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8章 帰郷!エルフの里へ ~出産騒動編~

病院で過ごそう~病院内のとある噂2~

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とりあえず、突然現れた縦ロールの妊婦さんに声をかけてみた。

「えっと・・・あなたは?」
「申し遅れましたわ、私、レミール=クロイツと申しますの。奥様のお名前を聞いても宜しくて?」
「・・・サーヤ=オオツキと申します」

なんか、明らかに“貴族です”って感じの人がいきなり声かけてきたけど、いったい何なんだろう?

「(サーヤまま、あいつ、ぷっちんすゆ?)」
「(おねーさん、僕なら跡形もなく消すこともできるけど)」
「(あぁぁっ、待って待って!!確かによくわからない人達だけど、いきなりそんな事しちゃいけません!!)」
「(サーヤ、あいつら怪しいけど敵意は感じない)」
「(そうなんだ。じゃあとりあえず話してみるから、皆は何もしないでね)」
「「「(わかった(の))」」」

エルがそばにいない分、皆が他人に対していつもより警戒してくれてるけど、どうしても”怪しい=消そう”って意見になるようだ・・・
とりあえずベルナートさん曰く、敵意はないみたいだから話を聞いてみようかな。

「あの、さっき言ってた“特別室”って?」
「この病院に一部屋しかない、部屋の中に風呂やトイレ、台所も完備し、使用人込みで入院できる一番豪華な部屋の事ですわ。そこに入院されているのでしょう?」
「あ、はい。数日前から・・・」
「私、この病院の様々な噂を聞いておりますが、その中で特別室の“ある噂”を耳にしましたの。内容的にも、奥様であるサーヤ様にもお伝えしなければと思いまして・・・時に、いつも隣にいらっしゃる男性は本日おりませんの?」
「えっと、エル・・・いえ、夫は今日用事があって・・・夜には戻ってくる予定です」
「まぁっ、執事ではなく旦那様でしたのね!それは失礼いたしました。・・・噂とは当てにならないものですわね」
「?・・・噂って、いったいどんな内容なんでしょうか?」

レミールさんという女性は、この町の貴族の奥様であたしと同じように出産が近いため入院しているらしい。
入院中は時間がたくさんあることと、元々旦那様のお仕事の手伝いをしている時の癖で、この病院内で聞いた様々な噂や情報を耳にしては真実か否かできる範囲で確認しているのだとか。
今回は特別室にまつわる噂と、入院しているあたし達にまつわる噂の両方あって、とりあえず特別室を担当する看護婦達には注意した方が良いと言われた。

「この病院の看護婦達は、優秀ではありますがそれ以上に計算高い女狐達ですの」
「女狐・・・」
「見舞いに来た見目麗しい男性・・・そしてさらにその方がお金持ちであれば、愛人や第二婦人の座を狙ってすぐさま行動しますわ」
「!!」
「しかも特別室に入院するのはどの方も高位の貴族のみ。そこに出入りされる殿方は漏れなくターゲットにされるはずですわ。旦那様を含め皆様にもご注意くださいませ」

なんとっ、エルが初日に言ってた事って気のせいじゃなかったんだ。
え?じゃああたしの知らない所でエルとかカルステッドさん達が看護婦さん達に猛アピールされてるって事?!

「(確かにサーヤの病室出てから変な女に声かけられたけど、ボクやカルステッド達も相手にしてないから気にしなくて大丈夫だよ☆)」
「(!!・・・セイル?!って事は、今聞いた話は本当なんだ・・・)」
「(そうだね☆エリュシオンなんて完全に女共を無視してるよ♪だから、サーヤが心配する必要ないからね☆)」

どこかで見守ってるセイルが、念話で教えてくれた。
そんな事があったなんて知らなかったな・・・家の事にしても入院中の事にしても、あたしの知らない事って多すぎじゃないだろうか?
変に心配かけたくないという意味なのかもしれないけど、さすがにこうも続くと話してくれないのがちょっと寂しいかも・・・

「レミールさん、ご忠告ありがとうございます。・・・ちなみにあたし達にまつわる噂というのはどんな内容なんですか?」
「先ほど、男性の方を“夫”と仰っていたので、誤った噂になるのですが・・・入院されている奥様と“執事”の男性が禁断の恋をしていると・・・」
「??!!」

な、なんですと??!!
どうやら、病室でも病室の外でもあたしを甲斐甲斐しくお世話して、抱き寄せて時々キスしている(実際は魔力を補給してもらっている)のを目撃されているあたし達は、夫婦というより執事と奥様に見えるようで、入院中に人目を盗んだ禁断の逢瀬だと噂になっているのだとか・・・

いやいやいや、今みたいにミナトちゃんとカイトくんも一緒にいる事があるのにどうしてそうなった??!!

「ふふっ、ここに入院しているご婦人は、一般の方も含めて元気なのに時間がある方が多いんですの。そういう方々は、自分の見たモノを自分の解釈で噂するのがとても大好きで、真実かどうかよりも想像を膨らませながら話すのが楽しくて仕方ないみたいですわ」

なるほど、ここは奥様方の井戸端会議の場となってて、あたしとエルが格好の餌食になってるってことですかっ!!!
だとしたって、想像が膨らみすぎでしょ!!!

「エルはあたしの執事じゃなくて夫なのに・・・やっぱり夫婦だって見てすぐわかるような結婚指輪でもしないとわからないのかなぁ」
「結婚、指輪・・・?それはどんなものですの?」
「大したことではないですよ?ただ、結婚している夫婦がお揃いの指輪を左手の薬指にして“私達は結婚してます”ってわかりやすくするだけで・・・」
「まぁ!なんて素晴らしい!!!!」
「へ?」

レミールさんが急に叫んだと思ったら、使用人の方が一生懸命車椅子をあたし達に近づけて、ようやく目の前に移動で来たと思ったら、レミールさんにガシっと手を握られた。
・・・使用人さん、ものすごくゼーハーしてるけど大丈夫ですか?

「その“結婚指輪”という風習は、奥様のいる他国では普通にありますの?」
「え?えっと・・・」

どうしよう・・・ガルドニアの風習なんてわからないよぅ・・・

「(サーヤ、そんな風習はガルドニアにもないよ)」

セイルが念話で教えてくれた。ありがとう、セイル!!

「いえ、あたしの住むガルドニアにもありません」
「では、奥様の考えたモノという事でございますね?」
「・・・そう、なりますね」

実際は前いた世界にあった風習ですけど・・・

「奥様・・・いえ、サーヤ様!この“結婚指輪”という婚姻を証明するお考え、私に売ってくださいませんか?」
「・・・はい?」

レミールさんのご主人は手広く事業をしている方で、商品開発にはレミールさんも協力しているそうだ。
今の”結婚指輪”の話を聞いて、ぜひお仕事の協力者として詳しく話をしたいと詰め寄られた。


とりあえずエルに相談しようと思ったあたしは、「一度持ち帰って夫に相談します」とだけ伝えてその場を後にし、夜エルが戻って来てから改めて相談する事にした。




噂話を聞いてるだけだったのに、なんかおかしな話になって来ちゃった。どうしよう・・・
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