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9章 帰郷!エルフの里へ ~悪戦苦闘の子育て編~

※番外編※ モニカのお料理教室 

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今日はモニカの体調が落ち着いてるので、以前話していたプチ料理教室を開こうと思います。
参加者はモニカ、ミナトちゃん、カイトくん、ベルナートさん、ほむちゃん、監修と味見役に双子の相手をしているエルとセイル、フランさんと今日はノルンさんも来ている。

「ふふっ、可愛いミナトを怪我させたっていう愚か者がいたと聞いたから、ちょっと心配だったのよ」
「私も鍛錬に夢中で家を空けていたのが申し訳なくてね」

2人は襲撃後、こうしてたまに家に居てくれるようになった。
ちなみに、襲撃のあった日フランさんも遅れて駆けつけたらしいけど、すでに冒険者達を回復させた後だったようで、ちょっとした報復を兼ねて火属性の精霊と契約している人達の精霊に“数日間は力を貸すの禁止”と命令を下しておいたらしい。
さすがに高ランクの冒険者は加護精霊とも共存できているため契約解除したい精霊がいなかったみたいです。
・・・ま、使えるはずの力が使えないだけでも十分な報復だよね。


「サーヤ、今日は何を作るのかしら?恥ずかしいけれど台所に立つのも初めてなくらい初心者ですの・・・私にも作れるかしら?」
「大丈夫だよ!材料を計って、混ぜで焼くだけだからね☆ミナトちゃん達も一緒に作ってみようか」
「あぃっ!」
「僕も作るのは初めてだから頑張る」
「俺はサーヤのために作る!サーヤ、出来上がったら食べてくれる?」
「もちろんだよ!皆で美味しいお菓子作ってお茶にしようね♪」
「「「「はーい(ですわ)」」」」

こうして、和やかな感じで料理教室は始まったのでした。



「今日は皆でパウンドケーキを作ります。まずは目の前にある材料を決まった分だけ計りましょう」

人数が多いので、今日はダイニングテーブルが皆の作業スペースだ。
まずは小麦粉を計るんだけど・・・

「ちょっと待って、モニカ!小麦粉は100gでいいの。それだと1kgになっちゃう」
「あら。・・・でも、こんなに少なくて大丈夫ですの?」

モニカが材料の計り方を間違えたり・・・

「けふっ、けふっ・・・うー、おめめいちゃいの~・・・」
「あららミナトちゃん、小麦粉がぼふって顔にかかっちゃったんだね。今拭くよ~」

ミナトちゃんの顔が、ぼふっと小麦粉まみれになったりと最初から賑やかな風景となった。

なんとか材料の計量が終わった後、ベルナートさんとほむちゃんはバターを溶かし、カイトくんは計り終えた小麦粉をふるうのを、ミナトちゃんは袋に入ったナッツを細かく砕くのをお願いした。

「モニカには、パウンドケーキに入れるリンゴのコンポートを小さく切ってもらいます」
「かしこまりましたの!ナイフとフォーク以外の刃物は持った事ありませんけど頑張りますわ!!」

さすが公爵令嬢。やっぱり包丁を持ったことがないみたい。
でも、食事でナイフやフォークは使うんだからそれと同じように切ってもらえれば・・・―――

「では、いざっ!」
「ちょっ、待って待ってモニカ!!包丁は両手で握るものではありませんっ!!」
「え、でもこんな大きな刃物片手で持つには少し重くありませんの?両手じゃないと振り上げられませんわ」
「包丁は振り上げる物ではないから良いのっ!!」

すみません、公爵令嬢舐めてました。
まさか剣みたいに振り上げて使うとは・・・一瞬包丁が武器に見えたよね。
う~ん。聡明な彼女も料理に関しての知識はないらしい。意外です・・・

とりあえずコンポートの切り方は、あたしが見本を見せてから多少手つきが危ないながらもできるようになったのでミナトちゃんのナッツを確認した。

「ミナトちゃん、ナッツは細かくなって・・・あれ?」
「ふぅ~。サーヤまま、いっぱい、い~っぱい、こまかくちたの♪」
「うん、粉々・・・本当に細かすぎて粉状になっちゃったね・・・」

ミナトちゃんにお願いしたナッツは、見事にナッツパウダーへと変貌を遂げていました。
むしろここまで細かくしたことが凄い!
パウンドケーキの1つはナッツ入りじゃなくて、ナッツ風味にチェンジのようです。

ベルナートさんとほむちゃんに溶かしてもらったバターに砂糖を3回に分けて入れてから混ぜ、卵を入れた所で今度はハンドミキサーの登場です。

「このハンドミキサーはあたし用だから自分の魔力を使って混ぜるタイプなんだけど、ガルドニアで販売してるのは魔石が付いてるから魔力がなくても使えるよ」
「まぁっ、そんな素晴らしい物がありますの?!私も欲しいですわ!」

現在モニカは妊婦で、子供に胎内の子供に魔力を与える必要があるため、ハンドミキサーの利用はモニカ以外の3人となり、まずはあたしが手本を見せた。

「これくらい回転させながら混ぜてね。生地がだんだんもったりしてくるよ」
「もったり?」
「すこし固まって重くなる・・・って言うのかな?」
「わかったの!やってみゆ!!」
「くくっ、失敗の数でサーヤに勝てる者はいないだろうな」
「そこっ、うるさいよ!!」

以前は大分調整に苦戦したり苦い思い出もあるけど、さすがにだいぶ使い慣れてきた。
まずは張り切って始めたミナトちゃん。魔力はホントに少しで良いからねって伝えたけど大丈夫かな?

(ガガガガガッ、バシャッ、ビチャッ)
「きゃ~~~、ミナトちゃんっ、ストップストップ!!魔力込めすぎ~~~~~」
「うぅ・・・びちゃびちゃなの~・・・」
「あらあら。ミナト一度お風呂に入って綺麗に洗ってしまいましょうね」
「あい」

さすがは魔力量が多い次期精霊王様。ほんの少しという次元が違うようだ・・・

周辺の汚れはエルが洗浄魔法で綺麗にして、ノルンさんが生地で顔や髪がべちゃべちゃになったミナトちゃんをお風呂に連れて行ってくれた。

「魔力の調整って難しいからね☆ミナトには少量の魔力放出の特訓をしてあげた方が良いかも♪」
「そうだね。ミナトは基本はできているけど、応用はまだだからね。近々私が見てあげるよ」

ミナトちゃんが失敗してしまった分は、ベルナートさんが再度計量し直して生地を準備してくれる事になったので、今度はカイトくんがハンドミキサーを使う番だ。

「おねーさん、これ位でいい?」
「そうそう!カイトくん上手!!そのままもう少し混ぜてね」

カイトくんはほんの少しずつ魔力を込める事から始めたおかげで、周囲に飛び散ることなく上手に混ぜ終えた。次はベルナートさんの番だけど、魔力調整はきっと問題ないだろう。

「サーヤ、これくらいで良いんだよね?」
「うんうん、ベルナートさんも良い感じ!」
「へへっ、サーヤに褒めてもらえて嬉しい・・・」
「きゃ~~~っ、ベルナートさん!ちゃんと集中しないとダメェぇぇぇぇ!!!」

あたしが褒めた事で集中力が途切れてしまい、せっかくの生地がまた周辺に飛び散ってしまった。
以前あたしも同じことしちゃってエルに怒られたけど、今回はあたしが説教してベルナートさんに生地の作り直しをお願いした。


バターやリンゴとナッツを混ぜて、型に入れ始めた所でお風呂上がりのミナトちゃんがノルンさんと戻ってきた。

「あ!サーヤまま、もうまぜまぜ、おわりなの?」
「うん、全部終わっちゃったの。だから、ミナトちゃんにはこの型にまぜまぜした生地を入れてもらおうかな」
「あぃっ!」
「あ、私もやりますわ」

モニカとミナトちゃんで生地を型に流し込んで、気泡を抜くため型をトントン落としてもらう。
それだけの作業なのに、なぜ鼻の頭に生地がついてるミナトちゃん・・・ドジっ子天使可愛すぎかよっ!御馳走さまですっ!!

後はほむちゃんに焼き加減を調整してもらって焼くだけです。



「ほわぁ~・・・やけたの!」
「自分で作った物を食べるなんて初めてですわ」
「僕も初めてだよ。料理って楽しいんだね」
「俺も楽しかった。サーヤ、俺の初めて・・・食べてくれる?」

皆がそれぞれ感動する中、約一名意味が違って聞こえるのはスルーしよう。
パウンドケーキを切り分けて、焼いてる間にあたしが混ぜておいた生クリームを添えて、皆の分を盛り付ける。エルの用意した紅茶でティータイムの始まりです。

お願いしなくてもタイミングばっちりで紅茶を用意してくれるなんて、エルはホントに素敵な旦那様である。もう大好きっ!

「ふふっ、自分で作ったお菓子でお茶会をするのはとても楽しいですわね」
「そうだね。皆が美味しそうに食べてくれるとすごく嬉しいんだよ~♪」
「今度ユーリ殿下やレヴィン様がいらっしゃる時は、私がお菓子を作ってご馳走したいですわ」
「あ、いいかも!きっと2人も喜ぶと思うよ!頑張って、モニカ」
「はいっ!私、お城に戻ってからもお菓子作りを絶対に続けますわ!!」

なんだかんだ言いながらも、ちゃんとユーリ殿下と仲良くしているモニカを見て安心する自分がいる。
モニカの手作りお菓子、きっと喜んでくれるんだろうな・・・――――






後日、執務の合間を縫って出産前のモニカに会いに来たユーリ殿下を、早速手作りお菓子でモニカはおもてなしする事になった。


そして・・・―――


「モニカ、これは・・・」
「私が作ったパウンドケーキですわ。お召し上がりくださいな、ユーリ殿下」
「そうか。モニカの手作りとは嬉しいな。いただこう」

一人で作りたいと言うから、今回計量から型に入れるまでを見てないんだよね。
ほむちゃんの焼き加減はばっちりだから、見た目はとても美味しそうだし成功してるって事で良いのかな・・・?

(ジャリっ、ガリっ)
「「??!!」」

パウンドケーキを食べたとは思えない音が聞こえたけど大丈夫?!

「モ、モニカ・・・これにはいったい何が入って・・・?」
「最近疲れて寝不足だとお聞きしましたので、栄養のあるお薬と、よく眠れるという赤い実を少々・・・」
「「??!!」」

え?薬って何?!しかも赤い実ってそのまま入れたの??!!
失敗しないように、”前と同じリンゴとナッツで作ってね”って言ったのにっ!!!!

「おねーさん、確か小麦粉ふるってなかったよ・・・」
「おくしゅりも、いっぱいいれてたの・・・おかしなのに」
「「???!!!」」



それでもせっかくモニカが作ってくれたお菓子だという事で、ユーリ殿下は頑張って食べていたけど、一切れがもう少しでなくなる・・・というトコロでユーリ殿下が限界を迎えたのか赤い実の効果なのか、薄く笑みを浮かべたまま真っ青な顔で気を失ってしまいちょっとした騒ぎになったのは言うまでもない。

・・・モニカのお菓子作りはまだまだ前途多難のようです。
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