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9章 帰郷!エルフの里へ ~悪戦苦闘の子育て編~

病院で過ごそう~双子達とのご対面~

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朝の眩しい光でふと目が覚めた。
目を開けると隣には愛しいあたしの旦那様の寝顔、そしてお腹には・・・―――

「・・・―――あれ?え、えぇぇ??!!」
「・・・ん、サーヤ?」
「エルっ、赤ちゃんが!双子達がお腹にいないの!!」
「双子達なら新生児室だ。昨日お前が頑張って、元気な双子達を産んでくれたではないか・・・覚えていないのか?」
「!!」

そうだった。あまりにも痛くて記憶がおぼろげだけど・・・そう言えば産声を聞いた気がする。
良かった・・・双子達、ちゃんと元気に産まれてたんだ・・・

「ふぇ・・・エル、あたし、ちゃんと元気な双子達産めたんだね・・・ッグズ、良かったよ~~~~っ」
「あぁ、俺はそばにいる事しかできなかったが、本当に大変そうだった。改めてお疲れ様、サーヤ」

エルに慰めてもらった後、すぐにでも双子達に会うためにとりあえず身支度を開始した。
胎内から双子達がいなくなってぺったんこになったお腹は、ちょっと違和感があって変な感じがする。

支度を終えたあたし達は、早速ベルを鳴らして看護婦さんを呼んでみた。

(コンコンッ)
「失礼します。お呼びでしょうか?」
「あの、昨日産んだ双子達に会いたいんですが・・・」
「かしこまりました。こちらにお連れしますので少々お待ちください」

そう言って、看護婦さんはにこやかに去って行った。
・・・今の美人看護婦さんもエル達に言い寄ってたのかな・・・いやいや、今はそんな事どうでもいい。
早く双子達に会いたい、会って抱きしめたい・・・!!!


数分後、ティリアさんがキャスター付きのベビーベッドごと、双子達を病室に連れて来てくれた。





昨日産まれたばかりの双子は、眠った状態で手を繋いでいて超可愛い。
先に生まれたお兄ちゃんは、産毛を見る限りあたしのシルバーブロンド、妹ちゃんはエルの黒髪を引き継いでいる。

「・・・やはり“黒”で産まれたか・・・」

今エルは、ネックレスで髪色を変えてるので”黒”ではないが、ティリアさんはもちろん”黒”である事を知っているし、産まれた子供が”黒”の可能性も考えてくれていたようだ。
そのため、元々担当の人を厳選しており、双子が生まれた後も騒ぎにはならなかったらしい。
昨日も、他の人達の目につかないよう新生児室ではなく、別室で双子達をみてくれていたようだ。

「子供に罪はありませんが、偏見のある人達はどうにもできないため、私がついていました。とても元気な赤ちゃんです。ただ・・・―――」
「ただ?」
「どうしても私が席を外さないといけない時だけ別の者についてもらってたんですが、私が部屋を出たとたんに泣きだしてしまい・・・」
「あら・・・」
「部屋の物が空中を飛び回っていました・・・」
「「は?」」

ティリアさん曰く、別の人が双子達のそばにいる時だけ双子達が泣きだし、部屋の物が縦横無尽に飛び回っていたそうだ。でも、ティリアさんが戻ってきて声をかけると泣き止んで、それと同時に飛び回っていた物も急に動かなくなりその場に落ちたという・・・

「・・・間違いなくどちらか、もしくは両方の仕業だな」
「ティリアさん以外の人はイヤってことかな?」
「私がいた時はとても大人しくて良い子達だったんですけど・・・」

あたしがレミールさんから看護婦さんの話を聞いたから、一緒に嫌いになっちゃったのかな?
だとしたらちょっと申し訳ない・・・

「ティリアさん、赤ちゃんを抱っこしてもいいですかね?」
「えぇ、もちろん!もう名前は決まってるの?」
「はい」
「兄は“レオン”、妹は“サクラ”だ」
「ふふっ、素敵な名前ですね」

男の子はエルが、女の子はあたしが付けた。

”レオン”というのは、この世界に存在すると言われる白銀の獅子レオヴィアスという聖獣の名前からもらったらしい。”どんな時も強く気高くあれ”というエルからの願いが込められている。

”サクラ”はこの世界でもなるべく違和感がなさそうな、日本に縁のある大好きな花の名前にした。
桜は花言葉で”精神の美”という意味もある。
どちらかが”黒”、もしくは双子が共に”黒”という可能性もあったから、エルもあたしも強い心や精神的な美しさを持って欲しいという願いを込めた名前となった。

あたしはレオンを抱っこして、それを見たエルはサクラを恐る恐る抱きあげた。

「旦那様、もう少し角度を・・・そうです。たまに背中をぽんぽんしてあげて下さい」
「う、うむ・・・こうか?」
「エルも本当に“エルぱぱ”になっちゃったね」
「ふっ、それを言うならお前もだろう?“サーヤまま”」
「そうだね。・・・レオン、サクラ、あたしがままですよ~、ふふっ、やっと会えたね♡」
「無事に産まれたのは嬉しいが、多少元気が良すぎるようだな、レオン、サクラ」


それから間もなくティリアさんは仕事に戻り、双子が産まれた事を聞いたあたしの加護精霊王様達とほむちゃん、マデリーヌさんが部屋に転移魔法で現れ、カルステッドさん達も少し遅れて病室に駆け付けてくれた。

「ふわぁぁ・・・あかちゃん、ちっちゃいの~♡」
「ふふっ、ミナトちゃんもお姉ちゃんだね」
「あたしが、ねーね・・・?」
「レオンとサクラ・・・すごくちっちゃくて、柔らかいね・・・」
「サクラが、エリュシオンと同じ黒髪なんて・・・あ、でも俺ともお揃いだ」
「おい駄犬。サクラに手を出したらタダじゃ済まんぞ」
「ちょっとエル、まだ生まれたばかりなんだからそんなの気にしなくたって・・・」
「サクラ達は十数年ですぐに大きくなるからね☆大きくなったサクラは、好きな人だってすぐにできちゃうかもしれないよ♪」
「ふふ♡エリュシオンったら、すっかりパパの顔なんだからん♡♡」
「レオンはサーヤのシルバーブロンドを引き継いだのね」
「あぁ、男の子なら名前負けしないよう強く育てなくてはな・・・私が剣の稽古をつけてあげよう」
「あら、2人の子供だもの。魔法も教えてあげないとね」

皆との賑やかすぎる会話がとても懐かしく感じるけど、そこにレオンやサクラがすでに加わっているのがとても嬉しい。早く退院して皆と家で過ごしたいな。
・・・でもね、好きな人の話とか剣や魔法の稽古の話って、さすがにまだ早すぎませんかね?

「そういえばサーヤ、母乳ってもう出るの?」
「「「「「??!!」」」」」

リンダの一言に、あたしを含め数人がハッとした顔をしている。

・・・そういえば、胸はちょっと張ってる気がするけどどうなんだろう?
出るかどうかまだ試した事ない・・・ってゆーか、今って双子達へミルクとかどうやってあげるの??!!

おしめもミルクもまだよくわからなくてどうしようと思っていた矢先に、抱っこしていたレオンが泣き始め、それに呼応するようにサクラも泣き始めてしまい、あたしもエルもオロオロしてしまう。

「サーヤ、ベルを鳴らすと看護婦が来てくれるんだよな?」
「あ、カルステッドさん。はい、そうです」
「大丈夫、母乳がすぐに出る人はあまりいないから看護婦を呼んでミルクと替えのおしめを用意してもらおう」
「は、はいっ」
「精霊王様方、ここに人間を呼びますから姿をお隠しになった方が良いのでは?」
「・・・そうだな。お前らを見られると面倒だから姿を隠しておけ・・・ベルを鳴らすぞ」

エルに言われた通り、ミナトちゃん達は普通の人に見えないよう姿を隠し、その後ベルの音でかけつけた看護婦さんが入ってきた。
部屋の簡易キッチンに一式が揃えてあるようで、大まかな使い方を教わり「今の時間なら恐らくミルクだと思います」と言われたので早速作ってみる事にした。
と言っても、分量通りのお湯と粉ミルクを入れて振るだけなんだけどね。

カルステッドさんがおしめの場所と替え方を聞いて、アレク兄様がメモに控えている。

そういえば、前の世界には妊娠中にマタニティスクール的なものがあったけど、この世界にはなかったのかな?
まぁ、そもそも通院ではなかったあたしは、あったとしても知りようがないんだけどさ。

レオンがミルクをすごい勢いで飲んでいるのを見ながら、母乳にしてもミルクやおしめにしてもいろいろ学ばなきゃいけない事をノートにまとめておこうと考える。
息子さんのいるカルステッドさんと、出産経験のあるマデリーヌさん、マデリーヌさんの子育てを手伝っていたノルンさんもいるんだ。
先輩に教えてもらいながら子育て頑張らないとねっ!!

これからの子育てに意気込んでいたら、エルがボソッととんでもない事を呟いた。

「母乳・・・どんな味なのだろうな」
「??!!」



そんな感じで、初日からバタバタな子育ては幕を開けたのでした・・・―――
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