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10章 延引された結婚式
※番外編※ エルフの里の恋愛事情 inルーシェントside
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◇
「ルーシェント、頼まれてた情報持ってきたけど、今大丈夫?」
「ありがとう、キャサリン。今はちょうど休憩してたから大丈夫だよ。・・・で、結果はどうだった?」
エリュシオンとエルフの森での採集後、里に帰って来てから聖獣レオヴィアス様との約束を果たすために動き始めた僕は、まずは里一番の情報通で古い友人のキャサリンに依頼し、状況を確認しつつ愚痴をこぼしていた。
だって・・・だって・・・
「聖獣様の要望が“男性同士の睦み合い”って何なの?!“びーえるが尊い!”って力説されたけど、男同士でいちゃつく事の何が尊いの??!!しかも、最初は僕とエリュシオンにそれを要求してきたんだよ???!!!」
「はいはい、それはもう何度も聞いた。人にはそれぞれ趣味や嗜好が違うんだから仕方ないでしょ?」
聖獣様に“びーえる”を所望された時、エリュシオンと睦み合うのだけは避けたかった僕は「エルフの里に本物の“びーえる”がいる」と言ってしまった。
・・・もちろんそんなのは嘘だ。
いや、実際にいるかいないかわからないが少なくとも僕は聞いた事がない。
でも、男女問わず眉目秀麗の仲間が多いため、“もしかしたら本当にいるかもしれない”という希望もあった。
「・・・それよりも、ちょっと面白い事がわかったわよ♪」
「・・・面白い事?」
「私達って永く生きる分、やっぱりある程度の刺激ってものは求めてしまうモノみたいね☆」
キャサリン曰く、現在不定期に若いエルフ達が人間の真似事で仮面舞踏会みたいなパーティを開催しているという。
もちろん、人間が行うような危ない薬やいかがわしい商談などは一切ない健全なモノだ。
ただ、そこでは誰もが“自分ではない自分になれる”という。
親密になって正体を明かしてそのままくっつくも良し、明かさないまま秘密の関係を楽しむも良し、平和で真面目なエルフの里にしては少し大胆で背徳感を感じるイベントだが、実際少し変わった出会いや刺激を求めているだけで悪い事はしていないから、バレても取り締まる事はないだろう。
「エルフの里でそんな事が・・・」
「ふふっ、少しだけ外を経験した者の提案らしいけど、斬新だという事で若者には受けがいいらしいわ。私も一度行ってみたくなっちゃった☆」
「それで、面白いって言うのはその仮面舞踏会の事かい?」
「仮面舞踏会も確かに面白いけど、それではないわ。・・・どうやらその仮面舞踏会で成立した恋人達の中にいるらしいわよ、その“びーえる”ってやつが」
「!!!!」
キャサリン曰く、そこで結ばれた恋人の中にどうやら男性と女装した男性のカップルがいるらしい。
“びーえる”が実在するとは思っていなくて、最初は惚れ薬でも何でも作って“びーえる”を作ろうかと思っていた。
でもまさか、本当に“びーえる”が・・・男性の恋人同士がいるとは思わなかった。
「キャサリン、それは誰なんだい?だったら早速・・・」
「ルーシェント、焦り過ぎ。彼らは公言出来ない恋愛をしている分とても繊細なのよ。慎重に対応しなくちゃ」
「え、でも・・・」
「よく考えてみなさい。あなたとエリュシオンがエルフの森で聖獣様とお会いしたのは、村の者が皆知ってる事なの。聖獣様との約束だってすぐに広まるわ。そうなった時、約束のために協力してくれた人はもちろん、2人の関係だって周知となる。彼らが見世物状態になるって事なのよ??」
「・・・っ!!」
「エルフの里に彼らを守る法がない以上、すぐに接触して聖獣様にお会いするのは危険よ。ヘタすると、彼らはエルフの里にいられなくなる」
・・・確かにキャサリンの言うとおりだ。
僕でさえ男性の恋人同士というのを想像するだけで嫌悪感に近いものを感じるのに、人によっては“黒”もしくはそれ以上に差別する者がいてもおかしくはない。
だけど、まずはその2人に接触して協力を仰がねば・・・―――――
「わかった。彼らを守る法については僕からゴルドに進言しておこう。たが、それとは別に彼らに協力を仰ぎたい。約束の期日までに聖獣様の元へ行かなければいけないからね」
「ゴルドに進言って・・・男性同士の恋愛を周りに認めさせるような策があるの?」
「僕はこの里で唯一の医者だ。きちんとした医学的根拠を以て僕が説明すれば、里の者達はたいてい納得するだろう?」
「医学的根拠?・・・という事は、里の者達に知られても彼らを守る事が出来るという事?」
「偏見の目はどうにもできないけど、見た目が男性でも心が女性、もしくはその逆という病気もこの世に存在するんだ。この里の者に該当するしないは別にして、偏見や差別の一切は無くなれば良いと思っているよ。それに、エルフの里はこれからどんどん新しいモノを取り入れて視野を広げる必要があると思う。クラリスが外交を担当してから実際いろんなモノが入ってきたんだ。もっと僕達は変化を受け入れて生活をより豊かにしていくべきなんだよ」
「ルーシェ・・・」
「古くからの伝統は決して悪いわけではない。でも、伝統を重んじるばかりで進化しないのは少し違うと思う。良い物は残しつつ、新しい良い物は取り入れていくべきなんだよ」
「・・・なんか、いっそのことルーシェントが里長になれば良いんじゃないかと思えてきた・・・」
「いやいや、里長なんてめんどくさ・・・こほん、里長はゴルドみたいに人望がある者がやるべきだよ。僕は横で意見や助言をしている方が合ってるさ」
「・・・ま、なんだかんだとゴルドを言いくるめて意見を通すんだから、実質あなたに主導権があるようなモノよね」
「ふふっ、何言ってるんだい?僕はあくまで“里長の親友”として意見を言っているだけだよ」
とりあえず希望の光が見えた事に安堵した僕は、キャサリンにお願いして、早速その日の午後に恋人同士と思われる男性2人に診療所へ来てもらう事にした。
「ルーシェント、頼まれてた情報持ってきたけど、今大丈夫?」
「ありがとう、キャサリン。今はちょうど休憩してたから大丈夫だよ。・・・で、結果はどうだった?」
エリュシオンとエルフの森での採集後、里に帰って来てから聖獣レオヴィアス様との約束を果たすために動き始めた僕は、まずは里一番の情報通で古い友人のキャサリンに依頼し、状況を確認しつつ愚痴をこぼしていた。
だって・・・だって・・・
「聖獣様の要望が“男性同士の睦み合い”って何なの?!“びーえるが尊い!”って力説されたけど、男同士でいちゃつく事の何が尊いの??!!しかも、最初は僕とエリュシオンにそれを要求してきたんだよ???!!!」
「はいはい、それはもう何度も聞いた。人にはそれぞれ趣味や嗜好が違うんだから仕方ないでしょ?」
聖獣様に“びーえる”を所望された時、エリュシオンと睦み合うのだけは避けたかった僕は「エルフの里に本物の“びーえる”がいる」と言ってしまった。
・・・もちろんそんなのは嘘だ。
いや、実際にいるかいないかわからないが少なくとも僕は聞いた事がない。
でも、男女問わず眉目秀麗の仲間が多いため、“もしかしたら本当にいるかもしれない”という希望もあった。
「・・・それよりも、ちょっと面白い事がわかったわよ♪」
「・・・面白い事?」
「私達って永く生きる分、やっぱりある程度の刺激ってものは求めてしまうモノみたいね☆」
キャサリン曰く、現在不定期に若いエルフ達が人間の真似事で仮面舞踏会みたいなパーティを開催しているという。
もちろん、人間が行うような危ない薬やいかがわしい商談などは一切ない健全なモノだ。
ただ、そこでは誰もが“自分ではない自分になれる”という。
親密になって正体を明かしてそのままくっつくも良し、明かさないまま秘密の関係を楽しむも良し、平和で真面目なエルフの里にしては少し大胆で背徳感を感じるイベントだが、実際少し変わった出会いや刺激を求めているだけで悪い事はしていないから、バレても取り締まる事はないだろう。
「エルフの里でそんな事が・・・」
「ふふっ、少しだけ外を経験した者の提案らしいけど、斬新だという事で若者には受けがいいらしいわ。私も一度行ってみたくなっちゃった☆」
「それで、面白いって言うのはその仮面舞踏会の事かい?」
「仮面舞踏会も確かに面白いけど、それではないわ。・・・どうやらその仮面舞踏会で成立した恋人達の中にいるらしいわよ、その“びーえる”ってやつが」
「!!!!」
キャサリン曰く、そこで結ばれた恋人の中にどうやら男性と女装した男性のカップルがいるらしい。
“びーえる”が実在するとは思っていなくて、最初は惚れ薬でも何でも作って“びーえる”を作ろうかと思っていた。
でもまさか、本当に“びーえる”が・・・男性の恋人同士がいるとは思わなかった。
「キャサリン、それは誰なんだい?だったら早速・・・」
「ルーシェント、焦り過ぎ。彼らは公言出来ない恋愛をしている分とても繊細なのよ。慎重に対応しなくちゃ」
「え、でも・・・」
「よく考えてみなさい。あなたとエリュシオンがエルフの森で聖獣様とお会いしたのは、村の者が皆知ってる事なの。聖獣様との約束だってすぐに広まるわ。そうなった時、約束のために協力してくれた人はもちろん、2人の関係だって周知となる。彼らが見世物状態になるって事なのよ??」
「・・・っ!!」
「エルフの里に彼らを守る法がない以上、すぐに接触して聖獣様にお会いするのは危険よ。ヘタすると、彼らはエルフの里にいられなくなる」
・・・確かにキャサリンの言うとおりだ。
僕でさえ男性の恋人同士というのを想像するだけで嫌悪感に近いものを感じるのに、人によっては“黒”もしくはそれ以上に差別する者がいてもおかしくはない。
だけど、まずはその2人に接触して協力を仰がねば・・・―――――
「わかった。彼らを守る法については僕からゴルドに進言しておこう。たが、それとは別に彼らに協力を仰ぎたい。約束の期日までに聖獣様の元へ行かなければいけないからね」
「ゴルドに進言って・・・男性同士の恋愛を周りに認めさせるような策があるの?」
「僕はこの里で唯一の医者だ。きちんとした医学的根拠を以て僕が説明すれば、里の者達はたいてい納得するだろう?」
「医学的根拠?・・・という事は、里の者達に知られても彼らを守る事が出来るという事?」
「偏見の目はどうにもできないけど、見た目が男性でも心が女性、もしくはその逆という病気もこの世に存在するんだ。この里の者に該当するしないは別にして、偏見や差別の一切は無くなれば良いと思っているよ。それに、エルフの里はこれからどんどん新しいモノを取り入れて視野を広げる必要があると思う。クラリスが外交を担当してから実際いろんなモノが入ってきたんだ。もっと僕達は変化を受け入れて生活をより豊かにしていくべきなんだよ」
「ルーシェ・・・」
「古くからの伝統は決して悪いわけではない。でも、伝統を重んじるばかりで進化しないのは少し違うと思う。良い物は残しつつ、新しい良い物は取り入れていくべきなんだよ」
「・・・なんか、いっそのことルーシェントが里長になれば良いんじゃないかと思えてきた・・・」
「いやいや、里長なんてめんどくさ・・・こほん、里長はゴルドみたいに人望がある者がやるべきだよ。僕は横で意見や助言をしている方が合ってるさ」
「・・・ま、なんだかんだとゴルドを言いくるめて意見を通すんだから、実質あなたに主導権があるようなモノよね」
「ふふっ、何言ってるんだい?僕はあくまで“里長の親友”として意見を言っているだけだよ」
とりあえず希望の光が見えた事に安堵した僕は、キャサリンにお願いして、早速その日の午後に恋人同士と思われる男性2人に診療所へ来てもらう事にした。
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