに一度聞いた事があるんだ。“あたし達の関係って何だろう。これからどうなりたい?”って・・・」
信頼できる仲間、かけがえのない恋人、これから一緒に生きていきたい家族・・・その時点でアルマはすべて当てはまっていたから、あたしなりに少しだけ前に進みたくて勇気を出して聞いてみた。
だけど、あたしが思っていた以上にアルマの過去は重く、今もアルマを蝕んでいた・・・
「アルマは、大好きだったお母さんに奴隷商に売られたんだって・・・借金を返すためにって」
「「「「!!!」」」」
「しかも、その借金ってお母さんが別の男に貢いでできた借金で・・・「お前もようやく売れる年齢と見た目になった」って・・・アルマのお母さんは、アルマを愛していたんじゃなく、売るために育てていただけだったみたい」
「「「「!!!!!!」」」」
小さい頃からお母さんにオッドアイを気持ち悪がられ、前髪を伸ばして隠していたアルマ。
一人で留守番する事が多かったみたいだけど、アルマなりにお母さんの役に立とうと子供ながらに家の事を手伝っていたようだ。
本当の父親は小さい頃に亡くなっていて、お母さんが女手一つで育てたり、時々知らない男の人が家に来てご飯をくれたりしたらしい。
本当のお父さんが亡くなった経緯はアルマも知らないみたいだけど、「あんたのせいで、あの人は・・・っ」と言われ続けてきたから、幼かったアルマが関係しているようだ。
物心ついた頃から外に出る事も許されず、近所の人にすら会う事がなかったアルマは、周囲の人からも知られていない存在で、実の母親が奴隷商に連れて行く時が初めての外出だったらしい。
たった一人の、自分を産んで育ててくれていた母親から裏切られたアルマは、“家族”の温もりを知らずに育ち、“奴隷”という地獄の烙印を押されるという絶望的な幼少期を過ごしていた。
だから、あたしが質問をした時もすごく苦しそうな顔をしながら「俺とリンダのこの関係には、必ず名前を付けないといけないの?」と言われ、あたしは「ううん、今のままで良い」と答えるしかなかった。
アルマと一緒にいられるなら、“夫婦”とか“恋人”とかそんな名前なんていらない。
名前を付ける事で変わってしまうなら、このままの変わらない関係で良いと思った。
「・・・だから、あたしとアルマはこのままで良いの。今のままだって、充分あたしは幸せ、だから・・・」
「リンダ・・・」
場の空気が重くなったことと、アルマがいない場所で勝手に話したことは申し訳なかったけど、心のどこかで誰かに話したかったのかもしれない。
言葉にした事も本音ではあるけど、結局あたしはアルマの全部を受け止められない、信頼されていないんじゃないかと思えて不安だった。
心の内を全部話して、互いに受け止め支え合っているサーヤとエリュシオン様の関係が羨ましかった。
自分の意見を真っすぐアレク様に伝えて、辛くていっぱい悩みながらも突き進むクラリスをすごいと思った。
一途な気持ちをずっと持ち続けて、気持ちが伝わらなくても支えようとしているティリアさんをカッコいいと思った。
親友ができなかった事を代わりに成し遂げるために王太子と婚約し、今では当然のように国政に参加する王妃となったモニカ様の手腕と精神は、すごいけど怖すぎると思った。
皆あたしよりもか弱い女性なのに、皆が皆、あたしよりも強い女性だ。
どうしたらあたしも強い女性になれる?
どうしたらあたしはアルマの全部を受け止めてあげられる・・・―――――?
「・・・私、用事を思い出しましたので、ちょっと失礼しますわ」
「え、クラリスさん?」
「ふふっ、女子会は今日だけじゃありませんもの。ありがとうございます、リンダさんのお話が聞けて嬉しかったですわ。・・・一人でずっと抱えてたなんて、本当にお強い方ですわね」
違う、強くなんかない。
自分の正直な気持ちをアルマにぶつける勇気がなかっただけだ。
あたしは弱い。
「そうですよ。リンダさんが変わらずに受け入れてくれるから、アルマさんも安心して甘えてるんでしょうね」
違うっ!
アルマは甘えてるんじゃなくて、あたしを信頼しきれていないから・・・―――――
「リンダ、これだけ教えて。・・・リンダはアルマさんとどうなりたい?」
「!!!」
アルマと、どうなりたい・・・?
そんなの・・・
そんなの決まってる・・・
「・・・ぁ、アルマと、一緒・・・っ、結婚して、子供・・・欲しっ・・・」
アルマに抱かれている時、このまま子供ができたらいいのにって何度思ったことか・・・
「アルマの、過去・・・全部受け止める・・・辛い事があっても、そばにいる、から・・・」
周りが何を言おうとも、あたしはアルマの味方だから
だから・・・―――――
「・・・っ、アルマと、家族っ・・・なりたいっ・・・」
あたしにとってアルマが”安心できる居場所”であるように、アルマにとっての”安心できる居場所”があたしであって欲しい・・・
「・・・うん、そうだよね。リンダだって、どんなに強くても女の子だもん。好きな人と結婚して子供が欲しいと思うのは当たり前だよね」
「~~~~~~~~~~~~っ」
何かが決壊したように涙が止まらず、子供のように大声を上げて皆の前で泣いてしまったけど、そんなあたしをサーヤは優しく抱きしめながら背中を優しく擦ってくれた。
それが心地良くて、あたしはサーヤに抱きついたまま意識が遠のいていった・・・――――
◇
「サーヤ、リンダさんに何かしましたの?」
「ん?エルに”眠れなかったときに使え”って言われてた、安眠用の植物の香りを少しだけリンダにね・・・」
「・・・リンダさん、私達が思っていた以上に思い詰めていらっしゃったんですね・・・全然気づきませんでした」
今回の女子会は、純粋に女子会をしたいって気持ちもあったけど、リンダとアルマさんの関係が気になって・・・という方が強かった。
リンダももう21歳。
この世界なら結婚してても良い年齢なんだから、考えないわけがないと思ったし、結婚するならアルマさんとだろうと思っていた。
「そういえば、クラリス様はどちらに行かれたんでしょう?こんな遅い時間に用事って・・・」
「ん~、たぶんだけど、話をしに行ったんだと思う」
「話って・・・もしかして、アルマさんにですか??!!」
「うん。クラリスさん、メラルダまでの道中はリンダ達と過ごしてたから、ある程度は話せる仲だと思うし・・・」
「でも、アルマ様の居場所ってクラリス様はご存知ですの??」
「「あ・・・」」
リンダの体勢を整えながら、クラリスさんの帰りを待ちつつモニカやティリアさんと話をしてたけど、時間が経つにつれただでさえ妊娠中のあたしとモニカは眠気に勝てず、いつの間にか眠ってしまっていた。
◇
「アルマ様!アルマ様っ!!近くにいらっしゃいますよね?出て来て下さいまし!!」
私はメラルダの家の庭に出て、外に向かって声をあげる。
今日はリンダがこの家にいるから、きっとアルマ様も近くにいるはずだと思ったのだ。
「・・・うるさい、クラリス。そんなに大きな声出したらリンダ達に聞こえるんじゃないの?」
「あら、やっぱりいらっしゃいましたのね。大丈夫ですわ。部屋の中にはしっかり遮音の魔法が効いておりますもの」
思った通りこの家の近くにいたアルマ様、おせっかいだとは思うけどさっきのリンダの話を聞いてからいてもたってもいられなかった。
過去の辛い出来事、それは本人にしかわからない苦しみや忘れ難い嫌な記憶、トラウマはあるだろう。
だからと言って、これから先もそれを引きずって生きていくのは違う気がするし、それによってリンダが苦しむなんてお門違いだと思ったのだ。
「アルマ様、私、リンダからいろいろと聞きましたわ。あ、誤解しないで下さいね。私達が無理やり聞きだしたのでリンダは仕方なく話しただけですわ」
「・・・そんなの言われなくても知ってる。リンダは自分からむやみに話したりしない」
「えぇ、リンダの事はアルマ様の方がよくご存知ですものね。・・・では、リンダが今日涙を流していた理由もご存知かしら?」
「・・・っ」
アルマ様の反応に焦りが見える。
何も知らない・・・という訳ではないようですわね。
「アルマ様、おせっかいを承知で伺いますわ。リンダと結婚して家族になる気はありますの?」
「!!!!・・・クラリスには、関係な・・・」
「関係大ありですわ!リンダが泣いていた理由はソレですのよ!!」
「!!!!!」
「・・・アルマ様の今までの辛さや苦しみは、きっと私なんかが想像できるものではないでしょう。でも、あなたはこれからもずっとその苦しみを抱えたまま生きていくんですか?」
「・・・っ、うるさい・・・うるさい、うるさいっ!!お前に何がわかるっ!!エルフの里の族長の娘で、奴隷商に連れて行かれた時もエリュシオン様に助けてもらったお前に、俺の何が・・・」
「わかるわけありませんわ!!何を当たり前のことを仰るのですか!!!」
「!!!」
人の苦しみなんて、しょせん他人が理解しようとしたって理解できるわけがない。
本当の苦しみは本人にしかわからないのだ。
”わかります”なんて軽々しく言えるものじゃない。
「過去に辛い事があったから、”家族”というモノを信じられないから、だからリンダとは”家族”になれないと、そう仰いますの??」
「・・・」
「沈黙は肯定と取りますわよ。だったら、ひとこと言わせていただきますわ。
・・・アルマ様って本当に子供ですわね」
「・・・っ、なっ・・・」
「リンダより年上みたいですけど、中身はリンダの方がよっぽど大人で先の事を見てますわ!あ~あ、リンダもどうしてこんなこんな先の事を考えない将来性のない方が良いのかしら・・・」
「!!!」
私の言葉に逆上したアルマ様は、一気に距離を詰め私の胸倉を掴んできた。
「・・・いくらアレク様の妻だとしても、お前にそこまで言われる筋合いはない!!」
「私はアレク様の妻として言ってるのではありませんわ。リンダの友達として言ってるのです!!・・・リンダと”家族”になる事がそんなに怖いですか?”家族”になったらリンダとの関係が変わってしまう、もしくは終わってしまうとでもお思いですか?!そんなにリンダが信じられないのですか??!!」
「・・・っ!!」
「リンダを誰よりも大切にされていて、誰よりも理解してるあなたが、どうしてリンダを信じきれないのですか??!!誰よりも”家族”を・・・愛を求めてるのはアルマ様では・・・っぐぅ」
「黙れ!!それ以上話すならいくらお前でも・・・」
「・・・っ、黙りませんわ!!リンダはアルマ様のすべてを、っぐ、受け入れてるのに・・・自分の、気持ちよりも・・・アルマ様の、気持ちを優先して・・・」
アルマ様が私の首を絞める手に少しずつ力が入り、意識が少し遠のいてきた。
ダメ、まだ言い足りない。
言わなきゃ・・・
リンダが言えないなら、私が・・・
「リンダを、幸せにできるのは・・・アルマ様だけ、なのに・・・」
「・・・――――!!!!」
あ、ダメだ。これ以上は意識が・・・――――
「そこまでだよ、アルマ」
誰かの声と温かい温もりを感じた気がしたけれど、限界だった私の意識はそのままぷつりと途絶えてしまった。
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