上 下
285 / 512
8章 帰郷!エルフの里へ ~出産騒動編~

メラルダで暮らそう ~破滅と更生2 inラルカークside~

しおりを挟む


オレに侮蔑の瞳を向けていた光の精霊王様は、言葉の意味を理解していないオレにさらに苛立ち、そばにいたユーリと婚約者に説明するよう促した。

「ユーリちゃん、モニカちゃん、このおバカさんは自分のした事をまったく理解してないみたいよ?説明してあげてちょうだいな♡」
「あ、はい!・・・ラルカーク、お前が攫うよう指示を出したのは、“黒”のエルフであるエリュシオン殿の奥方の担当医であり、メラルダの一般市民だ。体調が優れない奥方の往診に来ていたに過ぎぬ」
「!」
「しかも彼女はメラルダ市民のほとんどが世話になっている産院の名医であり、診察してもらうのも緊急でない限り数か月待ちというくらいの人気と支持があります」
「!!」
「お前の心ない命令で、善良な一般市民のか弱い女性がどのような目に遭ったのか・・・これを見てみろ」

ユーリの手のひらにあったのは小さな黒曜石のピアス。
不思議な事に、ピアスから発する光が平面の壁に人の動く様を見せていて、声までも聞こえる・・・
これはなんだ?

「これは闇の精霊王様の能力で、このピアスを付けている者の見た記憶を映す黒曜石だ。
たまたま彼女と一緒にいた、旧友でもあるエリュシオン殿の配下がいたため大事には至らなかったが、彼女一人だったらどんなことが起こっていたと思う?」
「!!!!」
「・・・間違いなく、女性として最大の辱めを受けていたでしょう。同じ女性として、考えるだけでもゾっとしますわ」

・・・嘘だ、知らない・・・オレはこんな命令などしていない。奴らの仲間を攫えとしか・・・

「自分の発言がどれだけ影響があり、何が起こるのか・・・“王族”という自覚があるのならわきまえているだろう?“貴族”にとって“王族”の命令は絶対だ。過剰だろうが何だろうが成功させようとするものだ。そしてその”貴族”は金で簡単にすぐに雇えて、いつでも切り捨てることができる”ならず者達”を雇うだろう」
「”ならず者達”は元々強奪や犯罪まがいの事をするのに抵抗のない者が多いですわ。そんな者たちが”女性を攫え”と指示されて、”攫う”だけで済むとお思いですか?」
「・・・」
「最大の辱めは免れたとしても、彼女の心には襲われた恐怖による傷と、“この国の王族に裏切られた”という深い傷が残ったに違いありませんわ・・・嘆かわしい」
「わかったかしら~ん?私としては、王位継承権剥奪すら生温いから死罪にでもしちゃえば?って言ったんだけど、レヴィンったら「まだ若いんだし、1度だけでいいからやり直すチャンスをあげよう」なんて言うんだもの♡優しいレヴィンの恩情に感謝することねん♡♡」
「!!!」

レヴィン・・・ガルドニアのレヴィエール王の事か・・・?
では、昨日父上から聞いたガルドニアが光の精霊王様の寵愛を受けているというのも事実なのか・・・―――

「うふ♡モニカちゃん、アレを付けてちょうだいな♡」
「はい」

光の精霊王様に指示されたユーリの婚約者は、オレの腕に真っ白な腕輪を付けた。
付けた瞬間、身体から何かが抜けていくような・・・力が抜けるような感覚がした。
もしやこれは・・・―――

「あなたの魔力を封じさせていただきました」
「その腕輪は、鍵もなく頑丈で一生外すことはできない。本来ならば我が国のとある塔で生涯幽閉される罪人につける特別製のモノだ」
「なっ・・・ふざけるな!!なぜオレがこんなモノを付けられないといけない!!」

そんなっ!魔力の高いオレが魔力を封じられるだと?!しかも生涯??!!

「ま~だわかっていないのかしら?」

(ゾクリ)

「お前は恩情で“生かされてる”だけなの。何度も言わせないでちょうだいな。・・・不服なら、私が今すぐ手を下しても良いのよ?」

・・・怖い、オレの生を気分だけでどうにでもできてしまう精霊王様が怖くて仕方がない・・・
オレは、このまま光の精霊王様に殺される・・・?!

初めて感じる”死”という恐怖に、身体がガタガタと震え冷や汗が止まらなかった。

「ふふ、強者の力による恐怖はコレで少しはわかったかしらん?・・・生きることは許してあげる。でも、今後私の加護者やその仲間達に手を出したら・・・今度はこの国がなくなっちゃうかもしれないわねん♡♡」
「「「「!!!!!!!」」」」
「メラニウムの王よ、我々はメラニウムが滅ぶことを望んでいるわけではない」
「そうです。あくまでかの者達へは今後一切手出しをしないとお約束下さいませ。・・・精霊王様の加護を得ている方々を利用しようなどとは絶対に思わないことですわ」
「えぇ、あの方々は人間・・・特に私利私欲にまみれた王族や貴族が大嫌いですから。これは決して脅しではありません。あくまで事実です」


完全に言葉を無くした父上や俺達兄弟を気にすることもなく、「話は以上よん♡じゃ、この2人は連れて行くわねん♡」と言って、ユーリと婚約者を連れて光と共に精霊王様はこの謁見室から姿を消した。


終始無言だった臆病な長男のエドワルドはその場で倒れ、そのまま精神を病んでしまい王位継承不可と判断され、自動的に次男であるカリオスが次期国王に決定した。
そして、王位継承権剥奪をされ平民落ちとなったオレは、必要最低限の荷物と共にその日のうちに王城を去ることとなった。



城の門を出たところで、見知った顔が外で待っていた。
・・・先ほどまで、側近であった2人だ。

「・・・オレはもう王子でも何でもない。そんなオレを笑いに来たのか?マーカス、レイモンド」
「「ラルカーク様・・・」」
「もう“様”を付けるような身分はオレにない。逆にお前達のような貴族に“様”を付ける平民だ。・・・わかったならそこをどいてもらおう」

行く手を塞ぐように立っている2人は一向に動く気配がない。
仕方がないから無理やり通り抜けようとしたら、がしっと肩を掴まれた。

「ラルカーク様・・・いや、ラルカーク、我々も共に行きます」
「剣には多少自信があります。どうせなら、皆で冒険者登録して生活費を稼ぎながらいろんな地に行くのもありですよね!」
「・・・お前ら・・・」
「・・・大丈夫です、私もすでに貴族ではありません。家督は兄が継ぎますし、すでに話を付けてきました」
「オレは長男ですが、妹が婿養子をもらう事になったので問題ありません!・・・学園の時のようにまたオレ達3人で楽しく過ごしましょう」
「・・・っ、お前らは、ホントにバカだ・・・」
「ははっ、それはラルカークも同じだろう?」
「そうそう。オレ達は皆バカだから、失敗したら何度でもやり直せばいいんだ」
「・・・ふっ、生意気な・・・だが、悪くはないな・・・」



地位も名誉も、今までのような煌びやかで贅沢な生活も何もかも失った俺は、これから先は絶望の中で生きていくのだとばかり思っていた。
だが、そんなオレにもたった一つだけ失わずに残っていた大切なモノがあったようだ。



恩情だけで生かされたこの命に、生きる意味があるのかわからずにいたオレは、ほんの少しだけ前を向いて歩けそうな気がした・・・―――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

R18、アブナイ異世界ライフ

くるくる
恋愛
 気が付けば異世界。しかもそこはハードな18禁乙女ゲームソックリなのだ。獣人と魔人ばかりの異世界にハーフとして転生した主人公。覚悟を決め、ここで幸せになってやる!と意気込む。そんな彼女の異世界ライフ。  主人公ご都合主義。主人公は誰にでも優しいイイ子ちゃんではありません。前向きだが少々気が強く、ドライな所もある女です。  もう1つの作品にちょいと行き詰まり、気の向くまま書いているのでおかしな箇所があるかと思いますがご容赦ください。  ※複数プレイ、過激な性描写あり、注意されたし。

【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜

茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。 ☆他サイトにも投稿しています

義兄様に弄ばれる私は溺愛され、その愛に堕ちる

一ノ瀬 彩音
恋愛
国王である義兄様に弄ばれる悪役令嬢の私は彼に溺れていく。 そして彼から与えられる快楽と愛情で心も身体も満たされていく……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢なのに王子の慰み者になってしまい、断罪が行われません

青の雀
恋愛
公爵令嬢エリーゼは、王立学園の3年生、あるとき不注意からか階段から転落してしまい、前世やりこんでいた乙女ゲームの中に転生してしまったことに気づく でも、実際はヒロインから突き落とされてしまったのだ。その現場をたまたま見ていた婚約者の王子から溺愛されるようになり、ついにはカラダの関係にまで発展してしまう この乙女ゲームは、悪役令嬢はバッドエンドの道しかなく、最後は必ずギロチンで絶命するのだが、王子様の慰み者になってから、どんどんストーリーが変わっていくのは、いいことなはずなのに、エリーゼは、いつか処刑される運命だと諦めて……、その表情が王子の心を煽り、王子はますますエリーゼに執着して、溺愛していく そしてなぜかヒロインも姿を消していく ほとんどエッチシーンばかりになるかも?

【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)
恋愛
※連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』のお兄様IFルートになります。 侯爵令嬢ビアンカ・シュラットは五歳の春。前世の記憶を思い出し、自分がとある乙女ゲームの悪役令嬢である事に気付いた。思い出したのは自分にべた甘な兄のお膝の上。ビアンカは躊躇なく兄に助けを求めた。そして月日は経ち。乙女ゲームは始まらず、兄に押し倒されているわけですが。実の兄じゃない?なんですかそれ!聞いてない!そんな義兄からの溺愛ストーリーです。 ※このお話単体で読めるようになっています。 ※ひたすら溺愛、基本的には甘口な内容です。

処理中です...