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10章 延引された結婚式

※番外編※ そばにいる辛さと隣にいた幸せ inセイルside

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サーヤ達の結婚式が終わり落ち着いた頃、ボクはあるモノを持ってある場所へと来ていた。

辺り一面黄色の花で埋め尽くされた花畑。
この景色は森の中にいくつかある絶景スポットの1つだ。

目的の人物は・・・いたいた。
予想通り今日もここで昼寝をしてるみたいだね。

ボクは気配を消してこっそりと近づき、昼寝をしている目的の人物・・・口を半開きにして寝息を立てているベルナートの口に、持っていたモノを流し込んだ。

「????!!!!」

流し込んだ回復薬に驚きながら咳き込み、声にならない叫び声をあげながらゴロゴロとのたうち回っているベルナート。
おかしいなぁ。エリュシオンが味を少し改良したって言ってたのに・・・

「っぐ、げほっ、げほっ・・・うぅ、酷いよセイル。せっかく気持ち良く寝てたのに・・・」
「ベルナートこそ気を抜きすぎじゃない?最近はこの森にちらほら人間が入って来てるみたいだし、気を抜いちゃダメじゃない☆ボクじゃなかったら今頃もっと酷い目に遭ってたかもしれないよ?」
「セイルの気配には気づいてたよ!でも仲間は警戒する必要ないじゃないか。
 う~・・・これってエリュシオンの激マズ回復薬だよね?相変わらず酷い味・・・」
「そうなの?味を少し良くした改良版って聞いたのに酷いね☆文句はエリュシオンに言いなよ♪」
「いやいやいや、そもそもコレを飲ませたセイルが一番酷いからね!!」

すっかり目が覚めたベルナートに、ミナトから貰っておいた癒しの水を渡し、久しぶりにこの景色を堪能する。
この場所はリアもお気に入りで、何度か連れてきた事があった。

「ベルナート、意外と元気そうだね」
「え?」
「サーヤに想いを伝えて、振られたんでしょ?」
「・・・っ」
「てっきり今日もここで泣いてるのかと思ってた」
「!!・・・なっ、なんでここで泣いてたって知って・・・」
「サクラをここに連れてきたの、ボクだから☆」
「・・・セイル、だったんだ・・・」

ベルナートが結婚式の最中にサーヤを連れだして告白した話はエリュシオンから聞いていた。
何もそんな日に気持ちを伝えなくても・・・と思ったのはボクだけじゃないはず。

でも、準備中に伝えても結果次第ではすごく気まずいし、ヘタすれば結婚式にも影響する。
そして結婚式後だと、間違いなくいつもよりエリュシオンとサーヤが親密になってるだろうから、気持ちを切り替える節目という意味でも結婚式当日が一番良かったんだろうね。

サーヤとベルナートが抜けてから、いくら飲んでも酔わないくせにエリュシオンは酒を煽り始めるし、ボク達はわかっててわからないフリをしながら微妙な空気で食事をするしかなくて、結局双子達とエリュシオンで弟妹が欲しいという話になった時に、モニカが「私達も頑張りますわよ」とか言ってユーリを連れ帰った事で解散する流れになったんだよね。
・・・さすがサーヤの親友で王妃なだけあって、空気が読めるというか空気を変えてくれたというか・・・

ボクは結婚式当日の事を思い出しながら、ベルナートに気になっていた事を聞いてみた。

「ベルナート、サーヤに加護を与え続ける事にしたんだね。・・・どうして?」
「どうしてって・・・サーヤの事は好きだし、護りたい気持ちに変わりはないから・・・」
「振られてもそばにいるなんて辛いだけじゃないの?」
「・・・確かにね」

辛そうなんだけど、どこか幸せそうなという矛盾したはにかんだ笑顔で答えるベルナート。
ボクはますますわからなくなった。

「確かに、今はサーヤとエリュシオンを見るのは辛い・・・でも、辛いだけじゃないし、俺は一人じゃないから・・・」
「・・・一人じゃない?」
「うん。サクラが・・・俺が泣いてるとサクラが俺以上に泣いちゃうし、今日はサーヤ達と出かけてるけど、俺を一人にしない、ずっとそばにいるって・・・」
「ふ~ん・・・サクラってばベルナートにプロポーズしたんだ☆ずいぶん大胆だね、さすがサーヤの子供だ♪」
「いや、サクラはまだ子供だよ?そんなつもりで言ったんじゃないって!・・・でも、俺はサクラの言葉に救われたのは間違いないから・・・隣にいる事ができなくても護る事はできるしね」

隣にいる事ができなくても護れる、か・・・

「・・・そうだね。隣にいられなくても、生きてさえいれば・・・」
「・・・セイル?」
「・・・隣にいたけどもう二度と会えない事と、隣にいられないけど生きている事・・・どっちが辛いんだろうね」

こんな事、言うつもりも聞くつもりもなかったのに思わず口に出してしまった・・・ボクらしくもない。
ベルナートも少し驚いてたみたいだけど、少し考えてから返事をしてくれた。

「・・・どっちも辛いと思う。でも、どっちも不幸ではないと思うよ」
「どうして?」
「だって、大抵の人は俺達よりも先に死を迎えてしまうけど、生きてる間は隣にいてもいなくても笑顔を守れる。二度と会えないのは悲しいけど、一緒に過ごした時間は紛れもない現実だ。
 少なくとも一緒にいられた時間・・・しかも隣にいられたならきっとすごく幸せな時間として記憶にも残ってるはずだよ」
「!!」
「・・・セイル、その人と一緒にいる時、幸せだったんでしょ?」
「・・・うん。この景色、リアが好きで何度か連れてきた事があるんだ・・・」
「ふふっ、ここの景色はすごく綺麗だからね」

それから珍しく感傷に浸っていたボクは、少しだけリアの事をベルナートに話していた。
ボクが大切にしているモノを認めてくれたのが嬉しかったからってのもあるけど、ちょっと喋り過ぎちゃったかもしれない。

「セイル。俺ね、サーヤに振られたけど想いを伝えた事は後悔してないよ。・・・だって、正直結果はわかってたし・・・」
「ベルナート・・・」
「でもね、今こうしてセイルと話したり、この綺麗な景色を心から楽しめるようになったのは間違いなくサーヤのおかげなんだ。それに、サーヤとエリュシオンが結ばれたからサクラにも会えた。それに、他の精霊王達とも打ち解ける事ができたし、“仲間”と呼べる関係の人間もできた。サーヤがいなかったら、今もどこかで自分を封印しながら周りと馴染めずに生きてきたと思う。・・・だから、サーヤは“大好き”って以上に俺にとって特別な存在なんだよ」

確かに、サーヤを通して仲間が増えて結束力もできた。
最初は敵対していたり、良く思っていなかった獣人女やクラリスも、サーヤと接しているうちに最終的に心を許していたしね。
サーヤは本当に不思議な子だ。

「そういえば・・・ベルナート」
「ん?」
「いくらサクラがおねだりしてくるからって、口づけするのはどうかと思うよ☆」
「!!!」
「しかも頬っぺたじゃなくて口にしてるよね☆」
「ちょっ、何で知ってるの??!!・・・うぅ、サクラが、その・・・口づけしないと泣くって言うんだもん・・・」

いくら泣くからと言っても、何も思わない・・・しかも子供相手に口に口づけたりはしない・・・と思う。

「知ってる?子供に手を出す大人を“ろりこん”って言うんだって☆ベルナートだって、口づけをする意味、もうわかってるんでしょ?」
「ろり、こん・・・もっ、もちろん意味はわかってるけど、サクラは、その・・・」
「レオンやサクラは、今は子供でも10数年もしたら成長して大人になるよ☆・・・サクラのこと、何も想ってないわけじゃないんでしょ?」
「もちろんだよ!・・・でも、まだよくわからなくて・・・だけど、一緒にいると心が安らいで心地良いし、一生懸命俺に気持ちを伝えてくれるところが凄く可愛い」

自分で気付いてないのかな。サクラへの気持ちがわからないというベルナートの表情は、サーヤを好きだと言っていた表情と同じように感じる。

サクラってば、まだまだ子供なのにベルナートを落としかけてるなんてさすがだね☆
ま、本人はまだ自覚してないみたいだけど、気付くのも時間の問題かな?

「何にしても、エリュシオンにバレたら殺されるだろうね☆」
「!!」
「サーヤも、ここでベルナートとサクラがナニしてるか知ったら・・・」
「お願いセイル!ここでサクラと過ごしてる事はサーヤ達に黙ってて!!」

別にお互い好き合ってるなら、年齢なんて関係ないと思ってるボクにとって、ベルナートとサクラがここでナニしようが気にならないんだけどね☆
それに、むしろ勢いに押されて襲われてるのはベルナートの方だ。
ま、拒否しないベルナートもベルナートだけどね♪

必死にお願いしてくるベルナートの願いを聞いても良いけど、素直に聞いてあげられないのは、ベルナートに弄られキャラが定着したからなんだろう。

「ふふっ、良いよ☆サーヤ達には黙っててあげる♪」
「ホント?!」
「ただし、これで貸し1つね☆」
「貸し、1つ?」
「ふふっ、ベルナートには何をしてもらおうかな~♪」
「~~~~~っ、へ、変なお願いだけは絶対ヤダからね!!ちゃんと俺にできる事にしてよ!」

本当に以前とは別人ってくらいに喜怒哀楽がわかりやすくなったベルナート。
好きでも嫌いでもないと思ってたけど、やはり同じ精霊王という立場上良い方向に変わると少し嬉しく感じるかもしれないね。

「・・・じゃあ、黒曜石を1つちょうだい」
「良いけど・・・それに変なモノ記憶させてサーヤやエリュシオンに見せたりしない?」
「ふふっ、そんな事しないよ。・・・ボクの記憶に残っているリアを残しておきたいんだ」
「!!!」

サーヤ達とお酒を飲む約束もしたし、その時にリアの話をするから見せてあげたいなという気持ちと、自分でもいつでもリアを見れたらなという気持ちと両方あった。

「それだったら、貸し借り関係なく1つと言わず何個でもあげるよ!大事な思い出だもの。残しておかなきゃね」

そう言って、ベルナートは今持っている分だと言って5~6個の黒曜石をボクに渡してきた。
最近は時間があれば黒曜石のストックを作り、魔力を回復させるのにここで休んだりしているのも知ってる。
その黒曜石を、今みたいに仲間に平気で渡してしまう事も・・・―――――

「ベルナート。黒曜石はとても価値があるものなんだから、人にホイホイあげない方が良いよ☆」
「そう?でも、俺の能力って戦闘向きじゃないから護ると言ってもあまり役に立たなさそうだし・・・」
「サーヤにも言ったけど、できる事をできる人がやれば良いんだよ。戦闘は得意なフランとかノルンとかエリュシオンとかに任せれば良いよ☆ボクだって本来戦闘は得意じゃないからね♪」
「え?そうなの?!・・・ってか、ノルンって戦闘向きなの??!!」

しまった。以前アクアリーズを蹴り一発で一蹴したのは皆に内緒だったんだ。

「ま、僕達の中では古参の精霊王だし、色々な知識や経験が豊富でもおかしくはないよね☆」
「ふむふむ、なるほど・・・確かにノルンってお姉さんって感じで年上っぽいもんね。セイルより年上だったんだ」

ヤバイ・・・どんどん墓穴を掘りそうな気がしてきた。
とりあえずこれ以上ツッコまれないように話を遮って、そろそろ戻ろうかなと思ったらベルナートがこんな事を聞いてきた。

「ねぇ、セイル。・・・えっちってやっぱり気持ち良いの?セイルも彼女を抱いたんだよね?俺、サーヤとはシテないから・・・その、どんなモノなのか気になって・・・」
「・・・」

・・・うん。素直な所はベルナートの良いトコロだと思うけど、素直過ぎるのはどうかと思うよね。
予想の斜め上からの質問で、正直どう答えていいかわからない・・・というか面倒くさい。

「・・・そういう事はエリュシオンが一番詳しいんじゃない?サーヤの身体、どこが良いかとか教えてもらえるかもよ☆」
「えぇぇ??!!そ、そんなっ・・・サ、サーヤの、身体の良いトコロ・・・」

・・・普通は好きな相手が別の相手に抱かれてる話なんてショック受けそうなのに、ベルナートはナニかを想像して顔を真っ赤にして興奮してる・・・こういうずれてる所が憎めないというかおバカというか・・・

「こ、今度エリュシオンに聞いてみる!話くらいなら聞かせてくれるかもしれないし!!」

うん。ベルナートはただのバカだったらしい。
しかも、“超”が付くくらいの。



そう思わざるを得ない午後のひと時だった・・・――――――
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