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10章 延引された結婚式
ようやく溶けたわだかまり
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◇
マゼンダさんのお店まで乗せてくれた馬車が、当然の事ながらお城まで連れて行ってくれるという事で、双子達に少しだけお菓子を与えながらお城までの景色を楽しむ事にした。
「おーましゃん、ちゅごいね~」
「おーましゃん、がんばえ~」
お菓子を貰った双子達は、すっかりご機嫌で走っている馬を応援している。
物心ついた頃からほとんど森で生活し、たまに行くのもスルト村だから、王都では目にしたものすべてに目を輝かせていてすごく可愛い。
「レオンやサクラがもう少し大きくなったら、いろんな場所に連れて行くのも良いかもしれないね」
「そうだな。転移門も最終調整の段階に入ったし、またどこか旅行に行くのも良いかもな」
「ふふっ、旅行じゃなくて日帰りで買い物だけでも十分お出かけにはなると思うよ。エルの転移魔法頼りになっちゃうけどね」
「ふっ、それくらいならいつでも連れて行ってやるさ」
会話をしているうちにお城に到着したらしく、気づけば馬車は止まっていた。
「到着しました」と声がかかるかなと思っていたけど、声がかからない上に外が少し騒がしかったので、何事かと思って扉を開けてみると、目の前にはモニカやユーリ殿下、二人の子供のセレスティアくん(通称:セレスくん)の他に護衛やメイドさんなどがあたし達を出迎えていた。
・・・そりゃ一国の王様やお妃様達が自ら出迎えなんてしてたら、騒がしくもなるよね。
そうそう、ユーリ殿下はレヴィンさんから無事に王位を継承し、現在は国王様となっている。
そのため、息子のセレスくんは第一王子であり王太子殿下でもある。
レヴィンさんは、王位継承後はお城の離れで悠々自適な隠居生活をしているらしい。
「サーヤ、エリュシオン様、お久しぶりですの!まぁまぁ、レオンやサクラも少し見ないうちに大きくなりましたわね」
「お久しぶりです、エリュシオン殿、サーヤ。レオン、サクラも元気そうで何よりだね」
「モニカ、ユーリ殿・・・いえ、国王様も久しぶりです」
「サーヤ、今更そんな敬称で呼ばれると何だか距離を感じるから、敬称はなしで良いよ」
「そうですわサーヤ。あなたはユーリ様を呼び捨てにしたって構いませんのよ?」
「いやいやいや、さすがに国王様を呼び捨てにするのはおかしいでしょ!!」
「そうか?俺はレヴィンもそいつも敬称を付けた事などないが・・・」
「それはエルだからだよ・・・」
大人達が話していると、モニカの後ろでもじもじしているセレスくんが目に入った。
どうやらレオンとサクラが気になるらしい。
「セレスくんも大きくなったね。レオン、サクラ、覚えてる?モニカの子供のセレスティアくんだよ」
「ちぇれちゅ・・・れちゅ?」
「れちゅ?」
「ふふっ、セレスの名前はちょっと言いにくいですものね。セレス、レオンとサクラよ。赤ちゃんの頃少し一緒にいたの、覚えているかしら?」
「レオと・・・、ちゃく、ちゃくりゃ・・・うぅ・・・」
「くーなの!」
「くー?」
モニカが出産を終えた後数日だけ一緒に過ごしただけだから、やはり互いに記憶にないらしくほぼ初対面みたいなものだけど、子供達は人見知りせずに名前を呼びあってすぐに打ち解け始めたようだ。
「中庭のテラスにお茶とケーキなどのお菓子をたくさん用意してますの。まずはそちらへ移動しましょう」
「「ケーキ!!」」
「レオ、くー、いっちょにたべよ!」
「「うんっ!!」」
あたし達は、着いて早々そのまま以前レヴィンさんとお茶会をした中庭のテラスへと案内された。
そこにはすでにたくさんの美味しそうなお菓子がセットされており、中庭の庭園も相変わらず計算しつくされた季節の花々が咲き乱れる素晴らしい景色だった。
子供達はすぐに好きなケーキを選んでメイドさんに取り分けてもらい、美味しそうに食べ始めていた。
モニカとユーリ殿下・・・いや、ユーリ陛下の息子であるセレスティアくんは、金糸のような金髪と碧眼という第一王子の外見をしっかりと受け継いでおり、モニカ譲りの少しふわっとしたくせっ毛が愛らしい将来イケメン間違いなしな男の子である。
「はぁ・・・セレスくん、金髪碧眼でまさに天使だねぇ」
「ふふっ、我が子も可愛いですが、やはりレオンやサクラの愛らしさには負けますの・・・」
「いやいや、うちの子も可愛いけど、セレスくんも十分可愛い天使だよ!」
「いえいえ、レオンとサクラの方が可愛いですわ!」
「「そこは我が子が一番可愛いって褒めてやれ(褒めてあげようよ)」」
「「!!!」」
我が子自慢よりも、互いの子を褒め合ってしまいエルとユーリ陛下にツッコミされるあたしとモニカ。
こんなやり取りができるようになるなんて、夢にも思わなかったなぁ・・・
「おや、もう皆揃っていたんだね」
「はぁ~い♡お久しぶりねん♡エリュシオン、サーヤちゃん♡♡」
「レヴィンさん、マデリーヌさんも!お久しぶりです」
「レヴィン、少し見ないうちに老けたか?」
「ははっ、オレも一応孫がいるおじいちゃんだからね。年も取るさ」
少し遅れてテラスにやってきたレヴィンさんは、エルが言う程老けてるように見えずとても若々しいように感じる。
レヴィンさんの隣にはマデリーヌさんもいて、以前から結構お城で過ごす事が多いのだとか。
「あらん♡レヴィンは年を重ねるたびにハルバードに似てきて魅力はアップしてるわよん♡♡」
「変態はすっかりレヴィンがお気に入りのようだな。いっそ加護ごとレヴィンに乗り換えるか?」
「もうっ!エリュシオンがあまりにも放置プレイするから、ちょこっとつまみ食いしただけじゃないのん!」
「へ?つまみ食いって・・・??」
「ちょっとちょっとマデリーヌ!!そういう事をあまり口に出しては・・・」
「つまみ食いねぇ・・・その割には城にいる頻度が増えたようだが?」
「ふふ♡つまみ食いもちょこ~っと癖になっちゃったみたいなのん♡♡」
「ふっ、さすがだな。すっかりアバズレ女に成り下がったか、変態」
「んんっ、やっぱりエリュシオンの蔑んだ目が一番ゾクゾクしちゃうわん♡もっと、もっと言ってちょうだい♡♡」
なんかすごい事を聞いてしまった気がするけど、相変わらずマデリーヌさんの発言が凄すぎてどうでも良くなってしまう・・・
「う?あばじゅえ??」
「リーたん、ちゅまみぐいは、めっなのよ」
「リーたん、おじじ、たべゆの?」
「「「「「????!!!!」」」」」
ケーキに夢中だった天使達が、いつの間にか今のやり取りを聞いていたようだ。
慌ててあたしとモニカで話題を変えている間に、エルはマデリーヌさんを「森へ帰れ!」と強制転移させたようだ。
・・・子供達が変な言葉を覚えなきゃ良いけど・・・
そして、気が付けば話題はマゼンダさんから聞いた王都の価値観が変わってきている事や、あたし達の事が本や舞台となっている事についてに変わっていた。
「あはは、この話がまさかここまで国民に人気が出るとは思わなかったよ。最初国法を発表する時に、“手を出したら厳罰”なのに、“誰に手を出したらダメなのかわからない法律を作っても守りようがない”と大臣に指摘されてね」
「父上とオレで情報提供しているうちに、広報の担当者が“これは本にしたら売れるし、国民にも浸透するでしょう”ってなって、実際本が出版されたら思った以上に反響を呼んで、あまりの人気に劇場が舞台化をしたいと言い始めてしまって・・・一部の収益は、国益として今も納め続けられてるけど結構な額だよ」
「ユーリ様の婚約者になった時にちょうど舞台製作中でしたので、私もちょこ~っとお手伝いさせていただきましたの♪」
確かに法律であたし達に手出し禁止としたって、あたし達が誰かわからないと守りようがないもんね。
予想外に話が広がったのはわかったけど、モニカは絶対に楽しんでるよね??
「・・・今いる国民の多くは、大体が理由も知らずに“黒”という色だけで畏怖や差別の対象とする人が多いから、“黒”であってもちゃんと分かり合えるし協力し合えるんだとわかって欲しかったんだ。現にエリュシオンが魔法省のトップだった時は、色んなものを開発して国民の生活を豊かにしてくれた事実もあったしね」
「・・・そんな昔の事など俺は覚えていない」
「ふふっ、今いる大臣の父君や祖父、また今でも国政に口を出してくる元老院は、皆エリュシオンの事を鮮明に覚えてるみたいだよ。特にエリュシオンが一番力を入れて作った黒の塔なんて、あまりの完成度に当時視察に行った者は今でも軽くトラウマを抱えてるみたいだしね。あの塔のおかげで、我が国は重罪を犯す人間は大分減ったのも事実だ」
「・・・」
“黒の塔”とは重罪を犯した犯罪者の終身刑の場所で、エルが魔法省のトップの時に当時のストレスを全部その塔の製作にぶつけ、趣向を凝らしまくったら作るのが楽しくなってきて、多少やり過ぎたかもと言っていた渾身の力作だったはず。
・・・ストレス発散に作られた塔がそこまで評価されてる事に、隣のエルも少し複雑な顔をしている。
「サーヤ達のお話を許可なく広めたのは申し訳ないと思っておりますが、私達はエリュシオン様やサクラが色を偽ることなく王都で過ごせるように・・・そして、お2人以外の“黒”の方々も希望が持てるような足がかりを作りたかったのですわ」
「あぁ、“黒”は畏怖の対象なんかじゃない。“魔力量の多い優れた方”だと認識して欲しかったんだ」
「今では大分エリュシオン達の話が浸透していてね。実際に近衛騎士に随一の武を持つ黒豹の獣人がいる。彼はエリュシオンが魔法省のトップだったという事実に感銘を受けたようだ」
「ふふっ、私のメイド兼護衛にも一人、黒虎の方がいましてよ。黒豹の方とはご夫婦の様で王都へも一緒にいらしたようですわ。ひいき目ではなく、2人共実力で勝ち取った地位ですの」
「まぁ、まだ国内全部とはいかないけど、少なくとも王都周辺では“黒”を差別する声は大分なくなったみたいだよ」
すごい・・・“黒”ってだけで畏怖や差別されていたのが、ほんの数年でここまで変わるなんて・・・
「すごいね・・・今ならエルの綺麗な漆黒の黒髪、見せびらかして歩けるんじゃない?」
「・・・ここまでの話を聞いて出てきた一言目がそれか。くくっ、お前の頭はホントにどうなっている?」
「むっ、それどーゆー意味よ!」
”黒”の人達が希望を持てる足掛かり・・・そうなっているなら嬉しい。
でも、ここまでの状況にするのは、決して簡単ではなかったはずだ・・・
「エル、今でも人間は嫌い?」
「・・・人間によるな。少なくとも、今ここにいる人間は嫌いではない」
「ふふっ、あたしもだよ。レヴィンさん、モニカ・・・そしてユーリ、ありがとう。これからもよろしくお願いします」
「!!!」
言葉の意味が伝わったらしく、ユーリは目を見開いて一瞬驚いてから少し涙を浮かべたまま綺麗に微笑んだ。
レヴィンさんもユーリの頭をぽんぽんとしつつ、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
過去にあった悲しい出来事や事実はなくならないけど、心の奥に少しだけ燻ったまま残っていたサーシャさんの想いは、ようやく救われたような気がした・・・―――――
-------------------------------
※補足※
アネモネの件以降ずっとサーヤへの贖罪の気持ちで国政を頑張ってきたユーリと、心の奥に少しだけ残っていた”サーシャ”としてユーリを許せていない気持ちがあったサーヤ。
そんなサーヤがようやくユーリを許すことができて、これからもよろしくと和解できたお話。
あと、ずっと「人間は信用できない。人間は嫌いだ」と言っていたエリュシオンも、だいぶ心変わりしユーリやアネモネの件で迷惑を被った事を完全に許しているというのがレヴィンにも伝わるお話でもあります。
マゼンダさんのお店まで乗せてくれた馬車が、当然の事ながらお城まで連れて行ってくれるという事で、双子達に少しだけお菓子を与えながらお城までの景色を楽しむ事にした。
「おーましゃん、ちゅごいね~」
「おーましゃん、がんばえ~」
お菓子を貰った双子達は、すっかりご機嫌で走っている馬を応援している。
物心ついた頃からほとんど森で生活し、たまに行くのもスルト村だから、王都では目にしたものすべてに目を輝かせていてすごく可愛い。
「レオンやサクラがもう少し大きくなったら、いろんな場所に連れて行くのも良いかもしれないね」
「そうだな。転移門も最終調整の段階に入ったし、またどこか旅行に行くのも良いかもな」
「ふふっ、旅行じゃなくて日帰りで買い物だけでも十分お出かけにはなると思うよ。エルの転移魔法頼りになっちゃうけどね」
「ふっ、それくらいならいつでも連れて行ってやるさ」
会話をしているうちにお城に到着したらしく、気づけば馬車は止まっていた。
「到着しました」と声がかかるかなと思っていたけど、声がかからない上に外が少し騒がしかったので、何事かと思って扉を開けてみると、目の前にはモニカやユーリ殿下、二人の子供のセレスティアくん(通称:セレスくん)の他に護衛やメイドさんなどがあたし達を出迎えていた。
・・・そりゃ一国の王様やお妃様達が自ら出迎えなんてしてたら、騒がしくもなるよね。
そうそう、ユーリ殿下はレヴィンさんから無事に王位を継承し、現在は国王様となっている。
そのため、息子のセレスくんは第一王子であり王太子殿下でもある。
レヴィンさんは、王位継承後はお城の離れで悠々自適な隠居生活をしているらしい。
「サーヤ、エリュシオン様、お久しぶりですの!まぁまぁ、レオンやサクラも少し見ないうちに大きくなりましたわね」
「お久しぶりです、エリュシオン殿、サーヤ。レオン、サクラも元気そうで何よりだね」
「モニカ、ユーリ殿・・・いえ、国王様も久しぶりです」
「サーヤ、今更そんな敬称で呼ばれると何だか距離を感じるから、敬称はなしで良いよ」
「そうですわサーヤ。あなたはユーリ様を呼び捨てにしたって構いませんのよ?」
「いやいやいや、さすがに国王様を呼び捨てにするのはおかしいでしょ!!」
「そうか?俺はレヴィンもそいつも敬称を付けた事などないが・・・」
「それはエルだからだよ・・・」
大人達が話していると、モニカの後ろでもじもじしているセレスくんが目に入った。
どうやらレオンとサクラが気になるらしい。
「セレスくんも大きくなったね。レオン、サクラ、覚えてる?モニカの子供のセレスティアくんだよ」
「ちぇれちゅ・・・れちゅ?」
「れちゅ?」
「ふふっ、セレスの名前はちょっと言いにくいですものね。セレス、レオンとサクラよ。赤ちゃんの頃少し一緒にいたの、覚えているかしら?」
「レオと・・・、ちゃく、ちゃくりゃ・・・うぅ・・・」
「くーなの!」
「くー?」
モニカが出産を終えた後数日だけ一緒に過ごしただけだから、やはり互いに記憶にないらしくほぼ初対面みたいなものだけど、子供達は人見知りせずに名前を呼びあってすぐに打ち解け始めたようだ。
「中庭のテラスにお茶とケーキなどのお菓子をたくさん用意してますの。まずはそちらへ移動しましょう」
「「ケーキ!!」」
「レオ、くー、いっちょにたべよ!」
「「うんっ!!」」
あたし達は、着いて早々そのまま以前レヴィンさんとお茶会をした中庭のテラスへと案内された。
そこにはすでにたくさんの美味しそうなお菓子がセットされており、中庭の庭園も相変わらず計算しつくされた季節の花々が咲き乱れる素晴らしい景色だった。
子供達はすぐに好きなケーキを選んでメイドさんに取り分けてもらい、美味しそうに食べ始めていた。
モニカとユーリ殿下・・・いや、ユーリ陛下の息子であるセレスティアくんは、金糸のような金髪と碧眼という第一王子の外見をしっかりと受け継いでおり、モニカ譲りの少しふわっとしたくせっ毛が愛らしい将来イケメン間違いなしな男の子である。
「はぁ・・・セレスくん、金髪碧眼でまさに天使だねぇ」
「ふふっ、我が子も可愛いですが、やはりレオンやサクラの愛らしさには負けますの・・・」
「いやいや、うちの子も可愛いけど、セレスくんも十分可愛い天使だよ!」
「いえいえ、レオンとサクラの方が可愛いですわ!」
「「そこは我が子が一番可愛いって褒めてやれ(褒めてあげようよ)」」
「「!!!」」
我が子自慢よりも、互いの子を褒め合ってしまいエルとユーリ陛下にツッコミされるあたしとモニカ。
こんなやり取りができるようになるなんて、夢にも思わなかったなぁ・・・
「おや、もう皆揃っていたんだね」
「はぁ~い♡お久しぶりねん♡エリュシオン、サーヤちゃん♡♡」
「レヴィンさん、マデリーヌさんも!お久しぶりです」
「レヴィン、少し見ないうちに老けたか?」
「ははっ、オレも一応孫がいるおじいちゃんだからね。年も取るさ」
少し遅れてテラスにやってきたレヴィンさんは、エルが言う程老けてるように見えずとても若々しいように感じる。
レヴィンさんの隣にはマデリーヌさんもいて、以前から結構お城で過ごす事が多いのだとか。
「あらん♡レヴィンは年を重ねるたびにハルバードに似てきて魅力はアップしてるわよん♡♡」
「変態はすっかりレヴィンがお気に入りのようだな。いっそ加護ごとレヴィンに乗り換えるか?」
「もうっ!エリュシオンがあまりにも放置プレイするから、ちょこっとつまみ食いしただけじゃないのん!」
「へ?つまみ食いって・・・??」
「ちょっとちょっとマデリーヌ!!そういう事をあまり口に出しては・・・」
「つまみ食いねぇ・・・その割には城にいる頻度が増えたようだが?」
「ふふ♡つまみ食いもちょこ~っと癖になっちゃったみたいなのん♡♡」
「ふっ、さすがだな。すっかりアバズレ女に成り下がったか、変態」
「んんっ、やっぱりエリュシオンの蔑んだ目が一番ゾクゾクしちゃうわん♡もっと、もっと言ってちょうだい♡♡」
なんかすごい事を聞いてしまった気がするけど、相変わらずマデリーヌさんの発言が凄すぎてどうでも良くなってしまう・・・
「う?あばじゅえ??」
「リーたん、ちゅまみぐいは、めっなのよ」
「リーたん、おじじ、たべゆの?」
「「「「「????!!!!」」」」」
ケーキに夢中だった天使達が、いつの間にか今のやり取りを聞いていたようだ。
慌ててあたしとモニカで話題を変えている間に、エルはマデリーヌさんを「森へ帰れ!」と強制転移させたようだ。
・・・子供達が変な言葉を覚えなきゃ良いけど・・・
そして、気が付けば話題はマゼンダさんから聞いた王都の価値観が変わってきている事や、あたし達の事が本や舞台となっている事についてに変わっていた。
「あはは、この話がまさかここまで国民に人気が出るとは思わなかったよ。最初国法を発表する時に、“手を出したら厳罰”なのに、“誰に手を出したらダメなのかわからない法律を作っても守りようがない”と大臣に指摘されてね」
「父上とオレで情報提供しているうちに、広報の担当者が“これは本にしたら売れるし、国民にも浸透するでしょう”ってなって、実際本が出版されたら思った以上に反響を呼んで、あまりの人気に劇場が舞台化をしたいと言い始めてしまって・・・一部の収益は、国益として今も納め続けられてるけど結構な額だよ」
「ユーリ様の婚約者になった時にちょうど舞台製作中でしたので、私もちょこ~っとお手伝いさせていただきましたの♪」
確かに法律であたし達に手出し禁止としたって、あたし達が誰かわからないと守りようがないもんね。
予想外に話が広がったのはわかったけど、モニカは絶対に楽しんでるよね??
「・・・今いる国民の多くは、大体が理由も知らずに“黒”という色だけで畏怖や差別の対象とする人が多いから、“黒”であってもちゃんと分かり合えるし協力し合えるんだとわかって欲しかったんだ。現にエリュシオンが魔法省のトップだった時は、色んなものを開発して国民の生活を豊かにしてくれた事実もあったしね」
「・・・そんな昔の事など俺は覚えていない」
「ふふっ、今いる大臣の父君や祖父、また今でも国政に口を出してくる元老院は、皆エリュシオンの事を鮮明に覚えてるみたいだよ。特にエリュシオンが一番力を入れて作った黒の塔なんて、あまりの完成度に当時視察に行った者は今でも軽くトラウマを抱えてるみたいだしね。あの塔のおかげで、我が国は重罪を犯す人間は大分減ったのも事実だ」
「・・・」
“黒の塔”とは重罪を犯した犯罪者の終身刑の場所で、エルが魔法省のトップの時に当時のストレスを全部その塔の製作にぶつけ、趣向を凝らしまくったら作るのが楽しくなってきて、多少やり過ぎたかもと言っていた渾身の力作だったはず。
・・・ストレス発散に作られた塔がそこまで評価されてる事に、隣のエルも少し複雑な顔をしている。
「サーヤ達のお話を許可なく広めたのは申し訳ないと思っておりますが、私達はエリュシオン様やサクラが色を偽ることなく王都で過ごせるように・・・そして、お2人以外の“黒”の方々も希望が持てるような足がかりを作りたかったのですわ」
「あぁ、“黒”は畏怖の対象なんかじゃない。“魔力量の多い優れた方”だと認識して欲しかったんだ」
「今では大分エリュシオン達の話が浸透していてね。実際に近衛騎士に随一の武を持つ黒豹の獣人がいる。彼はエリュシオンが魔法省のトップだったという事実に感銘を受けたようだ」
「ふふっ、私のメイド兼護衛にも一人、黒虎の方がいましてよ。黒豹の方とはご夫婦の様で王都へも一緒にいらしたようですわ。ひいき目ではなく、2人共実力で勝ち取った地位ですの」
「まぁ、まだ国内全部とはいかないけど、少なくとも王都周辺では“黒”を差別する声は大分なくなったみたいだよ」
すごい・・・“黒”ってだけで畏怖や差別されていたのが、ほんの数年でここまで変わるなんて・・・
「すごいね・・・今ならエルの綺麗な漆黒の黒髪、見せびらかして歩けるんじゃない?」
「・・・ここまでの話を聞いて出てきた一言目がそれか。くくっ、お前の頭はホントにどうなっている?」
「むっ、それどーゆー意味よ!」
”黒”の人達が希望を持てる足掛かり・・・そうなっているなら嬉しい。
でも、ここまでの状況にするのは、決して簡単ではなかったはずだ・・・
「エル、今でも人間は嫌い?」
「・・・人間によるな。少なくとも、今ここにいる人間は嫌いではない」
「ふふっ、あたしもだよ。レヴィンさん、モニカ・・・そしてユーリ、ありがとう。これからもよろしくお願いします」
「!!!」
言葉の意味が伝わったらしく、ユーリは目を見開いて一瞬驚いてから少し涙を浮かべたまま綺麗に微笑んだ。
レヴィンさんもユーリの頭をぽんぽんとしつつ、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
過去にあった悲しい出来事や事実はなくならないけど、心の奥に少しだけ燻ったまま残っていたサーシャさんの想いは、ようやく救われたような気がした・・・―――――
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※補足※
アネモネの件以降ずっとサーヤへの贖罪の気持ちで国政を頑張ってきたユーリと、心の奥に少しだけ残っていた”サーシャ”としてユーリを許せていない気持ちがあったサーヤ。
そんなサーヤがようやくユーリを許すことができて、これからもよろしくと和解できたお話。
あと、ずっと「人間は信用できない。人間は嫌いだ」と言っていたエリュシオンも、だいぶ心変わりしユーリやアネモネの件で迷惑を被った事を完全に許しているというのがレヴィンにも伝わるお話でもあります。
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